わかちィ
2026-01-15 22:45:59
3177文字
Public 小説
 

Connection①

ザレイズ軸、メインシナリオ第3部終了後くらいのタイミングで想定してますが、攻城戦ネビリムイベントをプレイする前に書き始めたので矛盾多々あり。
それでも許せる人向け。

●一部成人向け描写を含みますので、18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください(該当パートに年齢確認を設けます)。

※ザレイズをプレイされてない方向け補足:アッシュはプレイアブル加入後、ミリーナ達のアジトでルークと一緒に生活しています。
第3部中盤でティル・ナ・ノーグにおけるレプリカ生成について調べるため、ルーク達を裏切るふりをして敵対している帝国に潜入。その先でディストと合流し、アジトへ帰還します。

※用語解説
・オーダー1日1回、料理・討伐・探索それぞれで1~4人チームを組み、出撃させるシステム。
短時間から丸一日の長時間に及ぶものまで幅広くある。
・魔鏡通信各鏡映点に支給されている通信用の端末。
・鏡映点それぞれの世界で多大な影響を及ぼした人物が、ティル・ナ・ノーグに具現化された際の呼称。
・フォミクリーオールドラントでは第七音素を用いてレプリカを生成していたが、ティル・ナ・ノーグではキラル粒子というものに同様の性質がオーバーレイ処理されており、それを用いて8番目のイオンが作り出された。
・オーバーレイ元の世界にあった精霊や音素、マナなどが持つ性質をティル・ナ・ノーグに存在する別の物質へ付与する処理。


******

——ドォ…………

バサバサ、バサッ……


 街から少し離れた、とある森の中。
大きな爆発音がしたかと思うと、かすかに大地が揺れた。鏡動ではないその振動に驚いた鳥たちが、木々の間から一斉に羽ばたいていく。
木々の少ない空き地に、剣を構えるひとりの少年が佇んでいる。大気を震わす振動と熱気とが、そんな彼の肌をチリ、と撫ぜた。

——きぃん。

《ルーク!そっちに行ったぞ!》
「っ、つう……了解!」
 ルークと呼ばれた少年は、痛みの走るこめかみを押さえながら、前方の茂みへじっと目を凝らして、その時を待っていた。
肩のあたりで切り揃えられた短めの髪は、まるで焔の色をそのまま染め込んだように朱い。あまり日に焼けていない白肌と、翡翠の双眸が燃ゆるような彼の髪を、一層引き立たせている。
(もうすぐだ……)
ルークは、獲物の接近に備えて、愛剣を握る左手にぐっと力を込める。

 『彼』からの合図があってから、数秒が経過した。
遠くの——先程、大きな爆発音がした方角は、ここからそう離れてはいないはずだ——とルークが考え込んでいた矢先、轟くような地響きがこちらに向かってくるのが聞こえ、ルークはハッと顔を上げた。
「ギャオォーッ!」
(きた!)
 生い茂る草木を掻き分けて、足音の主が姿を現した。紫がかった毛で全身を覆われた巨大な獣が、唸り声を上げながらルークに向かって真っすぐに突進してくる。
(エクスブレイズが直撃したのか)
鼻先の体毛が一部分だけ、黒く焼け焦げている様を見咎めたルークは、獲物の状態を素早く把握した。

 『彼』が得意とする、高温の炎で敵を焼き尽くす譜術。アレをまともに食らったのなら、獣に残された体力はそれほど多くは無いはずだ。
自分の方へ猛進してくる獣に、ルークは一切恐れを抱いていなかった。怯むことなく、地に両足をしっかりと付けたまま、剣を握るのとは反対の手の平へ、意識を集中させていく。空気中の水分が、ルークの右手へと集まり、ひとつの塊になっていく。

「これでとどめだ——!砕け散れ、絶破烈氷撃!!」

 そう叫ぶと、ルークは力強く地面を踏みしめ、掌底を繰り出した。集めた空気中の水分を、瞬時に凍結させる奥義だ。
勢いよく向かってくる獣の鼻先に向けて、ルークは思いっきり技を放った。手の平から放たれる幾粒もの氷塊が、次々に獣の身体へとぶつかり、弾ける。
「ギャッ……!!」
 灼熱の炎に焼かれた上、凍てつく一撃まで浴びせられ。獣にとっては、堪ったものではない。特に毛の薄い鼻先は、獣の弱点だったらしく、短い断末魔を上げた獣は、その場に呆気なく崩れ落ちた。轟音を上げて倒れ込んだ巨体は、ピクリとも動かない。

「はぁ……はぁ……
 ルークは乱れた呼吸を整えながら、ゆっくりとした足取りで動かなくなった獲物へと近づいていく。獣の横面を覗き込むと、そこには静けさのみがあった。それは、獣の命が失われたことを、雄弁に物語っていた。
(ごめんな)
横たわる獣に向かい直ると、静かに頭を下げる。左の胸に拳を持ってくる礼の作法は、彼が育った街であるバチカル式のものだ。
(俺は、ここでも奪うことしかできないのかな……)
 いくら近隣の住民から受けた依頼とはいえ、ルークは人や魔物から命を奪うことに、未だに躊躇がある。この異世界にやってきて——呼び出されてからというもの、こうした討伐の依頼は数多くこなしてきたが、ルークはそのたびに、胸を痛めていたのだった。

「無事か、ルーク」
 静謐に包まれた森の中で、ふと人の声がした。自分の名を呼ぶバステノールに、ルークは項垂れていた頭をぱっと上げる。獣が出てきた方向に生い茂る草木を掻き分けて、血を纏った黒が滑り出して来るのが、ルークの目に入った。
「アッシュ!」
 そこには、ルークとそっくりな顔をした青年が立っていた。ローレライ教団特有の特徴的な紋様が描かれた黒い法衣に身を包み、血を思わせるほど鮮烈な紅の髪を、腰まで長く伸ばした『彼』——アッシュは、獣の屍骸のそばに佇んでいるルークの元へと駆け寄ってくると、ルークを一瞥した。彼に大きな傷がないことを確認すると、アッシュはほぅ、と安堵の息を漏らす。
「首尾良く仕留められたみてぇだな」
 そう一言、ルークを労う言葉を掛けながら、アッシュは腰に提げていた荷物袋から、一本のボトルを取り出した。半透明の筒の中で、色とりどりの丸い物体がころころと音を立てている。それはこの世界でも、ルークたちが元居た世界でも、薬品として重宝されている『グミ』がたくさん入ったボトルだった。アッシュはボトルを傾けて、その中身をいくつかグローブの上へ取り出すと、ずい、とルークの方へその手を突き出した。
早くしろ、と言わんばかりに小さく唸るアッシュの意図を、ルークはすぐさま汲み取ると、彼の握りこぶしの下へ、ぱっと手のひらを広げた。アッシュはその上へ、拳の中身をぱらぱらと転がしてやる。
「まぁな!アッシュがちゃーんとエクスブレイズを当ててくれたおかげっつーのもあるけど!」
 アッシュから幾つかのグミを受け取ったルークは、歯を見せてにかりと笑った。そのまま手頃な赤い一粒を摘まむと、ぱくりと口へ含む。途端、芳醇な林檎の香りが口いっぱいに広がった。林檎の果汁と疲労回復の効能を持つ薬草を煮詰めて作られたグミの甘みは、戦闘後の緊張で強張ったままの身体を、ゆっくりと癒し、解していく。
「ふん、当然だ」
 弾けるようなルークの笑顔とともに掛けられた言葉に、アッシュは鼻を鳴らして応えた。だが、その顔はどこか満足げだ。自身も、ボトルから更に何粒かグミを取り出して、ぽいっと口の中へ放り込む。
(素直じゃねー奴)
 高貴な生まれのわりには粗雑な——その点に関しては、ルークも似たり寄ったりだが——アッシュの仕草に、ルークは口元を緩めると、手の中に残っていたグミをもう一つ、口に含んだ。今度は、甘酸っぱいレモンの酸味が舌の上にじんわりと広がる。
「少し休んだら、作業に移るぞ」
「ん」
 静かに横たわる獣の遺骸を眺めながら、ふたりは束の間の休息を取った。時折、一陣の風が吹いては、揃いの赤髪をさらさらと揺らしていく。

(こんなこと、いつまで続くんだろう)
 ルークは横に立つアッシュの顔を覗き見るが、そこには何の感情も浮かんではいなかった。ただ静けさがあるだけで、それはあの獣の横面にあるものと似ていた。
(俺はここにいても、いいんだろうか)
そんなことを考えるルークの頭には、もきゅもきゅとグミを咀嚼する音だけが響いていた。