風花莉亜
2026-01-16 08:55:52
5728文字
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『俺は俺で勝手に幸せになります』っておめェが言うから。

第21回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で両片想い設定。お互いの気持ちに気付いているけど、友達以上の関係になる事を避ける藤堂くんと、それに痺れを切らして焚き付けてくる千早くんのお話。珍しくラブラブハッピーって感じではなく、少し暗めだったりなかったり。藤堂くんが気弱と言うか、後ろ向きな感じなので注意
いつも通り何でも大丈夫な方向け(文章下手、誤字脱字etc.)

千早の事が好きだ。
どんな好きかって? そんなもの、凡そ友達に向ける種類の好きではない。
キスしたいだとか、セックスしたいだとか、そんな種類の感情を抱え込みながら、友達という役を演じて日々過ごしている。
だから千早相手には不用意に触る事を避けていて、思わず触れたくなって伸ばす手を何度引っ込めた事か。
基本的にスキンシップを図るのが癖みたいな俺は、肩を組む事なんて日常茶飯事で、特にヤマ相手にはしているように思う。
高さが丁度良いというのもデカイが、何よりヤマは俺のスキンシップに嫌な顔をしない。
スポーツをしている奴全員がそうとは言えないけれど、結構な確率でスキンシップに関して当たり前のように受け入れている節がある。
ヤマもそのタイプだ。
要とは肩を組むとかのスキンシップはそうそうしないが、まぁ、何と言うか、蹴るとかはよくやってしまう。
ウザ絡みされた時とか特に。
要自身もスキンシップをしてくる側の人間なので、俺から何かせずとも向こうからやって来てきて、自然とって感じもある。
人懐っこいと言うか、何と言うか。
あれは要のキャラだよな。
清峰相手にはほぼ皆無と言っていいが、それは清峰が投手である事も関係している。
人一倍右腕に気を使っているような相手に、雑な接触は出来ない。
万が一があっても困るからと言うのが理由だが、それを抜きにしても、俺達仲良しだもんなー? みたいな関係ではないから必然とスキンシップもない。
仲が悪い訳でもないが、特別仲良しという訳ではなく、まぁ、フツー。
そして問題は、千早である。
周りからしても、千早とは一番仲が良いように見えるだろうし、俺自身もそのつもりだ。
しかし、一番一緒にいる相手とのスキンシップは、異常に少ない。
千早のパーソナルスペースが広い事を抜きにしても、こんなにも接触が少ないって事は、逆に違和感だったりするのだろう。
前に一度だけ「葵ちゃんって、瞬ちゃんには触らないよね?」と、要に言われた事がある。
その時は本当に変な所ばっかり見てやがる、と心の中で毒づいた。
千早の事が好きだから触らないようにしていると答える訳にはいかず、アイツのパーソナルスペースが広いからだと答えれば、それだけじゃないでしょと笑われた。
……本当に変な所ばっかり見てやがる。
ヘラヘラしているようでとんでもねェ奴、絶対敵には回したくない。





あー、マズった。
今の今まで不用意に触らないように、節度ある距離を保とうと一生懸命頑張ってきたというのに、こんな所でボロが出るとは。
俺の家で千早と二人きりという空間が悪かったのか、自分のテリトリーだから気が緩んだと言うか。
やらかした。
ずっと我慢していたのに、こんなにもあっさりと誘惑に負けるなんて。
くそ、何で雨なんか降るかねェ?
天気予報では晴れだと言っていたのに、帰宅途中で雲行きが怪しくなり、分かれ道に差し掛かる頃に一気に降り出してしまった。
正にゲリラ豪雨。
二人共あっという間に濡れ鼠になってしまい、俺の家の方が近いからと千早の手を引いて自宅へと招き入れた。
タオルだけで良いと言う千早を風呂に押し込んで湯船でしっかり温めさせたりと、その時は何も考えていなかった。
兎に角風邪を引かせないようにしなければ、という使命感のもと動いていたと言うか。
風呂から出て来た千早にドライヤーとホットミルクを渡して、入れ違いに自分も風呂へと入って出てくるその瞬間まで、俺は善人だった。
善意の塊だったと言っても過言ではない。
そんな俺だったが、自室の襖を開けた瞬間にハラリ、と善人の文字の剥がれる音がした。
……好きな奴が、俺の部屋で寝ている。
セットされていない髪はきちんとドライヤーで乾かされていて、普段は目元にある眼鏡は外されていた。
あどけない顔を横向きにして、ローテブルに預ける姿は無防備の一言。
ゴクリ、と生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
外はまだ雨が降っていてアスファルトを打つ音がし、シン、とした静まり返った部屋はまるで、この空間だけを切り取ったかのようだ。
外界から遮断された、誰にも邪魔されない場所。
そんな雰囲気に呑まれたのか、俺の理性はどこかへ行ってしまったらしく、千早に触れてみたくて仕方がなくなった。
本人は寝ているし、少しだけ、少しだけなら。
そんな甘えが俺を突き動かし、ゆっくりと伸ばした指先を髪に触れさせ、セットされていない髪をやわく混ぜる。
髪にも気を使っているのだろう、指通りも良くて触り心地が良い。
サラサラと指の隙間を抜ける髪から、自分と同じシャンプーの匂いがして息が詰まった。
これは、非常にマズイ。
寝ている事が珍しくて気にも留めていなかったが、千早が着ているのは俺の服。
ダボッとした袖から覗く指の先、裾が長すぎたのか折り返した先から伸びる脹脛、更に注視すれば、襟ぐりも広いのか僅かだが肩まで見えた。
着替えの時とかは目を向けないようにしているから、普段は見えないような素肌は目に毒すぎる。
何で今日に限って姉貴達いないンだよ……
家族がいれば理性を保つ事だって出来たかもしれないのに、二人きりとか無理すぎる。
とりあえず、無防備なのがいけないんだよな。
気持ち良さそうに寝ている千早には悪いが、起こそう、その方がまだマシだ。
意を決して千早を起こそうと肩に触れようとした所で、今まで閉じていた目がこちらを見ている事に気付く。

「っっ!!」

起きてやがる! いつから!? どこから!?
髪に触れていた事がバレてしまったかもしれないと、心臓がキュッと縮こまる。
焦るだけの俺には言い訳ひとつ思い浮かばなくて、千早の反応がただただ怖かった。
───まだ、雨は降っている。
耳障りにも聞こえる雨音と、俺の心臓の音だけが纏わり付くように耳に残る。
千早が目を覚ましたと知ってからたったの数秒しか経っていなにのに、気が遠くなる程に長く感じ、その長さに頭がおかしくなりそうだった。
喉が渇く。
ゴクリ、と唾を飲み込んでも潤ってはくれず、カラカラに乾燥した喉からは声が出ない。
千早を視界に入れる事が出来ずにいると、自分よりも細い指が俺の手の甲にトントンと触れた。
こっちを見ろと言っているようだ。
見たくない、けれどここで目を逸らし続けても何もならない。
一度ギュッと目を瞑ってから千早を視界に捉えると、何を考えているのかわからない表情をしていた。
けれど直ぐに口元が弧を描き、ゆっくりと唇が動く。

「もっと触らなくて……良いんですか?」

キュッと目を細めてそんな事を言う。
何てタチの悪い冗談だ。
冗談だと頭では理解しているのに、ひゅっ、と喉が鳴った。
そんな俺の反応を楽しんでいるのか、千早の口元はますます弧を描く。
くそ、お望み通りに触ってやろうか?

「ご自由にどうぞ?」

俺の心を読んだかのタイミングで、そんな風に挑発してきやがる。
大体、本当に触っていいのかよ。
触られるのは得意じゃない癖に、本当に俺が触ったらどうするつもりなんだ。
そんなつもりじゃなかった、とか言われたって後戻りなんて出来やしないんだぞ?
そんな気持ちを込めて真っ黒な瞳を見つめれば、パチパチと瞬いてから細められる。
千早の考えている事が何一つ読めなくて、心理戦なんか得意じゃないとつくづく思った。

「焦れったいですねぇ」
「あ、おい!」

いつまで経っても動き出さない俺に対して、先に痺れを切らしたのは千早の方だった。
少しむくれたような顔をしつつ俺の右手を取り、スルリと頬へと滑らせる。
頬擦りするような動きに、気紛れな猫に懐かれた気分になった。
実際はそんな微笑ましいものではないけれど。
俺の理性を試していると言うか、寧ろリミッターを外そうとしていると言うか、兎に角ロクなもんじゃない。
挑発する瞳の奥に燻る熱に、俺自身も引っ張られる。
欲を引きずり出して、一体どうするつもりなのか。

「藤堂くん……

俺の名を甘く呼んで、ゆっくりと閉じられる瞼。
待て、待て待て待て、こんなんもう、キスしてくれと言ってるようなものではないか!
あまりの出来事にハクハク、と口を動かすだけで上手く呼吸が出来ない。
呼吸って、どうやってするんだっけ?
酸素が脳に行き届いていないのか、頭がクラクラしてきやがった。
そんな朦朧とする意識の中、目の前にぶら下げられた餌が『早く食べてしまえ』と言う。
幻覚だとわかっていても、それに抗う術を俺は持たなかった。
頬に触れる手はそのままに、顔の角度を変えて千早の顔に影を落とす。
少しづつ近付く距離に、警鐘が鳴り響く。
その指先に触れるものに深入りするな、と冷静な自分が言っているが、二人の距離はどんどん縮まっていった。
触れる為の代償は友達としての千早瞬平を失う事で、きっとこのままキスしてしまえばもう、友達には戻れなくなる。
行くとこまで行って、『友達じゃない何か』になって、それで……
この期に及んでまだ怖気付いているのかと、頭の中で千早が言う。
好きな癖に、誰にも取られたくない癖に、自分を一番にして欲しい癖に、まだ。
ぬるま湯に浸って穏やかな日常を送りたいだなんて、そんなのはまやかしだ。
平坦な道じゃ満足できない癖に、それでも尻込みしてしまうのは、この行く道の先で、千早は幸せになれるのか? という疑問が頭を擡げるから。
俺が幸せにしてやる、だなんて大それた事は言えない。
けれど、千早には一等幸せになってほしいと願う。

「何を、らしくもなくグダグダと考えてるんです?」
「らしくもなくは余計だ」
「本当の事ですし」

もう少しで唇が触れ合うという所で、千早が目を開けた。
瞬間、眉間に皺が寄せながらトゲのある言葉を俺に投げる。
らしくもない、ね。
本当にそうだと思う。
こんな風にグダグダ考えて雁字搦めになるのは俺らしくもない。
別に普段から何も考えてない訳ではないが、あーでもない、こーでもないと思考するのは千早の役目だったから。
あー、慣れなくってマジで知恵熱出そう。
ぐぅ、と言葉を詰まらせる俺に、千早は自分の額を俺の額にコツリと合わせた。
ち、近くね?
さっきだって近かったけれど、これはもう、ほんの数センチ動けば口と口がくっ付くレベルの近さだ。

「男だろ、覚悟決めろ!」
「千早さん? 口調どうした? 」
「藤堂くんがいつまで経ってもウダウダしてるので腹が立ちました」
「それは、すまん」
「何がそんなにキミを踏み留まらせるんです?」

うっ、やっぱりそれ言わないとダメなんだろうか。
ダメなんだろうなァ、でも言いたくねェ。
俺のプライドが言いたくないって訴えてるんだ、目を瞑ってくれたりは……しなそうですね、はい。
踏ん切りがつかなくて、いつまでも渋る俺に向けられる半目が怖い。
早く言え、口に出してはいないが腕を組む仕草から圧力を感じて、渋々口を開く事にした。

……俺でいいんかな、と」
「は?」
「千早は俺と一緒になって、幸せになれるんかな、と」
「はぁぁぁぁ!? 意味わかんないんですけど!? 俺にとっては今の状況のが不幸せです!」
「え……不幸せなんか?」
「う、不幸せとは言いませんけど……そろそろ友達以上になりたいです」

だっていくら仲が良くても恋人的接触はしてくれませんし?
眼鏡を押し上げながら、そんな事を言う。
どこか拗ねているような表情が新鮮で、結構表情が豊かなのは知っていたが、またひとつ新しい顔を見た気がした。

「そもそもですね!付き合うくらいで大袈裟なんですよ!一緒になって幸せになれるかとか、なんなんですか!? 結婚してくれるんですか!?」
「け! いやそれはその、」
「してくれないんですか?」
……します」
「ふふっ、言質取りましたからね? ……幸せになれるかどうかなんて、自分次第ですよ。と言うか、幸せかどうかは俺が決める事です。ただ、藤堂くんと一緒になって幸せじゃない未来とかは、俺には見えないんですけどね」
「それは、買い被りすぎじゃねーの? 」

そんな事ないと思いますけどね、と笑う千早に涙が出そうになった。
千早が大事すぎて、自分じゃ幸せにしてやれないと、だったら友達のままでいた方が良いと自分に言い聞かせてきた。
けれど何度考えたって、千早の幸せの為にと千早の隣を誰かに明け渡したくなどなくて。
そんな相反する思考に何度も苦い思いをしてきた。
前に進めなくて、だからと言って後戻りも出来なくて迷子になっていた俺に、先へ進もうと手を伸ばしてくれたのは紛れも無く、悩みの種であった千早。
引っ張り上げ方はちょっと強引ではあったけれど、それでも強引なくらいが丁度良かったのかもしれない。
紆余曲折を経て無事に収まるところに収まったって事で、めでたしめでたし、だな。

「何もめでたしめでたし、じゃないんですけど?」
「おま、心……っ!」
「まだキスのひとつもしてないので、エンドマークは付けれません」
「え、なんそれ? つーか、キスって」
「しようとしてたじゃないですか!」
「あれはお前が迫ってきただけで」
「あーもう、さっさと観念しろ!」

そう言った千早に胸倉を掴まれて唇を奪われる。
お、男前すぎじゃね?
初めて触れた千早の唇にドギマギしながらも、ここまで来たらやられっぱなしは性に合わないと、先にこちらから舌を捩じ込んでやった。
流石負けず嫌い、突然侵入してきた舌に一瞬怯んだものの、やり返すように俺の舌を甘噛みしてくる。
お互い目を開けたまま、喧嘩するみたいに舌を絡めるのでムードも何もない状態になってしまったが、これはこれで俺達らしい。
乱れた呼吸を整える為に一度唇を離し、酸素を思いっきり吸い込む。
千早から聞こえる息遣いはちょっとエロいな、なんて考えていると、もう一回と言わんばかりに首の後ろに腕が回ったので、逆らわずに唇を重ねる。
ドサリ、という音がやけに大きく聞こえた。


END