高校を卒業して別々の道を歩んで、会うこともないまま数年が経ったある日。人で溢れる街なかで偶然再会したふたりは、挨拶を交わすだけで終えてしまうのは勿体ないと、食事に行く流れになった。とおの昔に二十歳を越えたふたりの食事の場所は定食屋ではなく居酒屋だった。
「まさかふたりで酒を飲む日がくるなんてね」
頬をほんのり染めながらふわふわした雰囲気で笑う一之倉に「オレは嬉しいぞ」と相変わらずストレートな松本は顔色ひとつ変わっていない。昔話もさることながら、今ここに至るまでに歩いてきた別々の道での話もたくさんした。終電の時間が近づき店を出て駅へと向かう。どちらからともなく自然と繋がれた手が、言葉はなくとも同じ気持ちであることを伝えていた。
それからというもの、ふたりは休みの度に同じ時間を過ごすようになった。
「ねぇ、次の休みさ、ドライブしない?」
「……ドライブ?」
「うん。いつも電車だし、車だとまた違った場所に行けるでしょ?レンタカー借りてさ」
「……お、おう。そう、だな…」
松本の返事がどこかぎこちなかったが気にするほどのことではなかったので行き先を決めるべく、一之倉はスマホを開いた。
「こことかどう?」
「……いいんじゃねぇか」
「だよね。ここから車で1時間ぐらい。途中の道の駅で休憩とかしてさ」
松本は嬉しそうにプランを練る一之倉を前に、そうだなと相槌を打つだけだった。そして大まかなドライブデートのプランが出来上がり、楽しみだとソファに寝転んだ一之倉は瞳を糸のように細めて「運転する松本とか想像するだけでカッコいいな」と呟いた。
「そ、そうか?」
「うん」
「一之倉は運転、しねぇのか?」
「普段車通勤だから松本に運転してほしいな」
「………そうか」
返事とともに心の中で小さな溜息を漏らす。大好きな恋人のお願いは聞いてやりたい。だけどできないのだ。それを伝えられないのはあまりにも一之倉が幸せそうに頬を綻ばせているから。
「松本?」
「……ん?ああ、どうした?」
「レンタカーなんだけどさ、」
「一之倉!!!」
「わぁっ!びっくりするじゃん!そんな大きな声出さなくても聞こえるって。何?」
「すまん!!!本当にすまん!!!」
松本は正座し床に両手をついて一之倉に頭を下げた。
「え?ちょっと、何してんの!?」
「その…オレさ、運転、できねぇんだ」
「……へ?もしかしてペーパー?」
「というより免許がなくて……」
床に手をついたまま上げた顔は普段の凛々しさとは程遠く頼りなく眉を下げ、今にも泣き出しそうでどこかのスーパーエースを思い出させた。
「嘘!?」
「本当なんだ」
「オレのほうこそごめん!てっきり当たり前に持ってるもんだと…」
一之倉は就職こそ関東でしたが、実家は車がなくてはとても身動きが取れないほどの田舎なので高校を卒業してすぐに免許を取った。対する松本は大学も就職も実家も交通の便のとても良いところだった。それゆえ免許が必要だと思ったことはなく取るタイミングがなかったとのことだった。
「いいんだ。普通は持ってるだろ。ダチも同僚もみんな持ってる」
「そっか。じゃあさ、オレが運転するから松本助手席な」
「え?いや、車通勤だから運転嫌なんじゃ…」
「ん?運転は好きだよ」
「そうなのか?」
「うん。でも松本が運転してる姿見たいなって思ったからさ」
「本当にすまん…」
「そんな謝るなよ。ドライブは決定だからな」
「お、おう」
そして次の週末、ふたりで計画した通りドライブデートをしたが、運転している姿が見たいと言われたことよりも、一之倉の運転が走り屋さながらで、命がいくつあっても足りないと思った松本は免許を取りに行くことを決めたのだった。
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