風花莉亜
2026-01-17 08:34:09
3621文字
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「だって、触り心地は大事でしょう?」

第28回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点。特に決めてないんですが、年齢操作ありで少なくともお金を稼げる年齢の2人。同棲してます。以前藤堂くんが千早くんの髪を乾かしてましたが、今回は逆です。でもその話とは繋がってません。まーた同じようなの書いてすみません。いつも通り何でも大丈夫な方向け

「あ、藤堂くん、先に風呂入って来てください。入るまでこの部屋立ち入り禁止なので」
「は……?」

帰宅したら、一緒に住んでる最愛の恋人にそんな風に出迎えられた。
いやこれ、出迎えられてすらいねー気がする。
普段だったら『お帰りなさい』の一言は絶対あるのに、一体全体どういう事だ。
しかも当の本人はそう言ったきり部屋の奥へと引っ込んでしまって、あまりにも冷たい。
せめてちゃんと顔を見て『ただいま』を言いたかったが、言いつけを破って部屋に侵入しようものなら、間違いなく千早の機嫌は悪くなるだろう。
俺に残された道はひとつしかなかった。
風呂に入る、これ一択。
多少、しょっぱい気持ちになりながらも、先に手洗いうがいをする。
これは前からやっている事だが、千早と一緒に住むようになって、更に心掛けている事だった。


風呂へと入ってピカピカになった俺は、ご丁寧にも千早の手によって用意されていたスウェットへと着替え、タオルを首にかけたままリビングへと向かう。
ドアを開けると、待っていたと言わんばかりにドライヤーを片手に持った千早がいた。

「髪の毛乾かしてあげるので、ここ座ってください」
「先になんか飲ませてくれ」

どこかウキウキとした千早は愛らしかったが、水分補給はさせてくれ。
干からびる。
冷蔵庫から牛乳のパックを取り出し、コップへと注ぐ。
腰に手を当ててゴクゴクと喉を鳴らす俺の姿に、最初の方こそ『おじさんみたい』と言っていた千早だが、毎度同じ事を繰り返すので見慣れたらしい。
今では何も言ってこない。
お互いがお互い、色んな事に慣れて当たり前になっているのだと思うと、正直言ってニヤけてしまう。
だって千早が俺の事を受け入れてくれているって証拠だし。
あの千早が、だ。
別に面と向かって『あなただけ特別です』と言われた訳でもないけど、俺だけ自然と特別扱いしてくれてンの、ヤバくね? 浮かれない訳がないだろって話。

「まだですか?」
「うおっ!?」

飲み終えたコップをシンクに置いて暫くニヤニヤしていると、真後ろから声がして跳ね上がる。
び、びっくりしたぁ。
スウェットの上から左の胸に手を当てると、心臓がバクバクといっているのがわかった。
そんな俺を見て、千早は楽しげに笑う。
口から覗く八重歯が可愛かった。

「早く乾かさないと風邪ひきますよ」
「へーへー」

リビングのソファーに千早が座り、その前に俺が座る。
千早のお気に入りのクッションを下に敷いてくれたお陰で尻が痛くない。
クッション性に富んでいるだけあるな、なんて。
緑色のソレに手を置いて弾力を楽しんでいると、カチリとドライヤーのスイッチを入れる音がして、温風が頭にかかる。
余談だが、先にタオルドライ済みだ。
これやらねーと千早にあーだこーだ言われる。
ブリーチのせいで髪が傷んでるから、なるべく労わるようにしろ、との事。
もっと言えば、ドライヤーの前にヘアオイルも付けられる。
女じゃあるまいし、と言った事があったが『これは俺の為なので』とか言われた。
どゆこと?
聞いてみても教えてくれないので、これは未だに謎のままだったりする。
そろそろ答え教えてくれても良くね?

「ドライヤー熱くないですかー?」
「だいじょーぶ」

ブォォォ、というドライヤーの音に掻き消されないよう、普段より声を張って会話をする。
千早は毎回、ドライヤーの風が熱くないか聞いてくれるけど、それこそいつも丁度良い距離から温風を当ててくれるので、熱くはないのだが。
律儀と言うか、何と言うか。
千早らしいっちゃ千早らしい。
ドライヤーのかけ方も丁寧だし。
妹の髪を乾かしてやっていたので、俺も丁寧な方だと自負しているし、多分、負けていないと思う。
けれど性格が出るので、自分で自分の髪を乾かす時はガーッとやりがちだ。
ただそんな姿を見られた日には、普通に怒られる。
そんな事が何度か続いたある日、流石に毎日ではないけれど、俺の髪を乾かすのは千早の担当になった。
面倒臭くないかと聞いたが、背に腹は代えられないとか言っていて、だからどーゆー意味だよ。

「枝毛、なくなりましたね」
「そーか?」
「えぇ。最初の頃は枝毛を探せばすぐ見付かるレベルでしたし」
……それは、言い過ぎじゃね?」
「そんな事ないですよー」

カラカラと笑う千早の手が、髪を掻き分けて根元から温風を当てている。
乾かし方ひとつとっても、髪へのダメージが軽減されるので、侮れない。
風向きを変えて、乾きムラのないように考えながらドライヤーをかけているのがわかって、俺より俺の髪を大事にしてくれてンじゃねーかって笑ってしまった。
肩を揺らす俺に気付いた千早が、何か面白い事でもあったのかと聞くから、なんでもないとだけ返す。
ただただ、幸せだなと感じただけの事。
日常の中から幸せを見付けられるって、最高だろ。

ドライヤーをかける千早の手つきは優しくて、俺はいつも眠くなってしまう。
子供みてェと笑うなら笑ってくれて構わない。
それでも眠くなるもんはなるンだよ。

「藤堂くん、寝ないでください」
「んー」

微睡み始める俺に、千早は無理難題を言ってくる。
寝るな、なんて土台無理な話。
カクンカクン、と不安定に頭が揺れ始めたら、それは、そろそろ髪を乾かし終える合図でもあった。
温風から冷風に切り替わって、そうしたらこの時間も終わりを告げる。
このまま寝てしまったら間違いなく心地良いのを知っているのに、それを許してくれる千早ではない。
カチリ、とドライヤーのスイッチをオフにし、俺の頭をポンポンと叩く。
ん? ポンポンくらいじゃ起きねーだろって? その後に肩を掴んでカクンカクン揺すられるンだよ、そりゃもう、ガクガクと言っても過言ではない程に。
起きろと言わんばかりにガクンガクンと揺すられて、頭もそれに合わせてガクンガクンと揺れる。
やめろ、気持ち悪くなるだろーが。

「その起こし方やめろって」
「起きない方が悪いので」
「何をシレッと言ってやがる」

これもお決まりのやり取りで、俺も大して怒ってはいない。
けれど、言わないという選択肢もない。
多少言葉は違えど、ほぼ毎日同じような事を言い合っているのに、千早の顔はいつも楽しそうだ。
口では絶対に勝てない俺を笑っているとも言うが。
それでも、こんなやり取りでご機嫌になってくれるのなら、いくらでも付き合うつもりでいる。
好きな奴の楽しそうな顔を見れるなんて、最高じゃないか。

「そー言えば。帰ってきた時、ソッコーで風呂行けって言ったのなんでなん?」

多少傷付いた冒頭のアレについて、和やかな雰囲気に任せて聞いてみた。
別に聞いちゃダメって事もなかっただろうけど、千早からは何も言ってこなかったし、少し聞きづらくもあって。
でも今なら聞けるかなって思った。
だから聞いたと言うのに、心底不思議そうな顔をされてしまい、そんな不思議な事言ったか!? と不安になる。
俺が悪いのか? 聞かなくてもわかるだろって? わからねーから聞いてンの!
暫く沈黙が続き、耐え切れずに俺の方から「やっぱり何でもない」と言おうとした所で、漸く合点がいったらしい千早が手のひらをポンッと叩いた。
いや、寧ろ何でここまでわからなかったンだよ。

「ハウスクリーニングしたんです」
……ハウスクリーニング」
「はい」
……今日だっけ?」
「今日ですよ。普段から掃除はマメにしてますが、やはりプロには敵いませんからね」
「ソーダナ」
「なので、こーんな綺麗な空間に汚物が入るのはちょっと、と思いまして」
「言いたい事はわかるが、未だに汚物って呼ぶのやめねェ?」
「それは難しいですねぇ」
「ンでだよ」
「アハハ〜」

理由もわかってスッキリ、とはいかない。
寧ろ何かモヤッとしてる。
同棲してる恋人捕まえて『汚物』呼ばわりはあんまりだよなァ。
本人にはさして悪気は無いと言うか、本気でそう思っているので諦めるしかないと言うか。
ガクリ、と項垂れる俺に千早はただ笑うだけ。

「俺って本当に愛されてるのかね?」
「愛とか恥ずかしい事言っちゃいます?」
「言うだろ普通に」
「まぁ、藤堂くんですからね」
「付き合ってンのに、千早くんからの愛を感じない」
「それは心外なんですけど」
「だってよ」
「確かめてみますか?」
「何してくれンの?」
「とりあえず、ハグから」

両腕を広げた千早は、モコモコのルームウェアを着ているのもあって、あざとさの化身だった。
ついでに小首を傾げているので、効果は抜群である。
ズリーわ。
千早の可愛さに降参した俺は、大人しくその身体を抱き締めるのだった。

END


千早くんの使うドライヤーは静音の可能性もあるけど、今回はそうじゃないやつで