m_asuma3
2026-01-16 23:26:53
8385文字
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運命をもう一度

3部作予定。今回はヴェルナーさん視点。
状況説明しようとしたら本編そのままなぞっているだけになってしまったので盛り上がりはないです。


「私はムコーダと言います。こちらこそよろしくお願いします」
 そう名乗った依頼主はこの辺りの地域ではあまり見ない顔立ちをしていた。そのせいか少し幼くも見えるが、実際は俺よりも少し下の、20代後半といったくらいだろう。だがその居住まいは何故か50を過ぎたラモンよりも遥かに年上の雰囲気を醸し出していて圧倒される。武器すら握ったことのないようなこの風体に。
「あの、ヴェルナーさん?」
「あ、ああ、すまない。明日出発でいいか?」
「はい。よろしくお願いします」
 緊張しながらも笑みを浮かべる彼にこちらも笑顔で返す。時間も決め、その日は別れた。

 
「遅くなってすみません」
「いや、俺たちが早く来すぎただけだから気にしないでくれ」
 約束の時間に遅れたわけでもないのに俺たちより遅くなったというだけで頭を下げる腰の低い人だ。こちらは日頃から時間前行動を心がけているんだという旨を話し安心してもらう。この依頼主、相当人が良いんだろう。直感がそう言っている。

 
 旅路は順調だった。そんな中、驚いたのはムコーダさんが提供してきた食事だ。
 確かにある程度容量のあるアイテムボックスを使えるなら食料の確保には困らない。だからと言ってそれは味とは結びつかないもので。それがどうだ。食べたことのないフワフワの白いパンを使ったサンドイッチ。温かなスープ。こんな贅沢な旅をしたのは初めてだ。
「これは私の故郷の製法で作られたパンで、故郷を出るときにたくさん買ってアイテムボックスにいれてきたんです」
 そんな貴重なものを……と思うと同時に、この製法が広まらないほど遠方の地からやってきたのかと見慣れない顔立ちにも理解できた。街を出てからもずっと緊張の面持ちでいるのも慣れない土地で国境封鎖という不慮の場面に出会い、徒歩で渡ろうとしている今も魔物に襲われるかもしれないという心配があるからだろう。寧ろこの出で立ちでよくここまで来られたものだ。
 
 美味いものがあれば話も弾む。互いに目的についても語った。どうやらムコーダさんも我々と同じくレイセヘル王国に思うところがあり、他国へ移動しようとしているらしい。ムコーダさんだってせっかく遠方からやってきたというのにヘタな争いごとなどに巻き込まれたくはないだろうしな。
「それと……探しものを……ずっと探していまして」
 ポツリと呟いたムコーダさんの目に、本人の朗らかな人柄とは程遠い影が差したように見えた。
「あ! だからこんな怪しい国にまで来ちゃったってこと?」
 リタがサンドイッチをモグモグと食べながら口を挟んでくる。はしたないからやめろ。
「冒険者でもないのに大変だったっすよねー? それってなにを「見つかるといいわねぇ」「アテはあるのか?」
 ムコーダさんが探しものの内容は言いたくなさそうな気配を察知し、フランカとラモンはヴィンセントの言葉を遮って当たり障りない質問に誘導してくれた。
「ええ、まあ……そろそろな筈です。やっと」
「それはよかった。はやく見つかるといいな」
 長く探していたのだろう。それにしては少し寂しそうな表情が気になったが、それを指摘するほど野暮ではない。
「こちらこそ依頼を受けていただいて本当に良かったです。皆さんのおかげでまたこうしてフェーネン王国へと向かうことができます。皆さんにお会いできたのが本当に嬉しくて……こう見えて料理は得意な方なので、この先のお食事もお任せください」
 聞きたそうにしていたリタやヴィンセントは美味い食事が担保されたことに大喜びしてすっかり気が逸れたようだった。俺はムコーダさんの「また」という言葉が気になった。まるで俺たちに護衛されるのが初めてではないような言い草だ。いや、おそらくフェーネン王国へ訪れるのが二度目という意味なんだろう。そう結論付けて終わった。


 キールスの街を出発してから5日目。事件は起きた。
 今日仕留めたレッドボアの肉を使わせてほしいと言うムコーダさんは一段とソワソワしていた。旅の疲れでも出てきたのだろうか。だったら景気よく肉でも食って英気を養おうじゃないか。もちろん快く了承した。
 なのでさっきから美味そうな匂いが周辺に漂っている。ところがここであることに気付いてしまった。いくらムコーダさんの飯が美味いとはいえ、この状況はマズイかもしれない。匂いに気付いたゴブリンやグレイウルフ程度が寄ってくるならまだいい。しかしここに上位種のゴブリンキングやグレートウルフなどが来てしまったらCランクの俺たちは到底敵わない。だがこれを食わずに我慢するという選択肢が選べない……! 匂いからしてあまりにも美味そうなのがどうしても……! もはやワザとなのか!? どうなんだムコーダさん!
 そんな葛藤をしているうちに料理が完成してしまった。
 パン。スープ。そして匂いの元凶である肉にはキャベットが添えられている。
「何だこれっ、ウンメェーーー」
「美味いッ!あたいこんな美味い物初めて食べたっ」
「私、レッドボアの肉はあまり好きではなかったけど、これなら美味しく頂けるわ」
「キャベットを生で食べるのは初めてだが、この肉と一緒に食べると絶品だな」
 焚き火を囲いながらさっそくいただいた仲間たちは大絶賛だ。もちろん俺も美味くて手が止まらない。
「ムコーダさん、さす……
 流石だと賞賛しようとした俺はそのムコーダさんの姿を見て目を見開いた。
 ムコーダさんは自分用に準備したはずの木皿を両手で握りしめ、じっと見つめていた。力が入りすぎて指が白んでいる。
……大丈夫、間違ってない。いくら昔のことだからって忘れるわけない」
 ぶつぶつと独り言をいうムコーダさんにどうしたのかと声をかけようとした瞬間。
『人間よ、我にもそれを食わせろ』
 ムコーダさんの真後ろに淡く光を放つ銀色の体毛を持った魔獣が現れた。
 これはグレートウルフどころではない。……フェンリルだ。
 誰かが木皿を落とす音がした。逃げなければ。だがムコーダさんは振り返るどころか俯いたまま微動だにしない。当然だ。俺たちだってフェンリルの放つ威圧感で動けないのだから。
『おい、人間、聞こえないのか?』
……
 先程まで白んでいた指先が震えている。無理もない。どうにかしてフェンリルの指示に従うよう合図を入れようとしたら。
……よかった」
 すっと立ち上がったムコーダさんは笑っていた。恐怖でおかしくなったのかと思ったがそうではない。まるで安堵のような……。フェンリルの方へ振り向く時には真顔になっていた。
 ムコーダさんは木皿を持ったままフェンリルの口元に寄せた。そんなことをしたら腕ごと食われてしまうぞ! しかしそんな心配を余所にフェンリルは器用に皿の上の肉だけを平らげた。
『美味いが足りぬ。もっとよこせ』
「ああ、食ってくれ。でも作らないとならないんだ。少し待っててくれるか?」
 フェンリル相手だというのにどこか勝気な返答をしている。あの腰の低いムコーダさんがだ。一体どうしたんだ?
『うむ。待ってやるから早く作るのだ』
 フェンリルの方はその態度を気にもせず待つことを了承した。余程あの料理を食いたいらしい。
 もともと料理の手際がいいとは思っていたが、それ以上の能力を見せながら次々と肉を焼いていくムコーダさんと、どこまでもその肉を食べ続けるフェンリル。何も出来ずひたすらその様子を見つめる俺たち。時間だけが過ぎていく。
『ゲプッ。美味かったぞ。それにしてもお主、これっぽっちの肉で我をここまで満足させるとは、中々やりおるな』
 相当な量を食べたフェンリルは漸く腹が満たされたのだろう。それを作り続けたムコーダさんが凄い……。感心しているとフェンリルは驚くべきことを言ってきた。
『うむ、お主と契約してやろう』
 契約って……従魔契約か!?
『おい、聞いているのか? お主と従魔の契約をしてやろうと言っておるのだ』
 やはりそうだ。しかしフェンリルと従魔契約を結ぶだなんて聞いたことがない。
…………
 ムコーダさんだって驚きのあまりだろう、黙り込んでしまっている。あのフェンリルに迫られているんだ。嫌でもこのまま承諾せざるを得ないが……
『まさかとは思うが、お主、風の女神ニンリル様の眷属であるフェンリルたる我との契約を断ろうとしているのか? そのような大それたことをするとは思わぬが、どうなのだ? ん?』
……わかった」
 強要され仕方なく……とも言えない固い表情でムコーダさんは承諾した。そのまま契約の儀式が行われる。
 ムコーダさんとフェンリルの額が重なるとそこから強い光が放たれ、俺は目を細めた。初めて見る従魔契約の瞬間は美しく、まるで神に祝福されているようだと感じた。
『これで契約が終わった。ん? お主……っ!? なにを!?』
 フェンリルが何か言いかけたと同時にムコーダさんがフェンリルの首に抱きついた。あまりの出来事に俺たちどころかフェンリル本人(本獣?)すら戸惑っている。いくら従魔契約を交わしたといっても、いきなりフェンリルに触れられる胆力がムコーダさんにあるとは思わなかったからだ。
「フェル……逢いたかった。ずっと探してたんだぞ。俺のこと置いていきやがって」
 抱きついたまま首の毛に埋もれて話す声は聞き取りづらかったが、確かにそう聞こえた。このフェンリルと知り合いだったのか? いや、互いにそんな素振りは……
『フェル? 我にそのような名はない。従魔契約した際に名付けは必要だが……っ!?』
 フェンリルの方も身に覚えはないらしい。だが何かに驚いている。
「ああ、鑑定した? そう、お前はフェルだよ。俺が付けた名前。俺の従魔。俺の、フェル」
 どうやらフェンリルは鑑定スキルを持っているらしい。そこで自身のステータスを見てムコーダさんの言う名に自身が名付けられたことに驚いているようだった。
「フェル、お前にいっぱい話したいことがあるんだ。でも全部最初からやり直しだからさ。何も知らないフェルは困っちゃうよね。ちょっとずつで良いよ。俺のこと、また知ってほしい。それでまた俺のことを…………う、ううっ……うあああっ」
 埋もれた声では最後の方が聞き取れなかった。そのまま首元に縋りながら大泣きし始めたムコーダさんをフェンリルは嫌がりもせずただ沈黙していた。

 
 泣き疲れて眠ってしまったムコーダさんをフェンリル……フェル様が腹元で覆うように囲っている。それが当然であるかのような仕草だった。従魔とそれを使役する者とはこのような距離感だっただろうか?
『そこの人間。此奴は一体なんなのだ?』
 フェル様が俺に問うてきた。心臓に悪いからやめてくれ。
「え、っと……我々もただ護衛を依頼されただけなので詳しくは……。我々と同じく、きな臭いレイセヘル王国から一刻も早く出たかったということくらいしか……
 情報を得られなかったフェル様は眉間にしわを寄せて伏せてしまった。
「そういえば、探し物してるって言ってたっす」
 ヴィンセントが思い出したように言ってきた。そうだ。そんなこと言ってたな。
『探し物?』
「ひぃっ」
……はい。何かとは聞きませんでしたがずっと探していると。そしてそれはそろそろ見つかるとも」
 言い出したにもかかわらず俺の陰に隠れたヴィンセントの代わりに答える。
『ふむ……
 フェル様も考え込んでしまった。
「先ほどのムコーダさんを見るに……おそらく、フェル様を探していたのでしょう」
『だろうな』
 やはり同じ答えに行きついていた。
「以前会われたことがあるとか?」
 300年は人前に姿を現していないというフェンリルだが、あのパンの製法すら伝わらないような遠方の地での出来事であったなら時間と共に噂は風に消えていたのかもしれない。
『それはない。会ったことがあるならば我は既に此奴の従魔になっていようぞ。姿も匂いも初めて出会う者だ』
 それもそうか。ムコーダさんのひととなりも知らず飯が美味いからというだけで速攻従魔になろうとしたフェル様もなかなかだが……
『ただ、我は先日風の女神ニンリル様より神託を受けた。東に向かえ。運命に出会うだろう、と。そして今日此奴と出会った』
 女神様が引き合わせるほどの出会いだったとでもいうのだろうか? しかしそうなのだろうという確信を持てるほど眠るムコーダさんとそれを囲うフェル様の姿は、互いに足らぬところを埋めているようにぴったりと嵌っている。
『まあ本人の意識がないところで話しても栓の無いことだ。明日此奴に問うてみようぞ』
「そうですね。それでは我々も休ませていただきます」
 見張りを順に立てて眠りにつく。おそらくそんなことをしなくてもフェンリルの近くに寄ろうとする魔物などいないだろうが。


「すみませんでした。突然で驚かれたでしょう。大の大人が大泣きした挙句そのまま寝るなんて」
 目をまだ腫らしているムコーダさんはいつも通りの態度で謝罪してきた。ただし横にいるフェル様の毛をギュッと掴んでいる。何処にも行かせやしないと言わんばかりだ。
「いえ、慣れない旅で疲れていたんでしょう。このまま出発しても?」
「はい、……大丈夫です。遅れたりしたら今度はあの子に逢えなくなるので」
 待ち人がいるのだろうか。言い回しがなにもかも不思議な人だ。
 フェル様はムコーダさんから理由を聞いたのか、難しい顔をしながらも寄り添われることに抵抗はしていない。俺たちも聞いてみたいところだが、このムコーダさんの姿を見ては流石に躊躇われる。そんな仲でもない。
「では行きましょうか」

 昼下がりにフェル様の一言で昼飯となった。
『おい、我は肉を所望するぞ』
「わかってるって。でもレッドボアの肉は俺のものじゃないんだから、そんなに肉が食いたいなら自分で獲ってこいよ」
『む、そうか。すぐに獲ってくるから待つのだ』
 そう言ってフェル様は道の脇の森に駆けていった。
 伝説の魔獣をアゴで使っている……いや、尻に敷いていると言った方が適切か。
「ム、ムコーダさん、レッドボアの肉使ってもらっていいんだぞ」
「いやいやいや、そんなわけにはいきませんよ。せっかく皆さんが狩った獲物なのに、フェルが食いつくしちゃうことになりますから。それに、こういうのは甘やかすのは良くないですからね。この先も、自分の食い扶持は自分で賄ってもらわないと。私に狩りはできませんし」
 そう穏やかに話すムコーダさんはどこか嬉しそうだ。
「ムコーダさんはすごい人だな……
「すごい、すごいよっ、ムコーダさんっ」
「すごいっすムコーダさん。あのフェンリルに命令できるなんて尊敬します」
「一国をも滅ぼすフェンリルに命令するなんて勇者ですわね」
「あのフェンリルに指図できる者がいるとはな」
 一同に囃し立ててしまったがムコーダさんはニコニコとするばかりだ。余程フェル様と会えたのが嬉しいのだろう。
 そうこうしてるうちにフェル様が何かを咥えて戻ってきた。
「ロ、ロックバードだ……
 あの短時間でこんな大物を……やはり伝説は本物のようだ。
『獲ってきたぞ。早く飯を作れ』
「フェル、俺はひとりでロックバードの解体なんかできないぞ。今は道具もないし。こちらの方々に頼むしかないけど、その代金の代わりに肉以外の素材全部渡すからな?」
 ムコーダさんは解体の心得があるようだ。このような大物になると難しいみたいだが。昨日レッドボアの解体をしている時は血を見るのも嫌がってたから意外だ。
『我は肉が食えれば文句はない』
「ということなので、解体をお願いできますでしょうか」
「イヤイヤイヤ」
 勝手に話が進んでいるところを俺たちは首をブンブンと振って否定した。
「解体しただけで、ロックバードの肉以外の素材全部とか、もらい過ぎだからっ」
 素材の価値に疎いリタですら大焦りだ。
「いえいえ、レッドボアの肉もフェルが食べて大分減ってしまってますし、フェルもああ言っていることですから受け取ってください」
 いくらもらい過ぎだと主張してもムコーダさんは引かなかった。押し問答をしていたらフェル様の機嫌が怪しくなってきてしまったので結局それにビビった俺たちが折れた。
 解体を終わらせると早速調理に掛かってくれた。完成するとまずはという感じで俺たちに振る舞われた。いやいや、フェル様が先だろう?
『おい、我の分は?』
 案の定だ。俺たちが先に手をつけられる状況じゃない。
「フェルはたくさん食べるんだから、先にみなさんに出してからだよ。すぐ作るからちょっと待ってて」
『む、分かった』
 フェル様はムコーダさんばかりを見ていて俺たちのことなど露ほどにも気にしていないようだ。それなら遠慮なくいただくとしよう。またヘタに抵抗して調理が遅れるなんてことになったらそれこそ大事だからな。
 甘辛い絶品の肉料理に俺たちもフェル様も夢中になった。

 ついにフェーネン王国の国境砦が見えた。わらわらと警備兵が集まっている。フェル様がいるので仕方ない。
「ヴェルナーさん……
 ムコーダさんは申し訳なさそうにこちらを見てきた。
「先行して事情を説明してきます」
「すみません。ありがとうございます」
 またギュッと毛を掴む姿にこの魔獣と関係などないと誰が言えようか。

『先ほど言ったとおり我らに手を出さねば、我の方からどうこうするつもりはない』
 フェル様は警備兵の代表にそう返すとこの話は終わりだというようにムコーダさんに擦り寄っていく。ムコーダさんも「だそうなので、どうか認めていただければ……」なんて言いながらヨシヨシとフェル様の首を撫でている。開いた口が閉じられてないぞ、警備兵たちよ。気持ちはわかるが。
「あのフェンリルをこれほど手懐けているとは、心配していたような事態になることはなさそうだな」
 俺たちもこれまでの出来事を改めて説明し、納得してもらう。
「ほぅ、きちんと掌握しているということか」
 ……これは良からぬことを考えているな。ムコーダさんたちに何もないといいが。何かあって困るのは国全体なんだぞ。

「無事入国できてホッとしました。みなさんありがとうございました」
 門を潜ったところでムコーダさんが礼を言ってきた。そうだな、俺たちの任務はここまでだ。
「いやいや、俺らもいい経験させてもらったよ。伝説の魔獣フェンリルの実物を見ることができたし、更に話もできたんだからな」
「リーダーの言うとおりだぜ。俺、みんなに自慢するぜ」
「あたいもヴィンセントと同じくみんなに自慢するんだー。おとぎ話のフェンリルに会ったんだぜってさ」
「ふふふ、リタったら子供なんだから。でも、確かにこれは自慢したくなりますわね」
「生きているうちにフェンリルを見られるとは……冒険者冥利に尽きるな」
 やはり仲間たちもフェンリルという存在は衝撃的だったようだ。
「しかしこれから忙しくなるかもな。あの隊長、ムコーダさんとフェル様の関係を見て、どうやったらこの国に引き込めるかって考えてるようだったからな」
 いろんな意味で心配だったため忠告はしておく。下手をすれば世界滅亡一直線だからな。
「そう言われましても、私もこの国に留まるつもりはないので、その時はその時でフェルと話しながら考えるしかないですねぇ」
「ははは、フェル様がいれば無体なこともできないだろうしな」
 俺はどちらかというとそんなのんびりと答えるムコーダさんの方が怖いのだが。今のこの状況を見るに、この人の一言で世界が終わると言っても過言ではないと思う。出来ればそうならないでほしいところだが……
「この国に留まるつもりはないって、旅でもするのか?」
 確かにここよりももっと自由で豊かな国もある。フェル様となら俺たちの知らない土地だって難なく辿り着けるだろう。
「この世界をまたいろいろ見てみたいなと思ってまして。逢いたいと思う……逢わなきゃいけない相手がまだまだいますし」
 少し涙目なムコーダさんは「ここからが始まりなので」と微笑んだ。
「そうか。がんばれよ」
「ありがとうございます」
 深くは聞くまい。きっとムコーダさんにとってフェル様と会うのと同じくらい重要なことがたくさんあるんだろう。
 最後まで不思議な人だった。まあ、後に再開もしたんだが、従魔も増えて幸せそうな姿に俺たちもそのおこぼれを預ったりしたのはまた別の話だ。