生身の挑戦者は、ライトヘビー級を順調に駆け上がった。
それだけではない。対戦者たちをどんどん懐柔して、味方へと引き入れている。
初戦のヤーナは彼女のセコンドに名乗りをあげ、ハニーBラブリーは自分の配信に彼女を呼ぶ。
ヒールとして戦ったブルートボンバーとも馴れ合っているらしい。
続くクルーザー級でもその快進撃は止まらない。
人見知りのシュガーライオットが懐いているし、ダンシング・グリーンに至っては、わかりやすく彼女に恋をしていて、行きつけのバーにあしげく通う姿など、見ているだけで砂糖を吐きそうだ。
彼らは、まるで太陽を仰ぐように彼女を見る。
「
……あ〜、わかった。アイツ、オーナーと同じタイプじゃん」
天性の人たらし。圧倒的な力と、他者の心を絡めとる魅力。太陽はどんなに見つめても、網膜を焼くだけで決して触れることはできない。けれど。
あの時、ネオン瞬く裏路地で相対したからこそ、わかる。
――海だ。あの瞳は、深海の色だ。
海の底。深く、深く。
海は、凪も荒波もその姿のひとつだ。全てを許して内包する。だが、踏み込む一歩を間違えれば、深海に引き摺り込まれるだけ。そして、そこにあるのは静かな死だ。
いつだったか、波乗りの最中に二人で溺死したことを思い出して、ぶるりと身震いをした。
弟が繰り返し見るアーカイブの中の彼女は、生き生きと楽しそうに闘っている。
――暴力が楽しいなんて、正気じゃない。
そもそも、暴力から縁遠く生きる普通の人間は人への攻撃ができない。
『目の前にいる人間を顔を殴ろう』
そう思っても、いざ拳を出すと無意識化でブレーキがかかる。
生まれた時から暴力のある生活をするか、アルカディアの闘士や軍人たちのように、日々暴力の訓練を積んではじめて、相手を迷いなく殴り倒すことができるのだ。
「
……どっちなんだかな」
思わずポツリとつぶやけば、喰いいるように画面を見ていた弟が振り返って首を傾げた。
なんでもないとひらりと手を振ってから、揶揄うように声をかける。
「よく飽きねェな。そんなに好きかァ?」
「
……兄者」
弟は少し顎をあげ、普段は隠されている目でじっとオレを見た。獰猛な瞳がギラリと鋭さを増す。
「オレたちは、
コイツと闘う」
その奥にあるマジな声色に、はっと息を呑んだ。
そうだ。オレたちの仕事は、ザ・タイラントの前の露払い。相手が太陽だろうが、海だろうが、仮に女神であろうとも
――神座す至天から、この手で引きずり降ろすのだ。
「アァ、そうだな。
……絶対に、倒してやろうぜ」
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