2026-01-16 18:37:05
2413文字
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Magnetic(R-18)

物理的にも精神的にもくっつくふたり

 大きい人だなぁ、と思った。
 自分もそれなりに身長が高い方だという認識があったけれど、隣に並ぶ黒づくめの彼は加えて頭一つ分大きかった。身幅など比べるべくもない。ぼんやりと思い描いていた「日本国の若造」とやらが、あっという間に現実で上書きされていく。
 想像以上の体躯ではあったが、言動を見る限り若造というのはあながち間違いではなさそうだ。もっともこの身からすれば、大体の者が年少という括りになるのだけど。

 ファイは慎重に、それでいて軽薄に見えるよう会話に加わりながら目を伏せた。ひどく疲れているのに、頭だけは冴えているのかどうにも思考が止められない。写身たる二人と、これから旅を円滑に進める。それが「ファイ」の役割だ。一方、彼らを物理的に守るのが男に期待された役割であるならば、この身体も多少の血の気の多さもおかしな話ではないのだろう。
 なんにせよ全て他愛のないことだ。一緒に旅をしたとしても、同じじゃない。自分が手を下すにしろ、別の形になるにしろ、いずれ道は別たれる。


☆ ☆ ☆


 懐かしくさえ感じる記憶が走馬灯のように頭を過ったのは、一種の逃避行動だったのかもしれない。ファイはそんなことを考えながら、自分に覆いかぶさる相手を見上げた。かの「大きい人」はこちらをじっと覗き込んでいる。閨にそぐわない険しい顔は、多分おそらくきっと、他ならぬファイのために必死に衝動をこらえてくれているからだ。腰を掴む手が熱く汗ばんでいて、妙にぞくぞくした。
 黒鋼の身体は大きい。初めて出会った時からずっと、それはファイにとってわざわざ言葉にする必要もない事実だった。あまりに当たり前すぎて、こうしてお互い一糸まとわぬ状態で向かい合うまで意識すらしていなかったくらいだ。
 なぜそれをにわかに思い出したかといえば、全て目の前の状況に起因する。
 率直に言うと、ファイは黒鋼の反応しきった性器を見て、ものすごくびっくりしていた。

 ――こんなに大きいことってあるんだ……。まぁ黒たん身体もおっきいもんね。そもそもオレ、他の人のそういうところまじまじ見たことなかったしなぁ。いや滅多にそんな経験ないか……。おまけにこんな、その、なんというか、えげつない状態になっちゃってるし。あ、でも他の人の見たことあったら黒様が普通の人に比べてすごくすごいって実感するだけになっちゃうんじゃ? うん、これ以上考えるのやめよう……
 思考は迷走していたが、衝撃のせいか一周回って恐れはなかった。大事なのはファイを前にして、ちゃんと黒鋼が興奮してくれていること。それだけである。ちょっと、いや大分想像よりも興奮の度合いが大きく、手に負えなさそうではあったが。
 魔力のある自分の身体は無駄に頑丈だ。伊達に長生きもしていない、はず。だからなるようになるだろう。多分、おそらく、きっと。
 ファイは今一度腹を括って、逞しい首に抱き着いた。


☆ ☆ ☆


……なんてこともあったなぁ)
 事後特有の気怠い雰囲気の中、ゆるやかに髪が梳かれるのを享受する。なんとはなしに太い腕に額をくっつけた。今となってはすっかりこの行為にも慣れてしまっているのだから、本当に何があるかわからないものだ。
 あの日なんとか彼を途中まで受け入れたものの、翌朝ファイを待っていたのは経験したことのない筋肉痛だった。いつまでも内に何かが入っているような感覚が消えないうえに、普段は使わない筋肉を酷使したのだという自覚がじわじわ湧いてきて、痛みと羞恥を抑えるのにとても苦労した。
 事に及ぶ前、「後ろからの方が受け入れやすいらしい」というファイ自身もどこまで確かなのかわからない情報を伝えたことを覚えている。黒鋼は眉をひそめながらも従ってくれて、しばらくは背後から繋がっていた。
 それなのに、今は気づけば向かい合った状態で貫かれていることがほとんどだ。顔を隠すことも許されない。たとえ背を向けても簡単にひっくり返され、あっという間にお決まりの体勢になってしまう。
 すっかり彼のかたちになった中は、全てを呑み込み快感を覚えるようになっていた。いわゆる正常位で、逃げ場のないまま深々と重たく中を穿たれる。合間合間に鼻先でキスをするように触れてくるのは、ちょっとおっきいワンコっぽいなと密かに思う。もちろん本人に言ったことはない。
 捕まえた獲物をゆっくり嬲るようにわざと体重を掛けられると、自分の意思とは別に身体の力が抜けるのがわかる。彼が嫌う菓子よりもよほど甘ったるい刺激を味わわせる黒鋼に、文句を言う暇もない。あとはもう大きな背にしがみついて、わけもわからなくなるだけだ。

 この身体が近くに在ることに、安心感を覚えるようになったのは一体いつからだったのだろう。初めは互いを静かに警戒しあっていた。逼迫した状態の子どもたちの手前、あからさまな態度は避けていたにすぎない。
 必要に迫られ背中を預けて戦うようになって、寝食を共にして、そしていつしかこの人が隣に居ることが当たり前になっていた。想定以上に歩み寄られることに戸惑いや躊躇いはあれど、困ったことに嫌悪は感じていなくて、それ以上に罪悪感と焦燥感が募るばかりだった。
……黒様」
 彼への感情を表す言葉が見つからず、ただ名前を呼ぶ。呼びかけへの答えの代わりに、真摯な眼差しが返された。夜目が利く黒鋼は、ファイよりもこの暗がりがよく見えているのだろう。
 伸びた毛先を弄んでいた手が後頭部に移り、少し力が込められる。さしずめ「もうそろそろ寝ろ」と言ったところだろうか。ぶっきらぼうなところはあの頃からずっと変わっていなくて、ちょっとおかしくなる。
 もたれるように脱力すると、そのまま抱きしめられた。触れ合った肌がじんわりと温かい。心の底から安心できる場所で、ファイは大人しく瞳を閉じることにした。