やまだ
2026-01-15 20:17:36
1715文字
Public 原神
 

No title

騎士団のぎきょ〜だい 

「君まで騎士になる必要なんてなかっただろ」
 そう言うと、ディルックの義弟はまたか、という顔をする。だけでなく、隻眼をわざとらしくぐるりと回してから空を仰ぎ、大きく肩を竦めるのだ。
「まったく、にいさんの忍耐強さと頑固っぷりときたらモンドいちだな。これで通算何度目だ? 俺は最近、にいさんと挨拶を交わした回数よりも多くその台詞を聞いてる気がするよ」
 神のいない城、風神バルバトスから置き去りにされたモンドは、今日も各々が満喫する自由で満ちている。
 西風騎士団本部の前庭にまで、風は人々の活気に満ちた声を届けるのだ。
 そして風はディルックとガイアが纏う騎士制服もはためかせて過ぎる。
「言ったろ、クリプス様からにいさんのことを頼まれてる。それに俺だってもともと騎士団には興味があったさ。年頃の男の子だからな」
「何を言っているんだか」
 ガイアが「年頃の男の子」らしい言動をしたことが、はたしてこれまでに一度でもあったかどうか。
 義弟は屈託なく人見知りしない性格で、確かに活発ではあるが、過ぎたやんちゃをしたことはない。むしろ何か事件を起こすのは大抵ディルックのほうだった。
 ガイアはいつもとばっちりで、叱られるディルックの隣で神妙にしていたものだ。
 ディルックがすぐ横の脇腹を肘で突いてやると、飛びあがった体がまた大袈裟に痛がり始める。
「何をなさいます騎兵隊長殿。庶務しか能のない平騎士に、このような無体を」
……本当に君の口は風車アスターよりよく回るな」
 ははっ、とガイアは横腹を抱えたまま快活に笑った。
「そりゃあ俺の周りにはいつもいい風といい光があるからな。……それよりにいさん、いいのか?」
「何が?」
「にいさんにあんまりうるさく突っつかれた俺が騎士団を辞めてラグヴィンドの家に逃げ帰っても、さ」
 ガイアの口調は明るかったし、にこにこと笑いながらの言葉だ。冗談だという前提をはっきり示されているので、ディルックも安心してゆったりと腕を組んだ。
 ふふん、と鼻を鳴らして笑う。
「僕にとっては願ったりさ。ガイアには危ないことをしてほしくないんだ。大事なおとうとだからね」
「おお、お優しいおにいさま。……そうだな、それなら俺は屋敷でぶどう畑の世話でもしようか。それで休暇のたびににいさんが土産と一緒に帰ってくるのを楽しみにするんだ」
「うん。いいね」
「何年かしたら、きっとにいさんは騎士団長になる。その頃には俺もクリプス様から、ここの城下町に酒場をひとつくらい頂けてるかも。そしたらにいさん、ちゃんと毎晩通ってくれよ?」
……その頃には僕もワインが好きになってるかな」
「当たり前さ、あのクリプス様の息子じゃないか。にいさんも酒豪になるに決まってる。……で、俺は酒場を開けてにいさんを待ってるんだ。かわいい奥さんと一緒にさ」
……ん?」
 ディルックは眉をひそめる。
 ガイアはにんまりと、弓なりに隻眼と唇を曲げる。
「騎士団でにいさんの面倒を見なくていいんなら、俺のほうが自由時間は多くなるからな。総合力じゃにいさんに勝てないが、きっと俺程度で妥協してくれる心優しい女性もこの広い城下町にはいてくれる。結婚はたぶん、俺のほうが早い」
……そんなのわからないだろ」
「そうかあ? 俺もそこそこ女性受けはいいほうだと思うんだけどな……
「ガイア。もういい。この話はやめよう」
「いやいや、にいさん、これは大事なことだぜ。俺の将来についての重要な」
「ガイアっ」
 声を上げてから罠に気づいても遅いのだ。慌てて唇を噛むディルックの前では、ガイアが上半身を折り曲げてぶるぶると震えている。ぐふっ、と、時折こらえきれなかった笑声がこぼれていた。
「ふ、ふふっ……な? わかったろ、おとうと離れのできないおにいさま? 俺は騎士団でおまえの後ろにいるのが一番いいんだって」
 認めるのはどうしても癪だった。ふてくされて、ディルックは息も絶え絶えになって笑いつづける義弟のつむじを見る。
「ふんっ」
「いってえ!」
 どうしても癪だったので、ディルックは心を込めてそのつむじを親指の腹で突いてやった。