たぶん傭はカリュブディス(大食い娘。ポセイドンとガイアの娘。ヘラクレスの牛を食べてしまったので罰としてゼウスに怪物にされた。そしたらカービィのように吸い込むように食事をするようになったので海には渦潮が出来る。)でリはセイレーン(元々は鳥みたいな怪物だったが伝承が伝わるうちにいつの間にか魚の怪物になった。)。
海の幻獣が海以外でも跋扈することが出来るようになれば事だ。何せ空気がなくても生きられる、光を必要としない、足場が崩れても関係ない、水圧の莫大な圧迫に耐久がある、海底火山の高温に耐えられる、圧倒的長寿、下手すれば老いない。この星で最も恐ろしい化け物だ。
この星にいる限り、陸で生活するなら自分の周りが警戒対象だが、下からの脅威は稀だ。更には水中ともなれば向こうから近付いてくることはない。
ところが空から、そのもっと向こう、宇宙からの脅威に、陸の生き物はあまりに無防備だった。太刀打ち出来ない。
そこで深海の脅威を陸に、空の下に招いたのだ。
勿論海の幻獣も新鮮でそんなことやってくれるわけではない、本来自分には関係のないことなのだから。宇宙の脅威に耐えかねて協定を結んだ陸の幻獣達とは違う。もっと孤独な存在なのだ、彼らは。
だが一匹の怪獣に対しての餌を見付けた。
「本当に陸にいるのか?」
「ああ。君が探している相手は、海の魚をやめて今では空の鳥をやっているよ。」
予想外だったのか、怪獣は舌打ちした。やっぱり海から陸に近付いて来ることは、大地を揺るがす程の衝撃でも与えない限りは、本来無いのだ。
元々海で珊瑚の護衛を永遠に続ける傭兵だった鮫は、その場をとある鱏に壊滅させられてしまったらしい、芸術的なまでに。
それから自分でも探していたようだが、海を出て鶚に姿を変えていた鱏は、ずっと鮫に見付かることはなかった、これまでは。
やっぱり、海から陸に寄り添って考えることがないからだ。陸の幻獣連合の中でもそれなりの立場の写真家は思った。目の前の野蛮な怪獣を見据える。
陸の鶚だって今は一応連合の幻獣の一員だ。写真家は証拠となる写真を懐から取り出して、傭兵に見せた。
「そいつだ。」
鮫はにたりと笑った。
心底から喜びを湛える声だった。それは溢れる水のように。
しかし突き出した写真、それが軽率だった。写真家は陸だと思って怪獣を前に慢心していたのかもしれなかった。
傭兵は陸地を蹴った最初の動作だけをまともに見せた。その後の速さは、消えたかの如く。空中を泳ぐように写真目掛けて真っ直ぐとんで、齧り付くように目の前で止まったように見えた。
そして目玉だけがぎょろりと動くと、また消えた。
しかしその直ぐ後に、目の前を化粧筆が過ったのが写真家には見えた。
怪獣はまた元の位置に帰っていた。その手には写真家が掲げていたはずの写真がある。それを視界いっぱいに傭兵は見ていた。
写真を取り出してから、一瞬の出来事だった。
隣では、相手に届かなかった化粧筆を下ろして傭兵を見据えている納棺師の立ち姿。死んでから死化粧を施すのでは飽き足らず、毒を塗った化粧筆で化粧を施し相手を棺桶に沈める、ミミックの男だ。
納棺師は写真家の護衛の名目だが、写真家と面会した者を全て殺そうとするので、全く仕事になっていない。しかし解雇したところで、自主的に写真家の周りを彷徨くので、まだ正式にそばに置いておいた方が手綱を握れると思ったまでだ。実際のところどうだかは疑問も残るが。
写真家は咳払いした。それで現場が立て直せるとも思えなかったし、そんな空気を気にしているのもここには自分しかいないと思ったがそれでも。
「鶚……鱏と引き換えに、陸に協力してくれると言うことで、良いかな?」
鮫はちらりと写真家に視線を遣った。
「……いいぜ。協力、な。」
鮫は何を考えているのか、舌舐めずりをした。
「あいつ今は空飛んでんのか……。見たいな。」
何を考えているかなんて、知りたくもない。
兎に角写真家は、納棺師に傭兵を殺しにかからないように良い含めた。
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