roku
2026-01-16 10:24:45
1247文字
Public 松イチワンドロライ
 

第6回『カフェ』

・松イチ未満が松イチになる話

先日行われたOB会で、一之倉がモーニングにハマっていることを知った。
「休みの日にわざわざ早く起きるのか?」と松本が尋ねれば、眉をピクッとさせて「悪い?」とドスの効いた声が飛んできた。
松本にとって休日は、仕事から解放されるゆっくりできる日とあって、朝ご飯を食べるために早く起き、外へ出るなど考えたこともなかった。そんな松本の休日といえば、目覚めた時にはお天道様が高く上がっていることが多い。
「え?じゃあ朝は?」
「食べないな。何なら面倒だし昼も食べねぇときもある」
……不健康すぎる。今度誘うから来てよ」
松本の身体を心配した一之倉がそう言うと、「……わかった」と頷いた。



言葉通り一之倉から次の休みにモーニングに行こうと連絡があった。学生の頃は寮生活ということもあり規則正しく過ごしていたのに、気がつけば堕落した生活を送っている松本だったが、一之倉の誘いということもあり随分早く目が覚めた。
これじゃ、楽しみにしてるみたいじゃねぇか。
まぁ、実際違わねぇけど。

「おはよう。待った?」
「今来たところだ」
「ふーん」
「何だよ?」
「ちゃんと起きれたんだなって」
松本を覗き込んでフッと表情を緩めて笑う一之倉に、思わずドキッとして目を逸らした。
「こっちだよ」
一之倉に連れられてやってきたのは住宅街にあるカフェ―――と呼んでいいのか、小さな看板は出ているが一見すると普通の家だった。こういう穴場を知っているのはオシャレな一之倉らしいと思った。
モーニングのメニューは1種類でトーストとコーヒーにサラダが付いていた。久しぶりに食べるきちんとした朝食が身体に染みた。
「どうしたの?」
「朝飯ってこんなに旨かったかなって」
「ふっ、何それ。まぁ美味しいならよかった」
「一之倉と一緒だからかもな」
げほっ!!」
松本の予想外の発言に、口にしたコーヒーを危うく吐き出しそうになって、何とか堪えた。
「大丈夫か!?」
けほ、けほっだいじょーぶ。急にそういうのやめて」
松本は頭の上にはてなを浮かべながらも「ああぁすまん」ととりあえず謝った。

それから休みが重なる日はふたりでモーニングに行くようになった。



「それにしても一之倉は色んな店知ってるな」
「松本に喜んでほしいから調べてる」
なんてこと無いように言った一之倉に松本の時間が止まる。
「松本?」
「あ、いやそれは嬉しいが……勘違いしちまうから――「してよ」
松本の言葉を遮った一之倉。その瞳は冗談を言っているようには見えない。コーヒーカップをソーサーの上にそっと戻せばその手に一之倉の手がふわりと重なる。
「してよ。勘違い」
双眸が松本を捉えて離さない。
「いいのか?」
「うん」
「なら、一之倉の行きつけのカフェに連れてってほしい」
一之倉のことだから行きつけがあるはずだと確信している顔で笑う。
……わかった。今度ね」
上がっていく心拍数に気づかれないように、静かに目を伏せた。