roku
2026-01-16 11:07:07
1220文字
Public 松イチワンドロライ
 

第24回『雪』『ひとりじめ』

大人軸/同棲中/イチノは喫煙者

「あ、雪」
ベランダで煙草をふかしていた一之倉のもとに静かに舞い落ちてきた雪。差し出した手にふわりと乗った花弁雪はそっと溶けて手のひらを濡らす。
窓を少しだけ開けて松本を呼ぶ。
「どうした?」
「雪、降ってきたから」
「お、珍しいな。でもこれだと積もんねぇな」
「積もらなくていいよ」
「だな」
顔を合わせて笑い合ったふたりは同じ思い出を辿る。

◇◇◇

高校一年の冬。
やたら窓の外が明るい気がしてカーテンを開けた松本の目に飛び込んできたのは一面の銀世界。雪の降らない地域で生まれ育った松本からすればそれはテレビでしか見たことがない光景だった。
「あー結構積もってんね」
同室の一之倉が松本の隣で窓の外を眺めて「雪かきだな」と呟いた。
初めての雪かきにテンションを上げた松本に、「そんなこと言ってられるのも今のうちだからな」呆れたように吐き捨てた一之倉は、毎年やってくるこの行事が本当に嫌いだった。
「一之倉は楽しくないのか?」
松本は整った顔をへにゃりと崩し、その目をきらきらさせて一之倉に問いかけた。
「終わっても同じこと聞けたらキスしてやるよ」
一之倉の笑えない冗談に戸惑いながら松本はその背中を追って食堂へ向かったのだ。
その後雪かきという最上級の重労働にくたくたになった松本は「一之倉!すまなかった!!」と頭を下げ、それに対して一之倉は「あーあ。キスできなくて残念だったな」と笑った。

◇◇◇

「あの時ぶん殴ってやろうかと思ったんだよな」
「おい、物騒だな」
「雪のない都会でぬくぬくと暮らしやがって!って」
「ははっ!都会じゃねぇけど雪はほとんど降らなかったから本当に嬉しかったんだよ」
その一年後、沢北が松本と全く同じテンションではしゃいでいた。
「沢北ってば終わったあと泣いてたよね」
「涙と鼻水が半分凍ってたな」
色濃く残ってる思い出にふたりして笑いがこぼれた。
「そういえば雪合戦もしたよな。あれも初めてだった」
「深津があまりにも本気の作戦立てるからみんな必死だった」
「楽しかったよな」
……今は楽しくない?」
「楽しいに決まってんだろ!あの頃はみんなの一之倉だったけど、今はオレの聡だからな」
そう言った松本はソファに置いてある大きめのブランケットを手に取りベランダへ出た。それを自分の背に掛け一之倉を後ろから包み込むように抱きしめた。
冷え切っていたはずの一之倉の身体がみるみる熱を帯びていく。
「そういう恥ずかしいことさらっと言うなよ!」
「照れてる顔もひとりじめだな」
一之倉の頬に手を添え後ろを向かせた松本は、その薄い唇にチュッと口づけフッと笑う。
「何だよ?」
「いや、煙草の味がするキスもオレだけのものだなと思ってな」
「オレだって稔のことひとりじめさせろよ」
そんな風にいいながら、もうすでにそうなっていることをわかっている一之倉は身体をくるりと向かい合わせて松本に抱きついた。