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roku
2026-01-16 11:02:33
1138文字
Public
松イチワンドロライ
第5回『眼鏡』
・40代半ばのふたりの話
一之倉には最近気になることがある。
今、キッチンで夕飯の片付けをしている一之倉の視線の先にいるのは、ソファで仕事の書類を確認している松本。そして気になることというのは、松本と、その書類の距離だ。
「稔」
「どうした?」
書類から目を離し、一之倉の方へと顔を向ける。
「書類との距離遠くない?」
「?」
一之倉の言わんとしてることが伝わっていないのか、頭の上にはてなが浮かんでいる。
「あ、オレの気のせい。ごめん、仕事の邪魔した」
「いや、構わない」
「コーヒーでいい?」
「おう」
再び書類に視線を戻した松本と書類の距離は、やっぱり少し遠い気がした。
◇
また別の日。
一之倉がネットで買い物をしようと松本に相談したときのこと。
「これどう?」
スマホを差し出せば、受け取った松本はほんの少しスマホを遠ざけ画面を確認した。
「おぉ、いいんじゃねぇか」
「うん。じゃあこれにするね。で、稔さ、ちょっと前から気になってたんだけど
…
」
珍しく言いにくそうに切り出した一之倉に、「どうした?」と促す松本。
「
……
老が「言うな!!」
一之倉の言葉を、大きな声で思い切り遮り断じてそんなことはない!と付け加える。
「自覚あるんだ」
「
…………
」
「オレらももう若くないからね」
そんなセリフに観念した松本は「だけど聡は大丈夫じゃねぇか」と不貞腐れたように唇をムッとさせている。
確かに一之倉はまだ本やスマホの文字が見にくい、という症状はなかったが、それは普段の仕事の違いだろうと考えられた。
「それは仕事の内容の差でしょ。オレあんまりパソコン使わないからね」
「
……
そうかもしれねぇが
…
」
松本は、同い年であるのにここに来て出てきた差に納得がいかない様子だった。
「渋ってないで眼鏡買いに行こうよ」
「他人事だと思って
……
」
「あと、オレ、稔の眼鏡姿見てみたい」
隣に座る松本を覗き込むように少し上目遣いで見上げた一之倉。いくつになっても可愛らしさを失わないパートナーに、年甲斐もなくドキリとしてしまう。
「
……
聡は老けねぇな」
「ふ、ふはっ!なにそれ!それなりに歳いってるよー」
「どこがだよ。今だってこんなに可愛い」
後頭部を引き寄せ唇を合わせた。ちゅっ、ちゅっとわざとらしく音を鳴らせばとろんと下がる目元。
そのまま肩を押せば軽く倒れた身体。
「ほら。体幹も全然なくなった。今までだったら押し倒されなかったのに」
「まぁ、言われてみればそうかもな」
一緒に歳を重ねていることを感じとった松本は、「眼鏡選んでくれるか?」と訊ねる。
「もちろんだよ。とびきりオシャレなやつ選んであげるね」
仰向けのまま松本を引き寄せキスをした一之倉の目尻にはほんのりと皺が刻まれていた。
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