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hisashiNKI
2024-08-19 02:55:22
8330文字
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バンドやってるジョシュクラのファン男性が2人に遭遇する話
・バンドパロのジョシュクラ(現代設定)
・ファンのモブ男性の一人称です
・モブ男性は名無しですがジョシュクラと会話するしめっちゃ自我があります
・バンドの設定とか音楽的なことは全てめちゃくちゃ適当です
シドが歌うのをやめる
――――
そのニュースが流れてきた時、俺の人生も終わったと思った。
俺の青春はシドのざらついた低音とともにあったからだ。
目の前が真っ暗になった。文字通り。気絶したのだ。余りにものショックで。
目が覚めた時、新しいボーカルが入るため、バンドHideawayは解散しないという情報で、ファンはみんな混乱と呆然と悲哀とでむちゃくちゃになっていた。シドの代わりの声なんて、宇宙のどこを探したっていない。もういっそ、潔くバンド自体解散してもらった方がよかった。ファンの意見はほとんどそれだった。新しいボーカルは28の若造で(俺の年とさほど変わらないが)、シドがどこかからか見つけてきた逸材らしい。
時間経過とともに次第にショックは落ち着きつつあったが、謎の新人は本当にあのシドの後継となりうるのか?ファンの間で不安と哀しみと怒りが充満していた。何せ、次のライブまでなんの音源も公開されなかったのだ。
新生Hideawayの初ライブは、発売から50秒も経たずにチケットが売り切れた。
俺もなんとかチケットを入手し、その日ステージのすぐ下でどす黒い感情をいっぱいに抱えて立っていた。
この場に集った数多の汗っぽい男たち、皆同じ気持ちだっただろう。怒りと、値踏み。ロックの魂を抱えて俺たちはここにいた。
ガブの特徴的なギターイントロが鳴り響く。
赤っぽいライトに照らされた新ボーカル、クライヴが黒いTシャツとジーンズというラフな格好で無造作に歩いて来て、ステージ真ん中に立った。観客の怒気と興奮と不思議な高揚の波は、最高潮に達して暑苦しく渦巻いていた。さあ、声を出してみやがれ、ファック。そのお上品なお口に突っ込んでやる。男たちの血走った目はギラギラと光り、耳毛はビンビンに逆立ち、狂った潮流となってむせかえるようだった。
しかし、その声が、ライブハウスを突き抜けた瞬間、狂った男たちの狂った感情は一瞬の静寂を迎えた。
その声は、耳を突き抜ける瞬間は炎のように熱いが、しかし耳奥に残る余韻はまるで夜の海に抱かれているかのように穏やかで、優しさすら感じられた。
演奏されているものは聴いたことのない曲だったので、おそらく新曲なのだろう。歌詞はなんだかよくわからない。弟がどうとかいう内容だった。
気づけば目からは涙が溢れていた。新しいシドが、そこに立っていた。声質も見た目も何から何まで全く違うが、魂がそこにあった。シドの熱き魂が。男たちを虜にする包容力が。皆、呆気にとられてステージを見上げ、その音に、声に、魂に、恍惚と聞き惚れていた。
俺は、俺たちは、すっかりファンになってしまった。なんてこった。
それからというものの、俺の第二の青春が始まった。
部屋の半分は新生Hideawayのポスターがベタベタ貼られた。よくよく見ればクライヴはルックスも悪くなかった。悪くないというか、相当良かった。ファン仲間の誰にも言ってないが、ポスターや画面越しにクライヴの蒼い目と合うと、ちょっと照れてしまう。くそ。
クライヴが作っているらしい新曲は大体が弟がどうのこうのという内容だった。噂では子供の頃に生き別れたらしく、結構悲惨な幼少期を送ってきたらしい。噂というのも、クライヴはプライベートな質問にはほとんど答えないし、プロフィールも年齢くらいしか公表されておらず、シドがどこから連れてきたのかさえ謎だったからだ。狂信的なファン
――
ファナティックと呼ばれていた
――
が謎多きクライヴについて色々と情報をかき集めているようだったが、出身地がここアメリカではなくイギリスであることしか正確な情報として突き止められてはいなかった。
けどまあそんなのは俺にとってはどうでもよかった。あの魂の響きが聴ければなんだって良いのだ。
クライヴの声は、バンド自体の音も、年季の入ったファンの新陳代謝も良くした。バンドもファンも再び春を迎え、双方に熱狂し、後に語り継がれるであろう素晴らしい音がいくつも生まれた。
5年間でアルバムは2枚出た。Hideawayは、メンバーそれぞれが曲も詞も作るが、クライヴの作った曲は2枚のアルバムのうち5曲。全部、弟がどうのこうのだった。この"弟"は何かの暗喩もしくはメッセージなのではないか、とファナティックたちは日々議論を交わしていた。
俺はというと、クライヴの曲は激しくも哀切の混じったメロディーと、声にちょっと苦味が入るところが気に入っていた。
ベーシストのオットーが病気を理由に引退、新しいメンバーが加入するというニュースがSNSを飛び交っていた。
ショックではあったが、一度ボーカルの交代というデカい衝撃を乗り越えたファンたちの声は、嘆きよりもオットーへの労いで溢れていた。
しかし、ニュース記事を読んで我が目を疑った。
何度読んでも新しいベーシストはクライヴの実弟、ジョシュアと書いてあったからだ。
――
弟、生きてたんかい!!!
じゃああの哀切の歌はなんだったんだよ。記事についているリプライも9割くらいがそのツッコミだった。
しかしそのツッコミも、次に出た記事で全て吹っ飛んでしまった。その記事にはジョシュアの写真が付いていたのだ。
ジョシュアは、ちょっと、意味わからんほど美形だった。
あの伝説のライブの再来だ。男たちの怒りと値踏み。今回はジョシュアの容姿にあてられた女たちもいた。久々に感じるこの怒気による高揚。この興奮。オットーのベーステクは、深みと渋み、男らしい力強さと優しさに満ちていた。お嬢ちゃん、そのほっそい指で、俺たちを満足させられるのか?
ガブの特徴的なギターイントロが鳴り響いた。
いつものようにラフな格好で、ステージ中央に立ったクライヴが、左手に顔を向ける。赤っぽいライトに照らされたジョシュアの指が弦を弾く。その低音が、ホールに響き渡った瞬間、狂った男たちと狂った女たちの狂った感情は一瞬の静寂を迎えた。
その音は、耳を突き抜ける瞬間は炎のように熱く、耳奥に残る余韻はその容姿からは想像できないほど力強く、情熱的で、朝の光のように気分を高揚させる音だった。
クライヴの深い声とジョシュアの重音は、まるで最初からひとつの音として生まれてきたかのように重なり、混ざり合っていた。2人は顔を見合わせて心底楽しそうに魂の音を共鳴させている。反面、オットーの奏でる音は、やはりシドの声と響き合う音だったのだと感じた。時代が変わったのだ。
気づけば目からは涙が溢れていた。男も女も皆、呆気にとられてステージを見上げ、その新しい音の重なりに、腹を響かす重低音に、兄弟の熱い魂に、恍惚と聞き惚れ、あと、真逆の雰囲気の美形の兄弟にすっかり見惚れていた。
俺は、俺たちは、すっかりファンになってしまった。なんてこった。
その2度目の伝説のライブからしばらくして、Hideawayとともにある俺の人生の中で、生涯忘れられない出来事が起きた。
ジョシュアが加入してからしばらくして、新しいアルバムが発表され、ツアーが1週間後に始まるという時だった。なんと、俺の地元がツアー初日だった。
余りの嬉しさに、起きている間はずっと新しいアルバムを流し続けているほどだった。アルバムにはジョシュアが作った曲も2曲入っていた。今までのHideawayとは違う新しいテイストの曲だったが、不思議と今までのバンドに馴染んでいてめちゃくちゃかっこいいクールな曲だった。歌詞は、兄がどうのこうのという内容のものと、抽象的なよくわからないもの。ファナティックたちはクライヴの弟曲と照らし合わせて、さらに深読みを始めていた。
そして、運命の日。その日は平日だったが仕事は休みで、10年連れ添った彼女に振られたところだった。振られた理由は「同じアルバムを聴きすぎる」だった。昼間っから酒でも飲んでやろうと、ズボンのポケットに札束を幾らか突っ込んで、近所の馴染みのバーに向かった。
バーには、俺と、軽食目的の近所の奥様方が数名と、隅の席には見慣れない男2人が座っていた。店の中だというのに男2人はフードと帽子を目深に被り、暗い色のサングラスをしたまま静かに飲んでいる。暗がりになっているのと、背を向けて座っているためはっきりとした容姿はわからないが、そのスラリとした背格好やこんな小汚いバーに似つかわしくない上品な所作がやけに目を惹いた。
「なあ、あの2人見ない顔だよな」
ビールの瓶と適当なつまみを持ってきた店主に尋ねた。
「ああ、そうだな。お前が来るちょっと前にフラッと入ってきてな。あんな感じだし、芸能人かなんかのお忍びじゃないか?なんでこんな店を選んだのかはよくわからんが......」
自分の店をこんな店呼ばわりして店主はそのままカウンターへ戻っていった。
2人から目を離せないままビールを一口含む。瞬間、吹き出しそうになった。
2人組の片方、黒いパーカーのフードを目深に被っていた方が、サングラスとフードを外し、隣に顔を向けた。
クライヴ・ロズフィールドだった。
飲み込み損なったビールが気道に入り、盛大に咽せた。
店主が慌てて駆け寄ってくる。激しく咳き込みながら、涙に滲む視界の中、無理矢理クライヴの方に視線を向けると、彼は気遣わしげな表情でこちらを見ていた。隣のもう1人はサングラスを外していなかったが、黒いキャップから癖毛のブロンドがのぞいていた。ジョシュア・ロズフィールドだった。彼も眉根を寄せて、心配そうに俺の方を見やっている。
「おい、大丈夫か?」
店主のごつい手に背をバンバン叩かれていた。痛えなアホ。なんとか咳はおさまったが、心臓はものすごい速さで脈打っていた。なんで、なんでロズフィールド兄弟がこんなとこに。
「気をつけろよ、俺の店で死んだら一生出禁だぞ」
店主の言葉を右耳から左耳へ受け流して聞かなかったことにし、混乱と興奮と羞恥で気がおかしくなりそうなのを、深呼吸をして無理矢理落ち着かせた。
俺の無事を見届けて、兄弟はまた2人で静かにやり始めたようだった。
「あんたたち、ちょっと見たことある気がするな」とさりげなくいくか、「もう、大ファンで、サインもらえますか」と素直にいくか、頭の中でさまざまなパターンのシミュレーションしていたが、2人の余りにも静かな様子に、ちょっと、そっとしておこうと思った。なんだか、そういう雰囲気だった。
そっとしておくといっても、どうしたって視線は2人に向いてしまう。パパラッチが悪意たっぷりに追いかけ回しても、ロックスターにあるまじき全くスキャンダルの出てこない2人だ。本当にそんな清廉な人柄なのか
――
ファンとしてはそりゃ何も問題を起こしてもらわない方がいいが、好奇心がむくむくと身をもたげた。
2人とも口数は少なく、瓶を呷る合間に一言二言短く言葉を交わしてまた黙って飲む、それがしばらく続いた。
そのまま何事もなくアフタヌーンティーは終わるのだろうかと思った時だった。
ジョシュアが、クライヴのカフスのついた耳元に顔を寄せて何か囁いた。
まあ、耳打ちくらい、兄弟同士でもやる仕草だろう。だが、なぜだか俺はドキッとした。やけに顔が近い。2人は顔を見合わせて秘密の何かに対してくつくつと笑い合っている。
そして、俺は、見てしまったのだ。
非常にさりげない一瞬のことではあったが、ジョシュアの長い指がテーブルに置かれたクライヴの指をツ、と撫でたのである。わ〜お。
平日の昼間、小汚いバーの暗がりで、兄弟でやるにはあまりにも、なんというか、そう、はっきり言うと、セクシーすぎる仕草だった。すぐに2人は顔を離して何事もなかったかのようにまた飲み始めた。
なんだったんだ一体。さっきのは。おい!俺は何を見たんだ!この荒れ狂う感情を歌にできたら、俺もいっぱしのロックスターになれることだろう。ビールは全く味がしなくなり、バクバクと心臓が鳴り響く中、2人の挙動を一瞬たりとも見逃すまいと、目をこじ開けてジッと見つめ続けたが(ドライアイになった)、さっきのはまるで幻覚だったかのように、2人は黙って残りの酒を飲んでいた。
それから少しして、兄弟は連れ立って店を出ていった。結局、俺は、2人に声をかけられなかった。去り際、店主に「ご馳走様」と一言にこやかに挨拶する姿がスマートだった。ドア横のテーブルに座っていた奥様方たちも呆けた顔でその姿を眺めていた。
「セレブのカップルだったんかな」
店主は、2人が出て行った扉を見つめながらポツリとつぶやいた。
俺は、2人が飲んでいたビールの空き瓶を貰って帰った。
帰宅すると、PCを立ち上げて、ファンが集う掲示板の普段は見ないような胡乱な情報が乱立するスレッドを、手当たり次第クリックした。
一部のファナティックの中では、クライヴとジョシュアが兄弟というのは偽装であり、本当は恋人同士なのだという説が異常な熱意をもって議論されていた。血の繋がった兄弟だからこそあの2人は良いのだ、という主張も同じくらいあった。俺は言い知れぬ感情を持て余し、ずっと混乱状態にあった。
それからツアーが始まるまでの1週間は、ジョシュアが加入してからのライブ映像や、数は少ないがライブ前後のインタビュー動画などをひたすら見返した。
俺は曲が聴ければなんでもよかったので、2人の様子をあまり気にしたことはなかったが、よく見ればいつもお揃いのイヤーカフとブレスレットをしている。指輪はしていないので、これはおそらくセーフだろう、と判断した。確定情報ではないが、やはり2人はなんらかの大変な事情で生き別れになっていて、最近になって再会したというのがファンの間での定説だったので、それが真実だったらまあ、兄弟でもお揃いのものを身につけることも......あるのか?俺は兄貴と同じアクセサリーをつけるなんて、想像して吐きそうになるが。
引き続きライブ映像。クライヴが弟曲を歌う時は、ジョシュアの方を向きがちである。弟に向けての曲だから、当然と言えば当然ではある。ジョシュアはそれに応えて、クライヴに笑顔を返す。女性ファンたちが向けられたら卒倒しそうなほどの優しい、誰が見ても愛情ダダ漏れの笑顔である。そんな顔を向けられたクライヴも、はにかんだ笑顔を見せる。これまた蕩けそうな微笑みである。うーん、これは
……
。
1ライブにこのやりとりが最低3回はあることがわかった。偶に「おいおいいい加減にしろよ」という感じでガブがギターをかき鳴らしながら二人の間に割って入ることもある。
ジョシュアが作った曲のうち、1曲はジョシュア自身が歌った。結構抽象的な歌詞だが、よく咀嚼して聞けばラブソングであると聞き取れる。
が、この曲の歌詞には特にbrotherという単語は入っていないのだが、ファナティックによると歌詞の人物描写がクライヴだと解釈できるらしい。その人物描写もdeep blue eyesしか具体的な単語はないし、流石にちょっと無理やりな気もする。いや、でも、deep blue eyesか
……
。この曲の時は照明はジョシュアしか照らさない為、ギターを弾いているクライヴの表情はわからない。それにしてもジョシュアもなかなか良い声である。
ライブの間はこれ以外にもボディタッチがやけに多いだとか色々あるが、兄弟だしそんなもんなのだろう。知らんけど。
次に、インタビュー動画だ。この動画は女性ファンの間でちょっとした騒動になったやつだった。俺はちゃんと見るのは初めてだった。
プライベートな質問はいつもはぐらかすクライヴだったが、ジョシュアは割とはっきり答えるようで、とりとめのない質問にもにこやかに応じている。
そして動画も終盤になってついに、おそらくこれが本題だったのであろう、女性ファンの10割が知りたい質問
――
恋人はいるのか、をインタビュアーが聞いた。
「いない」
とジョシュアがきっぱり答えた。動画をハラハラしながら見ていたファンは、ホッと息を吐いたであろう。しかし。
――
じゃあ、あの歌詞、"ベッドの中の隣の体温"ってのは過去の恋人?
とインタビュアーが余計なことを尋ねた。この歌詞は抽象的なラブソングの方だ。ジョシュアはいつもやる特徴的な手を口元に当てる仕草をして、
「ああ、あれか。兄さんはあったかいからね」
それだけ言い残してあっさり去っていったのだった。
この動画の後、掲示板やSNSでは偽装兄弟派と真実兄弟派の宗教戦争が勃発し、それは凄惨な血みどろの様相を呈していた。
これには俺も頭を抱えた。三十路の兄弟が日常的に一緒のベッドで寝るなんてことはあり得るのか?バーで見たあの光景をまざまざと思い出し、心臓がなぜかやけに高鳴った。
ツアー初日前日の夜。結構もう遅い時間だったが、翌日のライブが楽しみで眠れず一杯引っかけてから寝ようという気になって外に出た。
クライヴの弟曲と、ジョシュアの兄曲(及びラブソング)をリピート再生して聴き続けていた俺は、もはや頭がおかしくなっていたのだろう。
またあのバーに行くと、また隅の席にロズフィールド兄弟が座っていた。きっと幻覚だ。
帽子やサングラスはしていなかったが、この間と同じく静かに飲んでいた。
俺も前と同じ席に座って、後ろから2人をじっと観察した。
俺と兄弟以外に客はいなかった。
兄弟は、この前よりも会話が多いようだった。またやけに顔を近づけてくつくつ笑っている。動画や掲示板やSNSを見すぎたせいか、お互いを見る目がやけに甘ったるく見えた。いや、幻覚だ。絶対、幻覚だ。そう見たいからそう見えてるんだ。
「ほい、お待ちどう」
店主がビールの瓶と適当なつまみを持ってきた。
「おい、ナッツ入ってるじゃねえか。アレルギーだって何回言わせるんだよ」
「いちいち覚えてられるか、アホ」
店主は舌打ちし、皿を持ってカウンターに戻って行った。
とんでもねえ店だな、と悪態をついてから兄弟の方に目を戻し
――
おい、絶対さっきまでキスしてただろ!!!!!!
大声で叫びそうになったのをなんとか、なんとか堪えた。
兄弟の唇はほとんどくっついていた。そしてなんか目は潤んでいたし、頬は赤かった。ように見えた。もう絶対に幻覚だと思いたかった。
「兄さん、時間」
「ああ」
店の古い時計を見て、2人は席を立った。
「
……
あ、あの」
店を出ようとする2人の後ろ姿に、声をかけた。
2人は同時に振り向き、こちらを不思議そうに見た。間近で見ても全然顔は似ていなかったが、纏う雰囲気はよく似ている、と思った。血が繋がった者にしか出せない雰囲気だった。
「この間もこの店に来てましたよね」
「あ、咽せてた」
ジョシュアが気づいて、目を大きく開いた。
「ああ、あの時の」
クライヴも思い出したようで、口角を上げた。
「また来ますか?この店
……
」
尋ねると、ジョシュアはちょっと苦笑し、
「ここには仕事で少し滞在してるだけでね、いいお店だからまた来たいけど
……
」
そう言ってクライヴの方を見た。クライヴも頷く。
「そ、そうですか。残念だな。あの、お2人は恋人なの?」
兄弟は、ちょっとびっくりした顔をした。その表情がそっくりだった。
「
……
そう見える?」
ジョシュアが小さく尋ねてきた。クライヴはなんだかバツが悪そうな表情で視線を逸らした。
「ええ、まあ。なんとなく
……
気になっただけで
……
」
なんで聞いちまったんだ。俺のバカ!アホ!ナッツの過剰摂取で死んじまえ!
「ちょっと、気をつけないとダメだな」
ジョシュアはクライヴを見て言った。クライヴは視線を逸らしたまま、ぐう
…
と喉を鳴らした。
「じゃあ、おやすみなさい。お兄さん、飲み込む時は気をつけて」
「おやすみ、またどこかで」
兄弟それぞれ俺に律儀におやすみの挨拶をし、手を軽く振って、街灯がぽつぽつ灯った夜の街中を寄り添って歩いて行った。
俺は、なんだかすごく幸せそうなその後ろ姿に、別に彼らが兄弟だろうが恋人だろうがどっちでもいいや、と思った。どっちだろうが、彼らの魂の音楽は揺るぎないのだから。
明日のライブが楽しみだ。
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