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やまだ
2026-01-15 20:31:22
2548文字
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原神
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ディルガイ かわいこちゃんの話
ちょうど七日前の夜、初めて義兄と寝た。
つまりガイアはたっぷり七日間もそのことについて悶々と悩みつづけているということになる。
ううむと唸って腕を組む。珍しく真面目な顔をしているじゃないかとからかいの言葉を投げてくる老人の横をにやっと笑って通り過ぎ、ガイアが向かうのはこんなときでもエンジェルズシェアなのだった。
構わないだろう。どうせこれまでの六日間と同じように、今夜もディルックはいない。いない相手に気を遣ってうまい酒を逃すなんて、あまりに馬鹿馬鹿しかった。おっかなびっくり窓から店内を覗きこんでいた当初の純情をワインにして返してほしいくらいだった。
「あの野郎、露骨に逃げ回りやがって」
ブーツの踵をごつごつ鳴らして裏通りへの階段を降りながら舌を打つ。出口を入口にされたのはガイアのほうで、ディルックと自分とどちらがよりいたたまれないかで言えばおそらくこちらでいいはずだ。
それなのに、あの晩以降ガイアはかがり火のような赤毛をモンド城内でちらりとも見かけなくなった。なんて露骨な男だ、と、溜め息のひとつもつきたくなる。
それなりに長々としたものだったが、周辺で客引きに声を張り上げるバー店員たちのおかげですぐにかき消された。
果実の発酵したかぐわしい香りが強まる通りを迷わず進み、もはや中を確認することなくさっさと扉を開けてエンジェルズシェアへ滑りこむ。顔を上げれば案の定、カウンターの中でチャールズが呆れ顔をしている。
「今夜も来たのか。うちとしちゃありがたいがね、さすがに飲み過ぎじゃないのか」
「おっと、そいつは俺の台詞でもあるぜ、チャールズ。
俺の記憶が確かなら連日カウンターに立ってるよな? きちんと休みをとったほうがいい」
「お気遣いどうも。そうさせてもらうよ。ディルック様からも言われているからな」
苦笑顔のチャールズからもはや何も言わずとも出てくるようになった赤ワインのグラスを受け取って、ガイアはその陰で素早く瞬いた。
「
……
ほお? そりゃよかった。それで念願の休日はいつなんだ? 明日か? あさってか?」
「
……
今からだ」
チャールズの肩の向こうで裏口の扉がばたんと閉まる。
ぎゅっと唇を結んだ男は、ここ数日ちっとも見やしなかった赤毛を揺らし、リキュールの瓶がぎっしり詰まった木箱を軽々と片腕で抱えている。相手があまりにも気まずそうなお陰で、逆にガイアは落ちついた気持ちでにっこりと笑うことができた。
「よおディルックの旦那。随分ご無沙汰だったじゃないか。ここには連日顔を出していたんだが、不思議なくらいおまえと鉢合わせたりしなかったよなあ」
「
……
そうか」
「チャールズ、さっさと引き上げないとディルックの旦那にまた仕事を言いつけられるぞ? 俺やほかの客の相手は旦那に任せて、おまえは今日までのぶんもゆっくり休めよ」
チャールズはにこにこ笑うガイアを眺め、仏頂面ながらもはっきり首肯するディルックを振り返り、そして苦笑しながらエプロンの腰紐を解く。
「
……
おふたりとも、ほどほどに」
ガイアもディルックも、それには返事をせずにチャールズの背中を見送った。入れ替わりカウンターに立ったディルックは、ガイアの前で深く俯いてリキュールの整理を始める。
「
……
おい。嘘だろ」
さすがに声が出た。この後に及んで無言を貫く往生際の悪さは想定外だ。
「俺に何か言うことがあるんじゃないのか? ディルック?」
少なくともガイアはそうだった。ディルックに言いたいことがあって、今日まで足繁くエンジェルズシェアに通っていたのだ。
「
……
体の具合は」
「七日前は色々と不都合があったぜ。まあ、今はもうなんの問題もない。何しろ七日も経ったんでな」
ぐっ、と息を呑んだディルックの、今まさに喉仏が上下する首筋がどんな噛みごたえなのかを知っている。
白くなめらかな頬を伝う汗の味を知っているし、デイルックの脇腹にある、引き攣れて肉が盛り上がった傷の感触も覚えた。へその裏を性急に探る指の節のかたちも、ガイアの腹はちゃんと忘れずにいる。
だから、嘘だろう、と言ってもいいはずだ。ディルックからの言葉を待っていたとしてもいいはずだ。
そして、これだけ待ったのだから、もうガイアが口にしてしまったって構わないに決まっている。一気に中身を叩ったワイングラスを、行儀悪くカウンターへ叩きつけた。
「おい。
……
その、
……
だからだな、つまり、次はいつおまえの部屋に泊まりに行けばいいんだよ俺は」
「
……
は?」
「
……
なんだよ、その顔は」
いつもつまらなそうに半分降りている瞼がぽちりと上がって、いっぱいに見開かれている。随分久しぶりに見る顔だ。自分が今口にしたことよりもディルックのその顔が気まずくて、ガイアはわざと顔をしかめた。
「
……
次の話をしてもいいのか」
「おまえなあ
……
」
ここが店でなかったら、ディルックの膝の裏を思いきり蹴り飛ばしていたところだ。ガイアは今度こそ心から眉を寄せ、ディルックを睨み、ぎょっとする。
「
……
ディルック?」
「
……
なんでもない」
「
……
なんでもないでごまかしきれる面だと思ってるなら、悪いが大間違いだぞ」
ディルックの額も耳も目元も、口を覆う手の指先まで、ご自慢の赤毛と同じ色になっている。どうも首まで赤いようだ。
「
……
ガイア」
「
……
うん」
つられてガイアまでいたたまれない。手持ち無沙汰にグラスを傾け、口先にほんのひと滴ワインが触れたところでやっと、ついさっき飲み干したことを思い出した。
「すまない。
……
次があるとは思っていなかったから」
「
……
いつおまえからお呼びがかかるかってそわそわしてた俺がみじめになる話だな」
え、と呟いたディルックが手で隠していた顔を上げると、もはや頬はりんごよりも赤かった。まるい目と口と、赤い顔と、すべてを正面から見せつけられるとガイアはもう天井を仰いでしまう。
ディルックめ。昔の無邪気さを捨てて常に仏頂面で、面白味のない、馬鹿がつくほど責任感が強い堅物が今のおまえだろう。そのはずだろう。
……
今でもまだこんなにかわいい顔ができるだなんて、まったく知らなかった!
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