風花莉亜
2026-01-16 09:00:27
4673文字
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季節の変わり目には気を付けて。

第25回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点の千早くん風邪っぴき話。看病要素は薄め。一応両片想い。よくある話です。藤堂くんのお姉様が少しだけ出てます。いつも通り何でも大丈夫な方向け

千早が風邪を引いた。
『季節の変わり目ですから、風邪など引かないようにしてくださいね』とかぬかしてた癖に、言った本人が風邪を引いてどうする。
でもまぁ、あの体調管理さえ完璧にやってのけそうなアイツが風邪を引いたのだから、今年のウイルスは強いのかもしれない。
学校でも流行っているし、たまたま誰かのを貰ってしまったって事で、運が悪かったなァ、なんて。
ゆっくり休めとメッセを送れば、藤堂くんじゃないので言われなくても休みます、と可愛くない返事が返ってきた。
全くもって可愛くない。
余談だが、ヤマが心配する内容を送れば、こちらは素直にありがとうございます、と返ってきたらしい。
何で俺には当たりが強いの?


朝の時点ではまだ、メッセを送れば返事が届いていたが、お昼を過ぎた辺りからそれがなくなった。
薬を飲んで寝ているのなら問題はないが、少し不安が残る。
間違いなく両親は仕事で不在だろうし、体調不良の最中、一人きりと言うのは結構しんどい。
見舞いに行くか?
きっと千早に見舞いに行くと言えば、来るなと返ってくるのが目に見えるから、うん、黙って行こう。
ただの友達そのいちが、わざわざ見舞いに行こうなんて考えているのには、訳がある。
単純に友達として心配だから、なんて表向きの答えも用意しているが、まぁぶっちゃけ好きな奴が弱っているのなら何とかしてやりたい、そんであわよくば好印象を与えたい、と言うのが本音だ。
千早からの『好き』を得られるのならば、なんだってしてやる。
そう意気込んで、学校が終わると一目散に家と帰ってきた。
今日は部活がなくて、だからこうして直ぐに千早の元へ向かえる事を有難く思う。
ただただ早く、千早に会いたかった。

看病する為に必要な物を集めて袋に詰める。
そんな俺の背後に、人の立つ気配がした。

「あんた何処いくの?」

準備をする俺の背中に声をかけてきたのは、姉貴だった。
相変わらず下着姿でウロウロしていて、だから服を着ろと何度言ったらわかるのか。
客がいる訳ではないとは言え、妹への悪影響が酷いから即刻やめていただきたい。
チラ、と姉貴を一瞥して溜息を吐く。

「千早の見舞い」
「千早くん、風邪でも引いた?」
「そー。アイツ家に一人だから心配で」
「保護者か」
「あ?」
「そうだ、お見舞い行くなら丁度良いのあるよ」
「なに、って花ァ?」

丁度良いと言いながら持って来たのは、花だった。
ミニブーケにされたそれはビタミンカラーである黄色で、元気の出る色ではある。
けれど、いま必要なのはそれじゃない。
それからスルーする所だったけど、保護者でもない。

「マリーゴールド、綺麗でしょ?」
「花で風邪が治るかよ」
「わかってるわよ馬鹿。でも、見てるだけでも気分的に違うからね? 花ナメんな」
「ナメちゃいねーけどよ」
「じゃあ、持って行きな」
「へいへい」

弟という生き物は、姉には逆らえない。
ぐい、と強引に押し付けられたマリーゴールドが香って、青臭さの中に、どことなく柑橘系の匂いがした。


*****

俺のアポ無し訪問に、ドアを開けた千早は呆れていた。
けれど調子が悪くて弱っているからなのか、想像していたよりもすんなりと家へと上げてくれた。
最初こそ移るから帰れと言われたけれど、絶対に風邪引かないからと自信満々に言えば、馬鹿なのかと溜息を吐きながらも、どこか嬉しそうで。
その顔が可愛くて思わず抱き締めてしまうというアクシデントがあったものの、現在の俺はアレコレと千早の世話を焼いて寝かしつける事に成功している。
俺が来るまで寝ていたわりにすんなりと寝てしまって、やっぱり調子が悪いんだと再確認した。
因みに、アレコレについては、お粥を食べさせたり着替えを手伝ったり、個人的には役得でした!

千早が寝ている間にキッチンで食器を洗い、再び千早の部屋へと戻って来ると、部屋を出た時と同じように寝ているのが目に入る。
薬も効いて、ちゃんと寝れているなと安心した。
スヤスヤと眠る顔を見て、頬が緩む。
セットされていない髪型に眼鏡のない顔はあどけなく、実年齢よりも幼く見えた。

姉貴に持たされたマリーゴールドはヘッドボードに置いて千早を見守って貰うことにした。
流石千早の家、花瓶ある?とか突然聞いても普通に出てくる。
これがウチならそうはいかない。
と言うか、一般家庭に花瓶ってあんのかな? 他の奴らに今度聞いてみるか。
しかし成程、こうして見てみると、どこか無機質な千早の部屋がビタミンカラーの黄色を置くだけで明るく見える。
温かみのある部屋へと様変わりしたようで、正直に言うと驚いた。
姉貴もたまには良い物寄越すじゃんってか、これ明らかに貰い物な気もするけど、そこは目を瞑っておこう。
特にやる事もなく手持ち無沙汰な俺は、普段マジマジと見ることのないマリーゴールドを観察する事にした。
姉貴に持たされたコレは、黄色。
オレンジ色なんかも良く見るが、どちらにせよ鮮やかで色彩のはっきりとした花だ。
一輪でもボリュームがあって、少しだけ花火を彷彿とさせた。
ツンツン、と花弁をつついていると、もぞりと動く気配がしてその手を止める。
布団へと目を向けると、千早の瞼が持ち上がる所だった。

「ん……
「わり、起こした」
「藤堂、くん」
「すまん。あーっと、何か飲むか?」
「そう、ですね」

そう言って起き上がろうとする千早に手を貸してやると、まだまだ体温が高い事に気付く。
大丈夫か、と覗き込んだその瞳が熱のせいで潤んでいて、ゴクリと喉が鳴った。
病人相手に何を考えているんだ、俺。
邪な考えが頭を擡げて、動きを止める。
ピシリと固まった俺に首を傾げる千早は、どこまでも純粋無垢に思えた。
何でもないと誤魔化すようにヘラりと笑い、スポーツドリンクを取ってくると行って部屋を出る。
パタンと閉まったドアの先で、ドッと汗が吹き出した。
手を出したら駄目だろってか、俺らまだ付き合ってすらいないし、なんなら告白もまだしていない。
でも、多分、きっと、千早と俺は両想いだ。
こんな風に点数稼ぎに見舞いに来なくたって、そこは揺るがない事実。
それでも会いに来たのは、千早の顔を見たかったというのがデカイかもしれない。
今日一日を過ごして、隣に千早が居ないというのは物足りなさを感じさせて、そして寂しかった。
あの意地の悪い言葉も、ポンポンと繋がる会話も、楽しそうに笑う顔も声も、それら全部が俺にとっては愛おしいもので。
そのどれもを崩さないように、お互い付かず離れずの距離感を保って、一番楽なポジションに居座っていた。
先に進む気はないのかと問われれば、俺はそろそろ先へ進みたいと考えているが、果たして千早はどうなのだろうか。
俺よりも色んな事を考えている千早だから、もしかしたら先へと進む事を良しとしないかもしれない。
だからこの距離感でいるのかもしれないと考えると、告白したが最後、この関係も終わってしまうのではないか、そう考えると尻込みしてしまいそうになる。
だとすると、この距離感が正解なのか。
わからない。

あまり長い事千早を放置する訳にもいかないので、ペットボトルを手に部屋へと戻る。
ドアを開けると千早は起き上がったまま、ぼんやりとマリーゴールドを眺めていた。

「気に入ってくれた?」
「え?」
「それ」
「綺麗ですよね……あの、聞きそびれてましたが、どうしたんですかこれ。まさか藤堂くんが買ってきた訳じゃ、ないですよね」

俺が花屋で買う所を想像したのだろうか、途端に有り得ないとでも言いたげな顔になる。
悪かったな、花屋とは無縁そうな顔で。

「姉貴に持たされたンだよ」
「そうでしたか」

納得した、という顔が気に入らない。
何で姉貴だと納得できンだよ? だから化粧取ったら俺と同じ顔だっての!
不貞腐れそうになりながら、妙案とばかりにひとつ思いつく。
本当に俺が花を贈ったのなら、千早はどんな顔をするのだろう。

……花、俺から貰いたい?」
「なんです、突然」
「なんとなく」
「因みに、何を贈ってくれるんですか?」
「薔薇とか」
「ふふ、真っ赤なやつを?」
「そう」
「アハハ」
「笑うな」

冗談めかして言ってはいるものの、わりと本気のやつなんだが?
若干涙まで流して笑う千早に恨めしい気持ちになるが、楽しそうで何よりって事で諦めた。
でもいつか、真っ赤な薔薇の花束は贈るつもりだから覚悟しとけよ、なんて心の中で宣言して、渡しそびれていたペットボトルを渡す。
ゆっくり飲めよ、と言えば、藤堂くんは過保護ですよねと一言。
過保護、なのか? いやでも、過保護にもなるだろ。
俺はどちらかと言えば、尽くしてやりたいタイプだし、病人を目の前にしたら尚更。

何だかんだと言いながらも、言いつけを守ってゆっくりとスポーツドリンクを飲む千早を見守る。
その背後にマリーゴールドを見て、そーいや玄関を出る時、姉貴がマリーゴールドの花言葉を教えてくれたっけと思い出した。
今回のこれは見舞いの品として持って来ているので『健康』で良いんだけど、俺的にはもう一つ追加しておきたい。
それを言ったらまたロマンチストだなんだと言われ兼ねないけれど、変わらない自信はあるし?
……あー、やっぱり、先へ進みたい。
飲みかけのペットボトルを受け取ってキャップを閉め、ヘッドボードの上、マリーゴールドの隣りにコトリと置いた。

「なァ、千早」
「なんですか……っ」

名前を呼んで身を乗り出して、そうして千早の唇に自分の物を重ねる。
一瞬だけ触れたソレは熱くて、少しだけカサついていて、初めてのキスはスポーツドリンクの味がした。

「好きだ」
「え、あ、えっと……順番おかしくないですか?」
「ふはっ、告白されて第一声がそれかよ」
「だって……
「顔真っ赤」
「うっさい」
「千早くん、こっち見て?」
「無理です!」
「ははっ」

こっち見てと言っても恥ずかしがって見てくれないので、代わりにギュッと抱き締めると、先程よりも体温が高い気がした。
熱上がったか?
ポンポンとあやすように背中を叩くと、告白の余韻などなく俺の腕の中で千早が微睡み始める。
そうだ、そのまま寝てしまえ。
残念ながらここにずっといる事は出来ないけれど、千早が寝付くまではいるから。

「おやすみ」
「ん……
「あぁそうだ、覚えてないかもしれんが一応。マリーゴールド大事にしてくれたら嬉しい。俺の気持ちだから」
……よく、わかりませんが……わかり、ました……
「それはわかったのか、わかってないのか、どっちだよ」

呆れた俺の声にはもう、返事が返ってくる事はなかった。
起こさないようにゆっくりベッドへと千早を寝かせて、少しだけ寝顔を見つめる。
起きた時に千早は、俺の言った事を覚えているだろうか。
覚えてたら嬉しいけれど、覚えてなかったとしても別に良い。
もう一度最初からやり直したら良いのだから。
すやすや眠る千早の頭をひと撫でし、名残惜しい気持ちを振り切って立ち上がる。

「じゃーな、千早。はよ良くなれよ」

寝顔へそっと声ををかけると、少しだけ笑ったように見えた。
それを見て、明日は千早が学校へとやって来るような気がした。






「変わらぬ愛って……藤堂くんって本当にロマンチストだな」

END