hisashiNKI
2024-12-30 11:34:52
4419文字
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浮かれクリスマスと酔っ払いとプロポーズなジョシュクラ(現パロ)

まだクリスマスやってました。
現パロでタイトルの通りです。
二人は18年前に父上死んでから離れ離れでした。

 
予約していたチキンを近所の肉屋に取りに行った帰り、今日は違う道を歩こうと裏通りに入った。
 この辺りは歴史のある古くからの街だが、大通りの方は整備されて新しい建物が多い。煌びやかなイルミネーションに彩られた賑やかな大通りと比べて、静かな細い路地は人影も殆どなく、時が止まったかのようだった。朝から粉雪がちらちら降っていて、石畳はうっすら濡れて住宅の戸口に飾られたささやかなライトの光を反射している。
 引っ越して来てから二人とも常に忙しなくしていたため、一緒に近所を散策するのは今日が初めてだった。そもそも、クリスマスを共に過ごすのも十八年ぶりだった。気になった店には都度足を止めて入り、木彫りの鳥の置物とか、北方デザインの揃いのマグとか、毛糸のパンツとか、古い携帯ゲーム機だとか、後になったらガラクタになるようなものを両手いっぱい買い込み、当初の目的のチキンを受け取る時には、「あんたらがサンタの正体かい」と店主のおじさんに笑われてしまった。
 荷物を抱え直しながらゆっくり歩いていると、古いアパートとアパートの間に小さなお菓子屋さんがあるのを見つけた。明かり取りの窓から中を覗いてみると、こじんまりとした店内には色とりどりにデコレーションされたケーキやクッキー、チョコレートが並んでいる。親子連れが楽しそうにショーケースを眺めていた。
「久しぶりにケーキも買うか」
 隣に目を向けると、苦笑した顔があった。
「この状態で、繊細なもの持てる?」
 ジョシュアは両手いっぱいに下げた袋をちょっと持ち上げて見せた。
「頑張れば、いける」
「よし、じゃあ買っちゃお。外で待ってるから、兄さんが好きなの選んで」
 自分の荷物をジョシュアの足元に置き、扉を開けた。
 可愛らしい装飾がされたお菓子屋に、自分はかなり場違いなのではないかと少し恥ずかしくなったが、すぐ風邪を引くジョシュアを寒い中長く待たせる訳にもいかないので、ホールケーキが並んだショーケースの方に真っ直ぐ足を向けた。
 もうほとんど売り切れてしまっていて、小さなサンタとトナカイが乗ったチョコレートのケーキと、シンプルなイチゴのショートケーキしかなかった。どちらも子供の頃食べたような素朴な雰囲気で、口元にクリームをつけながら口いっぱいにケーキを頬張る幼い弟の姿が頭に浮かび、頬が緩んだ。
「僕ね、チョコレートにしたよ」
 どちらにするか考えていると、いつの間にか毛糸の帽子を被った小さな男の子が隣にいて、満面の笑顔でこちらを見上げていた。
「そうか、いいな。じゃあこっちにしようかな」
 イチゴのショートケーキの方を包んでもらうことにした。
「イチゴはね、弟と喧嘩になっちゃうからやめたの。僕の誕生日だったのに、弟ってば、イチゴ二個も食べたんだよ!」
「はは、俺も弟に食べられたことがあるよ。お互い苦労するな」
 男の子はやれやれというように肩をすくめた。大人びた仕草に思わず吹き出してしまう。ケーキの箱を受け取って、男の子にじゃあ、と挨拶してから外に出た。
「あれ、大きいの買ったの」
 寒さで鼻先が真っ赤になったジョシュアが、俺の手元を見て笑った。どうにかケーキを崩さないように荷物を持てないか試行錯誤していると、さっきの男の子が出て来た。
「弟に気をつけてね、バイバイ!」
 男の子はこちらに向かって大きく手を振って、母親に手を引かれスキップしながら去っていった。
「なんの話?」
「兄同士の秘密の話だ」
 ジョシュアは首を傾げた。

 I

 朝から降っていた雪は、日が落ちる頃にはぼたん雪になり窓の外は真っ白になっていた。
 テーブルにご馳走と酒を並べ、部屋の照明を少し落とし、レコードをかけて、大量の買い物袋の中からサンタ帽をなんとか掘り当ててかぶった。こんなに浮かれた気分のクリスマスは一体何年ぶりだろうと思った。ジョシュアも赤い帽子を頭に乗せながら同じことを考えていたのか、こちらを見てはにかんだ。
 さあ乾杯しようと言う時に玄関のチャイムが鳴った。ジョシュアが「見てくるよ」と席を立ち、手に木箱を抱えてすぐ戻ってきた。
「配達だったよ。誰からだろう……あ、バイロン叔父さんからだ!」
 箱に付いた宛名書きを見て、ジョシュアは子供のように目を輝かせた。急いで蓋を開けると、中にはワインが二本と、メッセージカードが入っていた。

 "33歳と28歳、
 お前たちと同じ年に生まれたワインだ。
 18年ぶりの再会を祝して。最愛の甥っ子たちへ"

 十五の頃に父が死に、ジョシュアと離れ、大学に入るまではバイロン叔父さんのところで暮らした。
 貿易商をしている叔父さんは普段家にいないことも多かったが、それでも毎年クリスマスには必ず帰国して、一緒に過ごしてくれた。叔父さんの話してくれる外国のヘンテコな物語を聞いていると、父さんとジョシュアのいない寂しさも薄れて夜もぐっすり眠れた。
「来年は叔父さんも一緒に」
「うん、そうだね」
 ジョシュアはメッセージカードを愛おしそうに眺めながら、俺の肩に頭を寄せた。
 
I
 
「兄さん、いつ脱いだの!」
 腰に回されていたはずのジョシュアの手が下がってきて、尻をぎゅうと鷲掴みにされた。何がそんなにおかしいのか、ジョシュアは目尻に涙を滲ませながら珍しく大声で笑っている。白い歯が剥き出しになっていて、かわいいなあと思った。
「ん、あれ、どこ行ったんだ」
 下を向くと、自分の足にはズボンが無く、黒いボクサーパンツ、脚、緑と赤色の靴下が見えた。
 ジョシュアが踊ろうと言うので、レコードの曲に合わせてでたらめなダンスをして、したくなったらキスをして、叔父さんのワインを飲んだ。
 頭がふわふわして、目に映るものが全てキラキラしていた。特に、ジョシュアの笑顔は太陽みたいに眩しい。
 ジョシュアは笑いが治らないようで、真っ赤な顔で俺の肩に顔を埋めてヒイヒイ言っていた。ちょっと心配になったので背中をさすってやる。
 気に入りのレコードは何巡目だろう。サビの部分に差し掛かる頃、ジョシュアが唇に噛み付いてきたので舌を差し出した。33歳と28歳のワインの味が染みた舌を絡ませあって、そのままふらふらと踊り続けた。たまにジョシュアの手が尻を撫でるので、お返しに股間を握ると「こら」と怒られた。
「あ、ケーキ食べたい」
 唇を離してジョシュアが言った。そういえばまだ手をつけていなかった。
 冷蔵庫から取り出して切り分けようと包丁を探していると、いつの間にかキッチンに入ってきていたジョシュアがケーキをさっと取り上げた。
「おい」
「ねえ、兄さん。僕の長年の夢だった"ホールケーキをそのまま食べる"をしてみない?」
「なんだそれ」
 ジョシュアはニヤリと悪どい笑みを浮かべた。やっぱり俺の弟は宇宙で一番かわいい。イチゴは全部ジョシュアにあげよう。昼間の男の子を裏切ることになるが、きっと彼も分かってくれるだろう。
 用意した取り皿はキッチンに置き去りにし、フォーク2本とケーキだけを持ってソファテーブルに運んだ。だらしなくソファに腰掛け、丸いケーキの両端からフォークを大胆に入れた。ジョシュアの目が細められ、全身から喜びが伝わってきて俺も嬉しくなる。ケーキはとても甘かった。今日はずっと甘い。十八年はとても長くて、もう俺たちはすっかり大人になってしまった。しかし、クリームを口に付けることはなくなったが、こうして弟は隣にいる。
……思ったよりきついかも」
「俺も思ってた」
 三口ほど食べて、もう舌が痺れてきた。普段二人とも甘いものはほとんど食べないので舌にも胃にも刺激が強かった。子供の頃はいくらでも食べられたのに。
「じゃあさ、半分こして、先に食べ終わった方が相手のおねがいを一つ聞くってことにしない?」
 ジョシュアはこちらを見ながらまたニヤリと笑った。
「よし、受けて立とう」
 フォークを握り直した。

 I

 結果は、ジョシュアの勝利だった。タッチの差でジョシュアの方が最後の一欠片を飲み込むのが早かった。
 男の子よ、すまない。だが、弟の喜ぶ顔が見たかったんだ。きっと彼も分かってくれるだろう。
 ジョシュアは口元を押さえながら「もう一生ケーキはいらない」とソファの背もたれに寄りかかりぐったりしていたので、口直しに残しておいたイチゴをあげた。
「それで、なにをすればいいんだ?」
 隣の勝者に問うと、ソファから身を起こして「うーん」と考える仕草をした。
 しばらくジョシュアはうんうんと考え込んでいた。俺は眠くなってきたので、横向きにソファに乗り上げて肘掛けに頭を置き、脚を伸ばしてジョシュアの腿の上に置いた。
「行儀悪い」
 ジョシュアは笑いながら俺のズボンのない脚をぺちぺち叩いた。
「兄さん、寝ないで」
「うん」
 ジョシュアが覆い被さってきて、そのまま上半身をよいしょ、と抱き起こされた。頬にキスが降ってきたのでくすぐったさに声が出た。
「ずっとこれ、どうしようか迷ってたんだけど……
 ジョシュアはスウェットのズボンのポケットを探り、何か小さいものを取り出した。
「兄さん。これが僕のおねがい」
 左手をそっと取られて、薬指に細い銀色のリングが嵌められた。弟の手は震えていた。
「ジョシュア」
「ね、ずっと一緒にいて」
「ジョシュア」
 真正面から見る弟の顔は、眉が下がって、口元はわななき、今にも泣き出しそうだった。十八年前、別れた時と同じ顔だった。俺は慌てて震える体を掻き抱いた。
「いるよ。ずっと一緒にいる。もう一人にしない」
「兄さん」
 ジョシュアの腕も俺の背中に回されて、部屋着のくたくたのパーカーをぎゅうっと掴まれた。
 ふと、ジョシュアの左手が握りしめられていることに気づき、手を取ってそっと開けると、俺の薬指のものと同じ意匠の金色のリングがあった。
「ジョシュア、ありがとう。愛してくれて」
 リングを取って、さっき弟がしてくれたように彼の細い薬指にそうっと嵌めた。部屋中に取り付けたイルミネーションを反射して、きらきら輝く美しい薄青の目からついに涙が溢れ、唇を寄せて拭ってやった。
 お互いの額をくっつけると、同時に笑い声が出た。

 なんて、なんて幸せなクリスマスなのだろう。
 三十三年間で一番のクリスマスだった。
 ご馳走を食べ、踊り明かして、大好きな叔父さんからの贈り物を味わい、ケーキを豪快にいき、抱き締め合って、たくさんのキスと、お互いの熱を分け合って。
 失った十八年は戻って来ないが、もうこれからはずっと一緒だ。来年も再来年も、そのまた次の年も、何十年も、ずっと一緒にこの日を迎えよう。
 死が二人を分つまで。