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hisashiNKI
2024-05-13 02:56:04
2616文字
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不成立ジョシュクラ
めちゃくちゃ注意
※本編から15年以上は経ってます
※クラとジルが夫婦で2人の息子(名有り)が出てきます
※ジョが過去にモブ女性複数と恋人だったという描写があります(詳しい描写はないです)
※捏造だらけかつ個人的には悲恋のつもりじゃないけどそうとも見えます
なんでもおっけー!て方だけどうぞ!
「叔父上はどうして結婚されなかったのですか?」
もうほぼ火は落とされ、窓も全て分厚いカーテンで覆われた室内には、テーブルに乗った燭台の灯りしかない。若草の季節、心地の良い穏やかな夜だった。
向かいに座った幼さの多分に残った顔《かんばせ》を、そのささやかな灯が浮かび上がらせ、青い目
——
彼の父親よりは少しばかり薄い色の
——
に映った小さな火がチラチラと揺れ、輝いていた。
左側から、ゴホンと咳払いが聞こえた。私と甥の間に据えられた燭台からは少し離れている為、隣に座る兄の姿はほぼ暗闇に呑まれてぼんやりとした輪郭しか捉えられなかった。咳払いは、彼の息子の無邪気で無神経な問いにどうしたものか言葉に詰まってのことだろう。彼の妻がこの場にいたら、うまくこの話題を逸せたかもしれないが今夜は生憎密やかな男だけの無礼講だ。
「
……
考えた事もなかったな。」
手元のグラスに残り少ないワインを注ぎながら甥の方を見やる。彼は今日十五歳になった。もうあと一年すればこの国では成人だ。晴れて成人となった暁には、王位を譲るつもりでいる。
「でも、叔父上なら幾らでもその
……
色めいた話はあったでしょう?」
そういう年頃だ。溢れる好奇心のためにその頬を赤く染め、父親の非常に控え目な制止を気にも留めずに熱心にこちらを見ている。顔立ちは彼と同じ年齢だった頃の兄と瓜二つとも言えるが、意思の強そうな形良く上がった眉は義姉であるジルのものだ。しかし、夫婦揃っておっとりとした気質の二人とは違って、この知りたがりな性格は恐らく私に似たのだろう。血の繋がりとは不思議なものだ。
「
…
エルウィン」
流石にこれ以上はまずいと思ったのか、兄が隣で姿勢を正す気配がした。
「まあ、まあ兄さん。いいじゃないか。今この空間、この時間は家族の他愛も無い団欒だ。」
「そうですよ父上。僕の誕生日じゃないですか。」
兄も、流石にこのあっけらかんとした言い分には笑ってしまったようだ。可愛い甥っ子
——
エルウィンには、きっとバイロンの血も濃く流れている。
「ジョシュアがいいならいいが
…
。俺はワインをもうあと一瓶、取ってこよう。」
そう言って兄は、ほとんど音を立てずにスルスルと影を縫って出て行ってしまった。しばらくは戻って来ないだろう。
「そうだな
…
。まあ、色々あったな。」
もうあと一口二口しか残っていないグラスを揺らしながら、今まで出会った女性達の姿を思い浮かべてみる。エルウィンはほとんど前のめりになっていて、その様がおかしくつい口角が上がった。脳裏に様々な衣装の翻るのが蘇る。菫色のドレス、金の刺繍がされた純白のスカート、色とりどりの宝石を散りばめた胸元
…
。しかし、彼女達の身に付けていたものや、紅が鮮やかに引かれた唇は思い出されても、はっきりとした容貌は形にならず靄がかって消えてしまった。
「て、敵国の姫君との禁じられた恋とか
……
。」
十五歳!なんと、純粋なことか。流行りの芝居にそういうものがあったなと、脚本を記した本を読んだ事を思い出した。結局その王子と姫の愛は実らず、悲恋に終わる結末だったはずだ。
「はは!残念だが、そういう過分に情緒的なものはないよ。大概のものは勘違いで、下世話で、最後は寂しいものだった。」
エルウィンはそれこそ恋破れたかのように、紅潮していた頬を青ざめさせ肩を落としてしまった。尊敬する叔父に初めて失望した瞬間だろう。
「
…
まあ、それが美しく見えてしまう刹那こそ恋だ。」
きっと、彼の目にも眩く映る人がいるのだろう。彼らの行く末はまだわからないが、この先、私のようではなく、彼の両親のようにあればいいと思った。
「じゃあ、叔父上には、永遠に美しく思える人がいなかったのですか?」
小さな灯に揺れる、切実な瞳だった。
ワインを一口含み、目を瞑った。
永遠に美しいもの。揺るぎなく燃えるもの。
l
翌日は、陽の光が目に辛かった。
もうこの年であんな飲み方をするべきではないなと、頭にまるで入って来ない決済待ちの書類を流し見しながら肝に銘じた。
扉をノックする音。兄だ。
「どうぞ。」
今は侍従たちや近衛兵も近くにおらず二人だけだが、一応形式通りに礼をしながら入って来る。年を経ても酒豪の兄には全く問題ないらしい。いつも通り背筋を伸ばして兵士達の訓練を見てやっていたはずだ。扉を閉めると、すっかり眉尻が下がって、"兄さん"の顔になった。
「ジョシュア、昨日はエルウィンがすまなかったな
…
。そろそろ礼儀を身に付けて欲しいものだが。」
わざわざそれを言いに来たらしかった。
「いや、大丈夫だよ。昨日も言った通り、家族の交流だもの。それよりも僕のつまらない失恋話にがっかりさせてしまったみたいで、こちらこそ申し訳なかった。」
「はは。エルウィンは大好きな叔父さんに、失望することなんてないさ。」
まだまだ幼い息子と、お互いに頭に浮かんだであろう大きな体の"僕達の叔父さん"のことを想って、彼の深い青い目が優しい光を湛える。目の下の細かく刻まれた笑い皺が、甥と同じ名前をした父によく似ていた。
「では、軍務に戻ります陛下。陛下も少しは休憩するよう。」
ちょっと大袈裟にいたずらっぽく敬礼し、そのまましっかりした足取りで執務室から去っていった。
肩を伸ばして深呼吸し、背もたれに深く背を預ける。
ペンを置いて、すぐ横の大きく開いた窓から外を覗くと、午後の柔らかい日差しが眩しく、城の周囲に生える豊かな木々や草花の色を、鮮やかに映していた。
訓練に戻った兄の、幾分白いものの混じった黒髪が見える。右腕だけで訓練用の木剣を持ち、軽やかに兵士達の剣戟を躱していた。しばらく剣の応酬が続き、兵士達が次第に座り込む頃になると、薄灰色の髪の女性がやってきて、一言ずつ声をかけながら水を配っていく。兄も水を受け取って、彼女と寄り添って立ち、兵士達の回復を見守っていた。
——
永遠に美しいもの。
ずっとその言葉が頭から離れなかった。
窓の外の光景に、少し涙が出そうになった。勘違いではない。真実だ。崇高で、暖かいもの。
恋ではない。一瞬を切り取ったものではない。永遠。
いずれ、僕の炎が燃え尽きる時が来ても変わらないもの。
愛している、と思った。
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