風花莉亜
2026-01-16 08:58:19
5526文字
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体育祭マジックなんて、君の前ではないに等しい。

第23回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点で体育祭前日と当日のお話。クサイ事言ったりやったりする藤堂くんがいます。そして話の中でとどちの利き足が出てくるのですが、二人とも右って事にしてます。実際はどーなんでしょうね?
いつも通り何でも大丈夫な方向け!

「千早ー」
「なんですか?」
「手ェ出せ」
「え、なんですか、変な物寄越さないですよね?」
「変なモンじゃねー!」
「本当に?」
「妹からだっての!」
「それなら、いただきます」
「何で俺からだと変な物扱いで妹からだと素直に受け取るの?」
「妹さんが変な物寄越してくる訳ないですし」
「俺だってねーよ!!」

二人きりの帰り道。
足を止めた藤堂くんに名前を呼ばれ、手を出せと言われた。
こちらへと突き出される拳の中には、何が入っているのか見当もつかなくて、変な物でも寄越してくるんじゃないかと疑う。
けれどそれは妹さんからだと言われ、素直に藤堂くんの拳の下へと手のひらを潜り込ませた。
そんな俺の態度が気に入らなかったらしい藤堂くんはムッとした顔をしていたけれど、俺は気付かないフリをした。

「ん」
「ミサンガ?」

手のひらに置かれたのは、赤とオレンジの組み合わせのミサンガだった。
手作りらしく、少し形は不格好。
けれど、一生懸命作った事が窺えた。
しかし何故、ミサンガ?
俺の戸惑いを感じ取った藤堂くんは、明日、と口にした。

「明日、体育祭だろ。お守り的なやつらしい」
「お守り、ですか」
「おう。俺も貰ったけど、手首に付けたらいいんかって聞いたら足首に付けとけって姉貴が言ってた」
「あぁ、お姉さんと作ったんですね」
「みたいだな。俺も今朝渡されて知ったんだよ」
「と言う事は藤堂くん、コレに関してはノータッチなんですね」
「え」

ぽかり、間抜けに口を開いてフリーズする藤堂くんが面白い。
普段だったら一枚噛んでいそうな所、今回は完全に蚊帳の外にされていたらしい。
それもそのはず、藤堂くんに渡す物を本人と一緒に作ろう、とはならないだろう。
内緒にして驚かせたかったのかもしれないし、どちらにせよサプライズ的には大成功だったようだ。
きっと今朝の藤堂くんは貰った瞬間に驚き、そして満面の笑みを浮かべた違いない。
この男が最愛の妹からのプレゼントを嬉しくないはずがないのだから。
ただ、自分だけに用意されたと思っていた物がもう一つ出てきた時、藤堂くんはどんな顔をしたのだろうか。
その場に居合わせたかった、なんて意地が悪い事を考えた。

……そーだよ、何も関わってねェの。だからさ、俺が千早の足首に付けても良いか?」

おや、これは予想外。
妹さんからのプレゼントを自らの手で俺に付けたいと言ってくるとは。
てっきり、俺へと少しばかり嫉妬心を向けてくるものだと、そう思っていたのに。
真面目な顔でそんな事を言われてしまえば、首を横に振るのは失礼ってものだ。

……いいですよ。特別に許可します」
「ははっ、えらそー」
「藤堂くんのは」
「ん?」
「藤堂くんのは、俺が付けてもいいですか?」
「勿論。あー、じゃあ、公園でも寄ってくか? ベンチあるし」
「そうですね」

藤堂くんの指差す先に、公園がある。
正に目と鼻の先の場所で、歩いて数歩、時間にして僅か数十秒。
流石にこんな道の端で付ける訳にもいかないので、公園に行く事を素直に了承した。

太陽も傾き街灯に照らされた公園には、人っ子一人見当たらない。
時刻も時刻なので子供が居ないのは当然として、ジョギング中だったり散歩中だったりの人もいないのは、珍しかった。
住宅街の中にある事もあって、まだこの時間は人の気配のある公園なのだが、今日はひっそりとしている。
静かな公園に、藤堂くんと二人きり。
何だか知らないが急にドキドキしてきてしまって、上手く藤堂くんの顔が見られなかった。

「先付けるから、座ってくれ」
「は、い」

明後日の方を向きながら、言われるままにストン、とベンチへと腰掛け、少しだけ右足を前へと出す。
屈んだ藤堂くんに持っていたミサンガを差し出すと、大きな手がミサンガを掬って、それから何を思ったのかその赤とオレンジ色へと唇を寄せた。

「んなっ!?」
「おまじない、ってやつ?」

何てクサイ事をするんだ、コイツ。
うぐぐ、と言葉に詰まる俺を余所に、藤堂くんは鼻歌でも歌いそうなご機嫌さで、俺の足首へとミサンガを巻く。
緩く円を描いて、その先と先を結んで、完成。
それを見て何故か満足そうな顔で頷いているので、先程の行動に何か言ってやろうと考えていたのに、文句の一つも言えやしない。
これ、次は俺が藤堂くんの分を付けるんだよな……
同じ事をしないとダメな流れな気がする。
気がするけれど、したくない。
だって恥ずかしすぎませんか!?
頭を抱えたくなる俺など気にも留めず「じゃあ、次は俺な」とか言って勝手にベンチへと腰掛けた。
それを見て渋々と立ち上がり、藤堂くんの足の前にしゃがみ込む。
……足のサイズ大きいな。
ついつい自分のと見比べてそんな感想を抱いた。

「千早?」

声と共に上半身を屈ませて覗き込んできた藤堂くんの顔が視界に入る。
サラリ、と金の糸がひと房落ちるのが気になった。

「なんでもないです」
「そ?」
「ええ」

藤堂くんの落ちてきた髪を耳にかけてやってから、ミサンガを寄越せと手のひらを出すと「さんきゅ」とお礼の言葉を言われる。
それから俺の手のひらにミサンガを乗せて、そのまま手を取られた。
その行動が何を意味するのかわからなくてされるがままでいると、ミサンガごとぎゅぅっと握られ、ますます意味がわからなかった。

「俺と同じ事はしてくれないだろうから、これで勘弁してやる」
……あんな事、死んでも無理です」
「ははっ。千早くんは照れ屋さんだもんなー」
「うっさい」

ケラケラ笑う藤堂くんを憎たらしく思いつつ、けれどこんな風に揶揄い合うのも嫌いではない。
離されて自由になった手で、藤堂くんズボンの裾を捲り、足首へとミサンガを巻く。
どうやら藤堂くん用に作られた物の方が長さがあるらしく、難なく先と先を結ぶ事が出来た。

「お揃い、ですね」

立ち上がって藤堂くんの隣へと腰掛ける。
誰かと何かを同じにする事は初めての経験で、どこか擽ったい。
それが恋人となのだから、擽ったいの他に嬉しいという気持ちが追加されて、胸がいっぱいになった。

「色も一緒だしなァ」
「赤とオレンジですね」
「あー、なんだっけ、色に意味があるらしい。何か言ってたんだけど思い出せねー」
「色に意味が? えっと、あ、ありました。勝負運を上げる、みたいですね?」

ポケットからスマホを取り出して検索してみると、そんな事が書かれていた。
赤が情熱でオレンジが力強さらしい。
他には、ピンクと赤は恋愛……
こちらは利き手首に付けるのがオススメ……
どこに付けると良い、とかあるのか。
へぇ。

「つまり、体育祭負けんなよって事か?」
「え?」
「なんだよ、ぼーっとしてた?」
「すみません」
「ま、いいけど。このミサンガさ、勝負運を上げるやつって事は、明日の体育祭負けんなって事かなって」
「あー……ですかね」
「じゃあ、気張んねーとな」
「貰ってしまった以上、負けられないですね」
「だろ?」

ニッと笑って藤堂は拳をこちらへと向けてくる。
それに笑い返して、同じように拳を突き出した。
コツン、とぶつかる右手の拳に振動が伝わって、やっぱり負けられないなぁ、と思った。
最初から負けるつもりなど、毛頭ないけれど。



*****

「ちょっと待って!!アイツの事今までカッコイイとか思ったことないのに、カッコイイって思っちゃったんだけど!」
「早くも体育祭マジックかかってるじゃん」
「やーだー」
「あはは、もう告っちゃえば?」
「流れでOK貰えちゃいそうで嫌すぎる」
「えー、いいじゃんいいじゃん。お似合いだよ?」
「いやもう、笑ってんじゃん!」

体育祭当日、一つ種目を終えて顔を洗いに来たら、そんな会話が耳に入ってきた。
テンションの上がった彼女達は、声のボリュームを落とす事を知らない。
つまりこれは、聞き耳を立てていた訳じゃなく、たまたま聞こえてしまった訳で、だから不可抗力です!
彼女達が去った水道で手を洗って、それから顔も洗う。
タオルに顔を埋めて、先程の彼女達の会話を思い出す。

「体育祭マジック、ねぇ」
「なんそれ?」
「っ」

びっくりした!!
突然隣から声がして、気を抜いていた俺は小さく跳ねる。
いつ来たのか知らないが隣には藤堂くんが居て、俺に呟きに不思議な顔をしていた。
無垢な瞳が説明を求めてくるものだから、仕方なしに説明をしてやる事にするが、その前に、場所は移動したい。
先程の女子達が戻ってくるとは思わないけれど、万が一の可能性は捨てきれない。
ここで体育祭マジックの話をして、盗み聞きしたとか思われたらそれはそれで嫌なので。
場所移動しましょうか、と動き出せば、藤堂くんは素直に付いて来て、何だか親鳥の後を付いてくる雛鳥みたいだと笑ってしまった。

人の少ない所を求めて移動して来た、太陽の日差しを遮る大きな木の下は、風が吹いている事もあって涼しい。
丁度良い場所があったと、二人並んでその場に座った。

「体育祭マジックってワード、聞いた事ないですか?」
「しらねー」
「縁がなかったんですかねぇ」
「何か知らんが、バカにしてる?」
「してませんって」

だからそんな睨まないでくださいよ。
それに、縁がないと言う事は、俺にとっては好都合。
藤堂くんがモテモテなのは恋人としても友人としても、面白くないものだ。
まるで俺の心を表すかのように、一瞬だけブワッと強い風が吹き、一つに結んだ藤堂くんの髪を揺らす。
次の瞬間バチリ、と目が合い、それを合図に俺は体育祭マジックについての説明をする事にした。

「体育祭とか、行事って気分が盛り上がるじゃないですか。その雰囲気に当てられて、普段は思わない、例えば体育祭なら競技中にカッコイイって思った所から好きかも?って気になったり、流れで告白して付き合ったり、それこそマジックにかかってしまったように感じる事、ですかね? 大体が効果が切れたら何とも思わなくなるまでがセットです」
「へぇ」
「聞いておいて反応うすっ」
「だってよ、俺には関係ない話だったから」
「そんな事言って、藤堂くんだってモテちゃうかもですよ?」

なんて、心にもない事を言ってみる。
だって先にも述べたように、俺は藤堂くんがモテるのは面白くない。
いくら本人がそれを望んだとして、素直に良かったね、なんて言えやしないのだ。
それは多分、俺と付き合ってるんだから、他に目移りされても困るというのが大きいかもしれないが。

「俺は……

俺の思考を突き破るように、藤堂くんが何かを言おうとする。
一体何を。
緊張のあまりゴクリ、と唾を飲み込む音が嫌に大きく聞こえた。

「俺は、おめーにだけモテてたら、それでいい」
「ばっ、かじゃないですか……っ」
「あれ? 照れてンの?」
「照れてないです!」

サラっととんでもない事言ってきたー!! なにそれ、なにそれ!? 俺にだけモテてたらそれで良いってなんなんですか!? は!? 言ってて恥ずかしくないんですか!?
照れてるかってそりゃ照れもする。
こんなん言われて真顔でいられる訳がない。
全くもってこの男は心臓に悪い、悪すぎる!!
ニヤニヤした顔を隠しもしないで、ウリウリ、なんて言いながら俺の頭を撫でてくるのもムカつく。
ムカつくので手を振り払ってやったけれど、藤堂くんは気にしてないようだった。
どうせ照れ隠しだとでも思っているのだろう。
半分当たりで半分ハズレだ。

「でもまぁ、体育祭の力借りて惚れ直させてやるから覚悟しろよ?」
……マジックの効果が切れたら何とも思わなくなっちゃいますよ?」
「ならねーよ。持続させてやっから、安心しとけ」
「アハハ、どこから来るんです? その自信」
「決まってンだろ、俺が藤堂葵様だからだっての」
「意味わかんないですけど、精々頑張ってください?」
「任せろ!」

見てろよ、そう言って立ち上がった藤堂くんは、馬鹿みたいに眩しく見えた。





───応援団はズルいですよねぇ。
俺自身も学ランに身を包み隣に立ちながらも、そっと溜息を吐く。
小手指の制服はブレザーで、だから藤堂くんの学ラン姿は目に新しく、そして文句なしにカッコイイ。
元々が学ランとか似合う見た目なのに、黒一色の中、太陽の光を浴びて輝く金色に惹かれない訳がないのだ。
背も高くて筋肉だってそこら辺の男子高校生よりもあって、そんな藤堂くんが学ラン姿で応援団とか、カッコイイの一言に尽きる。
袖を巻くって剥き出しになった腕に目が行くのも最早自然の摂理だし、女子が黄色い悲鳴を上げるのも、男子が憧れるのも、よくわかる。
太陽の下、眩しい笑顔を振り撒くあの向日葵が注目されるのも、当然の事。
普段よりも良く見えてしまうのだから、やっぱり体育祭マジックってあるんだなと思った。
でも、そんなのは周囲の人間だけ。
俺にとっては、

……体育祭マジックとかなくったって、何回も惚れ直してるっつーの」

藤堂くんがカッコイイのとか、今に始まった事ではないし。
ポツリと呟いた言葉は誰に拾われるでもなく、空気に溶けて消えた。





「ねー、ヤマちゃん」
「どうしたの?」
「俺ね、気付いちゃった」
「何を?」
「二遊間、お揃いのミサンガ付けてない……?」
「えっ?」


END

このとどちは付き合ってる事を隠してます(隠せてるかは別として)