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トゲトゲの陽だまり
最近気になってしょうがないことがある。
それは、ちょっと前までシャチのことが好きだ好きだと言ってたトモダチが、よくよくペンギンに話しかけられている、と言うこと。
『シャチくんやば!超推し!好き!死ぬ!』って毎日叫んでたあの子が、今はペンギンの袖を引っ張りながらスマホの画面を一緒にのぞいてクスクスと控えめな口の大きさで可愛く笑っている。
最初は「え?」って思った。でも、シャチとペンギンのふたりは大学入る前から仲の良い幼馴染なのは有名な話。将を射んと欲すればまず馬を射よ作戦なのかも知れない、そう生暖かく見ていたが。やっぱり。ペンギンとトモダチが良い感じである。
閑話休題。うちはその子の前でペンギンのこと推す宣言してるし、ちゃんと気になってるって、仲良くなりたいって相談したはずだけどね。『マジか』『ガチ応援する』ってミスドで語った数時間のあれはどうなったのか。酷い裏切りだ。女の友情なんて儚い割にはテンションとその場の勢いだけは立派なものらしい。はい、閑話休題終わり。
うちの友達だったあの子は完全にペンギン寄りになってて、確かにここ数日シャチの話とかほぼしなくなっていたし、なんというかうちと同じ強めギャルだったはずなのにいつの間にか清楚系にモデルチェンジしている。
これ何回目だっけ、と昨夜二時まで頑張ったマグネットネイルが光る指を折る。同じパターンのトモダチ3人目じゃん
……? ガチ恋に発展して、そして失恋の流れ。
で、元々ペンギンガチ勢のうちは、告白なんてもっての他の距離にいる。まともに会話すらしたことがない。そんなことを思いながら、ペンギンに急接近してるトモダチを見ながらふと思った。
待ってペンギンに話しかけられる子って、みんなシャチとそれなりに仲良くなった後じゃね?
逆説すぎる。超逆説。
ペンギンに近づくにはペンギンの親友であるシャチとお近づきになればイイんじゃん!
という可能性。
そろそろうちも見つめるだけの〝推し活〟から〝恋〟に進化しても良いんじゃないかと思った。
もし、上手くいかなくても、あんな距離でペンギンと並んでみたい。そう、思ってしまった。
次の日、心臓バクバクでシャチに突撃した。
シャチに対してなんか悪いことをしている気がしてちょっと罪悪感だけど、ごめんねシャチ。うちの青春のためにお時間いただきたい。
「あ、あのさっ
……!」
シャチはいつもの超人懐っこい笑顔でこっち見てくる。
「ん? どうした~?」
え、待って。初手でその笑顔ドキッとするんだけど。
そこからうちのシャチの攻略大作戦がスタートした。
隣の席で講義を受けたり、コンビニについて行ったり、シャチが聴いてる曲を「それ何?」ってAirDropしてもらったり。「これ超エモくない?」「だろ?お前センスいいな」って全力で褒められたり。
……で、わかった。
シャチは、めっちゃいい奴だった。
明るいし、話面白いし、意外と気遣いできるし、ノリもいいし、音楽や好きなブランドの趣味も合った。 趣味のネイルも変えたらすぐに気付いてめっちゃ褒めてくれる。
あれ? これ普通に友達として最高超えじゃん?
ってか、うちのトモダチたち? なんでペンギンに流れかけてんの? 意味不明すぎ。
講義室の前方の席、シャチはノートパソコンになにやらつまらなさそうに文字を打ち込んでいた。本来の目的、「ペンギンに話しかけられること」を忘れそうになる程自然に、「よっ」て声かけてその隣に座る。
そう、忘れてはいけない。シャチとは普通に仲良くなれたけど、肝心のペンギンからは依然ノータッチ。
ぜんぜんお近づきになれてない。
あーあ、この線は外れたか。まあシャチっていう友達ゲットできたし、これはこれでアリじゃん?
とか自分に言い聞かせながら、シャチの前でちょっと苦笑いして、そして思わず「はあ」ってため息が出た。
そしたらシャチが急にこっちをガン見してきて。
「今、ペンギンのこと考えてた?」
「えっ」
心臓止まるかと思った。
ってかその声、いつもより低くて
……なんかゾクッとするんだけど。いつものとっつき易そうなふわふわ笑顔じゃなくて、 フフンってちょっと悪い男みたいな笑い方していて。
「あ、
……ぇ?」
言い当てられたショックといつもと違う雰囲気に固まってると、シャチの手がスッと伸びてきて、 うちの落ちてた前髪をさらっとすくって、耳にかけてくれた。
「ペンギンの気を引きたいなら、おれにこれくらいの距離を許さないと」
シャチが、口元を釣り上げてまっすぐこっち見る。
いつも誰にでもあげてる太陽みたいな笑顔じゃなくて、なんか、独占欲みたいな顔。そんな真剣な顔で、ピンっと伸びた指で、断りもなくうちの髪と耳に触れてきたことにびっくりして息を飲んだ。
そしたらバン!って、シャチのノートパソコンが閉じられた。見上げたら、そこにペンギンが居た。いつの間にか。今日ペンギンは後ろの方の席に居たはずなのに。無表情で、すっと目を細めてシャチを見下ろしてる。さっきのシャチの顔とおんなじだ。
「シャチ」
低い声。威圧感やば。ちょっとビリっとして、うちが怒られているような気分にすらなった。喉元までごめんなさいって言葉が迫り上がってきている。
シャチは、すぐ体勢変えて背もたれに寄りかかって、ハンズアップした。
「はいはい、そんな怒んなよ」
シャチのそんな軽口は無視して、ペンギンはしばらくシャチを睨んだあと、今度はうちの方に視線移して、にっこり。そう、夢にまで見た、ペンギンがうちと目を合わせて微笑んでいる。
「ああ、髪が乱れちゃったなー」
って、さっきシャチが触ったとこに指で触れて、 耳にかけてた髪をはらっと下ろしてくる。
「!????」
至近距離でペンギンの長い指がうちの頬に触れて、それで。 うちは「あ、えと、あの
……」しか言えなくなった。
そしたらペンギン、ぽんぽんってうちの頭撫でて、
「騒がしくて、悪かった」
って。一言残して去ってった。
「
……ほらなァ」
その後ろ姿を見ながら。シャチが肩すくめてる。やれやれ、みたいに眉毛を下げて。うちのがすまんな、みたいな顔。
「ペンギンの気を引くのは簡単だけど、おれからひとつ助言をあげるな」
「え、なにぃ、助言
……?」
「えっとな。まず、ペンギンはやめておいた方がいい。あー
……それから、おれのこともな」
柔らかな、冬場に室内へ差し込む日差しみたいな顔で、とんでもないことを言う。
「ふっ、ははっ。ああ、
……ごめんな?」
その日、それからのうちは完全に思考停止状態だった。
待ち望んだはずのペンギンとの触れ合いと、その後のシャチの助言。頭の中では全部理解が追いつかなくて。ボーっとしたまま帰宅して、頭は混乱したままフリーズしている。呆然としたまま。
そして、お風呂に入ってて、ふと閃いた。
あ。 あれ。もしかして。
ペンギン、シャチに近づく女の子を牽制してたとか?
で、シャチはそのこと知ってて、うちにあんなことしたんだ
……。ペンギンが自分を見てるってわかってて。
うわっ!
やぶへびじゃん!!当て馬じゃん!!
お風呂でバシャバシャ顔を洗い流す。
居ても立っても居られない。
わ
――っ、て叫びたい気分。
そう、思い出すのはペンギンの指先の感覚でも、向けられた笑顔でもなくて。
心底嬉しそうな、口の中に綿飴でも頬張っているんじゃないかってくらいの、甘くて、みてるこっちが恥ずかしくなるようなシャチの「ごめんな」の声。半分笑ってしまっていた、あの、僅かに悦を含んだ顔。
ダシにしようなんてしょうもない作戦は、全部ばればれで。
さらにダシにされたってわけ。
ブクブクとお風呂に沈ませていた顔半分をバシャンと音を立てて上げた。
やっぱり、どうしても我慢できなくて。
わ
――って、ついに声に出して叫んだ。
――――――――――――
ペンギン:あからさまな自分狙いはスルー。シャチの一番は自分だしシャチのこと好きな女は嫌いだしシャチが興味もつ女も嫌い。
シャチ:なんかペンギンのこと好きな女(モブ子)が寄ってきたから『おれもペンギン好き!おまえセンスあるな』って思ってた。ペンギンの一番がおれなのはごめんな?って本妻の顔してる。
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