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roku
2026-01-16 11:09:05
1288文字
Public
松イチワンドロライ
第25回『温泉』
「温泉といえば?」
談話室から戻ってきた一之倉が唐突に投げかけた質問。一之倉の意図がわからないながらも、数秒の間をおいて松本が導き出した答えはまさに真面目な彼らしいものだった。
「草津、有馬、下呂」
「うん。天下の三名泉だね」
松本らしいや。とベッドにダイブする。
「それがどうした?」
「ん?さっき同じ質問をみんなにしたんだ。野辺は別府、河田は道後だった」
一之倉の質問に対しての回答としては妥当なところだろうと、松本は思う。
「さてここで問題です。深津は何と答えたでしょう?」
「あ?」
「正解したらオレからのキスね」
「なっ!」
ベッドに座る松本の痩けた頬が軽く色づき、うつ伏せのまま両手で頬杖をついている一之倉の口角がゆるりと上がる。
「ほら早く!」
松本は顎に手をあて、「うーん
…
温泉、温泉なぁ
……
」と選択肢の多さに頭を悩ませている。
「ヒントいる?」
「くれるのか?」
「キスしてくれたらいいよ」
一之倉はくるりと仰向けになり手を枕にして寝転んだ。ベッドに上がった松本は覆いかぶさるようにして一之倉の顔の横に手をつき、そのまま唇を重ね合わせた。大胆な行動に伴ってその瞳の奥にギラリと雄の色を滲ませる。
「ふふっ。じゃあヒント。その温泉は県内です」
「あ」
「わかった?」
「おう。乳頭温泉郷だろ」
「正解」
一之倉は覆いかぶさったままの松本の両頬を挟んで引き寄せ、約束通り松本にキスをする。頬に触れている手のひらから松本の熱が伝わってくすぐったい気持ちになる。
「ヒントのおかげで簡単だった、な
…
」
ようやく松本は一之倉の意図に気づいた。
「気づいた?」
一之倉と仲間たちが松本不在の談話室で温泉の話をしたのは紛れもない事実だったが、最終的には深津の下らない話で終わっていた。
そしてそれとは関係なく一之倉はいつだって同じ部屋にいて何もしてこない松本に業を煮やしていた。だけど「キスがしたい」とストレートに言えば「破廉恥だ!」などと言われかねない。だからこの談話室での話を持ちかけ、そこへたどり着く半ば強引ともいえる方法を導き出したのだ。
「こんなまわりくどいことしなくたってキスぐらいしてやるのに」
そう。松本の言う通り一之倉はただ松本とキスがしたかっただけなのだ。
「よく言うよ。今までずっと松本からは何もしてくれなかったくせに」
「それはだな
…
その、まぁ、あれだ
……
」
「
……
なんだよ?」
視線を泳がせながら口ごもる松本を細めた目で捉えている。
「止められなくなりそうで
……
」
一之倉は松本の背中へと腕を回し「言わないし、止めなくていいよ」と耳元で囁いた。それを聞いた松本は勢いよく一之倉を抱きしめて首筋を甘く噛む。
「
……
っ!ちょっと、松本!?」
「今さら嫌だって言っても無理だぞ!」
チュッというリップ音を立てて何度もキスを繰り返しながら少しずつ深くなる口づけに、一之倉の瞳がとろんと熱を帯びる。
「
……
んっ
……
ねぇ、もっとしよ?」
「どうなっても知らねぇからな!」
甘い誘いに乗った松本は部屋の鍵を閉め、もう一度一之倉を押し倒したのだった。
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