沙里
2026-01-17 13:24:04
1016文字
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ヴィ誕(再掲)

2025年のお誕小話

 一月十五日。何でもない日。
 レオントゥッツォ・ベッローネはそう思っている。
 もちろん、仕事があったり、誰かと出かける用事があったりすることもある。ただ、それは日常の一コマでしかない。
 だから、特別な日ではない。何でもない日常。愛すべきだなんて褒めやそすほどのこともない、ただの一日。
 彼はいつもと同じように、淡々と己に課された職務を全うするだけだった。



 夜遅くなっても、彼は静かに事務仕事を処理していた。
(ドクターのことを笑えなくなってきたな)
 いまも書類の山に埋もれているのだろうか。ああならないように書類の電子化を推進するべきだろうか。
 そんなことを考えながら、事務机の上を片していく。一通りが片付く頃にはすっかり夜も更け、深夜と呼んでも良い時間だった。
 そうして机の上に残った白い封筒を、とんとんと指で弄ぶ。
 どこにでも売っている安物の封筒だ。そういう意味では、立派なオフィスには似つかわしくない。
 彼はおもむろに手に取って、封のされていないそれをひっくり返した。
 ころんと机の上に転がり落ちる銀色の輝き。安物の封筒には似つかわしくないほどに美しい輝きを放っている。
「相変わらず、ピアスだけか」
 レオントゥッツォの頭の耳に装着されているピアスとよく似た、正しくは同じブランドであろうピアス。ベッローネの若旦那が身に着けるそれが、簡単に手に入る安物なはずもなく、彼自身は高級感に価値を感じているわけではないが、ともかくとして安物の紙製の封筒に、無造作に放り込まれていい品物でないことは確かだった。
 他には手紙どころかメッセージの一言もなく、宛名すらも書かれていない。それでもレオントゥッツォは知っていた。だから静かに、髪に隠れた耳たぶに触れた。リテーナーのガラスピアスを外して、銀色のピアスを穴に押し込む。無造作に、淡々と、日常の一コマのように。
……律義な男だな、まったく」
 新しく増えた輝きは、夜の闇色に隠れてしまったのだが、レオントゥッツォは少しだけ微笑んだ。
「祝いの言葉のひとつくらいは、あってもいいと思うがな」
 覗き込んだところで、白い色が広がるだけの封筒をくずかごに放り込むと、やれやれと立ち上がった。
 一月十五日。何でもない日。
 けれど、特別な日だと思っている人間はいる。
 だから、レオントゥッツォにとっては、何でもない日、なのだ。これまでも、これからも。