風花莉亜
2026-01-16 08:53:14
5786文字
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一緒にいてくださいって、ただの一言が言えなくて。

第19回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点で、地球最後の日に何をするかって話。少しシリアスっぽい所があったりなかったり、千早くんが泣いたりしてるけど、基本的にイチャイチャしてるかと思われ。藤堂くんのお母様捏造、名前のお話も捏造してます
季節は夏で3年生の頃の話。3年生である要素は特にないですけども
いつも通り何でも大丈夫な向け!(誤字脱字、文章下手くそetc)

「地球最後の日って、おめェなら何する?」
「なんです突然」
「いや、要の話聞いてたら何となく千早にも聞きたくなった」
「へぇ」

発端は、部室で唐突に始まった要くんの『もし明日が地球最後の日なら何をする?』というifの話。
昨日の夜にそんな映画を観たとか何とかで、今朝からあれがしたいこれがしたい、と言っていた。
だからその場にいた全員がチラッとでもその『もしも』を考えて、何をしたいかアレコレ考えた事だろう。
勿論、俺も。
しかし朝練前の事で、着替えてすぐにグラウンドへ行ってしまった為に、要くん以外の誰一人としてそれを口にする事はなかった。

──────そして今現在。
俺の家に遊びに来ていた藤堂くんは、今朝の要くんの話から俺の意見を聞きたいと言う。
だとしたら、先に自分はどうしたいか言うべきでは?

「藤堂くんが教えてくれたら言います」
「あ?俺?俺は別に、普通だよ普通」
「その普通の中身が知りたいんですが」
……家族と過ごす。けど、千早とも過ごしたいから家に呼ぶ。でも千早も親御さんと過ごしたいだろうから、途中で帰す」
「ちゃんと俺の事考えてくれてるんですねぇ」
「当たり前だろーが」

そう言った藤堂くんは、ちょっとした照れ隠しなのか、俺が出したアイスティーのグラスを手にし、一気に呷った。
茹だるような暑さの外界から遮断された自室は、冷房が効いていて快適だ。
それでも氷を沢山入れたアイスティーのグラスには結露が出来ていて、時折氷が溶けてカランと鳴る。
『カラン』
ほら、また一つ、涼し気な音がした。

「で?千早はどーなんだよ」

思考を飛ばしていると、藤堂くんが早く言えと急かしてくる。
じっと見詰めてくる瞳に多少の居心地の悪さを感じてしまって、逃げるように藤堂くんの目の前にある空のグラスを引き取った。
いつもならそこで『おい』だの『待て』だの言われるのに、今日は無言だ。
ドアノブに手を掛けて「おかわり入れてきます」なんて部屋から抜け出すその時も、藤堂くんは何も言わない。
ただ、じっと見詰めてくるだけ。
何を考えているのやら、普段はわかりやすい程にわかりやすいと言うのに、今日は思考が全く読めなかった。
『パタン』と閉じたドアの向こう側へと藤堂くんの気配を押しやって、そうしてホッと息をつく。
何をしているんだか。
決して、答え憎い質問だった訳ではない。
俺の中に明確な答えだってある。
なのに逃げ出してしまったのは、この答えを藤堂くんは受け入れてくれるだろうかと言う一抹の不安があったから。
藤堂くんとは反対のこの考えに。

ちょっとだけ時間を掛けてグラスへとアイスティーを注ぎ、ゆっくりとした足取りで自室へと戻る。
ドアの前で一度深呼吸して、なんでもない風を装ってドアノブを回した。

「遅かったな」
「そうですか?」

手持ち無沙汰だったのだろう、手にはスマホが握られていた。
画面へと落とされていた視線が俺に向けられると、途端にソワソワとしてしまう。
視線が、痛い。
実際はそんな事ないのだろうけれど、今の俺にはそう感じてしまって、藤堂くんと視線を合わさない様にローテーブルへとコースターとグラスを置いた。
緊張なのか知らないが、やたらと喉が渇く。
自分の目の前のグラスを手にごくごくと中身を飲んでみるが、潤う感じがまるでしない。
このままでは早々に飲み切ってしまいそうで、一旦飲むのを止めてコースターの上へと戻した。

「千早」

見計らったようなタイミングで名前を呼ばれ、肩がピクン、と跳ねる。
ソロソロ、と目を藤堂くんへと向ければ、何とも言えない顔をしていた。

「あのさ、俺、何かした?」
「?」
「さっきから、避けられてると言うか。その、目が合わないから」

まぁ、合わせないようにしてますからね。
藤堂くんの瞳は全てを見透かしてしまうと感じる時があって、今が正にそれだ。
目を合わせたら俺の思考全てが藤堂くんに流れ込んでしまうような、そんな感覚に陥る。
勿論そんな事、ある筈もない訳だけど。
しかしある筈のない事に怯えている俺は、恋愛に関してかなり臆病なんだと思う。
恋愛に関してと言うよりかは、藤堂くんに関してと言った方が正しいか。
いつの間にか大きくなってしまった存在に、いつだって俺の感情は大きく揺り動かされている。
嬉しくなったり悲しくなったり、楽しかったり苦しかったり、誰かを好きになるのは初めてで、恋愛初心者には荷が重い。
だからと言って藤堂くんを好きなのを辞められるかと問われたら、そんなもの答えはNOである。
好きで好きで仕方なくて、今だってほんの少しの事が怖くなるくらいに大好きで。
いの日か手を離さなければならない時がきた時に、ちゃんと手を離せるのだろうかと苦しくなる程、藤堂葵という人が大好きで大切で仕方がない。
元々俺の方が先に好きになったのだ、重くったって可笑しくないし、実際重いのだろう。
互いの気持ちを目に見える天秤に掛けられたのなら、間違いなく俺の方が傾く。
それ程までに、藤堂くんの事が好きだ。

「なァ、どこ見てんの?」

テーブル越しに柔らかく両手で頬を包まれて、あまりの優しい温度に泣きたくなってしまった。
うっすらと膜を張る瞳に、焦る藤堂くんがボンヤリと映る。
『どうした、どっか痛い?』
『やっぱり俺、何かしちゃったか?』
藤堂くんは何一つ悪くないのに、そんな事を言いながら、表面張力に耐えきれなかった俺の涙を拭ってくれる。
優しいなぁ、ホント。
自分でも何で泣いてるのかわかっていないのに、藤堂くんは大丈夫だからと笑ってくれる。
ポロポロ零れる涙はなかなか枯れなくて、気付いたらテーブルを挟んだ向こう側にいた筈の藤堂くんに、抱き締められていた。
いつの間に移動したのだろう。
トントン、と愚図る子供をあやすように背中を叩かれて、少しだけ恥ずかしくなる。
妹さん相手によくやってたのかな、なんて想像できてしまうのがよくなかった。

「すみません、もう大丈夫なので」
「んー?俺がもう少しこうしてたい」
「えぇぇぇ」
「嫌なの?」
「あの、せめて、その、トントンするのは……
「あー、ワリ。癖だわこれ」
「ですよねー」

知ってた。
俺の要望通りトントンと背中を叩くのはやめて、その代わりにぎゅうぎゅうと抱き締めてくる。
少し苦しいけれど、嫌ではない。
寧ろ嬉しい。
心がぽかぽかと温かくなるのを感じて自然と笑みが零れた。
ぎゅうぎゅう抱き締めてくる藤堂くんを真似て、俺も藤堂くんの背中へと腕を回してぎゅうぎゅう抱き締めてみる。
すると嬉しそうに笑う声と、かすかに身体が震度するのを感じた。

「ちーはや」
「なんですか?」
「呼んだだけ」
「本当になんなんですかもう」

このやり取り、ただのバカップルでは?
まさか自分がそんな立場になるだなんて思っていなくて、恋って!恋って!!と悶えてしまう。
しかしこの場合、恋が原因なのか、はたまた相手が藤堂くんだからなのか、そこは謎である。

ゆっくりと身体を離してお互いの顔を見詰めると、藤堂くんが「ちょっと聞いてくンね?」なんて前置きをしてきた。
大事な話だろうかと、少し佇まいを正すと、別に大した話じゃないとカラリと笑う。
では一体、何の話をするつもりだ?

「俺さァ。ガキの時、葵って名前嫌いだったンだよな」
「唐突になんです?」
「いやさ、さっきのぎゅうぎゅう抱き締め合ってるので思い出した。葵って名前、女みてーだから嫌だって言って大泣きした事があってさ、そしたら母親がさっきみたいにぎゅうぎゅう抱き締めてきて『良い名前なんだからそんな事言わないの』って。まだ小学生にもなってないガキ相手に良い名前も何もねーよな。意味とかわかんねー訳だし」
「まぁ、そうですね」
「今はさ、あの人が残してくれた物だから大切に思ってるけど、やっぱ女っぽいな名前だよなぁ?」
……俺は好きですよ」
「?」
「『葵』って名前」
「え、突然のデレ」

藤堂くんの顔の方がデレデレしてますけどね?
ダラしない顔で見てくるのに耐えかねて、ムカつくくらいの胸板へポスリと顔を埋めると、筋肉の弾力が俺の頬を押し返す。
俺だって、これくらいになりたかった。
そもそもの体格差とかを考えたら難しい話かもしれないが、憧れたっていいだろ。
ムニムニと胸を押してその弾力を確かめていると「猫みてェ」なんて言われた。
何処がだと睨み付ければ、ふみふみしてる時に似ている、だって。
事ある毎に、人の事を猫みたいだと言うけれど、そんなに猫っぽいだろうか?
自分で自分の事を猫っぽいな、なんて思った事がないのでピンと来ないのだけれど、要くんにも言われた事があったかも。
えぇ?やっぱり猫っぽいのか?

「千早」
「なんです」
「じゃーん、けーん」
「え!ちょ、え?」
「ぽん!ハハッ、俺の勝ち〜」
「狡くないですか?不意打ちすぎます!」
「いーや、勝ちは勝ちだから」
「と言うか、何のじゃんけんです?」
「俺が勝ったからさ、あの答え教えてくれよ」
「あの答え?」
「地球最後の日に何するかってやつ」

ここで蒸し返してくるのかコイツ。
今の俺は完全に藤堂くんに絆された状態で、ガードはユルユル。
そんな所に正面突破しかけてくるんだから、一連の流れはもしかしたら確信犯だったりするのかも?
何も考えていないようで、実はちゃんと考えているのだから、やっぱり人は見た目ではない。
現状、藤堂くんの腕は俺の背中へと回っていて逃げ出したくても逃げられないし、観念して話す他に道はなさそうだ。
まぁ、先程のやり取りで藤堂くんが俺の事を大事に想ってくれている事はわかったし、そんなにマイナスな方向へと考えなくても大丈夫かな、なんて。
俺の事を見詰めてくる瞳は真剣そのもの。
ここで嘘を吐く事だってできるけど、それは不誠実な気がした。
腹を括れ、千早瞬平。
お前の好きになった男は、重い感情ごと包み込んでくれるような、そんな器の大きい男だろ。
でも目を見て話すにはまだ怖くて、再び目の前の胸板へと逆戻りした。

「地球最後の日は」
「うん」
「野球部の皆に会って、家族と過ごして……
「うん」
……そして最後の最後に、藤堂くんに会いに行きますかね」
「最後の最後……
「地球最後のその瞬間は、藤堂くんの隣にいたいです」
……

言ってしまった。
どうしよう、やっぱり迷惑ですよね、だって一番最後は俺がいいって、そんなの、

「なんでそんな可愛い事言う訳!?」
「??」

ガバリと肩を掴まれて藤堂くんの胸元から引き離される。
可愛い、とは?
ハテナがポンポンと頭の上に浮かんで、消える事はなく次から次へと量産されていく。
全くもって情報を処理出来なくて、ただただ首を傾げるだけ。
その間、藤堂くんは片手で顔を覆ってみたり天を仰いでみたりと、不振な動きを繰り返している。
目の前でそんな事をされて、普段の俺だったら間違いなく「頭可笑しくなりました?」くらいは言いそうなものを、全く言葉が出てこなくて藤堂くんの行動を見守るだけだった。

「今日が地球最後の日なのに!」

……あっ、見守ってちゃ駄目だった。
遂には可笑しな事まで言い出してしまった。
これ以上藤堂くんが可笑しくなってしまう前に、俺がしっかりしなければ。

「いや、今日が地球最後の日じゃないんですけど」
「わかんないだろ!」
「怖いんですけど、なんなんですか頭でも打ちました?」
「打ってない」

受け答えはちゃんと出来ている。
でもやっぱり可笑しい事言ってるよなぁ。
確かに人生何が起こるかわからないし、今この瞬間、地球が滅亡する事だってゼロとは言えないかもしれない。
だからと言って、急に地球最後の日とか言われたら普通に怖いでしょ。
そんな気持ちが全面に出てしまい、怪訝な顔で藤堂くんを見るのをやめられない。

「そんな顔しなくても良いだろが」
「無理な相談です」
「そもそもだな、千早が悪い」
「どの辺が」
「最後の最後は俺と一緒にいたいとか言うから」
「じゃあ、もう言いません」
「ちげーよそーゆー事じゃないのわかってんだろ?」
「わかりません」

身体ごと藤堂くんから背けて膝を抱える。
いかにも、いじけてますってポーズになってしまったが仕方がない。
だって、いじけてるんだから。
結構勇気出して言ったのに、藤堂くんのバカ。
話しかけんなオーラを出した所で藤堂くんには効かないのはわかり切っているし、案の定ごめんと言って後ろから抱き締められてしまった。
抱き締めたら何でも解決すると思ってないかコイツ。
ご機嫌取りの方法が馬鹿の一つ覚えなのはどうなんだ、毎回それで許されると思うなよ?

「ごめんな」
……
「すげー嬉しかった。最後の相手に俺を選んでくれて、ありがとうな」
「お礼を言われるような事は何も。ただの俺の我儘ですし」
「んな事ねーよ。だったら、俺だって許されるなら最後はお前と居たいし」
「ご家族は許してくれないかもですよ?」
「それはないだろ。でももしそうなったら、千早を俺ン家に呼んでそのまま最後を迎える」
「良いんですか?」
「当たり前だろ。俺は、千早ン事、めちゃくちゃ大事なんだよ。だからお前が望むのなら、なんだって叶えてやりたいって思う」

馬鹿だ。
そんな事言っちゃって、本当に馬鹿だ。
大馬鹿者だ。
馬鹿だって思うのに、嬉しくなっちゃってる俺も大概馬鹿だ。
でも……言ったら、本当に叶えてくれるんですかね?
今日は両親が帰って来ない日。
本来ならば、もうすぐ藤堂くんは帰らなければいけない時間だけど、今日はまだ一緒に居たい。
藤堂くんの腕の中でもぞもぞ動いて、正面を向く。
どうした、と問いかける優しい顔に、言ってしまえと悪魔が囁く。
天使からは何も言われないので、素直になるのも時には必要って事で許して欲しい。
藤堂くんの袖口をきゅっ、と掴んで口を開いた。

「今日は、その、地球最後の日らしいので。帰らないでずっと一緒にいてください」
「!!喜んで!」


END