roku
2026-01-16 15:39:26
1315文字
Public 松イチワンドロライ
 

第34回『話題』


「何してんの?」
「うおっ!」
ソファに座り難しい顔でスマホをいじっている松本の後ろから、ひょこっと覗き込んで声をかけた。慌てて画面を隠した松本を見て胸のあたりがざわざわした。
そんなにあからさまに隠すなんて。もしかして浮気?いや、松本に限ってそんなことあるわけないよな
「やらしい動画でも見てた?」
いつも通りを装うけれど、松本にはなぜかバレてしまった。
「もしかして疑ってるか?」
「え?」
「すまん!別にやましいことは何もないぞ!ほら!」
松本は一之倉の誤解をすぐさま解こうとスマホの画面を向けた。そこには《盛り上がる会話のネタ10選》と書かれたページが表示されていた。
……何これ。今さらこんなの必要?」
どうやら一之倉は松本が自分との話題を探しているのだと思った。
「え?あ〜違うんだ。聡とは何でも話題になるし、もし沈黙が続いても居心地悪いとかはねぇし」
それなら誰との話題探しだよ。
自分とは必要ないだろうと言いながら、知らない誰かとの話題を求めている松本に苛立ちを覚え「あっそ」と冷たく言い放ち、リビングから去ろうとした。
「聡!」
パシッと掴まれた手首。鋭く刺さる視線。逃げ切ることができないと悟った一之倉は松本の隣に腰を下ろした。
「最近異動してきた若手がいるんだが、そいつ元々オレの同期の下にいたやつなんだ」
「うん」
「何かあるとそっちに相談してるみたいで、こないだ同期から、「あいつ、お前が怖くて毎日ミスしたらどうしようって胃が痛いそうだ」って言われちまった」
困ったように眉を下げる松本に「ふふっ。わかる」と笑う一之倉の相槌。
「あ?」
「ほら、そういうとこ。オレらは高校の頃からの付き合いだしオレはパートナーだから全然平気だけど、そうじゃない人にしたら聞き返す時とか圧かけられてる気がする。あと、黙ってる稔って本当に怖いから」
くすくすと口元に手を添え目を細めている。
今の今まで知らない誰かとの話題を求めている松本に怒っていたはずなのに、その内容に知らない若手くんを哀れに思い始めた。
「まぁそういう事情なら上司として努力はしないとな」
パンと肩を叩き頑張れと励ましの言葉を投げる。
そんな一之倉はコミュ強ではないが、それなりの距離感で人と付き合うのがうまい。
「聡はオレがそいつと仲良くなってもいいのか?」
突然の論点のズレた質問に一之倉は驚きで目を瞬かせた。
「待って。ちょっとよくわかんない」
「オレは一之倉が他のやつと仲良くしてるのは見たくねぇし、話を聞くのもいやだぞ」
「はははっ!オレすごい愛されてんだけど」
「当たり前だろ!」
「まぁ嫌じゃないと言えば嘘になるけど仕事でしょ」
正論を述べる一之倉に「そうだけどよ」と唇を尖らせる姿はいくつになっても子どもみたいだ。
「仕事に支障をきたさないように話題調べてたんだろ?」
「それもそうだけどよ
「はいはい、わかった」
一之倉は松本の上に跨って、尖らせたままの唇に柔く噛み付けば、「ひとまずその話は置いておいて、ベッド行こっか」と誘いをかける。すると松本は「ここじゃダメか?」と上目遣いで見上げ一之倉の腰を抱き寄せた。