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roku
2026-01-16 15:31:21
1653文字
Public
松イチワンドロライ
第32回『変化』『とまどい』
最近何かがおかしい。
談話室で深津とふざけ合っている一之倉を見ると、オレとはそんなことしねぇのに。とモヤモヤする。
クラスの女子が「一之倉くんてさ〜」と名前を出せば、胸のあたりがざわざわする。
気づけば沢北が〝イチノさん〟と呼んでいて、オレはいまだに〝一之倉〟なのに。と負けた気になった。
「それは恋だべな」
「な、なっ、こ、こい!?」
「そうだよ。松本はイチノのことが好きなんだね」
「え、いや、ちょっと待ってくれ!」
確かに河田と野辺に相談を持ちかけたのはオレだ。
だが予想外の答えに手をかざして待ったをかける。
「嫌いなんか?」
「いや
…
好きか嫌いかと聞かれたらもちろん好きだ」
「で、松本はイチノが自分以外の誰かと仲がいいのが嫌なんだろ?」
野辺が投げかけてきた問いを噛み砕き、確かにそうだと頷く。だがそれが恋だと言われてもどこかすっきりしない。それはオレが男で一之倉も男だからだろう。
「男同士じゃねぇか」
「んだな」
「それが?」
だから何だと言わんばかりのふたりにとまどいを隠せない。
「早くしねえと深津に食べられちまうべな」
「イチノ、深津と仲良いからな〜」
「まあ、沢北が先かもしんねえがな」
「松本のクラスのあの子かもしれないよ」
「待て!!嫌だ!!どれも全部嫌だ!!」
頭で考えるよりも先に口から出た言葉。勢い余って立ち上がってしまった。呆れたように笑う河田に「ほら、座れや」と促され、はぁと大きく息を吐き出す。
「それを恋っていうんだよ」
「
……
男同士、でもか?」
そういう世界が存在することは知っていた。だけどまさか自分がそうなるなんて思いもしなかった。
「おめは男が好きなんか?」
河田に問われ考える。もしそれが深津なら、沢北なら、河田なら、野辺なら
…
どれも違う。こんな気持ちにはならない。一之倉だから、対象が一之倉だから嫌なんだ。誰にも渡したくない。自分だけを見てほしい。それは初めて感じた独占欲。
「オレは一之倉のことが好きなのか?」
「だから言ってるじゃん」
「んだべ」
「これってさ、伝えてもいいと思うか?」
気づいて認めてしまえば口にしてしまいたい。だがそんなことをすれば一之倉との関係が壊れかねない。客観的な意見が聞きたかった。
「それは
…
」
「
……
どうだろうね」
「はぁ〜
……
だよなぁ。伝えたオレは満足できるかもしんねぇけど、男に好きだって言われた一之倉はそうもいかねぇよな
…
」
それならば今まで通りでいるしかない。
―
松本はすぐ顔にでるよね
―
いつか一之倉はそう言っていた。
ちゃんと仲間を演じられるだろうか
…
。もう一度大きなため息を吐き出し頭を抱えた。
「
………
それ、どういうこと?」
今までここにいなかったはずの人物の声が突然降ってきてガバッと顔を上げた。
「い、い、一之倉!?」
「ねぇ、どういうこと?」
しゃがんだ一之倉が床に手をつきオレの前に迫ってくる。近づく距離に比例して心臓がシャトルランの後みたいに激しく脈を打つ。
「あ、えっと
……
」
「うん」
「一之倉のことが好きだ!!」
殴られるかもしれない。もう口もきいてくれなくなるかもしれない。そんなことよりも今目の前にいる一之倉を抱きしめたいという衝動を抑えられず気づけば腕の中に閉じ込めていた。
「
……
オレも」
「
……
え?」
「オレも好きだよ。松本のこと」
一之倉の言葉を理解するのにすごく時間がかかったのは想定外すぎたから。
「
……………
」
「聞いてる?」
身体を離した一之倉が小首を傾げて覗き込んでくる。
「お、おう
…
」
「ふはっ、両思いなのに何その反応」
「いや、その、まさか、同じだとは思ってなくて、だな
…
」
「言っとくけどオレはお前よりもずっと前から好きなんだからな」
そう言って薄い唇をきゅっと結んだ。
「
………
そう、だったのか?」
「うん」と首を縦に振った一之倉の切れ長の瞳はほんの少し潤んで見えた。
「待たせて悪かった」
もう一度抱きしめれば体温の高い手が背中に触れた。
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