プレゼントしてくれるフリンズさんの話


「こんばんはフリンズさん」
――おや、こんばんは」

 フラッグシップに寄り道すると、フリンズさんがカウンターに座っているのを見つけた。彼はお店でたまに会うと私に話かけてくれるので、今日は私から声をかけてみることにした。
「これから夕飯のご予定ですか?」
「はい、そうなんです。仕事も終わったので寄り道したところです」
「そうでしたか。今日という日の終わりに貴女に会えて、とても良い日になりました」
 ニコリ、と笑いながら面映い台詞をサラリと口にするフリンズさん。こっちが勝手に照れてしまいそう。

 カウンター席の隣に座らせてもらって、デミアンさんに料理の注文をした。フリンズさんは相変わらずお酒だけが手元にあるし、そろそろ器が空きそうだった。
 私の料理よりも先に、フリンズさんが注文していたお酒のグラスが届けられる。
「お待たせしました」
「ありがうございます、デミアンさん」
 そうしてグラスを受け取る彼が腕を伸ばした時に、ふわっと良い香りがした。
……ん?」
 良い香りの元を自身の鼻で探してみると、これは――フリンズさんから漂っている気がする。
「どうしましたか?」
「フリンズさんから、良い香りがするなぁ……って……

 そう言いながら、今の発言は中々恥ずかしい内容では?と思えてきて、声が弱々しくなってしまった。人の、しかも男性の匂いを嗅ぐって……あまり褒められた行為では、ないよね……
「ふふっ、ありがとうございます」
……えへへ、すみません。笑って許してもらえて良かったです」
「気にしてませんよ、それよりも――
 フリンズさんが少し後ろを向いて、またこちらに向き直ってくれた。
「今日はこちらの香水を、少し付けていたのです。ナシャタウン内で購入したものなのですが、よろしければ少しお分けしますね」
「いいんですか?」
「えぇ、どうぞ」

 差し出された小瓶を受け取り、早速少し蓋を開けると、先ほどより濃い香りがする。
「フロストランプから抽出された香水だそうですよ」
「そうなんですね、今度使ってみますね。ありがとうございます!」
そうこうしているうちに料理も届いたので、フリンズさんと他愛のない話して、その日はお店の前で別れた。


 ***


 ここ数日、フリンズさんから貰った香水を少しずつ使って楽しんでいるのだが、少しおかしな点に気づいた。
 ナシャタウン内で香水や香膏を扱う店を訪ねてみたところ、フリンズさんが持っていた香水は……売ってないのだ。流れの行商人から買ったりしたのかな?と不思議に思っていたところで、買い物途中のフリンズさんと出会った。
「こんにちは、またお会いしましたね」
「あ、フリンズさん。こんにちは、今日は買い出しですか?」
「えぇ、日用品などを少々」
 大きな紙袋を片手に抱えている。酒瓶まで見えた気がするが――それはおいておくとして。

「おや先日お渡しした香水、使って下さってるんですね。嬉しいです」
「はい、とても良い香りなので」
「そうでしたか。ふふ、それならまた今度、購入しておきますね」
 ……え?また購入できるということは、流れの行商人……ではない?

……フリンズさん、」
「はい」
「この香水って、どちらで購入されたのでしょうか?」

 彼を正面に見据え、少し顔を上げて彼の目を見つめる。フリンズさんも私の目をじっと見つめてくる。
…………降参します」
「え、どういうこと?」
「嘘がバレてしまった、ということですね」
 ふふっ、と口元に手を当てて小さく笑う彼を見ながら、私は混乱して目をパチパチした。

「先日お渡しした香水、実は僕が調香したものなのです」
……ぇえ?!」
「購入した品ということにすれば、素直に使って下さるのでは――と」
 実際使っていたので、フリンズさんの思惑通りではあるのだが、そもそも――「なぜ、そんな嘘を?」と、私は少し冷や汗をかきながら指摘する。
 
「貴女が、僕と同じ香りになればいいと思いまして」
 
 フリンズさんはそう言って私の方へ手を伸ばし、手の甲で頬を撫でた。彼の手首から、私と同じ香りがした。

 
 
『そろそろ僕のものに、なりませんか?』