風花莉亜
2026-01-16 08:57:12
5701文字
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8月の終わり、真空パックで閉じ込めて。

第22回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点で、藤堂くんの誕生日に小手っ子でお祝いした後、藤堂くんの家で初めてキスする話。べろちゅーあり。藤堂くんのお姉さんと妹ちゃんも少しだけ出てます
いつも通り何でも大丈夫な方向け(いつも以上に文章下手、誤字脱字etc.)

俺は
この特別な日を忘れたくなかった────…………





8月の終わり、君の誕生日。
藤堂くんの家で彼をお祝いして、そろそろご家族が帰って来るだろうからと、四人揃って玄関へと向かう。
清峰くん要くん、そして山田くんと、次々と玄関から外へと出ていき、最後に俺が出るはずだった。
一歩踏み出して境界線を出るその瞬間、俺よりも太い腕に引き止められて内側へと逆戻り。
ガタン、と閉まるドアがスローモーションに見えた。

「え」
「瞬ちゃん?どったのー?」

ドア一枚隔てた向こう側から、要くんの声がする。
どうしたもこうしたも、こっちが聞きたい。
出て行こうとする俺の意思を遮ったのは、本日の主役なのだ。

「悪い、まだ千早に用あったの忘れてたから先に帰ってくれ」
「えー?しょうがないなぁ。じゃあねー、葵ちゃん、瞬ちゃん」
「藤堂くん、お邪魔しました。千早くんもまた明日」
「藤堂千早、また明日」
「あ、はい、また明日」
「今日はありがとな」

反射で返事をしたものの、いまいち状況を飲み込めていない俺を差し置いて、藤堂くんは三人を帰してしまった。
三人も三人だ、何の疑問も持たずにそれぞれ挨拶して帰っていくなんて。
少しも玄関のドア開けないし、不思議に思わなかったのだろうか。
まぁ、開けられたら開けられたで困るのは俺なんですけどね!?
何故なら、今の俺は藤堂くんに後ろからハグされている状態。
引き止めるなら、腕を引くだけでいいだろ普通! こんな所、誰にも見せられやしない。
口の中でブツブツ言っていると、胸の前に回された腕に力が入った気がした。

「あの、藤堂くん?」

俺の直感が、赤信号を灯す。
このままでは駄目だと身体を捩ってその腕から逃げようとしたのに、有無を言わさない力強い腕に向きを変えられ、視線が混じり合う。
酷く熱のこもった目が俺を見詰めていて、思わず固まってしまった。
ソレは、完全に捕食者の目だった。
待って、と静止の言葉を紡ごうとしたのに、頬へと伸ばされる腕を辿ってしまって、袖から覗く日焼けのあとに、目を奪われる。
くっきりとしたコントラストだった。
あーあ、こんなに焼けちゃって。
一人だけ半袖で練習しているからそうなるのだ。
いくら日焼け止めを塗ったって汗で落ちてしまうし、こまめに塗り直したとしても日焼けは防ぎようも無い。
だと言うのに、藤堂くんは俺が塗り直せと言わなければ塗り直さない。
言えば破顔しつつも「今塗るとこ!」だなんて言いながら素直に塗り始めるクセに。
だったら最初から塗っておけって話なのだが、今思えば、わざと俺に言わせていたのだと気付く。
あー、もう、これだから藤堂くんは。
要らない事に気付いてしまって、じわじわと頬が熱くなった。

日に焼けた健康的な肌と、布に阻まれて白いままの肌とのコントラストが、何だかエロく感じる。
って、何を考えているんだ俺は。
たかだか日焼けのあとに。
知らず知らず寄る眉に、藤堂くんは首を傾げた。

「どうした?」
「え」
「何かエロい事でも考えてンの?」
「は、ぁ!? 藤堂くんじゃあるまいし!」
「ははは。まぁそりゃ、考えるわな。エロいこと」

こんな状況だったら。
近い距離感に、息が止まるかと思った。
先程よりもギラギラとした目が俺を捉える。
完全に墓穴を掘ったのは俺の方で、してやられた、と頭を抱えたくなったけれど後の祭り。
もうどうにもならない所まできてしまっていた。
このまま、キスをするのだろうか。
いや、絶対する、この状況でしないとかあえないだろ。

実の所、俺達はまだキスをした事がない。
手を繋ぐ事も抱きしめ合う事もしたけれど、唇を重ねることは、まだ。
二人きりになった事なんて両の手じゃ足りないくせに、それでもしてこなかったのは、いざそんな雰囲気になるとどうにも照れ臭くなってしまって、お互い距離を取ってしまうから。
恋愛初心者だとしても、奥手過ぎないだろうか。
頭では理解していても、心はついていかない。
心がついていかないから、身体も動かない。
したくない訳ではないんだ、だって、俺にとっては正真正銘のファーストキスになる訳で。
それを藤堂くんとって考えただけでドキドキするし、素直に嬉しい。
でも、初めてだから上手く出来るのか不安でもある。
だからと言って、いつまで経ってもキス一つ出来ないままなのは嫌だから。
だから、藤堂くんがその気になっている今、今がチャンスなんだ。

ゆっくり落とされる影にそっと目を瞑る。
心臓が尋常ではない程にドクドクバクバクいっているし、口から飛び出そうだったが、平気なフリをした。
きゅっ、と無意識に引き結ばれた唇へと藤堂くんのものが重なり、少しだけ触れて離れていく熱に、そっと目を開く。
至近距離で見る緑がかった瞳が綺麗で目が離せなくて、吸い込まれるような気にさえなって、気付いたら再び唇が重なっていた。

……ふっ、」

俺の方から近付いてしまったはずなのに、玄関の扉へと背を預けるような形でキスを受け入れる。
なんだか覆いかぶさられている気になってしまって、ちょっと気に入らない。
ぐっ、と肩を押し返しても直ぐに戻されて、力の差に悔しい気持ちになった。
くそ、これだから脳筋は。
藤堂くんがキスに夢中になっている今が絶好のチャンス、何か、一矢報いる事はできないものか。
考えている間にも、一度唇が離れても直ぐに角度を変えて再び塞がれるの繰り返し。
触れては離れての繰り返しなのに、早くしないと気持ち良さに頭がふわふわしてきそうだ。
と言うか、このままだと舌が入ってきそう。
離す気はさらさらないとでも言いたげな腕が頭の後ろへと回されて、さっきよりもグッと引き寄せてくる。
このままじゃ、不味いな。
藤堂くんに好き勝手されるのもムカつく事に嫌いじゃないけれど、俺だって藤堂くんを好き勝手したい。
キスの主導権は完全にあっちにあって、だからといってただ受け入れるだけなのは何か違う。
俺だって、俺だって何か……あ。
妙案が浮かんだ、と俺の背中に回された腕とは逆の腕を指で辿る。
スルスル滑らせて上へ上へと。
指先が制服の袖に触れたのに気づいて、そのままその先へと潜り込ませてやった。
するとビクリ、と大袈裟に肩が揺れて勢い良く唇が離され、それと一緒に中へと潜り込ませていた指が袖から抜けた。

「なっ、なにして、んだ……っ!」
「藤堂くんばかり狡いなぁと思いまして」
「何がずるいんだ何が!」
「えぇー、わかりません?」
「わからん!ったく、無意識にエロい触り方しやがって」
「エロくなるように触ってますからねぇ」
「へぇ、そうなんだ?」
「そうですよ?」
……挑発してきたの、お前だからな?」

簡単に煽られちゃって、チョロいですね。
俺が無意識にそんな触り方する訳ないじゃないですか、意図的ですよ意図的。
俺ばかりが藤堂くんに翻弄されるのは悔しいから、少しでいいから藤堂くんも俺に翻弄されてしまえ。
そしたら、対等、でしょ?

「ンッ……ぁ、…………んんっ、」
………………ッ、……ふっ…………

直ぐに合わさった唇の隙間から藤堂くんの舌が入ってきて、強気に出たくせに本人もどうしたら良いのか考えていなかったようで、一旦止まってしまう。
これはもしかして、藤堂くんも俺と同じでキスをするのは初めてなのではないかと気付く。
初めての相手が、俺。
へー、ふーん、そうなんですか。
好きな人の初めてが自分だという事実が嬉しくて、口の端が上がる。
どうしよう、調子に乗ってしまいそうだ。
その証拠に、俺の腕は藤堂くんの首に巻き付いて離す気はない。
まるでもっとしてくれと強請っているようにも見える構図に、藤堂くんの気分も上がったようで、止まっていた動きが再開された。
肉厚の舌が俺の口腔内を無遠慮に縦横無尽に動きまくる。
歯列をなぞってみたり、上顎を舐めてみたり、舐めてない場所なんかないんじゃないかってくらいに動く。
しかし、その動きはどちらかと言うと犬に舐められているかのようで、もう少し官能的に出来ないものかと苦笑した。
仕方がないなぁ、こちらも仕掛けてやりますか。
とは言えキスの方では主導権は奪えそうにないので、別の方法で。
スルリ、と藤堂くんの服の裾から手を忍ばせて背中をなぞると、存外に敏感なのだろうか、少し悩まし気な吐息が聞こえた気がする。
藤堂くんって、そんな声出すんですね?
唇が離れた瞬間、思わずペロリと舌なめずりしてしまって、その動きを藤堂くんはガン見していた。

「おま、エロすぎ」

あんな声出しておいてどの口が言うんだと言いかけたその時、微かに外から聞き覚えのある高めの声がして、途端に現実へと引き戻された。
ヤバイヤバイヤバイ、玄関先で何をやらかしてるんだ俺達は!! と言うか、お姉さん達帰ってきたんじゃ……
慌てる俺を前に、藤堂くんは以外にも冷静だった。

「姉貴達帰って来たかも……一旦俺の部屋行くぞ!」
「え、は、はい」

慌てて靴を脱ぎ捨て、それでもきっちり揃える事は忘れない、だってお姉さん達からの印象は悪くしたくないので。
先に自室の襖を開けてその身を潜り込ませた藤堂くんに早く早くと急かされて、間一髪で俺も部屋へと滑り込む。
その後すぐ玄関が開いた音がして、ドッと冷や汗が吹き出した。
顔を見合わせてセーフ、と言い合う。
玄関先で「お兄ちゃんのじゃない靴があるー」と可愛らしい声が聞こえてきて、そろそろ帰らなければならないと悟る。
もう少し一緒に居たかったけれど、これからは家族の時間。
邪魔はしたくない。
藤堂くんに帰ります、と言えば微妙な顔をされたけれど、お姉さん達も帰って来たし引き止められないと思ったのだろう、何も言われなかった。
藤堂くんの部屋を出て、そこで鉢合わせたお姉さん達に帰る事を告げると、このまま夕飯も食べていけばいいじゃないかと言われて戸惑う。
嬉しい申し出なのだが、流石にこのまま留まる訳にはいかないと断ろうとして、しかしそれを藤堂くんに阻まれてしまった。
耳元で「もう少し一緒に居たい」なんて言われたら、帰れる訳がないだろ馬鹿。

そこからはもう、あっという間だった。
夕飯をいただいてケーキまでいただいて、それからお姉さんに泊まれば?と言われて、しかしそれには流石に首を振った。
もう十分すぎるくらいお邪魔しているのだ、これ以上は俺の良心が痛む。
今日は帰りますと言えば、何故か妹さんに残念そうにされてしまって少し困ったけれど、悪い気はしなかった。
仲間に入れてもらえたような、そんな感覚にこそばゆい気持ちになる。
この家族は、本当に温かい。
藤堂くんの家族だと言われて納得出来るほどに。
結局、一人で帰れると言う俺に黙って送られろと強気に言う藤堂くんの圧が凄くて、大人しく送られる事にした。
女子でもあるまいし、別に平気なんだけど。
そんな不満がなかったと言えば嘘になるけれど、お姉さんにも送ってもらいなさいと言われてしまっては従う他なくて。
藤堂くんってか、藤堂家が過保護なのかもしれない。

帰る支度をして玄関先でお邪魔しましたと言って、先に玄関を出た藤堂くんを追いかける。
すっかり辺りは暗くなっていて、少しだけ風がヒンヤリとしていた。
蝉の鳴き声や色んな虫が大合唱している人気のない道を藤堂くんと並んで歩く。
触れそうで触れない距離感が少しもどかしかった。
それでも、藤堂くんの誕生日というこの特別な日に、まだこうして一緒にいられている事が嬉しい。
本来ならばあの時、要くん達と一緒に帰るはずだったのに、それを引き止めたのは紛れも無く藤堂くん本人で。
玄関先とかちょっとどうなんだって話だけれど、初めてキスをして、藤堂くんのご家族と藤堂くんを祝って、藤堂くんの特別な日を、もしかしたら本人より俺の方が幸せな日になってしまったかもしれない。
そんな幸せの余韻に浸りながら、今日の出来事をぽつりぽつりと話す。
今は鮮明に思い出せる今日を。

俺は、この特別な日を忘れたくなかった。
だからこの記憶を真空パックのように出来たらどれだけ良いかと考えた。
鮮度抜群、いつでも鮮明に、そして色鮮やかに蘇る、そんな記憶にしたくて。
勿論そんな事は出来ないと知っている。
けれど叶うのなら、色褪せない記憶になればいい。
藤堂くんにこの話をしたら、たった一言「無理だろ」と言って笑った。
俺のよく知っている顔で。
けれど、この顔もいつか俺の頭の海馬から消え去ってしまうのだろう。
それは嫌だ。
無意識に呟くと、藤堂くんは道の端に寄って俺を抱き締めた。
力強くじゃなくて、優しく。
背中をポンポンと叩くのもいつもの事で、体温も匂いも、いつもと同じ。
そして、声も。

「いつか忘れるモンは忘れちまうんだろーけど、忘れられないくらい一緒にいるつもりはある」
「?」
「何で首傾げてンだよ」
「いやぁ、ちょっと」
「ちょっと、なに?」
「もう一度言ってくれません?動画撮るんで」
「やめろやめろ」
「これも一つの真空パックですから」

上目遣いでお願いすれば、ぐっ、と言葉に詰まった藤堂くんが白旗を上げる。
アハハ、やっぱり藤堂くんはチョロい。
いそいそとスマホを構えて藤堂くんをその中に収める。
ピコン、とお馴染みの音を鳴らした所でカメラレンズを手で遮られ、そのままスマホを奪われてしまった。
返して、と言うはずだった唇も塞がれて、残ったのは触れて分け与えられた熱だけ。
こういう所が狡いと思いつつも、流される俺も大概だ。
一度離れて至近距離で絡む瞳に『もう一回』を強請った。
そうすればすぐさま落とされる唇に、どうでも良くなってしまったのも、いつもの事。
遠くで車のライトが光るまで、俺達はキスを続けた。

END


いつも以上に意味不明な文章で申し訳ないです。難産すぎた