コット
2026-01-16 20:45:10
994文字
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いちにのさん! でしねたなら 3(後半)





 結論から言えば、オレたちは死んだ。
 いちにのさんで、あっけなくだ。

 アルカディア闘技場において、

 生身の挑戦者ヘビー級第二戦は、興奮の嵐に包まれたまま幕を閉じた。……と、医務室のベッドに伏せるオレたちにメテムが語った。
 いつもどおり多少のお説教が終わり、メテムが去ってから、大きくため息を吐き白いシーツに倒れ込む。

 ――完敗だ。
 アイツは、やろうと思えばいつでも殺れた。それこそ、初手から。だが、それをしなかった。
 きちんと興行士として場を温め、しっかり盛り上げて、会場を最高潮にしてからきっちり幕を引いた。
 あれをシナリオも知らずにやっているのなら、闘士としても興行士としても、勝てる要素が見当たらない。もう一度言うが、完敗だ。

……すまない。兄者」

 隣のベッドから、低い声が響いた。それに応えて、手だけを持ち上げひらひらと振る。

「気にすんなよ。てか、作戦は二人で一緒に決めただろ。どっちかのせ〜ってヤツじゃねェよ。……あ〜、ちくしょう。アイツ、腕折りやがった。治ってるからいいけどよォ」
「違う。……殺す気だった」

 物騒な声色に、「ん?」と首を傾げ顔を横へ向けた。弟は、ベッドに寝たまま両手で顔を覆い、かすかに震えている。

「最初から、殺すつもりで殴っていた。……ずっと」

 泣いているのかと慌てて身を起こすが、どうも様子が違う。寡黙な弟が、顔を覆ったまま唸る。

……オレの殺気を、気取られたのだと、思う」

 目眩しが効かなかったのは、殺気が漏れていたから。そう言いたいのだろう。
 いつもと違う雰囲気の弟に、慎重に言葉を選ぶ。

……そんくらい本気で殴らなきゃ、そもそも通用する相手じゃなかっただろ」
……すごいな」

 そして、ようやく気づく。
 ――笑っているのだ。弟は。
 巨躯を震わせて、心から愉しそうに。

「あぁ、兄者。あんな、暴力の権化が、いるんだな。世界には。……暴力の、女神が」

 その姿を、オレはベッドの上で呆然と見つめる。

 ――駄目だ。
 長い時間をかけて、暴力と無法から、ようやく切り離したというのに。
 ようやく、明るい場所に立てるようになったのに。

 世界には、オレたち二人きりでいい。
 今までも。これからも。

 ……だから、オレは。