roku
2026-01-16 10:37:27
2007文字
Public 松イチワンドロライ
 

第20回『メロメロ』

⚠モブ子視点/大学生軸
一之倉はほとんど出てきません

今、私の隣に座る背筋の伸びた男前は、私の腐れ縁である三井寿の友達の松本。松本はその男前さ故に、第一印象はとても取っつきにくい感じだったし、三井の友達じゃなければ話すこともなかったと思う。そんな松本が、最近見るからに変わった。どう変わったかというと、雰囲気がとても柔らかくなったのだ。
そう、まるで誰かに恋をしているみたい。
「ねぇ松本」
左手で頬杖をついて、右手でペンをくるくる回しながら覗き込むように松本を見やる。
真っ直ぐ前を見つめ講義に集中していたであろう松本が眉間に皺を刻み視線を寄越す。
「あ?」
相変わらずガラが悪い。
「彼女、できた?」
松本にしか聞こえない小さな声でそう問いかければ、次は顔ごとこちらに向けてきた。声こそ出ていないものの、その瞳は「なぜ知っているんだ!?」と大きく問いを返してきた。
「やっぱり」
「誰にも言ってないが
「そうなんだ」
「なぜわかった?」
「ん?雰囲気がね、変わった。いつから付き合ってるの?どんな人?」
他人の恋愛事情にさほど興味はないが、松本の雰囲気をここまで変えてしまった人物に興味が湧いた。だけどきっと松本は答えてくれないだろうな。
「教えろよ、減るもんじゃねーし」
「あ?何でお前に教えなきゃなんねぇんだよ!」
今までの三井とのやり取りを思い出し、そんな風に思った。のも束の間、隣席の彼は静かに口を開いた。
「付き合いは夏休みから」
………へ?」
まさか答えてくれるなんて思わず変な声が漏れた。
「でもずっと好きだった」
“人と話す時は目を見て”
そんな幼い頃に教えられた当たり前のことを忠実に守った松本が双眸で私を捉え紡いだ言葉。
ふんわりと緩んだ口もと。
柔らかく下がる目尻。
ドキッ――
心臓が口から出そうになった。
いや、違う違う!ずっと好きだったのは“彼女”のことだから!!
危うく勘違いしそうになるほど優しい雰囲気を纏う松本は、もう私の知る松本ではない。
「あ、え、えっと、じゃ、ど、同級生?」
バクバクする心臓に手を当て浅い呼吸を繰り返す。私の異変など意に介さず「おう」と頷く松本。その頬は心なしか赤い気がする。
私は目を閉じて息を大きく吐いて気持ちを落ち着かせた。そして、「どんな人?」ともう一度問いかけた。
「可愛い」
「顔?」
「顔も可愛いが、発言や仕草も可愛いぞ。あと、これは本人に言ったら怒られるから言わないが、サイズ感」
…………
あまりに流暢に答えてくれる松本に言葉を失ってしまう。
「抱きしめた時にすっぽり収まる」
……そっか」
松本のサイズなら大抵どんな子だってすっぽり収まるのでは?と思ったけれど、それは言わなかった。
「でも可愛いだけじゃなくてカッコイイ」
「そ、そうなんだ」
訊ねたのは私の方なのに徐々に押されているのをひしひしと感じる。
「例えばみんなが逃げ出すような辛いことでも最後まで耐えれる我慢強さとかあと、」
「待って!!」
どんどん出てくる惚気に耐えきれず松本を抑制しようと講義中であることも忘れ、立ち上がって声を上げてしまった。みんなの視線を一気に受け、両手で口を塞ぐ。「静かに」と感情の乗らない先生にすみませんと頭を下げて腰を下ろした。
「どうした?」
「松本のせいでしょ!」
小声で怒りをぶつけるも、本人はどこ吹く風だ。
「それでイチノの話の続きだが」
「もういい!わかった!松本がそのイチノ、ちゃん?のことを凄く好きなことが伝わったからもういい!!」
凛々しく男前な松本が、相手にぞっこんでしまりがなくなっている姿に、見ているこっちが恥ずかしくなる。そんな私をよそに、「まだまだあるんだが」と聞いてくれといわんばかりに覗き込んできた。
「とりあえず今日はもうお腹いっぱいだからまた今度!ねっ!ほら前向いて!!」
なぜ第三者の私の体温が上がってるのか……
手をぱたぱたさせて顔を扇げば、眉を下げた松本が「残念だ」と溢した。



「松本!」
「待ったか?」
講義を終えた松本に表門で声をかけたのは、切れ長の瞳に下がった眉が印象的な男子だった。松本の隣に並ぶと小さい感じだけれど、私よりも随分と大きい。平均男性ぐらいだろうか。
「ううん。今来たとこ」
「よかった」
待たせてなかったことにほっとした松本を見て、私の直感が告げた。この人が“イチノちゃん”であると。
「彼女は?」
「友達」
「そ」
松本と共に校舎から出てきた私に向けられた彼の瞳は冷たく、牽制しているように見えた。
「わ、私もう行くね!じゃあ!イチノくんも、さよなら!」
私は逃げるようにその場を去った。

少し先でふと足を止め振り返れば、遠く離れていてもわかるほど、ふたりを包んでいる空気がそこだけ幸せで溢れていた。

どっちもメロメロってことね。
羨ましい。
あー。どこかにいい男落ちてないかなー。