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roku
2026-01-15 19:45:17
923文字
Public
松イチワンドロライ
第11回『優越感』
「ねぇ松本くん」
渡り廊下を急ぐ松本を引き止めたのは、男子からの人気を独占している学年一の美女。
松本は声のした方を振り返り一旦足を止めた。
「何だ?」
足止めを食らったことにほんの少しの苛立ちを滲ませ問う。彼女はその苛立ちに気づくことはなく「話があるの」と切り出した。
「急ぎか?急ぎじゃなければ今度にしてくれ」
すまないな。と謝罪を入れ、再び歩き出す。
目指す場所は一之倉が待つ中庭のベンチ。
まさか自分の話を聞いてもらえないなど、つゆほども思っていなかった学年一の美女は、その場に呆然と立ち尽くした。
「悪い。待たせたな」
「学年一の美女から呼び止められたら仕方ないよね」
一之倉の座る中庭のベンチは、ちょうど二階の渡り廊下が見える場所にある。もちろん会話の内容までは聞こえないが、そこにいるのが誰かは認識できる距離だった。
「あ?仕方ないわけねぇだろ」
松本はつい今しがたの出来事を思い出し眉間に皺を寄せた。
「何怒ってんの?」
「だってよ、ただでさえ移動教室のせいで一之倉待たせてんのに引き止められて、急いでんのがわかんねぇみたいで苛ついた」
一之倉は、松本が学年一の美女よりも自分を優先してくれたその事実に頬と口元が自然と緩んでいくのがわかった。
「なにニヤついてんだ?」
鈍感な松本が気付いてしまうほど顔に出ていたようで、「何もないけど?」と慌ててそっぽを向く。
松本は30センチほど空いていた一之倉との距離を詰め、ベンチに置かれたままの一之倉の手に自身の手を重ねた。驚いた一之倉は切れ長の瞳を大きくさせて松本へ視線を戻す。
「ん?どうした?」
「
……
えっと
…
手
…
」
「ダメか?」
親指で一之倉の手の甲を撫でながら懇願するように眦を下げる。
「
……
学校だから」
一之倉が人目を気にする発言をすれば、いつも「誰も見てねぇよ」と笑う松本は、誰に見られていても構わないと思っているふしがある。
そんな松本の笑顔に絆されて、重なる手をくるりと反転させれば、お互いの手のひらが合わさる。指を絡めてぎゅっと握れば、松本は優しく握り返してくれる。
一之倉は渡り廊下で呆然と立ち尽くした学年一の美女を思い出し、唇に綺麗な弧を描いた。
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