こばと
2026-01-16 22:43:08
1939文字
Public タキ書♀
 

パティスリー帰りのエドガー先輩とタキ書♀


エドガー先輩の恒常SSRカードストーリー「貴重なひととき」からインスピレーションをもらいました



 錬金工房での合成を終え、タキ先輩と一緒に特別寮へと続く廊下を歩いていると、前方に白い箱を大切そうに抱えて歩くエドガー先輩を見つけた。珍しいことに今日はレナード先輩の姿がない。
 この方向ならば、きっと行き先は同じだ。無言でうしろをついて歩くのも変だし、声をかけようか。そう思ったのはタキ先輩も同じだったようで、エドガー先輩は快活に自分の名を呼ぶ声に振り返った。
「タキとレイか。今、帰りか?」
「はい、さっき課題を出し終えて今から寮に戻るところなんです」
「エドガー先輩は、護衛もつけずに街へ?」
 ニヤリと笑みを浮かべながらタキ先輩が尋ねると、一瞬目を泳がせたエドガー先輩がいたずらが見つかってしまった子どものような表情を浮かべ、伏し目がちにこくりと頷いた。
「レナードには、内緒にしていてくれ」
「ははっ。エドガー先輩のお願いなら、そりゃ構いませんけど……
 自然と三人で固まって歩くが、話題の中心はもちろんお出かけ帰りのエドガー先輩だった。
 口には出さなかったけれど、タキ先輩も私と同じく『よくあのレナード先輩が、エドガー先輩が一人で出かけるのを許したなぁ』という感想が真っ先に浮かんだはずだ。
 護衛騎士なのだから当然ではあるものの、何かにつけエドガー先輩のそばを離れないあのレナード先輩を置いて単独行動をするのは、正直なかなかハードルが高いように思える。そんなの、好奇心旺盛な私たちの興味がそそられないわけがなかった。
「えっと、でもなんで……内緒なんですか?」
「レナード先輩に知られたら、まずい場所ってことですか?」
「いや、その……決して危険な場所ではない、のだが……
 当たり前の疑問をぶつける私たちに、照れたようにはにかみながら語ってくれたのは、何ともエドガー先輩らしい理由だった。
……実はレナードに、甘いものを控えるように言われているんだ」
「は?」
……えっと、でも、それって……
 はっきりと指摘すべきかわからずに言い淀む私の視線だけで、エドガー先輩も何が言いたいのかわかったのだろう。気まずそうに目を逸らして、腕の中にある白い箱を見つめた。
 ミーティアの学生なら誰もが知っている、人気パティスリーのロゴが入ったその箱の中には、間違いなく『甘いもの』が詰まっている。しかも箱の大きさからして、一個や二個じゃないのは明らかだ。
 ここにレナード先輩がいたら、言い逃れする余地もなく現行犯逮捕である。
「ふーん。つまり、エドガー先輩はレナード先輩に隠れて、こっそり美味しいケーキを買って楽しもうってわけだ」
「タキ、その、声のボリュームを……もう少し、下げてくれないか……
 きょろきょろと辺りを見回すエドガー先輩は、きっとレナード先輩の気配がないか気にしているのだろう。
 タキ先輩がわざとからかうように言っているのがわかるからこそ、そんなエドガー先輩が少し気の毒に思えてきて。あまり困らせないよう止めに入ろうとしたところで、タキ先輩がいたずらっ子のように笑いながら、大胆にも一国の王子様相手に取引を持ちかけた。
「じゃあ俺とレイに、口止め料……くれます?」
「た、タキ先輩っ?」
「口止め料……
「それ、アルタール島でも評判のパティスリーの箱ですよね」
「あ、ああ。お気に入りの店なんだ」
「レイ、あそこのチョコレートケーキが食べてみたいって言ってなかった?」
「えっ。それは、その、言いましたけど……っ!」
「なるほど。もちろん、この中にはチョコレートケーキもある」
「もうっ、タキ先輩! エドガー先輩にたかっちゃダメですよっ」
 シュルヴァートの王子様から賄賂のケーキをせしめようとするタキ先輩に驚いている私をよそに、当のエドガー先輩は何かを決意したような、はたまた覚悟を決めたような、そんな顔で大きく頷いた。
 その瞳はどこまでもまっすぐで、濁りも翳りも見当たらないほどに透き通っている。あれ、今ってそんな壮大な話をしてたんだっけ……もう何だかよくわからなくなってきたな。 
「いや、いいんだレイ。もともと、少し買いすぎていたからな。お前たちも一緒に食べてくれると嬉しい」
「おっ、さすがエドガー先輩! 話が早いや。じゃあ口止め料をもらうからには、俺たちは共犯ってことで!」
「ふふ、それは頼もしいな」
 頭の中で、そろそろツッコミが追いつかなくなる頃。心からそう思っているのが伝わってくるエドガー先輩の尊い表情に、思わず目が潰れそうになったのは秘密だ。
 嬉しそうに微笑む王子様を見て、この笑顔を守りたいと思ってしまうのは、きっと仕方がないことなんだろう。
 でもタキ先輩、さすがに今回は悪ノリが過ぎると思います。