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Adaps_A
2026-01-15 23:57:12
2442文字
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温度差兄弟のはなし
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レッドホットと光がカフェで相席するはなし
障壁の外から来た旅人、根無し草のお人好し。
頼まれごとを断るところを見たことがないし、それなのに聞けば聞くほど二重の意味で破天荒。
第一印象は「つまらなそうな有象無象」、だったというのに。
それがまあ、兄者の用事の時間潰しに入ったカフェで、相席するような仲になるとは。
生身の統一王者はホットココアを啜って、ブラウニーを口に運んだ。
こちらもサンドイッチを口に放り込んで咀嚼し、エナジードリンクで流し込む。
聞きたいことがあった。
障壁の外
トライヨラ
、その向こうから来たという、彼に。
「寿命を延ばす方法、知ってるか」
彼はブラウニーを飲み込んで、それから少しの間目線を彷徨わせた。
そうしてたっぷり10秒、言葉を選んで口を開く。
「既に不可能な方法しか、知らない」
「構わない」
「
……
そう」
フォークを置いて、両手を絡ませる。
そこまで困らせるような話題だったのだろうか。
それでも、聞くしかなかった。
ここにはもう、永久は無い。
「なら、方法は三つ。まず
……
指定された一族の血を使って膨大なエーテルを蓄えた塔と同化する方法。これは実際にやった人が仲間にいて、ミコッテ
……
えと、ヘイザ・アロで、少なくとも数百年の寿命を得ていた」
「そうか」
「原理までは聞いてないけど、おそらく塔と同化することによって身体を無機物に寄せてるんだと思う。理論上は塔と同じだけ生きられるけど、戦闘沙汰とかが多くなると無機物の性質に寄りすぎてしまう
……
はず。仲間も、最後にはクリスタルの立像になったから」
「それは
……
困る」
理論上は永久だろう。
だが、それは望んだ通りの永久ではない。
そもそも特定の一族の血族でなければならないのなら、確かにこの方法は不可能だ。
「次
……
『不滅なる者』になる方法。これは肉体が死を迎えた時の魂の動きについて押さえておく必要があるけど
……
」
「基礎だけなら」
「んん
……
」
彼は頭をこつんと叩くと、目を閉じる。
二度、三度と繰り返してからこちらを見て、一つ頷いた。
「じゃあ、認識合わせを兼ねて簡単に。レギュレーターを使用していない場合、肉体が死を迎えると魂が離れてエーテル界
……
おれたちは星海と呼んでいるけど、そこへ向かう。ここまではいい?」
「ああ」
「星海へ向かった魂はそのまま記憶を洗い流され、新たな魂として戻ってくる。これが一般的な魂の輪廻」
ホットココアを一口。
これまでの説明におかしなところはない。
一つ頷いて、続きを急かす。
「件の『不滅なる者』ってのは、この肉体が死を迎える時に特異性を発揮する。星海に向かうことがない」
「
……
魂だけ、残る?」
「そう。肉体は死んでいるから
……
別の器が必要になるが」
なるほど、不可能なわけだ。
他人の身体を使わなければ、生き永らえることはできない。
それをオレたちが許容できるかと言えば、難しいから。
「最後のひとつ
……
永久人については、きみの方が詳しいだろう」
彼は、話は終わったと言わんばかりにブラウニーをつつく。
大きな塊を突き崩しながら、興味なさげに続ける。
「おれ個人としては、きみの寿命を延ばすより相手の寿命を縮める方が、手っ取り早いと思うけれど」
頭をガン、と殴られたような衝撃だった。
そう、そうか。それもそうだ。
確かに、『寿命を縮めてもらう』方がいい。
「苦しまずに、きれいなまま、できるか」
「
……
」
小さくなったブラウニーを咀嚼して、彼はこちらをじとりとした目でねめつける。
負けじとこちらも睨み返せば、塊を嚥下した彼は一つだけ息を吐いた。
「伝聞になるから確証はないが、黒薔薇という兵器がその条件に当てはまる」
「材料は」
「使用も所持も生成も、おれが許さないが」
「なら、原理は」
しつこく食い下がるオレに、とても嫌そうな顔をしている。
初めて見る表情だ。
相当嫌なことがあったのだろう。
「
……
エーテルの属性については」
「基礎まで」
「んん
……
体内の、エーテルを
……
こちらでは霊極性と呼ばれてる属性
……
に、極端に寄せる」
「
……
霊極性?」
「鎮静と停滞を司る。別の文化では、光属性とも」
「なるほど」
鎮静と停滞。
体内の生命活動を、一気に止めてしまうということか。
なるほど。
……
なるほど。
「それがいい」
そうしよう。
それがいい。
そうするしか、ない。
「別に、いいけどさ」
ブラウニーをきれいに平らげた彼が、どうでもよさそうに続ける。
「悪用されないようにだけ、してよ」
すっかり湯気の消えたホットココアを揺らして、一気に煽る。
当然だ、と一つ頷いて見せれば、とても嫌そうな顔でフンと鼻を鳴らした。
この様子では悪用どころか、オレたち以外の誰か一人にでも存在がバレた段階で殺しに来るだろう。
どうやって管理すべきか頭を悩ませていると、不意に背後から手が伸びてきた。
「オイ、なんか盛るならバレねェようにしとけよ」
手の主はそれだけ言って、サンドイッチをつまんで口に放り込む。
どっかりと隣の椅子を占拠した兄者は、飲み損ねたままとうに炭酸の抜けたエナジードリンクを吸っている。
「問題ない。兄者のためのものだ」
「そォかよ」
当然のように言って、頬杖をつく。
兄者は信頼している。
オレが兄者に毒を盛るのなら、相応の理由があるのだと。
「はあ。まあ、言うべきことは言ったからね」
「ほォ~ん?」
呆れ顔の統一王者は、手早く皿をまとめて返却口へ向かう。
兄者は訝しむような顔でそれを見送って、オレの肩へ手を回した。
「名誉統一王者サマとずいぶん仲良さそうじゃねェの」
「相談をした。兄者にも、話がある」
「そうか。さっさと帰るぞ」
「ああ」
幸いなことに、時間はまだある。
たくさん話をして、たくさん体験をして、そうして一緒に死ねるのならば、それでいい。
どちらが先か。なんて、どうでもいいのだ。
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