roku
2026-01-15 14:23:17
1201文字
Public 松イチワンドロライ
 

第13回『指先』


「松本ー」
「一之倉か。どうした?」
「これ、深津から」
そう言って一之倉から松本に差し出されたのはA4の紙一枚。そこには次の交流戦の組み合わせが書いてあった。
「別に今日の部活のときでよかったよな。なんでわざわざ
「そうか?オレは一之倉が来てくれて嬉しいぞ」
「なっ!は?ちょっと何言ってんの!?」
破顔して言う松本に、みるみる耳まで赤くなる一之倉。
「ありがとな」
一之倉の変化を気に留めることもなく、組み合わせ表をスッと抜き取ると、シュッと鋭く一之倉の指先を傷つけた。
「痛っ」
「あっ、すまん!大丈夫か!?」
「大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」
けれどその傷は思ったよりも深く、じんわりと血が滲んでいる。
「保健室行くぞ!」
傷を負った手とは反対側の手を掴んだ松本に引きずられるようにして保健室へと向かった。

「本当にすまなかった。大事な指先なのに」
「別に松本のせいじゃないし」
空いている椅子に腰掛け「いや、完全にオレのせいだ!」と頭を抱えている。それはバスケをする者にとって手が、指が、どれだけ大切かわかっているからだが、こんな日常的に起きる傷ひとつで大きな影響があるわけがない。
不在の保健室の先生の代わりに消毒液を探す松本に、本当に大丈夫だから戻ろうと手を差し出した。
「ちゃんと消毒しねぇと
「フフッ、松本大袈裟。こんなの舐めときゃ治るよ」
「そうか
すると何を思ったのか、一之倉が差し出した手を取り引き寄せると、あろうことか血の滲んだ指先をパクリと口に含んだ。松本の長い舌が傷口をなぞり、ゾクゾクと痛みとは違う痺れるような感覚が背中を走る。
「なっ!!ちょ、松本!?」
「舐めときゃ治るんだよな?」
指を咥えたまま見上げてくる二重の瞳は、バスケで自分よりも強い相手を負かせたときに見せる自信に満ちた表情で、感情を掻き乱された一之倉は腕を強く引き松本の咥内から指を抜くと、更に両手で松本を思い切り突き飛ばした。
「バカッ!!」
ドサッ!!
「痛ってぇ!」
大きな音とともに背もたれのない椅子の向こうへ落ち、尻もちをついた松本を見ることもなく「ごめん!」と謝るだけ謝って保健室を勢いよく出て行った一之倉。坊主頭で隠れることのない耳と首が真っ赤に染まっていた。そんな後ろ姿を捉えた松本はフッと口端を持ち上げた。



「おかえりピョン」
教室へ戻るなり声をかけてきたのはこの一連の原因を作った深津。「逢瀬はうまくいったピョン?」などと小首を傾げる姿に先ほどの松本を思い出し、落ち着かせたはずの熱が戻ってくる。
…………から、な」
「ピョン?」
「全部深津のせいだからな!!オレはもう頼まれても松本のとこには行かない!」
そう言い放つとガバッと机に突っ伏した。
蘇る松本の自信満々の笑み。
鳴り止まない心臓の音。
指先の傷口はジンジンと疼いたままだ。