七海ななみ
2026-01-16 23:41:43
3350文字
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恋の証明

ルカキリ。恋かどうか証明しようとするフリンズのお話。
アルベド先生には最近の仕事の悩みを代弁してもらいました。まじで無いことの証明は難しい…。なんでおまえ出てくるんだよ…ってなりながら仕事してます。


最近、ファルカさんのことをよく考えてる気がする。
確かにファルカさんとは飲みに行く仲だ。仲は良い方だろう。
でも、ふとした瞬間にファルカさんのことを考えてしまう。
例えば、お酒を買うときにファルカさんが好きそうなお酒だな、とか。
一人で食事をしてるに、ファルカさんは美味しそうに食べていたな、とか。
サファイアを眺めていると、ファルカさんの瞳の色と同じだな、とか。
何故、ここまでファルカさんの事を考えているのだろうか。
そう疑問に思いながら、フラグシップでお酒を嗜んでいた。

「最近ね、知り合いになった男性の事をいつも考えてしまうんだ」

隣の席にいる女性の会話が耳にはいる。この女性は僕と同じ悩みを抱えているようだ。
もしかしたら解決策になるかもしれない。聞き耳をたててみる。

「それってさ、恋なんじゃない?」

恋。
恋って、あの?

「恋なのかなぁ?」
「気付いたらその男の人をずっと考えているんでしょ?
今、何をしてるのか気になっているんでしょ?」
うん」
「間違いないよ、それは恋だね。おめでとう!」

隣の席の女性はめでたいことだろう。心のなかで祝福する。
僕にとってはめでたくない。
僕は同姓であり、種族も違う人に恋をした?
そんな訳がない。ありえない。
内心、悪態をつきつつ、炎水を飲み干した。


────────


恋な訳がない。
そう思いつつも、恋に関する本を探してみる。
恋でないこと証明するには、恋という定義を調べなければならない。
心理学の本を調べると、恋の三要素、という定義を発見した。
その一、親和性。
相手を理解したい、自分の心を開きたいという情緒的な繋がりがあるかどうか。
ファルカさんの事は理解したいと思っているし、僕の事も知ってほしい、そう思っている、かもしれない。
その二、執着。
関係を維持しようとする意思があるかどうか。
せっかく仲良くなったのだ。離れるつもりはない。一緒にいて心地が好い人と離れる理由はない。
その三、情熱。
性的欲求や、相手を独占したいという激しい衝動。
これはよくわからない。今のところ、性的欲求も、独占欲もない。
情熱が該当しない場合は、友愛になるかもしれない、とある。
よかった、これは恋ではなかった。
証明できたことに安堵し、本を閉じた。


────────


恋でないことを証明できたはずだ。

「ファルカさん、私と付き合ってください!」

あの夜、フラグシップで隣に座っていた女性が、ファルカさんに告白していた。
ああ、確かにファルカさんは格好いい男の人ですからね。気持ちはわかります。
恋でないはずなのに、祝福をするべきなのに。

「悪いが、気持ちに答えられない。すまない」

ファルカさんが断っている事実に、どうして僕は安堵しているんだ?
僕は、ファルカさんを独占したいのか?
どうやら、まだ証明する必要があるようだ。


────────


恋を否定するためにはどうするべきか。
執着と情熱を否定するためには、距離を置くべきだろう。
極力、ナシャタウンに赴くことをやめ、夜明かしの墓に引きこもってみる。
物資の調達も、申し訳ないがイルーガに頼む。
距離を置いて、いつも通りに過ごせれば、恋の否定にできるはずなのだ。
でも、離れていると、余計にファルカさんの事を考えてしまう。
寂しい。ファルカさんに会いたい。
どうやら、距離を置いても恋の否定にならないようだ。

となれば、ファルカさんの事を考えないようにすればいいのではないだろうか。
仕事を増やし、毎夜のようにワイルドハントを狩って、狩って、狩り尽くして。
休みなしに狩るものだから、イルーガとニキータに心配されてしまった。
なお、戦いながらファルカの剣裁きを思い出してしまったため、恋の否定にならなかった。


─────────


どうすれば、恋の否定ができるのだろうか。
そうぼんやり考えながら歩くと、誰かにぶつかってしまう。
慌てて頭を下げ、謝罪をする。

「申し訳ございません。お怪我は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。珍しいね、フリンズさんが余所見してるなんて」

相手を見ると、アルベドさんだった。
ぶつかった拍子に荷物を落としてしまったので、慌てて拾おうとするが、アルベドさんに拾われてしまう。
よりによって、恋の三要素について書かれた心理学の本を落とすなんて。

「フリンズさん、心理学の本を読むんだね」
「ええ、最近悩みごとがありまして、調べていたんです」

恋について調べていたなんて、口を裂けても言えないが。
だが、もしかしたらアルベドさんなら、恋の否定についていい知恵を貸して頂けるかもしれない。

「アルベドさん、もしお時間があれば、証明についてご教授いただけないでしょうか?」
「心理学にあるような、感情の証明かい?」
「ええ、不可解な感情を抱いていまして、否定をするために検証をしているんです。でも、上手くいかなくて」

アルベドさんは、考え込んだ後、心理学については専門ではないけど、と置いた上で答えてくれた。

「分析において、一度観測されたことを“ない”と証明するのは、非常に難しい事なんだ」
「そうなのですか?」
「例え話をしてみよう。
フリンズさんはスイートフラワーを摘もうとしている。
でも、スイートフラワーに擬態したトリックフラワーである可能性もある。
フリンズさんは、どうやってスイートフラワーであることを証明するかい?」
「それは近づいて襲ってきたらトリックフラワー、何もなければスイートフラワー、でしょうか?」
「それも一つの検証だね。では、トリックフラワーが隠れているだけで襲ってこなかったら、どうする?」
槍で地面を突き刺します。スイートフラワーなら影響はないでしょう」
「新種の、かなり小さいトリックフラワーだったら、当たらないかもしれない。そしたらどうする?」
「それは

答えに行き詰まる。

「一度観測されたことは結果として残るからわかりやすいけど、“ない”ことを証明するには、様々な角度から物事を考え、何度も検証する必要があるんだ。疑問がなくなるまでね。それでようやく、“ない”という結果になるなら、“ない”事の証明になる。
“ない”ことの証明は、疑問があるかぎり証明にからないのさ」
………
「僕から見たら、フリンズさんの感情の証明は、言い訳をしたいだけに見えるよ」

証明、上手くいくといいね。
そういってアルベドさんは去っていった。


────────


僕は、ファルカさんに恋をしていることを認めたくないのは、何故だろうか。
この疑問を証明するには、こうするしかないだろう。
ファルカさんを夜明かしの墓に呼び出す。いいお酒が手に入ったと伝えると、喜んで来てくれた。
お酒がいい感じに回ってきた所で、覚悟を決める。

「ファルカさん」
「なんだ?」
「失礼します」

一言断って、口づけをする。
僕は、ファルカさんに性的欲求を抱いてるいるかわからなかった。
証明するには、キスをすればわかるはずだ。
ファルカさんは固まってグラスを落としていた。
一度離れる。今の僕は、もう一度キスをしたいと思っている。

「フ、フリンズ今のは?」
「すみません、証明したいことがあったので、失礼しました」
証明? なんの?」
ファルカさんに恋をしているかの証明です」

顔が熱い。ファルカの顔が見れない。

結果は、どうだったんだ?」
………僕は、ファルカさんに、恋をしている、ようです」

親和性も、執着も、情熱も証明された。恋の三要素が証明されたのだ。
結論、僕はファルカさんに恋をしている。
僕の想いは伝えた。ファルカさんの答えを待つだけだ。
あの女性のように、振られるだろうけど。

俺も、証明してもいいか?」

その言葉に目を開けると、目の前にはファルカがいた。
サファイアのような瞳は、熱が込められていて、それは、まるで。

「俺も、フリンズに恋をしているか、証明してほしい」

答えは口の中に溶けて消えた。