Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
やまだ
2026-01-15 20:25:43
3004文字
Public
原神
Clear cache
No title
ぎきょ〜だい 昔の金リンゴ島イベントの話
「ここで待っているべきだと思うぜ。俺の経験上、置き去りにされた側は置いていったやつが戻ってくるまでじっとしていたほうがいい」
「
……
いや、迎えに行ってやったほうがいい。レザーのことだ。何かを追いかけてどこまでも走りまわっている可能性が高い。そもそも、彼に僕たちの常識が通用するかが曖昧だろう」
「おいおい、その言いかたはさすがにレザーに対して失礼じゃないか? 意図はわかるが言葉を選べよ、旦那様」
「
……
君、僕の揚げ足を取るときはいつも本当に楽しそうだな」
「うん? そうでもないさ。俺はいつでもどこでも何か面白いことを探しているだけ
……
で」
ガイアのぺらぺらよく回る口がはたりと動きを止めたので、合わせてディルックも瞬きした。
夏の日が白く照り返す無人島の浜辺は静穏で美しい。
何も問題を抱えてさえいなければ、のんびり水平線を眺めたかったところだ。三名いる同行者のうち一名が行方不明になり、うち一名が因縁深いかつての義弟という、問題だらけの現状が残念でならない。残る一名が理知と常識を知る人間であることが、せめてもの救いだった。
「
……
どうした? ガイアさん」
ガイアは何やらうろうろと目線をさまよわせていたが、ディルックの背後を覗くなりみるみる隻眼をまるくする。
「
……
なあディルック、あれ。アルベドじゃないか?」
「
……
あれ?」
青空と水平線に向けて伸ばされているだろうガイアの人さし指を追いかける。ディルックが振り返った先は、この島付近にも転々と存在するほかの島々のひとつだ。
なぜか、その浜辺に、つい先ほどまで近くに立っていたはずのアルベドの小さな背中が見える。
理知と常識を知るはずの西風騎士団首席錬金術師は、無言で見つめるディルックとガイアを振り返ることなくそのまますたすたと歩き去ってしまった。
「
……
ディルック」
空が青い。海も青く、塩気のある湿った風がディルックとガイアの髪を掻き混ぜて通り過ぎる。降りそそぐ陽光で砂浜は白く輝いて美しい。
「
……
どうしたらいいんだ、これ?」
「
……
僕に丸投げするな。君も考えろ」
救いはないのか。
呆然とする義弟を横目に、ディルックはうんざりと、潮風と汗で絡まった前髪を掻き上げた。
ガイアが波打ち際でさざなみを凍らせて遊んでいる。
凍ったしぶきをブーツで踏み潰す幼児じみた仕草が妙に馴染んでいて、離れた木陰からそれを眺めるディルックはなんともいえない気分をもてあました。
そういえば、昔からガイアは夏が好きだった。暑がりのディルックをあれこれ宥めすかして屋敷前の野原やぶどう畑を駆けまわっていたことを思い出す。騎士として城下町で暮らすようになってからも、風立ちの地まで遠駆けついでに湖へ飛びこむのが夏の習慣だったのだ。
間違いなく、今もはしゃいでいる。
過去などすっかり置き去りにした他人の顔をするようになったくせに、こんなときに限って変わらないものをディルックへ見せつけてくる。困り果ててディルックの判断を頼り、甘えるようなこと、ガイアは本当に幼いころにしかやらなかった。
「
……
ふん」
それをまんざらでもなく感じてしまっている自覚があるから、ディルックは自分に呆れたらいいのか腹を立てればいいのかわからずにいる。
「
……
ディルック!」
ぽかんと晴れた空にガイアの能天気な声が広がる。
輝く青空を負い、ガイアはモンド城下町では見せたことのない顔で晴々と笑っている。まるで父とともに過ごした少年時代の表情だった。
「どうした」
「すまん、今の今までまったく気がつかなかった! 俺が海面を凍らせれば、少なくともアルベドとは合流できるんじゃないか?」
眉をしかめたのは、ガイアに言われるまで自分もまったく気がつかなかったからだ。さんざんガイアの遊ぶ様子を見守りながらその発想に繋がらなかった。
ディルックの反応にガイアがちらりと苦笑する。さんざん見覚えのある顔だ。
「そんな嫌そうな顔するなよ。ほかに手があるか?」
「
……
別に嫌がってはいない」
「へえ?」
薄く笑って、ガイアは海へ向け軽く手首を振った。
それだけで陽気に白波を立てていた海面がたちまち凍りつく。
冷気は浜辺を渡ってディルックの元まで届き、淡く頬の火照りを鎮めた。
「父さんに誓って言うが、俺は間違いなく対岸まで渡れる氷の道を作ってやれる」
凍らせたさざなみを踏み潰していたブーツが今は海上にある。ガイアの宣言通り、氷は踏み抜かれることなくそこにあった。
それを視認してからディルックは少しだけ顔を上げる。
「あとは、おまえが俺を信用するかどうかだ。
……
ディルックの旦那、おまえは俺の作った氷を踏んで海を渡れるか?」
陰気な顔でにやりと笑うガイアよりも、さっきまでの間抜け面のほうがいくらかましだった。
鼻を鳴らす。白い砂を踏みつけ踏みつけ、ディルックは波打ち際に立った。海上でディルックを待つ薄笑いをじっと見る。
できないだろう、という揶揄と諦めが夏の日に曝されていることに、おそらくガイアは気づいていない。
「
……
ふん」
案の定、ディルックが氷を踏むとガイアは隻眼を見開いた。無防備なその顔は、もうもうと立ちのぼる湯気ですぐにぼやけて見えなくなる。
「
……
はっ? おいディルック、ふざっ
……
!」
ディルックの足下で溶けた氷が荷重に耐えきれず割れるのと、抑えつけられていた海水が溢れ出すのは同時だった。ざぼん、とくぐもった水音がふたりぶん響くのはそれよりもほんの少し遅れた。
塩辛い水が鼻や口に流れこんでくるし、髪や衣装がたっぷりと海水を吸って重たい。鼻から上を海面に出して浮かぶディルックとガイアは、そのまましばらく半目で見つめあっていた。
「
……
おまえなあ」
ぶくぶくぶく、とガイアの不満に満ちた声が水中から泡立っている。
「神の目を手に入れてからもう何年だ? 火力ぐらい調節できるだろうが!」
「
……
これでもモンドなら支障のない程度だ。ここは暑いし、加減が難しい」
「ガキみたいなこと言いやがって
……
」
ぶくっ、と浮かんだ一際大きな水泡は、おそらくガイアの溜め息だ。それを残して浜辺へ戻るガイアの背をディルックも追う。ブーツの中に水が溜まって、歩くたび嫌な音をたてた。
「
……
ディルック、服を乾かしてくれ」
黙ってガイアに触れる。ふたりぶんの衣服から立ちのぼる水蒸気はなかなかの量だった。
揃ってそれを見送り、そしてなんとなくそのままふたりで水平線を眺める。遠くに海鳥が旋回していた。
「
……
どうやら誰かさんのおかげで、アルベドかレザーが俺たちのことを思い出すまでは身動きがとれそうにないな」
「
……
そうらしい」
ひとりで海を渡って行けばいい、とは言えなかった。
隣で拗ねて下唇を突き出すガイアも、とっくに思いついているだろうになぜか口にしようとはしない。
「
……
ディルック」
代わりのように名前を呼ばれた。目で促すとガイアは、ディルックのおとうとは、尖らせたままの唇をいかにも気まずそうにもごもごと動かした。
「
……
結局渡れはしなかったが、俺の氷でも乗るんだな。おまえ」
ふん、と鼻を鳴らす。
君こそ僕と一緒に海に落ちるんだな、と言い返してやるには、空と海があまりにも明るすぎた。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内