hisashiNKI
2024-10-25 09:47:40
6257文字
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ジョシュクラのシーツ取り替える女中の話

・ED後、弟は大公、兄は将軍
・自我めちゃくちゃありのモブ女中の一人称、他にも名ありモブ多数出てきたり兄弟の捏造親戚描写とかあります
・あの時代のお城の使用人がどんな感じなのかさっぱりわからないので、めちゃくちゃ適当設定かつ色々不自然かもです(そういう世界と思って読んでくだされば...)
・ボツにするつもりだったので文章が適当だったり途中書いてない部分があります...

 

 長年お世話になったお屋敷にお暇を告げるのは、とても寂しいことだった。
 晩秋の翳った優しい日差しの中、奥様は目に涙を湛えながら私の手をぎゅっと握り、
「どうか体には気をつけて。いつでも帰っていらっしゃい」
 と優しく仰り、餞別にと美しい銀細工の髪飾りを下さった。

 お屋敷への坂道を振り返り振り返り、いつもなら鼻歌を三曲歌えば着く距離を、十ほども歌ってやっとチョコボ留まで辿り着いた。
 手に持った荷物はさほど多くはない。
 これから王都、ロザリスまでの道をゆく。

I

 空が晴れ、月と、無数の星の瞬く美しい夜空が戻って来たあの日、私の小さな妹は人間になった。
 母は妹を愛していた。ベアラーだと発覚してからも、何も変わらず自分の腕の中に抱き続けた。愛しい我が子をいつ取りあげられてしまうかと怯えながら。

 しかし、あの日からそんな恐怖は綺麗さっぱり消えてしまった。
 小さな体を、家の暗がりに押し込めて、布で隠さなくていい。右手と左手、手を繋いで、声を上げながら風に揺れる黄金色の麦畑を駆けられるのだ。
 いったいぜんたい、どうやったのかはさっぱりわからないが、妹を人間にしてくれたのは私の暮らすこの国の王様とそのお兄様らしい。魔法を消し去ってしまったのもこの二人だった。世の中には彼らを大罪人だと呼ぶ人もいる。しかし私と私の家族にとっては神様にも等しい存在だ。
 この、炎の国で生まれ、育ったことを誇りに思う。

 ある秋の朝のこと。
 私の家族のことをよくご存知の奥様が、「あなたにはとても良い機会じゃないかしら」と一通の手紙を見せて下さった。
 私は大変ありがたいことに文字が読める。それも、この辺りの領主である奥様が、我々のような身分の者にも学ぶ機会をくださったからだ。神様がもうあと一人いるなら、それは奥様だ。
 フェニックスの紋様が描かれた、高級そうな分厚い紙に、近く王都のロザリス城でまとまった数の使用人を雇い入れる為、教育を受けており、品行方正、よく勤め、しっかりとした身分証明のある者の推薦を求むというような内容が、しかつめらしく書かれていた。
「奥様、けど、私ここを辞める気はありません」
 私は驚いて思わず手紙を乱暴に突き返してしまった。
「まあ、期限までじっくり考えてみなさい」
 奥様はにっこり微笑んでそれ以上は何も言わなかった。
 その日は一日仕事にならず、結局、次の日の午後、居間で書き物をしながらお茶を飲む奥様に向かって「私、お城で働いてみたいです」と勢いよく告げてしまった。
 奥様は、今しがたまで羽根ペンを走らせていた紙の束を掲げて、
「あなたがどんなに素晴らしい仕事をするか、もう十枚も推薦状を書いてしまったわ」
 と笑ったのだった。

I
 
 お城での仕事は、今まで以上に気を使うことや難しいことも多く、勝手が違ってとても大変だった。何度もお屋敷に帰りたいと思うこともあったが、使用人たちは皆一様にここで働けることに誇りを持っており、私もその姿に励まされた。
 それに時折、廊下の向こう、陛下のお姿とクライヴ様がその後ろに着いて歩くのを見かけることがある。
 お二人とも遠くから眺めるだけでも、美しい方たちだった。ここに来るまで想像していた、もっと年老いていて、髭もじゃの厳しい顔をした王様とは全く違った。
 差し込んだ午後の日差しが、白妙の廊下にきらきらと反射する中、陛下が振り返ってお兄様に何事か短く話しかける。お兄様はその口元に耳を寄せて、少し困った顔で微笑みかける。その表情を見て、また陛下が笑う。
 まるで演劇の一幕のような一瞬を見てしまった時は、何故だか胸が苦しくなったのだった。

I
 
 (病気になった女中の代わりに、ジョシュアの私室の清掃担当を任されることになるモブ子)

「分かっているかとは思いますが、決して他言してはいけません。ここでのことを知るのはわたくしと、エリザと、あなただけです。もしも外へ漏れるようなことがあれば、冗談ではなくあなたの首が飛びます。あなたはあなたの仕事をなさい」
 首が飛ぶ。
 その恐ろしい言葉と、女中頭のいかめしい岩壁のような顔に気圧され、私は黙って頷くしかなかった。
 ――そして、これがどういうことなのかは一目見てわかった。
 だが、ここは陛下の、ジョシュア様の寝室だ。シーツを取り替える間、いくら無心になろうと努力してもさまざまなことが頭に浮かび、手がもたついた。
 お相手は、一体どこの姫君なのだろう。
 でも、あの方より美しい女性なんているのかしら。
 それに、絶対に秘密にしたいみたい。道ならぬ恋なのかしら。
 女中頭は表情をぴくりとも動かさず、のろのろと作業をする私の周りを淀みなく動き、今まで見たこともないほど大きなベッドを、あっという間に整えてしまった。
「それはわたくしが処理します」
 洗い場行きのカゴに入れるつもりだった丸めた巨大なシーツを、彼女は素早く私の手から取り上げた。

I

 エリザの病状は思わしくなく、一度故郷へ帰って長期の療養をすることになったらしい。
 結局そのまま私は彼女の仕事を引き継ぐことになり、毎日ジョシュア様の私室の清掃をしている。
 それから一月ほどは、初めてシーツを替えたあの日ほどくしゃくしゃになった状態を見ることはなく、秘密の姫君もお忙しいのねと思ったりもした。
 が、そう思った翌日のことだ。
 初日見たよりひどい状態のシーツを剥がすと、ベッドの上で獰猛な獣が暴れたのかと思うような、見るも無惨なマットレスがそこにあった。
 ジョシュア様のお相手は一体どんな女傑なのだろうかと感心してしまうほどだった。
……これは、取り替えね」
 女中頭は深いため息を吐いた。
「あの、男性の手が必要でしょうか。どなたか呼んで来ましょうか」
「いけません」
 彼女は雷みたいにピシャリと言って、釘を刺すように鋭い目線で私を睨んだ。
「これは我々二人で運び出しましょう」
 さてこんな大きなものをうまく運び出せるだろうか、手をかけたその時だった。
「手伝おうか」
 突然、背後から声をかけられ、私も女中頭も飛び上がって思わずキャアと声が出た。
……すまない、忘れ物をして」
「クライヴ様」
 女中頭は振り向いて、背の高い黒い姿を認めると、彼女は胸に手を当てホッと息を吐いた。私は事態がうまく飲み込めず、うるさく鳴り響く心臓のまま、まったく動けずにぼうっと突っ立っていた。なぜクライヴ様がここに。
「これは……
 クライヴ様は、マットレスの惨状を見て、サッと顔を赤らめた。そして無言で私の方をチラと見てから、女中頭に向かってわずかに首を傾げてみせた。
「この者はエリザの後任です。しっかりした子です」
 クライヴ様は何も言わなかったが、少し眉尻が下がって安堵したようにも見えた。私は慌てて深くお辞儀をした。
「その……前も一度駄目にしたことがあったと思うが、その時も……?」
「ええ、エリザとわたくし二人で処分致しました」
 女中頭はツンと澄まして言った。
……ルイーズ、ほんとうにすまない。いつも感謝している。君も、ありがとう。これは俺たちの怠慢だ。もしまた困ったことがあったら、遠慮せず言って欲しい。もし俺がいなければジョシュアにやらせるから、そのままにしておいてくれて構わない」
顔を真っ赤に染め、叱られた子犬のようにしゅんとした顔で、女中頭に申し開きのようなことをするクライヴ様を見て、思わず吹き出しそうになってしまったが、なんとか堪えた。今まで遠目に拝見する機会しかなかったので、その黒い精悍な姿から、軍人らしくとても厳粛な方なのだと思っていた。
 それが、こんな、青い大きな瞳を、人懐っこい犬みたいに……
 いつもはその岩の顔を崩さない女中頭も、その目を見て、表情が柔らかく綻んで見える。彼女はきっと長い間、真摯にこの方へお仕えしているのだろうと思った。
「俺が持って行こう」
 そう言って、クライヴ様は新しいシーツをかけてその惨劇を隠してから、ひょいと担いで部屋から出て行ってしまった。
 
「まさかクライヴ様がいらっしゃるなんて、本当に驚いてしまいました。こっそり弟君の恋の手助けをされるなんて、お噂通り仲の良いご兄弟なんですね」
 あんなに大きなものを軽々抱えて去って行った頼もしい後ろ姿に、思わず感嘆の声を上げると、女中頭は目を丸くしてこちらを見た。
「あなた、まさか気づいていないの」
「え?」
「人選を誤ったかしら……
 私はなんのことかわからず彼女の困り顔を見つめた。
……まあ、嫌でも分かる時がくるでしょう。いつも通り、ここで見たこと聞いたことは全て胸の中に閉まっておくこと。さあ、仕事に戻って」
 
 ――気づくって、どういうことだろう。
 ジョシュア様のお相手は、この寝室以外全くその気配が無い為、てっきり外からお忍びでいらっしゃっているのかと思っていた。それがまさか、私でもよく知っている方なのかしら。このお城の中でジョシュア様に近しい女性といえば、ジル様しかいない。
 もしも、あのお三方が複雑な三角関係にあるのだとしたら、秘密にしたいのも分かる。だが、それならさっきのクライヴ様の言動はとてもおかしなことになる。
 他に親しげな女性と言えば、時折ふらりとやって来られて、毎度よくわからない機械をお城の至る所に置いて帰る長い金髪の機工師や、闊達な喋り口調の褐色の肌をした銀髪の軍学者などがいるが、ここまでひた隠しにしなければいけないような身分の方々ではない。
 首を捻りながら思いつく限りの顔を思い浮かべてみたが、どの女性もぴんとこず、さっぱりわからなかった。
 
 その、雲を掴むような姫君は一体誰なのか――、真実を知ることになるのは、それからしばらくしてのことだった。

 I

 まだ日が昇る前からしとしとと雨が降り、底冷えのする朝だった。
 女中頭はその日別の用件のためにおらず、初めて私一人だけでジョシュア様の私室へ向かうことになった。
 さすがにもうあの広さのベッドでももたつくことはない。少し心細いが、普段通りにきっちり仕事をこなせばよい。そう自分を励ましながら長い廊下を歩き、やっと辿り着いた重い扉にそっと手をかけた。

「あれ、もうそんな時間だったのか」
 扉を開けると、暖炉の火がパチパチ爆ぜる音と共に、ソファに座る煌びやかな姿が目に飛び込んできた。
 一瞬部屋を間違えたかと混乱し、ノックをしなかったことに気づいてサッと血の気が引いた。
「も、申し訳ありません!」
 いつもならこの部屋はもうとっくに火は落とされ、シンと静まり返っている時間だった。それでも女中頭はノックを欠かした事はなかったのに。頭を下げて、慌てて出ようとすると、よく通る涼やかな声に呼び止められた。首が飛ぶ、その言葉が頭の中を駆け巡った。
「君は、エリザの後任だよね。いつもありがとう。少し君に聞きたいことがあって」
 何を告げられたのか理解ができず、思わず頭を上げて声の方を真正面から捉えてしまった。
 ジョシュア様が、目を細めて柔らかく微笑んでいた。
 これは、この世で起きていることなのだろうか。なんだかジョシュア様の座ったそこだけ、光り輝いて見える。ジョシュア様は白い部屋着に赤いガウンを羽織った姿で、長い足を組んで、手に広げた小振りの本を持っていた。
 目が、目が、おかしくなる、――
 お姿のあまりの眩さにギュッと目を瞑ったその時、奥の寝室から何かがぶつかったような音がし、バタバタと大きな足音と共に「ジョシュア!まずい、寝過ごした!」と悲壮な声が響いた。
「兄さん!ちょっと待っ……
 ジョシュア様が慌てて寝室に向かって叫んだが、もう遅かった。肩に黒いガウンを引っ掛けただけの、くしゃくしゃの髪のクライヴ様が飛び出してきて、私と目が合うと一瞬固まり、そして自分の格好を見てアッと声を上げた。
「す、すまない!」
 クライヴ様はさっきよりも更に悲痛な声で鋭く叫んで寝室へものすごい速さで引っ込んで行った。
 ジョシュア様はやれやれという顔でため息を吐き、「兄さん、今日は休みだって連絡してある」と寝室へ向かって声をかけた。
「酷いところを見せてしまったね」
「い、いえ……
 私は今見てしまったものやこの状況が一体どういうことなのか、脳の回転がまったく追いつかず、むしろなんだか冷静さを取り戻していた。
 ――このことは、後で、ゆっくり、考えよう。
「その髪飾りのことを聞きたくて」
 ジョシュア様は持っていた本をテーブルに置き、私の方へ向き直った。
「こ、これは、奥様……私が以前お仕えしておりました、××公に頂いたものです」
「やっぱり、そうだったか」
 ジョシュア様は嬉しそうに声を上げた。
「昔、おば様が付けていらしたのを見た覚えがあってね。懐かしい。フェニックスの尾を模しているものだと教えてもらったんだ」
 奥様は、ロズフィールドの傍流である旦那様が亡くなられた後、お二人には子供もいなかったため領主を継がれた。血の繋がりは無いがご兄弟とは親戚にあたるはずだ。
「おば様はどうなさっているのだろう。大戦の間、どのようなご様子だったのか。足を悪くされたと聞いたが……
 私は堰を切って、敬愛する奥様の様子をお話しした。ジョシュア様は目を細め、頷きながら聴いてくださった。途中、身支度を整えたクライヴ様が少し恥ずかしそうに出て来られて、ジョシュア様の向かいに黙って座り、同じように私の話に耳を傾けた。
 話をしながら、この、外見は全く正反対とも言える兄弟の、頷くタイミングや首の傾げ方、笑い声の上げ方がとてもよく似ていることに気づいたのだった。
 そして、こうやって暖炉の前に穏やかに座り、とりとめもない私の話に静かに耳を傾けてくださるお二人のその姿が、まだ旦那様が生きていらした頃、奥様と仲睦まじく寄り添って、同じように優しい目をして私を見ていたことが重なったのだった。

 結局、小一時間ほども話し込んでしまった。
「長いこと引き留めてしまった。今日はここの掃除はいいから、仕事に戻っておいで。ルイーズにもよろしく伝えてくれ」
 私は深々と頭を下げてから部屋を辞した。扉を閉める寸前、「跳ねてる」とおかしそうに笑いながら、ジョシュア様のすらりとした手がクライヴ様の寝癖のついた髪に伸ばされるのが見えた。

 ああ、なるほど、姫君は――そういうことか。
 そうであることが当然というように、すとんと、腑に落ちたのだった。

 
 I

 翌日、シーツを取り替えながら女中頭に「やっとわかりました」と伝えると、彼女は「あら、そう」とだけ素っ気なく答え、そのままいつも通り黙って仕事を続けた。
 しかし、部屋を出る前に突然振り返った。
「陛下は一見あの通りですが、兄君のこととなるとどこまでも非情になれる方です。首が飛ぶと言った事、くれぐれも忘れないよう」
 それだけ言って、早足に廊下を行ってしまった。
 
 しん、と静まり返った部屋を見回して、なんだか少し背筋が寒くなったのだった。




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安心してください、飛び出してきたクライヴはさすがにパンツは履いてました。