roku
2026-01-16 15:21:04
622文字
Public 松イチワンドロライ
 

第30回『あくび』『離して』


我慢の男と言われている一之倉も晴れた日の昼休み後の授業には敵わないようで、心なしか顔を窓の外へと向け、切れ長の目をきゅっと閉じ、頬杖の下で大きく口を開けた。今にも「ふわぁ〜」と聞こえそうなその姿がとてもかわいくて、つい授業そっちのけで見つめてしまう。あまりにも見ていたせいか、それともただの偶然か、一之倉が松本を振り返る。バチッと合わさる視線にふっと笑みを返せば、恥ずかしそうに顔を逸らした。

「見た?」
「何をだ?」
「見てないならいい」
「あくび?」
「見てんじゃん!」
額を押さえた一之倉は大きく息を吐き出し「もう最悪」と沈んでいる。
「オレはかわいい一之倉を見られて嬉しいぞ?」
松本がストレートに気持ちを表現すれば「ば、ばかっ!」と紅潮していく顔。両手で覆っているものの、隠しきれない耳もほんのり赤く染まっている。
「なぁ、ふたりになれるところへ移動しねぇか?」
やだ」
……そうか。なら今ここで抱きしめてもいいか?」
「はぁ!?」
顔を覆っていた手を机にバンッとつけて立ち上がり座ったままの松本を見下ろし「何考えてんだよ!」と言い放つ。松本はその目で一之倉を捉えたまま、机の上に置かれた手に自分の手を重ねた。
……離して」
「それはできない」
「何でだよ
目尻を下げると同時に上がる口角。手の甲なぞれば一之倉に緊張が走るのが感じ取れた。
怒られることを覚悟でもう一度告げる。
「一之倉がかわいいから」と。