風花莉亜
2026-01-15 07:40:04
4510文字
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はんぶんこって言い方、可愛くね?

第16回とどち版ワンドロワンライ参加作品。備品の買い出しという名のデートなので、備品の買い出し部分は無いものと思ってください。アイスネタ書きたかったので、こちらで使わせていただきました。藤堂くん視点で、両片想いの1年生設定。まだマネージャーがいない頃の話で結構フワッとしてます。いつも通り何でも大丈夫な方向け

「じゃあ、藤堂くんと千早くん、よろしくね?」
「おう」
「はい」

そう言って手を振ったヤマは、要達と一緒に帰っていく。
残された俺達はと言うと、二人仲良く備品の買い出しに任命されてしまい、今から買いに行くのだ。
愛好会に毛が生えたようなモンの俺達野球部には、マネージャーがいない。
よって、備品の買い出しも自分達でやらねばならない。
とは言え部費も少ないので、大きな買い物はできないのだが。
まぁとりあえずは、ボールだな。
これが無い事には始まらない。

最初にユニフォームを作った用品店で、ボールを買う。
店主とはもう何度か顔を合わせているだけに、買い物もスムーズだった。
その後は他の店も巡りつつ救急用品なんかも買って、任務完了。
想定していたよりも早く用事が片付いてしまって、折角の千早との時間はもう終わりを告げようとしていた。
まだ、一緒にいてェな。
そんな事を考えているのは俺だけだろうけど。
隣を歩く千早を盗み見るが、真っ直ぐ前を見て歩く横顔からは、何を考えているのか読み取れなかった。

それにしても、暑い。
太陽は大分傾いて沈む準備をしているというのに、歩いているとじんわりと汗が滲んでくる。
もう少しだけ一緒にいる口実が欲しくて、コンビニで飲み物でも買わないかと口を開きかけた所で、アイスの専門店が目についた。
つい足を止めてしまって、隣にいた千早も足を止める。

「食べたいんですか?」

そう言われてゴクリと喉が鳴る。
食べたいか食べたくないかで言えば答えは食べたい一択、食べたいに決まってるだろが!
食べたいオーラを出しながら千早を見れば、溜息がひとつ。
仕方ないと折れるのは、いつだって千早の方だった。

「入りますか」
「おう!」

自動ドアを潜れば、店内はひんやりとしていて心地が良い。
堂々と鎮座するショーケースの中には色とりどりのアイスが並んでいて、目にも楽しかった。
しかし、こうも種類があると悩む。
定番のバニラやチョコレートも良いが、さっぱりしたシャーベット系のものも捨て難い。
期間限定なるものもあって、一体どれにしたら良いのやら。
熟考し出す俺に、千早から早くしろと腕をつつかれる。
いやだって、どれもこれも美味そうなんだよ、わかるだろ!?

「わかりませんね」
「マジかよってか心を読むな!」
「読んでません。藤堂くんがわかりやすいだけです」
「ンな事ねーよ」
「え、マジで言ってます?」

大マジだ。
くそ、口では千早には勝てない。
頭の出来が違うのだから仕方ないかもしれないが。
気を取り直して、再びショーケースを覗き込む。

「なー、千早はどれにする?」
「俺はいりません」
「え?食わねーの?」
「はい。大きな声では言えませんが、アイスって苦手なんですよね」

店側への配慮なのか、苦手の部分だけポソポソと話すと千早は苦笑した。
アイス苦手ってなんだ? そんな人間がこの世に存在するのか? 牛乳とかのアレルギーがあるならわかるけど、苦手ってなに?

「??アイス苦手な奴なんていんの?」
「あはは〜、単細胞の藤堂くんには理解出来ないかもしれませんね〜」
「腹パンしていい?」
「ダメです」

いつものやり取りを終えても、千早は理由を口にはしなかった。
苦い思い出でもあるのだろうかと当たりをつけて、深く追求する事はしないでおく事にする。
千早が言いたくないなら、聞かない。
気にはなるが、嫌がる事をして嫌われたくなどないから。
まぁ、それはそれとして、

「なぁ、マジで食べない?」
「やけに食い下がりますね」
「クリームがダメならシャーベット系なら食える?」

何かと理由を付けて千早とアイスを食べたかった。
一緒に何かを食べたとか、そーゆー思い出を一つでも多く増やしたかった。
千早と二人きりっていうのもポイントだ。
なぁ、ダメ? 少し首を傾げてシュンとした態度を取ると「ぐっ……」と何かに耐えるようにして千早は胸元を押える。
あれ? もしかしてこれ、効いてる? 千早は割と押しに弱いのを知っているからの行動だったが、想像していたよりも効果覿面のようでニンマリと笑う。
もう少し押せばいけるんじゃね?
尚も、ダメ?どーしても?などと言えば、ゴホンっとひとつ咳払いをして眉間に皺を寄せつつこちらを見た。

「別に、アイスクリームが食べられない訳ではないですけど……でもそうですね、どちらかと言えばシャーベット系の方が良いかも、です」
「ふーん?じゃあ、シャーベットのやつ、はんぶんこしよーぜ!」
……はんぶんこ」
「はんぶんこ」
「ふっ、くくっ、ちょ、っと待ってください、はんぶんこって」
「え、何かおかしい?」
「随分可愛い言い方するなぁって、ふふっ」
「なっ!これは、その、妹がだな」
「あはは、わかってますよ」

それにしてもはんぶんこって、はんぶんこ、とまだ笑ってやがる千早に顔が熱くなる。
くそ、そんなに笑う事か?
涙まで流しながら笑う姿にそこまでかよと言いたいが、でもまぁ、千早が『はんぶんこ』って言ってるのは可愛いかもしれん。

「ンな笑わなくてもいーじゃねーか」
「すみません、つい」
「つい、じゃねーよ。ったく、罰としてアイス一緒に食えよ」
「仰せのままに?」

まだ笑いの余韻が抜けないらしい千早はくふくふと笑っている。
あー、くそ可愛い。
こんな顔を見てしまえば、何でも許してしまいそうになる。
狡いんだよ、千早は。
八重歯を零れさせながら、何味にするんですか?なんて呑気に聞いてくるものだから、どうでも良くなってしまった。
惚れた弱みだ、千早が楽しそうなら、もうなんでもいいや。

二人であーだこーだ言いながら選んだのは、メロンとオレンジのシャーベット。
カップではなく、コーンにしてもらったそれは、オレンジシャーベットの上にメロンシャーベットが乗っている。
イートインスペースは女子高生だらけだったのでそのまま外へと出て、脇道へと入った。
木陰で足を止め、先に千早へとアイスを渡すと、本当に食べていいのかと聞くから勿論だと答えた。
付けたもらったスプーンで、メロンシャーベットを掬って口へ運ぶ千早をじっと見つめる。
うーん、スプーンあって良かったかも。
あの真っ赤な舌を出して、舐めつつ食べられた暁には俺が限界を迎えそうだし、そんな千早を人目のある所に置いておけない。
ここは人通りが殆どないとは言え、誰が見てるかもわからないから尚更。
口を開ける度に見える舌を目にしてしまって天を仰ぐ俺に、千早は首を傾げた。

「食べます?」

こちらへと突き出されたシャーベットはまだ緑色を半分以上残していたので、もう少し食えと言って拒否する。
どうやら俺が早く食べたいと勘違いしたらしいが、そうではない。
あ、いや、早く食べたいは食べたいけれど、千早が食べるのを見ているのは悪くないってか、多分ずっと見てられるので問題はないのだ。
それにしても、せっせとスプーンを口に運んでるの可愛いな?

「あの、そんなに見られてると食べにくいんですけど……
「え?あー……すまん」
……やっぱり早く食べたかったんでしょう?」

そう言って、メロンシャーベットが半分減ったコーンをこちらに寄越してくるので受け取る。
その際に少しだけ手が触れて、ドキリと心臓が鳴った。
ただ、手が触れただけなのに。
元々俺は、スキンシップが多い部類だ。
ヤマとか相手だと肩を組んだりするのだが、一番と言っていいほど一緒にいる千早相手には、スキンシップを図った事がない。
こちらが緊張してしまうのもあるが、千早はパーソナルスペースが広いと言っていたので、不用意に触らないようにしている。
まぁ、たまーに触れたくなるけどな。
そのたまーにが今だったりするのだが、我慢だ我慢。
取り繕うように笑って礼を言うと、千早はコクリと頷いた。

「スプーン使います?」
「いや、いいよ。つか、オレンジの方も食べるだろ?」
「じゃあ、一口だけもらいます」
「一口でいいのか?」
「はい」
「ん、じゃあ先どーぞ?」
「では、いただきます」

オレンジの部分を一口分スプーン掬って攫っていくのを目で追う。
当然のように千早の口の中へと入っていくスプーンに、何だかイケナイものを見ている気分になってあさっての方向を向く。
赤い舌が覗くのがエロい、だなんて思ってなどいない、断じて。
いや、ずっと思ってるけど。
最初から。

「メロンも美味しかったですけど、オレンジも美味しいですね」
「そ、そうか」
「えぇ」

千早から目を逸らすようにして、動揺しつつもメロンシャーベットを口に含む。
甘くてひんやりと冷たい筈のそれは、冷たさだけを舌に残して、けれど味はよくわからなかった。
緊張、しているのか?
隣からの視線が気になる。
今度は千早が俺の事を見詰めてくるので、確かにこれは食べにくい。

「あのさ」
「はい?」
「食べにくい」
「あはは。俺の気持ち、わかりました?」
「はい……
「敬語(笑)」

一頻り俺を見て満足したのか、千早は視線を俺からスマホへと移す。
どうやら誰かからメッセが届いていたのか、スイスイと指を動かして返信しているようだった。
片や黙々とアイスを食べ、片やスマホと睨めっこ。
言葉はなくとも、この沈黙は苦ではない。
そよそよと吹いてきた風が心地よくて、この穏やかな時間が幸せだと思った。
ただの備品の買い出しだった筈のそれが、まるでデートをしているかのように錯覚する。
いや、

「これってデートだよな?」
「え?」

口に出してしまった。
しかも、ポツリと言ったそれを千早もしっかりと拾ってしまって、お互い固まる。
何か言い訳、言い訳!

「いや、その、(この空気感)好きだなぁって思ったら、つい……
「はい!?」
「あっ!」

無い脳みそをフル回転させた結果、見事に墓穴を掘ってしまった。
しかも今の言い方だと、普通に好きだと告ったようなもので。
やってしまったと片手で顔を覆うと、隣にいた千早の顔は瞬間沸騰したかのように赤く染まった。
一瞬だけかち合った目は直ぐに逸らされて、俯いた伏し目がちの睫毛は僅かだが震えている。
きゅっと引き結ばれた唇は伸ばされた千早の手の甲に隠されてしまった。
見た事のない顔をしている。
この瞬間、時が止まった。
なんかこれ、イケそうじゃね?
ムクムクと成長する期待に逆らう術が俺にはなくて、当たって砕けろ精神が頭も擡げる。
途中まで「あ、いや、その……ちがくて、」とか言っていたが、心は決まった。

「いや、違わねーわ」

そう言うと、千早が不安そうにこちらを見てくる。
何を言い出すんだと上目遣いで問うてくるので、大きく深呼吸をひとつした。
何って、お前も気付いてるだろが。
それが答えだよ、バーカ。

「千早の事が好きだ!」

告白の勢いで溶けかけていたメロンとオレンジのシャーベットが仲良く地面に落ちた。


END