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やまだ
2026-01-15 20:21:51
2465文字
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原神
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ディルガイ 交換条件の話
「怖いか」
囁くような問いかけにガイアは考える間もなく頷いた。恥もなけなしのプライドも今夜ばかりはかなぐり捨てる。怖いものは怖いのだ。絶対に今、ガイアの笑顔は引き攣って震えている。
嘲りたければ好きなだけそうすればいい。
ベッドで全裸の義兄にのしかかられて、知らない色で煮えたぎる瞳に見下ろされるガイアも当然のように服を剥がされて、こんな状況を楽しめる人間がいたならそいつは間違いなく気が触れている。
呼吸すらもはやままならない。浅く短い呼吸を繰り返し、それも真上にいる男に遠慮しながらなので、ガイアの息苦しさはまったく改善されないままだ。
「ディルック、これは
……
この先は、ちょっと冗談じゃあ済まないだろう」
「君はこれまで冗談で僕とキスだのなんだのを?」
口調は疑問のていをしていたくせに、ディルックはガイアが答える前に嫌味なほど丁寧な口づけを施してきた。どうせ何も答えられないとでも思っているような舌に奥歯のくぼみを探られてうんざりする。正解だ。
確かにキスはした。互いに、多少、過剰なスキンシップもあったかもしれない。だがガイアはディルックの前で裸になったことはこれまで一度もないし、この先もその予定はなかった。同性同士の抱いて抱かれてが想像できなかっただけではなく、相手が他ならぬこのディルックだからだ。義兄だからだ。
それはディルックも同じだと思いこんでいた。唇を合わせるのもほんの気まぐれに肩を寄せてみるのも悪ふざけのようなものだ。やめると決めたら簡単に終わる程度の触れあいだと、ガイアは自分へずっとそう言い聞かせていたのだ。
そのすべてがまったくの見当違いだったのだから、呆れた笑い話だ。
「一応悪いとは思うが、ガイア、僕はやめてやらない」
ガイアの唇の上にディルックがゆっくりと囁いた。
重く湿った表皮を伝い落ちて、熱をはらんだ言葉はガイアの肌を粟立たせる。
一応かよ、と笑う余裕などとっくにない。おまえは男同土で肌を合わせる方法をなんで知ってるんだと尋ねることも、もちろん思いつかない。ただ頬をひくりと震わせるのが精々だ。
「
……
ガイア」
さすがにガイアの醜態を見かねたのか、鼻の触れるほど近くにあった顔をディルックが少しだけ離してくれた。首をななめにして上品に瞬く。素裸でさえなければ見栄えのする仕草だった。
「僕はこれから、君の男性としての矜持だとか僕に対しての幻想だとかを粉々にする」
「
……
どんな宣言だよ」
「だから君も僕から何か奪っていい」
思わずまじまじと真上にある白い顔を窺ってしまった。捨てると決めれば容赦ないが、自分のものと決めれば何があっても手放さないのがディルックだ。
「ガイア、今夜の代償に君は何が欲しい?」
くらりと目眩がした。
ディルックのたなごころに載るものの価値を、ガイアも知っている。この男がどれだけの血を流して得た宝かをよく知っている。ガイアごときと等価で引き渡されるべきものなど、何もない。あるはずがない。
「バカなこと言うなよ
……
」
「さっさと決めてくれ。僕にだって限界はある」
まるで自分が気の長い大らかな人間であるような物言いをする男を見上げてみる。相変わらず狩り直前の飢えた鷹に似た目をしてはいるが、ぼうっと赤く染まった頬はかわいらしかった。
いつの間にか深く呼吸ができるようになっている。
「
……
ディルック」
ディルックは軽く片眉を上げた。ガイアに声で相槌を打つのが面倒なときによくする表情だ。この癖は変わらない。
「
……
なんでもいいんだな?」
「構わない」
「言ったな? 絶対だぞ?」
「しつこい。何が欲しいんだ」
「なら、笑ってくれ」
す、とディルックが息を呑む音はやけにはっきり響いた。白い喉が震え、唇がひらく前に、ガイアは縋るような早口でそれを遮りにかかる。
「頼むよディルック。笑ってくれ。一回でいい。昔みたいに笑ってほしい。俺はそれが見たい。欲しい」
ディルックは何も言わなかった。片手で顔を覆って俯いてしまう。
父親譲りの豪奢な赤髪が肩を滑り落ちる様子を見守りながら、ガイアは静かに落胆する。やはりガイアがディルックのものを欲しがるなど分不相応だった。
冗談だ、何もいらない、と言ってやるべきだろう。
話しているうちに多少落ちついてもきたし、ディルックの好きにさせてやればいい。それでガイアの何が変わるわけでもない。
普段の軽薄な笑みを思い出そうとする。
「
……
ディルック、さっきのは」
「ガイア」
くぐもった声はディルックの手のひらの奥から聞こえた。微かに上がった顔は気まずげで、すらりと並んだ指先が繰り返し類を揉んでいる。
目をまるくするガイアの上で、ディルックは実に悩ましげに眉を寄せた。
「
……
笑うのが久しぶりすぎて、うまくできるかわからない。
……
君、笑うなよ」
とんちんかんなことを言って顔の筋肉をほぐす手を外したディルックから、ガイアは目を離さなかった。
自分に覆い被さる男の表情の変化を一瞬でも見落とすのが惜しかった。
「
……
笑うなと言っただろう」
ディルックの苦々しい声を聞きながら彼の肩にしがみついている。すまん、と謝る言葉も笑い声に滲ませて、ガイアは息も絶え絶えにディルックの体を抱きしめた。
「ああ、満足だ。もういい。ディルック、好きにしてくれ」
「
……
本当にこれだけでいいのか?」
「もちろんだ」
当人だからこそディルックはその笑顔の価値を知らずにいる。
まったく分不相応だ。こんなものを与えられては、ガイアから差し出せるものなど何もない。体ひとつで賄えるなら安すぎるくらいだ。
「俺はこの体を俺のものだと思ったことはないが、それでもいいなら、全部おまえにやるよ」
古傷だらけの肩に頬擦りして笑う。笑って、深呼吸する。
「
……
怖いか」
きっと歓喜のあまり気が触れてしまったのだ。囁くような問いかけに、ガイアは笑顔のまま、はっきりと首を横に振った。
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