風花莉亜
2026-01-16 08:54:25
4747文字
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キミの前にだけ現れる甘えん坊。

第20回とどち版ワンドロワンライ参加作品。2人共大学生設定で一緒に住んでます。藤堂くん視点で、千早くんがぽやぽやしてたり、低血圧で朝が苦手だったり、甘えん坊だったりしているので注意
いつも通り、なんでも大丈夫な方向け!(文章下手くそ、誤字脱字etc. )

大学に入ってすぐ、千早と一緒に住み始めた。
それぞれ別の大学に通う為、俺の方から一緒に住みたいと申し出た訳だが、意外にもすんなりと二つ返事をされたのが今でもびっくり案件である。
高校の時は家族よりも一緒にいる時間が長くて、だからそれがなくなるのは寂しい。
もっと一緒にいたいし、会えない事ですれ違うのが嫌だった。
それが一緒に住みたいと思った理由。
千早が何を思って俺との同居をOKしたのか、それはまだ聞けていないけれど、多少なりとも俺と同じ理由な気がしている。
俺の勘は当たる方だ。

一緒に住むようになって、今まで見てきた千早とは、また違う千早を見付ける事が偶にある。
例えば朝、寝起きが悪いこと。
何度か千早ん家に泊まったり、逆に千早が俺ん家に泊まったりしていたから気付きそうなものだが、本当に知らなかった事の一つだった。
だってアイツ、俺より早く起きても後から起きても、すんなりと起きるのだ、だからてっきり朝は強いものだとばかり思っていた。
その認識が間違っていた事に気付いたのは、千早と暮らし始めて一ヶ月が経過した頃だった。
高校生の頃は、好き合っていてそれなりの信頼関係を築けていても、それでも最後の最後、ほんの少しだけ線を引かれていたという事。
気は許されていたけれど、全てを預けられていた訳ではなかった。
そうと知って多少落ち込んだりもしたけど、今はこうして素の千早に触れられているのだから、まぁいいか、なんて。
それからだ、知らなかった一面に出会っても、新しく知っていく事を楽しみの一つとして捉えるようになったのは。



*****

本日の夕飯の食材を買い込んで帰宅すると、先に帰って来ていたらしい千早が猫みたいにソファーで丸まっていた。
珍しい事もあるものだ。
最近疲れた顔をししている事が多かったが、コレを見る限り、帰って来て直ぐに寝落ちたのだろう。
スヤスヤと寝息を立てる恋人の可愛いことよ、この寝顔を一生守りたい。
無防備に眠る姿を前にして、頬に触れたい欲求が俺を支配する。
しかし帰宅したばかりで手洗いうがいもしていない、そんな状況で千早に触れようものなら、確実にキレられる。
冷静になれと暗示をかけつつ、先に手洗いうがいを済ませ、食材を冷蔵庫へと仕舞ってから忍び足でソファーへと舞い戻った。
相変わらず気持ち良さそうに眠る横顔を見て、俺の顔はだらしなく緩む。
やべー、ほっぺつつきたい。
こんな事もう一生ないかもしれないし、どうにも俺の好奇心が治まらない。
少しくらいなら、きっと大丈夫。
可愛い寝顔を長め続けるのも良いが、触れたい欲に従って手を伸ばした。
最初はゆっくり、指先だけを頬に埋める。
……やらけー。
お次は手のひら全体で包み込むようにして触れてみる。
手入れの行き届いた頬は水分をたっぷりと含んでいるのか、しっとりと手に吸い付いた。
やっぱり肌、綺麗だよなァ。

「んぅ……?」

睫毛の束が震えて、それに隠されていた瞳がゆっくりと露になる。
寝起きで水分量が多いからなのか、自前のうるうる目が光を受けてキラキラと輝いた。
パチパチと瞬きをする千早はまだ寝ぼけまなこで、どこかふにゃふにゃとしている。
目覚めようと瞼を持ち上げてみるものの、眠気には勝てないのか直ぐに瞼は下がり、けれど再び瞼を持ち上げて、とそれを繰り返していて、まるで幼子のようだった。
頑張って起きなくても良いんだぞ?
そんな意味を込めて頭を優しく撫でてやると、その手に擦り寄る素振りを見せる。
え、猫じゃん!あまりにも猫すぎる!
無自覚の行動は時にとんでもない破壊力を持って襲ってくるのだと、この時改めて知った。

……とぉろぉくん、」
「ど、どうした……っ、まだ、寝てて良いぞ?」
「一緒に……寝ましょ……?」

???
なんて?
猫すぎる千早の行動のせいで膝にキて立てない状況なのに、更に追い討ちをかけてくるとは何事か!!
俺の頭と耳が正常に機能しているのなら、千早は『一緒に寝ましょう』と言ったよな? 言った、よな?よし、言ったな、うん。
今まで千早から言われた事ない台詞に、動揺を隠せない。
いつだって、一緒に寝ようと言うのは俺の方で、それに対して千早は、満更でもない感じでOKを出す。
これがいつもの流れ。
だと言うのに、今日は千早から誘われた。
いやらしい意味なんか一つもないのは百も承知、ただただ眠いから添い寝しましょう、くらいの発言だろう。
わかっている。
わかっているのだが、理屈じゃない。
好きな子に一緒に寝ようとか言われたら、そりゃあ期待しちまう。
この後、ただの添い寝コースな未来しか見えなかったとしても、だ。

「とーどーくん?」

千早の少し舌っ足らずな声で我に返る。
いかん、今の千早は言わば三歳児みたいなものだ、手を出すのは色々とマズイ。
何より手を出したが最後、後が恐ろしい。
平気で一週間お触り禁止、口もききません!とか言われるに違いない。
それは俺が耐えられっこない、だから気合いを入れろ、藤堂葵!!
己に言い聞かせて、純粋な瞳を向けてくる千早に、口の端をゆっくり持ち上げて下手くそな笑みを返す。
あれ?笑うのってこんな難しかったっけ?
でもまぁ、ぽやぽやした千早には、どうせわかりっこない。

「あのさ、ここベッドじゃないから一緒に寝るのは難しいかなー、なんて」
「変な顔して……どぉしまし、た……?」
…………

認識してる!!こんなに眠そうにしてて、ほぼ目開いてないのに!!
なんだよ、心の目か?もしくは第三の目でもあンのか?
通常運転の千早が聞いたら鼻で笑いそうな事を考えるが、でも今の千早なら或いは……
ちょっと聞いてみたくなった。

「千早くんは、第三の目があるんですか?」
…………寝惚けてます?」
「そりゃおめーだよ!!ったく、いつも通りじゃねーかよ。あー、ベッド行くか?」
「行き、ます」

恥を掻いた俺を見てくふくふ笑う千早は、先程よりも覚醒してきているようだった。
そりゃこれだけ会話してたら目も覚めてくるか。
少し前まで起き上がったらカクンカクン首揺らしそうだったのに、ゆっくりだが起き上がった今の千早は首も揺れていない。
依然、眠そうではあるが。
意識が覚醒してきてはいるものの、果たして上手く立ち上がれるのだろうか。
ヤバい、我が子の初めてのたっちを見守る親のような心境になってきた。
急に母性が芽生えた俺は、ぐっと足に力を入れて何とか立ち上がった千早相手に拍手しそうになって、待て待てと思い留まる。
千早は俺の子じゃない、恋人だ。
頭を降って千早を見ると、立ち上がったものの、一歩もその場から動こうとしなかった。
どうした?
黒目がちの瞳が真っ直ぐ俺を見ている。
それの意味する所は……なんだ!?

「えーっと、抱っこしてやるからおいで?」

とりあえず、両手を広げてみた。
実はこんなの初めての経験、やった事なんて一度たりともない。
だってあの千早だ、甘える事なんて得意じゃないし、抱っことか子供じゃないんですよとか言って一蹴してきそうじゃンか。
俺はやりたいのに! 千早の事めちゃくちゃ甘やかしたいのに!
そんな鬱憤も溜まっていたので、この機会に試してみる事にしたのだ。
素直に来てくれたら嬉しいのだけれど。
両手を広げたまま三十秒、お互い少しも動かずに時間だけが過ぎた。
やっぱり、ダメか。
そう諦めかけたのだが、俺が手を下ろすよりも先に千早が両手を広げたのだった。

「ん」

これは正しく抱っこしてくれのポーズ。
ヤバい、泣きそう。
しかしここで泣いたら全てが水の泡になりそうな気がして、スン、と鼻を鳴らすだけに留めておいた。
両手を広げてみたものの、千早の方から来る気配は全くなくて、そっちからは来てくれないのかと苦笑する。
多分これが千早にとっては精一杯なのだ。
ならば後は俺がどうにかすれば良いだけ。
運びやすさを考えたら横抱きかおんぶが良いのだが、横抱きなんかした日には暴れられそうで、おんぶだと甘えられてる感が薄れる。
やはりここは、抱っこ一択だよな!
千早の気が変わらない内によいしょ、と抱えて寝室へと移動する。
大人しく抱っこされてる千早とかめちゃくちゃ写真に収めたい、いやここは動画か? どちらにせよ、後から何回も眺めたい所だ。
そして出来るなら、抱っこされてる千早の顔が見たい。
今、どんな顔してンだろ。
寝惚けてるから眠そうな顔? それとも意識が段々とはっきりしてきて、恥ずかしそうにしてる? それとも、無表情だったりして。
うん、一つ目か二つ目であって欲しい。
考えながら、器用に寝室のドアを開けて中へと入り、我が物顔で鎮座しているベッドへと千早を降ろした。
二人で寝るからとキングサイスの物を購入したので、この部屋の主役はこのベッドと言えよう。
そんな主役に千早を降ろしたものの、俺の首の後ろに回された腕が解かれない。
力は入っているので寝落ちたって事は無さそうだが……もしかして、抱っこしてたい、とか?
なんだ、甘えモード全開なのか千早さん。
嬉しい限りなのだが、ずっと中腰なのは結構キツい。
まだいけるけど、それも時間の問題だった。
俺の腰が死ぬ前にこの腕を解いてもらわなければ。

「千早さん、着替えてきたいんだけど?」

尤もらしい事を言えば直ぐに離れると思ったのだが、一秒二秒、十秒が経過しても腕は解かれない上に何の反応もない。
あれ? 寝落ちた?
千早の背中をトントン叩きながら声をかけると、もぞりと動くので起きてはいるらしい。

「千早?」
「いやです」
「嫌って?」
「離れちゃ、いやです」

なんか、めちゃくちゃ可愛い事言ってやがる。
しかも腕に力を込めるオマケ付きで、絶対離すものかという意志を感じる。
正直言って嬉しい。
嬉しいに決まっている。
だがここで流されてしまったら、後々の千早に色々言われそうな気もするし、一体どうしたら良いんだ。
とりあえず、もう一度トライしてみてから考えるか。

「なァ、着替えてくるだけだからさ、一旦離れてくんね?」
「いやです」
「嫌ってなァ……お前、正気に戻ったら汚物だなんだと言ってくるだろ。しかもここベッドな。わかるだろ?」
……とぅどぉくんが」
「俺が?」
「洗濯してくれたら……らいじょーぶです」

何が大丈夫なんだ、何が。
でもここで突っ撥ねたら、千早の機嫌が悪くなりそうだし。
さてどうするか、なんて考える素振りをしてみるが、本当は答えなんかほぼ出ている。

「そばにいて」
「え?」
「そばにいて、ください」
「〜〜〜〜っっ」

駄目押しとばかりにそんな事を言われて、陥落せずにいられる訳がなかった。
俺に忍耐力がない訳ではない、断じて。

「あーもう、わかった!」

降参だと抱き締めたままベッドへと横になれば、俺の胸元から顔を覗かせた千早がニコニコと笑っていて。
キュン、と胸が高鳴った。
可愛すぎる恋人にキスの雨を降らせれば、当の本人は擽ったそうにケラケラ笑うだけ。
これは、キス以上の事は難しそうだ。
でもま、たまにはこんな日もあっても良いか。
千早の髪に指を差し込んで優しく梳いてやると、再び瞼が落ちてくる。
そんな姿を見ているとこちらも眠くなってきて、二人仲良く眠りについた。


───尚、実は千早がこんな風に甘えるって事は、二人だけの秘密である。


END

これ、千早くん無自覚だから果たして二人だけの秘密になるのかどうか。寧ろ藤堂くんだけの秘密な気がしてきた