風花莉亜
2026-01-16 09:01:31
6399文字
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君には絶対敵わない。

第26回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点でコンビニに行って買い食いしたり、千早くんが自分の事を下げるので藤堂くんが怒ったりする話。いつも通りなんでも大丈夫な方向け!

「そろそろハロウィンだし、千早さん、魔女の格好してくれたりしない?」

帰り道、小腹を満たす為に寄ったコンビニ。
ハロウィンパッケージのお菓子が陳列された棚の前で、俺の彼氏はそんな事を宣った。
あまりの事に、手に持っていた明日の間食用にでも食べようかと考えていたクッキーを落としそうになる。
コイツ、誰が聞いてるかもわからないコンビニの店内で何を言ってやがると思ったが、男子高校生の悪ふざけと受け取られるだけかと思い直す。
下手に誤魔化す方が怪しいと気付いて、だったら、とこちらも話に乗ってしまうことにした。

「藤堂くんも着てくれたら考えても良いですよ」

ふふん、こうでも言えば諦めてくれるだろう。
だって普通、誰が好き好んで女装を率先してやりたがるのだろうか? お生憎様、俺は御免だ。
女装が似合うんじゃないかと言われた事のある俺にとって、あまり……いや、かなり良い印象はない。
そもそも、可愛いと言われるよりもカッコイイと言われたい。
そういう男なのだ、俺は。
藤堂くんだって、率先して女装したいタイプではないはず。
文化祭などで周りに求められたらやりそうな気もするが、それとこれとは話が違う。
俺と二人きりの空間での女装は、きっと耐えられないだろう。
これで諦めてくれるだろうと高を括っていたのだが、予想に反して藤堂くんは悩み始めてしまった。
うそだろ、普通悩むか? え、そんなに俺の魔女の格好が見たいって事なのか? どこにそんな需要があるってんだ!
早く他の手を打たないと、このままではヤンキー風味のムチパツな魔女が完成してしまう。
……いや、それはそれで見たいかも? 面白い事は確定しているので、写真に収めたい、いやここは動画だろ!って、いかんいかん、心が揺れてしまった。
藤堂くんの魔女は見たいけれど、それと引き換えに俺も着るのは少し、いやかなり嫌である。
どうにかしてこの話はなかった事にしようと、丁度目についた新作のお菓子を手に持った所で、何かを決意した顔の藤堂くんと目が合った。
あ、これ、逃げられないやつだ。
ガシリ、と藤堂くんの両手が俺の両肩を掴んだ。

「わかった。俺も着るから、千早も着てくれ」

そんなキリッとした表情で何を言ってんだこの男。
げんなりした顔をする俺に気付かない藤堂くんは、嬉々として魔女のコスプレ衣装を検索しだす。
おい待て、こんな所でそんなもん検索するな。
ガッとスマホの画面を掴んで、ニコリと笑う。

「後でにしてください」
……はい」

聞き分けの良い藤堂くんは大人しくスマホをポケットにしまい、本来の目的である小腹を満たしてくれる食べ物を選ぶ事に専念したようだ。
よしよし、良い子良い子。
躾の出来た子は大好きですよ、なんて。
犬扱いすんなって怒られそうなので口には出さずに心の中で言った。

さて、俺は何を食べようか。
話題作りの為に手にしていた、ハロウィンの時期限定で出てくるパンプキン味のお菓子を棚に戻す。
間食用のクッキーだけ片手に、とりあえず温かい飲み物でも買おうとホット飲料の売り場へと来て、迷わず赤いパッケージのストレートティーを手にした。
その頃の藤堂くんはレジ横のホットスナックを眺めていて、ホットスナックも良いなと思う。
その流れで俺の目に止まったのは、この時期になると無性に食べたくなる肉まんだった。
よし、これに決めた。
それとほぼ同時に藤堂くんも何を買うのか決めたらしく、温かいお茶と一緒にお買い上げしたのは唐揚げだった。
ついでにポテトも買っていて、一本強請ろうと決める。
人が買っているのを見ると食べたくなるのは、最早真理だ。

藤堂くんの後に続いて会計を済ませ、コンビニを出ると風が少し冷たかった。
ほんの数日前まで暑いくらいだったのに、急に寒くなったものだ。
肌寒く感じながらも腹を満たすべく、コンビニの店先で買ったものを食べ始める。
先に紅茶で喉を潤し、肉まんの白い包みを解いて顔を出した、白くふかふかとした生地に歯を立てる。
中の餡が熱く、はふはふしながら食べるのも肉まんの醍醐味だろう。
半分程食べた所で、横から「一本食うか」とポテトが差し出される。
強請るつもりだったのに藤堂くんの方から食べるかと言われ、願ったり叶ったりだった。
勿論食べないという選択肢は最初から存在してはいないので、有難く「いただきます」と言って一本貰い、口へと運ぶ。
じゃがいもを揚げた物に塩を振りかけただけなのに、どうしてこんなにも美味しいのだろうか。
厚めにカットされたじゃがいもはホクホクとしていて、食べごたえがあった。
俺だけ貰うのもなぁと、肉まんと藤堂くんを交互に見て、食べかけを渡すのは抵抗がないと言えば嘘になるが、まぁ相手は藤堂くんだし、と自分を納得させて隣へ向かって一口食べるかと聞く。
それを聞いた藤堂くんは目をこれでもかと大きくさせていた。
そんなに驚く事もないだろ。

「嫌じゃねーの?」
「嫌だったら聞いてません」
「それじゃまぁ、遠慮なく貰う」

そう言って俺の手ごと引き寄せて肉まんを一口食べ、そして離れていく。
こんなのただの関節キスなのに、顔が熱くなるのを感じた。
付き合ってからキスだってしてるし、なんならそれ以上の事もしている。
なのに、たかだか関節キスでこんなにもドキドキするなんて、このシチュエーションがそうさせるのだろうか。
わからない。
離れていった藤堂くんの手に名残惜しさを感じてしまって、変なスイッチが入ってしまっていると気付く。
なんかあれ、恋愛脳みたいな感じ。
こんな俺を藤堂くんにはバレたくなくて、何でもない風を装って残りの肉まんを大きな口で食べ切り、紅茶で流し込んだ。
チラっと見た藤堂くんは唐揚げに夢中で、少しもこちらを気にしていなくてホッとした。


その後、話は再び冒頭の『魔女の格好してくれ』に戻る。
コンビニの前でする話でもないが、店内でないだけマシだろうって事で、今度は止める事はせずに一応耳を傾ける事にした。
藤堂くんはスマホで先程検索していた衣装を俺に見せ、これはどうだあれはどうだと楽しげな様子。
しかしそのどれもが当たり前と言えば当たり前なのだが、モデルとなっているのは俺と逆の性別、女性で。
可愛い系から美人、セクシーにクール、色んなタイプの魅力を持った彼女達は、その誰もが完全に服を着こなしていて、似合うの一言しかなかった。
まぁ、似合う物を選んで着せているのだろうけど。
それは兎も角として、藤堂くんは本当にこの服を俺に着せたいのだろうか? 彼女達に似合うからと言って、俺にも似合うなんて事はないだろうに。
尚も楽しそうに画面を見つめる藤堂くんに段々と腹が立って、俺の嫌な面が顔を出す。

……どうせ着てもらうなら、俺なんかより可愛い女の子の方が良いんじゃないですか?」

棘のある言葉に、藤堂くんは画面から俺へと視線を向ける。
先程までの楽しそうな顔から一変、一気に表情がなくなった。
それでも尚、俺の口は止まらない。

「ほら、こんな感じの着て迫られたら、それこそ満更でもないんじゃないですかね?」

藤堂くんの見ていたページには、下着が見えそうで見えないギリギリまでスリットの入った衣装を着た女性が写っている。
惜しげも無く晒された太ももに、脚フェチである藤堂くんが食いつかない訳がないのだ。
誰がどう考えたって男の硬い脚より、この女性のような柔らかそうな脚の方が良いに決まっている。
そう言えば藤堂くん、要くんに無理矢理聞き出されて、膝枕されたいとか言ってたっけ。
俺はまだした事がないけれど。
きっとこの先だって、俺がする機会なんて訪れはしないのだろうけれど。

あぁ、どうにも女性と自分を比較してしまうのを止められない。
普段から考えている事ではあるけれど、ここまで次から次へと比較してしまうのは、藤堂くんに女装をせがまれたからなのか。
やっぱり男の俺よりも、女の方が良いんだって思ったからかもしれない。
多分、藤堂くんにはそんな気はないんだろうけど、心の底ではそう思っているのかもって。
嫌な方へと思考が持っていかれるのに苛立って、出てくる言葉も嫌なものばかりになってしまう。
本当はこんな事、言いたくないのに。

「それに俺は、彼女達みたいに可愛らしくもないですし、素直に可愛い事も言えません」

藤堂くんが何も言わないのを良いことに、俺の口は次から次へと嫌味を放出する。
こんなもの、比べたってどうにもなりはしないし、俺の性別が女になる事もない。
見た目は兎も角、可愛い事くらいなら言えるだろって感じではあるが、言える気はしなかった。
ノリとかでならば、いくらでも言える。
しかし、本心からはとてもではないが無理。
だと言うのに、藤堂くんは全部わかってるって顔をするんだ。
俺がどんなに可愛くない言葉を並べても、藤堂くんは一度も『可愛くねぇ』とは言った事はなかったし、なんなら逆に『可愛い』とか言ってくるような人で。
俺の可愛くない言葉も全部、受け止めて笑ってくれるそんな器の大きい人だ。
だから時折、俺は藤堂くんと釣り合ってないのではないかという思考に陥る。
比べて劣っていると感じて、そうやって俺は、更に俺を嫌いになっていくのだ。

「絶対、俺よりも「それ以上喋んな」

ベラベラと止まらない俺に、ずっと黙って聞いていた藤堂くんが聞いた事もない程に低い声で遮る。
完全に怒っている。
俺の前では見せた事の無い表情に、足が竦む。
藤堂くんをこんなにも『怖い』と思ったのは初めてだった。

「お前がその気なら勝手にしろ」

それだけ言い捨てて、大股で去っていく後ろ姿。
これは、駄目だ。
このまま藤堂くんを行かせてしまったら、きっと後悔する。
一度冷静になる時間を設けた方が良いのかもしれないけれど、時間が経てば経つ程に、俺は何も言えなくなってしまう。
きっと藤堂くんはその逆のタイプなのだろうけれど、それじゃ藤堂くんが先に折れる事になる。
ごめん、って悪くもない謝らせて、それで仲直りなんて嫌だった。
意地を張るな、藤堂くんを失いたくないのなら、自らが動け。
嫌だと逃げ腰になる足を叱咤して、先程よりも遠くなってしまった後ろ姿を目掛けて走り出す。
あっという間に距離が縮んで、手を伸ばせば届く距離まできた所で急ブレーキをかけた。
何て声をかけたら良いのかわからなかったが、まるでそれを引っ張れとでも言うようにあつらえられた、腕に引っ掛けただけのスクールバッグが目に止まる。
咄嗟にグイッと鞄を引っ張れば、藤堂くんの重心は簡単に後ろに下がる。
まるで予期していたかのように。

……ンだよ」

先程よりもいくらか凄みの抜けた声。
怒ってる癖に、こんな所まで優しいなんて狡い。
離せとでも言われたら手を離してしまっていたかもしれないけれど、藤堂くんは言わなかった。
それが答えのような気がして、スクールバッグから手を離せないまま地面を見つめる。
どう言おうか、何を言おうか、全くもって考えていなかった俺は、藤堂くんの視線を受けながらも沈黙したまま。
それを律儀に待っていてくれるのだから、俺の言いたい事なんて、多分大体バレているのだろう。
これだから藤堂くんには敵わない。

「あの……
……
「すみませんでした」

やっとの思いで絞り出した小さな声は、ちゃんと藤堂くんに届いただろうか?
確認したくても藤堂くんの顔が見れなくて俯いたまま、自分の靴の先をジッと見つめる。
そんな事をしていても、何も解決しないのに。

「何が悪いのか、ちゃんとわかってっか?」

どこか諭すような声が上から降ってきて、恐る恐る顔をあげる。
そこには眉を下げた藤堂くんの顔があって、先程の怒気はもう感じられなかった。
それにホッと胸を撫で下ろして、藤堂くんの鞄から手を離す。
手持ち無沙汰になったその手をもう片方の手でニギニギと握りながら、俺の悪かった所を思い出す作業に入った。

「本当は、あんな事が言いたかった訳ではなく」
「千早くんは素直じゃねーから。な?」
「言い返す言葉もありません。もう少し素直になる努力をします」
「素直になって欲しいのも間違っちゃいねーけど。俺が怒ってるトコそこじゃねーンだわ」

え? どういう事だ? 俺があまりにも捻くれた事しか言わないから怒ったんじゃない? え? じゃあ、何で怒ったんだ?
顎に手を当てて真剣に考えてみたが、それらしい理由は見つからなかった。

「やっぱりわかってねーな?」
「すみません。何が悪かったんですか?」

これ以上いくら考えてみても答えは出てきそうにないので、手っ取り早く答えを貰う事にした。
何が悪かったのか素直に聞くと、藤堂くんは少しは考えろとでも言いたげな目を向けてくる。
失礼な、考えたけど少しもわからなかったのだから仕方がないじゃないか。
そもそもちゃんと一回考えてたでしょーが、目の前で!
少しむくれて見せれば、軽く笑って頬をつついてくる。
こんなの相手が藤堂くんでなければ、即刻叩き落としている所だ。

「千早が自己評価低いのは今に始まった事じゃねーけど、俺はおめェに『俺なんか』とか『俺よりも』とか言ってほしくねーの」

そう言って寂しそうに笑う顔に胸が傷んだ。
けれどそれは、難しい話だ。
俺は自分の事が嫌いだし、どれだけ藤堂くんの隣にいようとも『俺なんか』や『俺よりも』なんて事を考えてしまうだろう。
それは難しい、そう言うのがわかったのだろう、藤堂くんの方が先に口を開く。

「特に俺との事に関して言われるのが嫌」
……
「俺はさ、好きで千早と一緒にいるし、千早が一番だと思ってる。俺の好きな奴貶すの、やめてくれねーかな?」

何を言ってくれちゃってんのこの人。
小っ恥ずかしい事をサラッと言うタイプなのは知っていたけれど、だからってこれは。
言った本人ケロッとしてるし、本当に本気で思った事を口にしただけなんだ。
こんなのに勝てる訳がない。
俺が何度『俺なんか』と言った所で、また同じ事を言われるだけ。
もしかしたら、もっと恥ずかしい事を言ってくる可能性すらある。
その羞恥心に耐えられるなら言ってみやがれとでも言われているような気がして、早々に白旗を上げた。

「恥ずかしい人ですね」
「俺は恥ずかしいって思ってねーし?」

やっぱり。
そんで、自信満々なのがムカつく。

「馬鹿ですよね」
「千早馬鹿って事なら間違っちゃいねーな」

そんな事は聞いちゃいない。
てか、千早馬鹿ってなんだ。

「ほんと、ばか」
「ははっ、覇気がなくなってきたな。顔真っ赤にしてンのすげー可愛い。あっ、顔隠しても耳は丸見えだぞ?」

可愛くなんか、ない。
顔だって赤くない。
耳だって。

「もう、喋んないでください」
「無理な相談だな」
「本当に、無理」
「じゃあ、俺ン家連れてってもいい?」

じゃあってなんだ、文脈おかしいだろ。
藤堂くんの馬鹿正直な言葉の応酬に、この場にしゃがみ込んでしまいたい気分だった。
それでも何とか立ったまま、素直になれない俺の精一杯の強がりを。

…………好きにすれば良いんじゃないですか……っ」
「じゃー、そうする」

今日一番の笑顔を見せる藤堂くんに、もう好きにしてくれと手を振った。
どう足掻いたって俺の負けなのだから。
向かった藤堂くんの家で足腰立たなくされるなんて、この時の俺はまだ知らない。


そして後日、結構乗り気なムチパツ魔女と、全く乗り気じゃない眼鏡魔女が誕生したのは、また別の話。


END