風花莉亜
2026-01-17 08:39:26
3089文字
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「なんかこれじゃあ、キミにめちゃくちゃ惚れてるみたいじゃないですか!」

第31回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点の同棲一年目。でも付き合ってからは三年くらい? その辺フワッとしてます
一緒に住んで初めての年越しと言って良いのかなぁ……メインそこじゃないと言うか、メインどこかな? 兎に角、お話自体もフワッとしてます
匂う程度に情事を思わせる描写あります
いつも通り何でも大丈夫な方向け

「知ってましたか? 元日って風呂入らない方が良いらしいですよ。因みに年またぎの風呂も」
「年またぎに風呂入る事は早々ない気もするが、元日もダメなんか?」
「らしいです」
「ふーん」

そんな会話をしながら俺達は風呂に入っている。
因みに今は大晦日の夕方。
早めの入浴をして、この後はのんびりと過ごす予定だった。

一緒に住んでいるこのマンションは、浴槽が広い。
二人で入る事を目的として選んだ訳ではないし、今までだって二人で入った事はなかったが、何故か向かい合って湯船に浸かっていた。
何故かってまぁ、藤堂くんに一緒に入ろうと押し切られてしまったからなのだが。
たまに見せる子犬のようなシュンとした顔に弱い俺は、まんまと藤堂くんの術中にハマってしまったという訳だ。
それはもう終わった話なので良いとして、何で向かい合ってるんだよ……顔を見て会話をするのが当たり前だからなのかもしれないけど、これはちょっとってか、だいぶ心臓には悪い。
藤堂くんも頭を洗ったので髪を下ろしているのは勿論だが、そのままだと鬱陶しいのか掻き上げて後ろへと流していて、普段はあまり目にしないおデコが見えている。
それだけでは留まらず、髪から滴る雫も色香を助長させていて、少し暑いのか頬は火照っていた。
惜しみ無く晒された首筋や逞しい腕、立派な胸筋だとか綺麗に割れてる腹筋、正直言って目のやり場に困ってしまう。
男の憧れってやつで、文句なしにカッコイイ肉体だった。
同棲してるんだから藤堂くんの裸なんて見慣れてるだろって? こんな明るい所では見慣れてません! 風呂にだって一緒に入るのは今回が初めてなんですけど!?
え? 着替えの時とか明るい場所だろって? そんな盗み見るなんて事してません! 視界にうっかり入る事はあっても、決して見ようとして見た訳では……

「どうした? 逆上せた?」
「だだだだいじょうぶです!!」
「大丈夫じゃなさそうだけど」

急に顔を覗き込んできた藤堂くんに動揺して、ない眼鏡をカチャカチャと押し上げる動作をしてしまう。
だから心臓に悪いと言っただろ、急に顔を近付けるな馬鹿!
心臓がドッコンドッコン暴れ出してしまったので、慌てて顔を逸らした。
このまま向き合った状態でいたら、俺の心臓が止まり兼ねないと危惧し、グルリとその場で半回転して身体の向きを変える。
藤堂くんに背を向ける形を取れば、少しだけ心臓が大人しくなった気がした。

「良くわからんが、つれねーのな」

そんな事を言いながら俺の肩に顎を乗せるのはやめろ。
あっ、こら! 抱えるな抱き込むな腕を巻き付けるな!
腹の前で組む手を外したかったけれど、藤堂くんの力には敵う事はなく、外れることもなかった。
背中にくっ付かれ、素肌と素肌が密着するのを感じて心拍数が跳ね上がる。
実を言うとほんの少し前までベッドの上で触れ合っていたので、まだ身体はその温度を覚えているし、嫌でも思い出してしまう。
今のコレは、藤堂くん的にただのスキンシップのつもりかもしれないが、俺にとってはスキンシップで片付けられるものではなかった。

……心臓バクバクしてね?」
「気の所為です」
「いや何で嘘つくンだよ。こうしてくっ付いてるからバレバレだっての」

ぎゅう。
抱き締める力を強められて、更に密着する面積が増す。
それに釣られて、元々激しく動いていた心臓が壊れるんじゃないかって程に軋んだ。
付き合って一年目でもあるまいし、なのに未だにこの心臓は藤堂くんに慣れてはくれないらしい。
スルリ、と不埒な手が俺の腹を撫でるから、もう限界だった。
熱がぶり返して、後はもう──────…………





「千早くーん、いつまでご機嫌ナナメなのかなー?」
「うるさいです」
「ほら、そろそろ年明けるから機嫌直せよ。な?」

知るかそんなもん。
結局あの後は風呂場で盛り上がってしまい、変な体勢を強いられたりして腰が痛くなってしまった。
風呂から出て年越しそばを食べたり、年末の特番を観て過ごした訳だが、今の今まで俺の機嫌は悪いまま。
……別にスるのが嫌だった訳じゃなく、腰が痛いのだって仕方の無い事だけど、問題だったのは場所だ。
風呂場って、声が響くんですよ。
頑張って自分で口を押えたりと俺は努力したと言うのに、この男ときたら、その手を外しにかかるんですよ!? 有り得ます!? 声聞かせろじゃねーんですよ、馬鹿野郎!!
点けていたテレビからは新年へ向けてカウントダウンを始める声がして、そうしてそれがゼロになった瞬間、目の前が藤堂くんでいっぱいになった。

……っ!」
「明けましておめでとう。今年もよろしくな」

よろしくじゃないだろ、よろしくじゃ。
ゼロの瞬間、俺の唇は藤堂くんに一瞬だけ塞がれ、その後何食わぬ顔で新年の挨拶をされた。
不意打ちはズルい。
今年初めてのキスに、先程までの恥ずかしくて仕方のない気持ちを上書きされてしまったじゃないか。

「千早、挨拶は?」
……明けましておめでとうございます」
「うん。それで?」
「今年も宜しくお願い致します」
「よく出来ました。ほれ、ついでに機嫌も直しとけ」

犬を褒めるかのように頭をワシャワシャと掻き混ぜられる。
やめろ、と手を払いたい気持ちと、このままでも良いかもという気持ちがせめぎ合う。
……藤堂くんに頭を撫でられるのは、実は結構好き。
ただこれは撫でると言うか、混ぜられてる感じだけど、今は髪の毛をセットしているでもないし、例え鳥の巣のようになったとしても良いかとさえ思えた。
こんな事を許すのは藤堂くんだけ。
特別で惚れた弱み。
でも、やられっぱなしは性に合わないので、少しの我儘を言ってやろう。
そうだな例えば、

「藤堂くんがお節料理作ってくれたら許してあげます」
「上からだな……でもまぁ、そんなんで良いんだ?」
「と言うと?」
「もう仕込んである」
「え」
「元々手作りするつもりだったからな」

そう言って笑う藤堂くんに、お節って作るものなのかと首を傾げる。
いや、作る家は作るだろう。
けれど、大学生男子が作るような料理かと言われたら、それはどうだろうか?
作るのが手間だって事は俺にだってわかるし、通販や百貨店などでも売られているので、それを利用する家庭だって多いはず。
現に俺の家がそうだった。
それなのに、こうもあっさりと『作る』と言って退けるのだから、藤堂家では毎年藤堂くんが作っていたと言う事か。
俺の恋人が主婦すぎる。

「へぇ、自信があるようですね? それでは楽しみにしておきます」
「おーおー、目ん玉飛び出る程驚かせてやらー」

素直に「楽しみです♡」とか言えない俺は、ついつい可愛くない言い方をしてしまう。
それをわかっていて藤堂くんも乗っかってくるので、会話だけ聞いたらバチバチしているようだ。
でも実際はそんな事もなく、二人で顔を見合せて笑った。

「寝るか」
「ですね」

こうして俺達は仲良く歯を磨いて同じベッドに入り、少しだけお喋りをして眠りについた。
その日は恋人らしく、藤堂くんの腕枕で。




太陽の眩しさに目を覚ました俺が、隣に藤堂くんが寝て居ないと気付くまで、あと八時間。
顔を洗って歯を磨いて、先に起きていた藤堂くんとおはようのキスをするまで、あと七時間三十分。
出来上がった三段の重箱を中身を見て「これが作れるって、俺からしたら魔法のような感じですね」と驚くまで、あと──────…………



END