風花莉亜
2026-01-16 08:50:52
3693文字
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なんでもない日常が愛おしいとは、よく言ったものだ。

第17回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で、雨の中を一緒に帰る話。少しだけ相合傘したりしてます。安定の小手っ子登場で、ちょっとわちゃわちゃ。いつも通り何でも大丈夫な方向けです(文章書くの下手です)

空は生憎の雨模様。
朝から降っている雨は、放課後となった今でも降り続いている。
今日は全体的に部活のない日で、普段はバラける帰宅時間も他の生徒達と見事に被っていて、昇降口の人口密度はヤバかった。
げぇ、これならもう少し教室で時間潰せば良かったか?
そう考えていたのは俺だけではなく、隣にいた千早も、部活もないと言うのに一緒に帰ろうと突撃してきた要と、それについて来た清峰と連れて来られたであろうヤマでさえ渋い顔をしていたのだから、きっと一様に同じ気持ちだろう。
ガヤガヤとした目の前の惨状に、この中に突入しないで廊下でもう少し待つか?と目配せする。
すると全員コクリと頷くので、一旦避難して人が疎らになるのを待つ事にした。
その間、久しぶりである要のパイ毛披露に乾いた拍手を送りつつ、時間を潰す。
次から次へと振ってくる要の話を右から左へと受け流しつつ、脳内では本日の夕飯のメニューについて、小さい俺が議論を始める。
丸い円卓を囲みながら、同じ顔をした四人が頭を突き合わせてあーだこーだと言い始め、冷蔵庫の中身をひとつずつ挙げていく。
卵、牛乳、ヨーグルト、もっと違う食材はねェのかよ!? これじゃ作るのはスイーツになんぞ!?
メインになる物を作りたいんだと要望すれば、合挽き肉があったと言う報告を受けた。
なんだ、あるじゃんかメインになりうる食材。
合挽き肉とくれば、やっぱりここは……
『ハンバーグが良いです』
議題の席にいつの間にかちょこんと座っていた千早が言った。
なんでいる!? さっきまでいなかっただろが!! デミグラスソースでお願いしますじゃねェわ!!
涼しい顔をした千早に違和感しかない俺だったが、脳内の小さな俺達は気に留めず、ハンバーグに大賛成していた。
何だか千早に負けた気がするが、俺も同じ事を考えていたので本日のメニューはハンバーグに決定だ、妹も好きだしな。
こうして夕飯のメインが決まった頃、人口密度の高かった昇降口はだいぶ通りが良くなったようだ。
これならそろそろ帰れるだろう、と口を開こうとしたタイミングで、要の方が先に「そろそろ帰る?」と言った。
それに対して「帰るか」と返せば、他のメンバーも同意する。
どさくさ紛れに、吉祥寺行こうとか言ってる気がするがシカトだシカト。
これが目的で一緒に帰ろうとか言ってきやがったんだな、コイツ。
せめて晴れの日にしようぜ、どうせ行くならば。
ヤマも同じ意見だったらしく、晴れた日に行こうと言って要を黙らせる手腕は、流石と言った所だった。

それぞれ下駄箱から靴を取り出して履き替え、傘を手に出入口をくぐる。
一番最初に出た俺は、ポタポタと雨粒を降らせる空を見上げた。
だいぶ雲の色が薄くなってきているから、もしかしたら家に着く頃には止むかもしれない。
そもそも、そんなに強くないし。
余り長いこと立ち止まっているとドヤされそうな気がして、さっさと傘を開こうとした所で隣に人が立つ気配がした。

「相合傘して帰りませんか?」
「えっ!?」

右隣から有り得ない事を有り得ない人物が言ってくるものだから、俺の気は動転してその場から顔すら上げられなくなってしまう。
バクバクと早くなる心臓に、このまま止まってしまうんじゃないかと思った。
千早が? 俺に? 相合傘のお誘いをしてきた……
ちょっと待ってくれ、衝撃が凄い。
未だに全力疾走する俺の心臓を余所に、隣からバサリと傘の開く音がした。

「なに突っ立ってんですか? そこにいると後ろがつかえて迷惑にりますけど?」
「あれ?」

先程聞こえた台詞は右隣から。
けれどいま千早がいるのは左隣。
んん? 右から左に移動した? なんで?
首を傾げつつも相合傘を提案してきた右側を見れば、要が口元を覆いながらプルプルと震えていた。
コイツ、やりやがったな?

「かーなーめー?」
「ごめ、ごめんって葵ちゃんっ、まさか、まさか騙されるとは思わなくってぇ……っっ!」

いや、千早の声真似してくるなんて思わないじゃねーか。
つーか、千早の声なんて一番聞いてるのに何で何時もと違うって気付かなかったんだくそったれ!
あまりにも心ときめくワードだったからか?だから気付けなかったんか? 千早瞬平が言わなそうなワードだもんな!? そうだよ、言わねーンだよ!!
謝りつつも涙を流してケラケラ笑う要に、羞恥心と怒りが込み上げる。

「よし要、歯ァ食いしばれ」

グッと拳を作ると、サァァァッと血の気を引かせた要は傘を開いて脱兎のごとく逃げ出した。
勿論それをみすみすと逃がす俺ではないので、続いて傘を開いて追い掛ける。
バシャバシャと水溜まりの中を駆けていくものだから、制服のズボンはあっという間に濡れてしまう。
やべぇ、と思いつつも動く足は止められなかった。

「待て!」
「いや〜!!」

逃げる要と追い掛ける俺。
それを見ていた千早は呆れたように「バカですねぇ」と言い、ヤマは苦笑していた。
清峰に至っては「圭、藤堂!俺も混ぜろ!」とか言ってこちらへと走ってくる始末。
何でお前まで来ンだよ!
迫ってくる清峰に若干引きつつ見知らぬ女子生徒の横を通り過ぎると、「男子って馬鹿だよねぇ〜」なんて言っているのを耳にしてしまって、グサッと背中に刺さった。
確かに、バカだよなァ。
速度を落として要を追うのを止めると、後ろから後を追ってきていた清峰が俺の事を追い越していく。
そしてそのまま要に突撃していき、何やら二人でギャーギャーやりあっていて、それを見た女子生徒が「清峰くんって子供っぽい所もあるんだ?何か可愛い〜」などと言っていて、正直言って解せん。
顔が良ければ何でも許されんのか。

一悶着ありつつも大人しく帰る事にした俺達は、最初にバッテリーと手を振り、そしてつい先程ヤマとも手を振った。
千早と並んで歩く通学路には綺麗な紫陽花が咲いていて、雨を弾きながら佇んでいる。
それを横目にしつつ、何日か前に「綺麗ですよね、紫陽花」と紫陽花をつつきながら千早が言っていたのを思い出す。
そんな姿を珍しいなと思いつつ、可愛いとも思った。

「そろそろ雨止みそうですね」

千早の声に釣られて空を見上げると、雲の隙間から光の道が出来ていて、雨もだいぶ小雨になっていた。
あと五分もしたら止むかもしれない。
止んでしまうのが、少しだけ惜しく感じた。

「なァ」
「なんです?」
「相合傘しねェ?」
「頭沸いたんですか?」
「至って正常。ここの道、滅多に人通らんし。少しだけでいいから、な?」

眉毛を八の字にして頼むと、胸元を押えた千早は何かを堪えるような顔をして「少しだけ、ですからね」と言った。
千早がこのお強請りに弱いのは知っている。
もはや百発百中の方法で時たまこんな風に使っているのだが、本当に面白いくらいあっさりと俺の願いが通るのだ。
特別扱いされてるんだろうな、きっと。
勿論俺も千早にお強請りされると断れないからお互い様で、俺にとっても千早は特別だ。
傘を閉じて「お邪魔します」と律儀に言う千早は俺の隣へと収まるが、ただ少し距離があって、互いの肩が傘からはみ出している。
もう少しこちらへ寄れと肩を抱くと、先程より近くなった分、千早の体温を感じてドギマギした。
やべー、なんか、やべー。
良い匂いがするし、やべー。
耳赤くなってんの可愛いし、やべー。
つーか、俺の語彙力がやべー。
少しずつ理性を失ってきているように感じるのは気の所為ではなくて、こんなんもうただの我慢比べだ。
理性が勝つか、性欲が勝つか。
流石にこんな所で襲う訳にもいかないので、理性に頑張ってもらうしかないのだが。

それから無言のまま歩き続けて、辿り着いてしまった分かれ道。
いつだってこの瞬間は名残惜しくなる。
もう少し一緒にいたいと心が言っても、千早を引き留める術を俺は持たない。
また明日、そう紡がれるであろう唇を凝視してしまったが、一向にその言葉を耳にする事はなく、ただ千早はキョロキョロと辺りを見回していた。
そんな良くわからない行動にクエスチョンマークを浮かべていると、やっと俺の顔を見た千早に屈んでくれと言われて、更にクエスチョンマークを増やす。
リアクションできずにいる俺に痺れを切らした千早は、俺のワイシャツの胸元を掴んで引き寄せた。
グッと引っ張られて傘ごと沈む。
びっくりした俺は思わず声を出そうとしたが、千早に塞がれて叶わなかった。
一瞬だけ触れて離れていく唇を目で追うと、悪戯っぽく笑いながらゆっくりと動き出す。

「ふふっ、相合傘も悪くはないですね?」
「お、おう」
「俺ね、こんな、なんでもない日常を藤堂くんと過ごせるのが……存外好きですよ?」

突然そんな事を言ってふんわり笑うものだから、思いっきり抱き締めたくて仕方がなかった。
お前、後で覚悟しとけよ?
千早を家に連行していく事が決定した瞬間だった。

───我慢比べは、どうやら理性の負けのようだ。

END