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風花莉亜
2026-01-17 08:37:36
4234文字
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コーヒー飲みすぎちゃった。
第30回とどち版ワンドロワンライ参加作品。同棲設定。千早くん視点で可愛い藤堂くんのお話を書こうと思ってたんですけど、迷走しました。いつも通り何でも大丈夫な方向け
「ただいま帰りました」
「おかえり」
玄関のドアを開けると、ふわりとコーヒーが香り、それから、実家ではあまり聞いてこなかった、俺を出迎える声。
ただいま、に対しておかえり、が返ってくるのは、やはり嬉しい。
返事が返ってこないのが当たり前の生活を送ってきた為に、藤堂くんと暮らし始めた最初の一ヶ月は、ソワソワしながらも『幸せだな』なんて噛み締めていたっけ。
因みに、一年以上が経った今でも嬉しかったりする。
それにしても、今日は何か良い事でもあったのか、藤堂くんはご機嫌な様子だ。
声が弾んでいるし、良く笑う。
「何か良い事でもありました?」
手洗いうがいをして部屋着にチェンジした俺は、リビングで寛ぐ藤堂くんの隣へと座って尋ねた。
すると、なんの事だとでも言いたげに首を傾げられる。
あれ、無自覚だったのか。
真似をして同じ方へと首を傾げると、楽しそうな笑い声と満面の笑みを向けられた。
うーん、眩しい。
藤堂くんの事は、高校の時から『太陽みたい』だと思っている。
こんな見た目だけど、中身は優しくてあたたかくて、笑った顔は眩しいの一言。
だから俺は向日葵よろしく、ずっと藤堂くんの方を向いている。
多分、この先の未来で振られたとしても、ずっと。
実は俺がこんな激重感情を抱えてるなんて、藤堂くんは知らない。
知らなくて良い事だし、知られたら困らせる。
困らせたくないから、上手に隠す。
今の所、問題なく出来ているので、今後もボロを出さないように気を付けなくては。
藤堂くんの勘は油断ならないので。
「今日、ヤマと会ったんだけどさ」
「山田くんと?」
「おう。たまたま入ろうとしてた飯屋の入口でバッタリ会ってさ。折角だからって一緒に昼飯食べつつ近況報告して。そン時にさ、俺は全然気付いてなかったんだけど
……
どうやら途中から千早の事ばっかり喋ってたらしくてさ、相変わらず仲が良いみたいで良かったって言われた」
「
……
はぁ」
「反応薄くね?」
「いや、なんか、恥ずかしい人だなと」
「ンだとこら」
仲が良いって言われたのが嬉しかったんだからしょうがないだろ、なんて言う藤堂くんに、そんな事を嬉しいと言ってくれるのかと、こちらの方が嬉しくなった。
でも、素直になれない俺の口は、嬉しいの一言さえも音になる事はない。
真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれる藤堂くんに対して、こちらは本音の内の数パーセントくらいしか返してあげられていないのは、あまりにも不釣り合いだろう。
このままでは愛想を尽かされてしまうのではないか、そんな事を考えたのは一度や二度ではない。
たまには俺からも好意を伝えないと駄目だよな? 貰ってばかりじゃ駄目に決まっている。
藤堂くんの優しさに胡座をかいていたら、本当に捨てられてしまう未来がやってきてしまう。
そうならないように、俺からもアクションを起こさなければ。
しかし、素直になれる方法ってなんだろう? 言葉で何かを伝えるのは恥ずかしくなってしまって、上手く言える自信がない。
となると、行動で示すしかないのだが、それはそれで恥ずかしさを伴うんですよねー。
テーブルに置いてあったカップを手に取り中身を飲み干した藤堂くんは、それを持って立ち上がる。
それからこちらを見て、カップを持ち上げる仕草をした。
「千早もコーヒー飲むか?」
「いただきます」
「ちょっと待ってろ」
くしゃり、と頭をひと撫でして去っていく後ろ姿に、こういう所だよなとソファーへと雪崩込む。
藤堂くんは愛情表現を惜しまない。
特に二人きりのこの空間では、俺の事を甘やかして甘やかして、ひたすら甘やかす。
それこそ、グズグズにして食べるつもりなのかと言いたいくらいに。
あんな天然甘やかしマシーン相手に俺が太刀打ち出来るはずもなく、やられっぱなしの日常だ。
先程よりもコーヒーの香りが強くなって、ふと顔を上げるとカップを二つ持った藤堂くんが戻ってきていた。
熱々のコーヒーの入ったカップをテーブルに置いて、熱いから気をつけてな、なんて言うんだから、お兄ちゃん出ちゃってますねぇ。
「藤堂くんって、たまにお兄ちゃん出ますよね」
「あ? なんだお兄ちゃんって」
「そのままの意味です。兄らしい行動」
「良くわからんが、さっきのは恋人に対する紳士的気遣いだろ」
「藤堂くんの口から紳士的気遣いとか笑えるんですけど」
「そこはきゅんとする所だろーが」
「ぶふっ」
無理、面白い。
きゅんとする所って自分で言うか普通。
でもそっか、恋人扱いだったんだ今のって。
ふーん、そうなんですか。
「とか何とか言いながら満更でもなさそうだけど?」
「!! まぁ、そうですね。悪くないです」
「素直じゃねーな」
「
……
、っん」
顔が近いと思った時には唇が触れ合っていて、サラッとこういう事してくるのが狡い。
かっこいいな、すきだな、それこそきゅんってする。
口に出しては言えないけれど心の中は結構お喋りで、実はこんな風にアレコレ言ってるんですよ? なんて。
離れていく唇が寂しくてもう一回とお強請りすれば、ソファーへと沈められてしまった。
一回って言ったのに、あちこちにキスの雨が降ってきて、擽ったくて愛おしい。
あ、でも、八重歯舐めるのはやめてほしいです。
言っても全然聞き入れてもらえないけど。
コーヒーを飲みつつイチャイチャしたり、夕飯を食べたり風呂に入ったり、そんな事をしていたらあっという間に時間が過ぎた。
夜も更けていき寝る時間がきてしまったので、部屋の前で『おやすみ』を言ってそれぞれの自室へと戻る。
パタリと閉じたドアが寂しさを助長させた。
本当はあのままシたかった、なんて口が裂けても言えない。
明日に響くからって藤堂くんの方が遠慮してくれたのに、それを自ら台無しにする訳にはいかなかった。
でも、もう少しだけ一緒にいたかったな。
藤堂くんの温もりが恋しい。
あー
……
やめやめ、こんな事考えたってどうにもならないのだから、さっさと寝てしまおう。
明日、たまには素直になって自分から甘えてみたら良いんだ。
一緒に住んでいるのだから、時間は作れる。
寂しさを振り切るようにベッドへと潜り、バサリ、と掛け布団を頭の上まで引っ張って丸まる。
布団からは太陽の匂いがした。
「千早、起きてる?」
扉をノックする音の後に、藤堂くんの声がした。
ヤバい、ついに幻聴が。
会いたすぎるにも程があるだろ、ともう一度眠る体勢に入ると、再びノックをする音と藤堂くんの声がして、幻聴でない事に気付く。
ガバリ、と勢い良く起き上がり、起きていると反射で返す。
とても元気な声が出てしまって、まるで来てくれたのが嬉しくて仕方がない、とでも言っているかのようだ。
失敗した、恥ずかしい。
再び布団の中へ潜り込みたい衝動に駆られるが、それを許してくれないのが藤堂くんである。
「あのさ、コーヒー飲み過ぎたのか知らんけど、眠れなくて。その、千早が嫌じゃなかったら
……
ベッドで少し話さねェ?」
「え
……
」
「あ、その、疚しい気持ちがある訳じゃ
……
なくもないけど、手は出さないから! ただ布団の中で眠くなるまで喋れたらそれで」
顔は見えないけど、手をワタワタと振って慌ててるのが雰囲気でわかる。
別に手を出されたらそれはそれで嫌じゃないんだけど、寧ろ手を出してほしい、出してくれ。
でも、こんな風にお誘いをされたら、ただ話すだけでもいいよって言いたくなるじゃないか!
ベッドから抜け出し、ドアの向こうでまだゴニョニョと何かを呟いている藤堂くんを出迎えるべく、ドアをそっと開ける。
ガチャリ、と音を立てて開くその先に、髪を下ろしたヤンキーがいた。
「どうぞ」
目が合って中へ入るように促すと、ソロソロと室内へと入っていく。
何でそんなに緊張してるんですか。
らしくない事を言った自覚があるのか、緊張と気恥しさを合わせて二で割ったような表情をしている。
アハハ、可愛い。
藤堂くんの事を『可愛い』なんて表するのは俺だけかもしれないけれど、いや、他にも思っている人はいるかもしれない。
けれど、沢山そういう顔を見ているのは、間違いなく俺で。
それって優越感ですよね。
くふくふ笑っていると、少しムッとした表情で「何わらってンだよ」だって。
たまに子供っぽい表情
……
いや、たまにではないか、結構この人は無邪気な所があるし、こんな顔は良く見るかもしれない。
高校の頃よりは確かに減ったかもだけど。
「何か、修学旅行みてェ」
一つのベッドに二人で収まると、藤堂くんがそんか事を言った。
修学旅行はもっと騒がしかった記憶しかないが、言いたい事は何となくわかる。
「それでは、恋バナとかしてみます?」
「ハハッ、いいなそれ」
「藤堂くんからどうぞ」
「言い出しっぺが先じゃねーのかよ」
なんてボヤきながらも、恋人のここが好き、だとか、こんな行動が可愛かった、など、ノリノリで話す。
逃げ場のない空間なので、聞いてる側はたまったものではなかった。
何で自分の話を自分で聞いてるんだろ。
しかも楽しそうに話しやがって、くそう、そんな顔されたらストップをかけられやしない。
口元まで布団を被って隣を見ると、上を向きながら話すその顔はキラキラしていて。
うーん、全然眠そうじゃないな。
藤堂くんが先に寝落ちするのは無さそうだと判断して、だとするとこの地獄はこのまま続く事になる。
恥ずかしくて百回死ねるってか、下手したらもっと。
コーヒー飲み過ぎちゃった、とか可愛らしい理由を付けてまで一緒に居たいと思ってくれたのは嬉しいが、了承してしまったのは早まったかもしれない。
だってまさか、こんな羞恥心のオンパレードになるなんて誰がわかるんだっての!
いやまぁ、そのネタを振ってしまったのは俺なので自業自得と言えばそうなのだが、だからと言ってこれはあんまりだ。
こうなったら反撃するしかない。
俺だって藤堂くんが恥ずかしいと感じるようなネタを持っているはずだから。
どれが藤堂くんにとって羞恥心を煽るものなのかはわからないが、数打ちゃ当たる作戦でいこう。
沢山打ち出せばどれかはヒットするってものだ。
よし、反撃の準備は出来た。
いざ勝負!
END
眠れない夜と言うか、眠らせない夜の方が正解かも
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