「レッドホットぉ! 殺す気で殴れ!」
折れた腕を抱えて膝をつき、脂汗を垂れ流したまま叫ぶ。
――分が悪い。あまりにも。
長引けば不利になることは、最初からわかっていた。ダンシング・グリーン戦で見せた、底なしのスタミナだ。
だから、二人で立てた作戦は『速攻』だった。
小手調べに数発殴ったらすぐに乱入。タッグ技を解析させる隙を与えず、立て続けにぶち込んで倒す。
だが、初撃はあっさりとかわされた。そこから、泥沼になるのはあっという間だった。
こちらも伊達にタッグマッチで鳴らしているわけではない。一対多数の闘いは、誰かが注意をひきつけ拘束し、死角から攻撃をするのが定石だ。
派手な水球。目眩しの蒸気。背後からの渾身の一撃。
だが、コイツにはそれが通用しない。背中に目でもついてんのかと疑うほどだ。
その上、こちらのスタミナが切れてきたとわかるや、ひょいと軽く、まるでその辺の枝を折るかのように、オレの腕を折りやがった。もちろん、反則だ。
そこで、ようやく気づく。
――コイツは、『本物』なのか。
トラル出身のシャトナ族に聞いたことがある。戦場帰りの男の話を。
裏路地のチンピラ同士の殴り合いなどとは格が違う、あたりまえに殺し、殺される世界。ルールなどない無法地帯。コイツが、そういう世界から来たのなら、何もかもが納得できる。
……っつーか、なんでそんなヤツが、興行のリングに立ってんだよ!
闘技場の熱気は今や最高潮。会場を揺るがす大波のような声援は、もちろん、ベビーフェイスのものだ。
ジムを襲撃し、挑戦者の持つ唯一の命を狙うヒールに対する慈悲などない。
レッドホットの炎を纏う太い腕が唸りをあげ、挑戦者の腹をえぐる。だが、挑戦者は、妙に軽くポーンと後方へ吹き飛び、ふんわりと受け身を取っただけで立ち上がった。
……クソッ。頑丈すぎんだろ。
「
……今のは、ちょっと痛かったな」
あの勢いなら、内臓ごと胃液が逆流してもおかしくないはずだが、挑戦者は軽く口元を拭っただけだ。
息が上がり、食い縛る歯の間から熱気を吐くレッドホットと、なんとか立ち上がったオレを交互に眺めて、ふわりと笑う。
「でも、そっか。
殺す気で、ね」
挑戦者が、とんとん、と指で自分のこめかみのあたりを叩いた。
「ね。
……魂のストックはあといくつ?」
その質問の意味を理解するよりも先に、
――世界が、暗転した。
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