roku
2026-01-16 15:40:55
846文字
Public 松イチワンドロライ
 

第38回『境界線』


ある日松本が自室へ戻ると部屋を左右に分けるように真っ直ぐビニールテープで線が引かれてあった。
………何だ?これは」
「そのテープからこっち、入ってくんなよ」
……どういうことだよ?」
「そういうことだよ!おやすみっ!」
松本に背を向けて丸まる一之倉は布団を頭のてっぺんまで被っている。
「ちょおい!一之倉!?」
松本が一之倉のベッドに近づくため線を越えようとしたその時、「入るなって言っただろ!」と布団を捲って勢いよく起き上がった。
「何でだよ?納得できる理由を説明してくれよ」
松本は一之倉の行動に怒っているというより困惑している。
「だって松本ってばすぐくっついてくるじゃん!」
さすがにみんながいる前でそんなことはないが、部屋に戻れば恋人の一之倉とふたりきりなのだ。くっつきたくなるのは当たり前のことであった。
いや、だった、のか?」
一之倉の言葉にショックを隠しきれない松本は線を踏まないように、自分のベッドにもたれて座った。
「嫌、とかじゃない、けど……
「無理しなくていいぞ。今まですまなかったな」
大好きな松本を傷つけてしまったことが心苦しくて、一之倉は自分で引いた境界線を越え松本の正面に膝を抱えてしゃがみ込んだ。
「違うそうじゃないんだ……
………
じゃあ何だよ。そう言ってしまえば喧嘩になりそうで、松本は口をつぐんだまま一之倉を瞳で捉えた。
「松本にくっつかれると、ドキドキして、緊張して、息がうまくできなくなって、苦しいんだ……
言い終えると抱えた膝に顔を埋めた一之倉。隠しきれていない耳と首までも赤く染まっている。
「一之倉」
そっと伸ばした長い腕で一之倉を捕らえた。
「なオレの話、聞いてた!?」
「離せよ」ともがく一之倉をさらに強い力で抱きしめる。
「そんなかわいいこと言われて誰が離すかよ」
かわいいとか言うなと怒るだろうとわかってはいたがかわいいものは仕方がない。それに、自分で引いた境界線を越えてきたのは一之倉なのだから。