風花莉亜
2026-01-15 07:38:09
5339文字
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どうせ見るのなら、素敵な夢を。

第15回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くんの家に藤堂くんが泊まりにきて、最終的に致す話。けれどその辺の描写は端折ったので全年齢です。べろちゅーくらいはしてます。千早くん視点。話が結構飛びますので、読みにくかったらすみません。でもあの、いつも通り何でも大丈夫な方向けですので!

藤堂くんが家に泊まりに来た。
今まで家に上げた事はあるけれど、泊まりは初めての事で、俺自身も藤堂くんもどこかソワソワしてしまう。
別に付き合っているのだから、お泊まりなんて普通じゃないかと自分に言い聞かせてみるものの、このソワソワはどうにも出来なかった。
今日は夜になっても藤堂くんと一緒にいられると思うと、嬉しさとほんの少しの期待が混ざり合って、心臓が跳ねる。
キス、以上の事をするのだろうか? それともただ一緒の布団に入って寝るだけだろうか? それ以上をするとして、心の準備が出来ているかと問われれば答えは微妙な所だが、興味はあるし、藤堂くんと繋がりたいとも思う。
けれど初めてだから上手く出来るかもわからないし、もしかしたら出来ない事だってあるかもしれない。
そうなった時に、藤堂くんに飽きられてしまわないかという不安が頭をもたげる。
藤堂くんはそんな人じゃないと理解しているつもりだが、どうしたって不安になってしまうのは、俺が自分に自信がないからか。
だって俺は、俺が嫌いだ。
だからこんな俺を好きだと言ってくれる藤堂くんの事が不思議で仕方がないし、本当に俺なんかで良いのかと考えるのは日女茶飯事。
しかし、少なくとも今は藤堂くんと別れる気はサラサラなく、藤堂くんから別れると言われるまではしがみついてでも隣にいるつもりだ。
でもきっと、タイムリミットは高校卒業までだろう。
藤堂くんはプロになれる人だから、藤堂くんの進む道の邪魔にはなりたくない。
聞き分けの良い自分を演じて別れなくてはいけないのならば、今は藤堂くんに甘えても許されるのではないか、そんな都合の良い事を考えている。
一時くらい幸せな夢を見させてくれ──────…………


藤堂くんとのお泊まりは、最初のソワソワした態度が嘘のように普段通りで、そして友達の距離感だった。
他愛ない話をしたり、野球中継を観たり、藤堂くんお手製の晩ご飯を頂いたりと、あっという間に時間が過ぎていく。
この間、ひとつも恋人らしい事はなかった。
つまり、今日は一線を越える事はないという事か。
散々上手に出来なかったらだの、藤堂くんに飽きられたらどうしようだのと考えていたくせに、シないならばそれはそれで残念だと思うのだからどうしようもない。
藤堂くんと付き合うようになって、自分の事が良くわからなくなった。


ご飯の後に少しだけリビングでテレビを観て、時計がそろそろ九時を差す頃に藤堂くんを風呂場へと押し込んだ。
後からで良いと言う藤堂くんに、いいからはよ行けと促すと、あまり納得してない顔をしつつも従う姿が微笑ましかった。
そうして藤堂くんが出てくるまでの間、気分を落ち着かせる為にヘッドホンを持ってきてベッドの上で曲を流す。
けれど全く没頭する事が出来ず、早々に音楽を聴くのをやめてしまった。

「落ち着かない……

スマホを見たりベッドに寝転がって寝返りを繰り返して、そんな事を数分していると自室のドアが開き、藤堂くんが入って来るのがわかった。
そこでふと、そう言えばドライヤーの場所を教えてなかったなと思いつつ上体を起こすと、耳に届いたのは弱々しい声だった。

「ちはやぁ」
「おかえりなさい。なんです情けない声出して……ぶふっ」

風呂場から戻ってきた藤堂くんの格好を見て吹き出す。
髪がまだ濡れているとか、そんなんどうでも良い! そんな事は些細な事すぎる! だって、だって、藤堂くん、それはあまりにも、

「笑ってんなよコラ」
「だ、だって、そん……っ、ちょっと、無理っ、むこう向いて、くださ……っ」
「俺が向くのかよ」
「~~~~っっ!!」
「向いたとて、じゃねーかよ!笑い転げんじゃねーよ!!」

駄目だ、面白過ぎる!!
泊まりだと言うのに何故かパジャマになる物を持って来るのを忘れた藤堂くんに、俺の私物を貸した。
俺と藤堂くんでは体格差があるけれど、オーバーサイズの物ならば丈は足りないかもしれないが、ギリギリ着れるだろうと踏んだのに。
この男、見事にそのギリギリを超えてきやがったのだ。
ピッチリしすぎてて、服が悲鳴を上げている。
ちょっと大袈裟に動いたら破れるのでは? そんな状態の服を身に付け、あまつさえ俺の部屋まで来たのだから、笑うなって方が無理な話。
完全に笑わせに来たとしか思えなくて、ベッドの上でひぃひぃ言う。
そんな俺を見て、藤堂くんはドアの前で両腕を組んで俺の笑いが治まるのを待っていた。

「治まった?」
……はー、はー、ちょっとお腹と頬が痛いですかね」
「知らんがな」
「んはは。ちょっと待っててください、父の服を拝借してきます」
「わりーな」
「と言っても、父の服でも藤堂くんの筋肉を押さえ込む事が出来るかどうか」
「押さえ込むって……流石に大丈夫じゃねーの?」
「だといいですけど」

藤堂くんが俺の服着てるってヤツ、ちょっとだけ期待してたんですけどねー。
サイズがこうも違うとは。
体格差に悔しさもあるが、今は残念が勝ってしまっている。
好きな人が自分の服を身に付けてるって、やっぱり憧れません? 他人が俺の服を着るとか普通だったら嫌だけれど、恋人は別。
大概浮かれぽんちの自覚があって、そんな自分に苦笑する。
こんなのは、俺らしくないのに嫌じゃないなんて、恋は盲目とはよく言ったものだ。
まさか自分がこんな風になるなんて思わなかったけれど。

父の部屋から拝借したスウェットは俺が貸したものよりも大きくて、少し丈は足りないものの、先程の面白い藤堂くんにはならずに済んだ。
もし次があるならば、藤堂くんでも着られるくらい大きなサイズのものを買っておこうと決意する。
そしたら、それを藤堂くんに着せて、藤堂くんが持って来たものを俺が着るのも悪くないのでは? お互いの服を交換とか、恋人っぽいのでは? なんて妄想が実現するのは遠くない未来の事だったりするが、今の俺はまだ知らない。


藤堂くんと入れ違いに風呂場へ行き、普段よりも丁寧に身体を洗う。
例えこの後に何もなくても、藤堂くんと同じベッドで寝るのだから、少しでも綺麗でいたかった。
少し時間がかかってしまった為に、慌てて髪の毛も乾かして自室へと戻る。
ドアを開けた俺を見て、セットのされていない髪の毛に、藤堂くんは新鮮だと笑った。


歯磨きもオーケー、後は寝るだけ。
明日はオフだから多少の夜更かしだって出来る、そんな夜。
二人で寝るには窮屈なベッドの上、仰向けに並んで会話をしていた。

「藤堂くんって、抱き枕派ですか?」
「いや、普通に枕だけど」
「そうですか……

妹さんが選んだ、えらく可愛らしい抱き枕で寝る藤堂くんもアリだと思っていたのに。
それはそれで面白……、ごほん、可愛らしいなと思っていただけに少し残念だ。

「そーゆーお前は?」
「?」
「だから抱き枕って……普通の枕しかねーし、枕派か」
「まぁ、そうですね」
「抱き枕で寝る千早とか見たかった」
「なんでです?」

なんでってそりゃ、ごにょごにょ。
頬を染めながら、ごにょごにょ言う藤堂くんの語尾はどんどん小さくなっていく。
まぁ、大方『可愛い』とか何とか言いたいのだろう。
可愛いと言われるのはあまり好きではないけれど、藤堂くんから言われるのはもう慣れてきてしまっている。
いや、言われてはないか。
顔がそう言っているだけで、あまり口にした事はない。
たまにうっかり出てしまったとかはあるけれど、俺を気遣ってか控えているらしい。
藤堂くんに言われるのであれば嫌悪感はないので言ってもいいですよ? と言ってやっても良いのだが、言ったが最後、ゲシュタルト崩壊しそうな勢いで可愛いを浴びそうなので黙っておく。
そもそも俺は可愛くなんてないので、藤堂くんはちょっと特殊なんでしょうね。

「千早」
「なんです?」
「キスしたい」
「と、突然すぎません?」

だってずっと友達の距離感だったのに。
いきなり恋人モード入られても困るんですけど? そう言ってやろうとして藤堂くんの顔を見て、その表情にゴクリと唾を飲む。
我慢してますって顔は、狡い。

「我慢してた」
「そう、なんですか?」
「当たり前だろが。好きな奴の家に泊まりってだけでもやべーのに、好きな奴のベッドで好きな奴と並んで寝転んでるとかそんなんもう!しかも近いから、いつもより千早の匂いするし、楽しそうに笑ってる顔可愛いし?こちとら必死に理性を総動員しててだなァ」
「それってキスなんてしたら、理性どっかいっちゃいません?」
「うぐっ……それはそうなんだが、そこは何とか堪えるからキスくらいは、んんっ」

言い終わる前に藤堂くんに覆い被さって唇を重ねる。
数秒触れるだけで唇を離すと、ギラついた目がそこにあった。
この人、もしかして目を開けたままだったのか? キスの間ずっと見られていたと思うと、急に羞恥心が募る。
自ら仕掛けた事とは言えいたたまれなくなった俺は、ソロソロと藤堂くんの上から退こうとするも、ガッチリと腰をホールドされて退けなくなってしまった。
あー、食べられる。
猛獣を前にした小動物の気分だ。
首の後ろに手が添えられ、そのまま引き寄せられればすぐに重なる唇。
逃がさないようにと腰をホールドしてくる位には余裕なんてない癖に、ガッツかないようにしているのか、啄むようなキスにこちらが焦れったくなる。
早く舌入れてこいよ! あんな目をしてる癖に、一体何を遠慮する事があると言うのか。
こちとら口を開いて待っていると言うのに、一向に入れてこないとかどーゆー事だと痺れを切らしたのは俺の方だった。
そっちがその気なら、こちらから仕掛けるまで。
閉じられた唇を割って舌を捩じ込み、奥で戸惑っている藤堂くんの舌に触れた。
熱い舌に自分のものを絡めて吸い上げる、これはよく藤堂くんにされているのでその真似事なのだが、藤堂くんをその気にされるには十分だったらしい。
唇が離れたと思ったら視界が反転し、ベッドに横たわる藤堂くんから天井と藤堂くんに変わる。
押し倒されたのだと気付いた時には、唇を塞がれていた。

「ンっ……、ふ、ぁ……

先程とは打って変わって当たり前の様に口腔内に舌が侵入してくる。
俺の舌を絡めとって吸い上げてくるのは仕返しなのか、それとも普段通りなのか。
わからないけれど、どちらでも良いと思った。
藤堂くんが求めてくれるのならばそれだけで嬉しいし、キスだって気持ちが良い。
指と指を絡めてギュッと繋がれるのも悪くない。
シーツに縫い付けられているような感覚に陥りながら、藤堂くんに負けじと舌を動かした。
室内に互いの荒い息遣いとピチャピチャという水音、そして衣擦れの音がして、嫌でも高められてしまう。
俺の殺しきれなくて漏れ出る、快楽を拾った喘ぎ声は聞きたくないけれど、藤堂くんの切羽詰まったような吐息は気分が良い。
俺が藤堂くんをこんな風にしているのだと思うと、背中が粟立った。

「千早、いい?」

何が、とは聞かない。
だって答えは一つしかないのだから。
こくりと頷くと、もう一度唇が降ってきて、藤堂くんにしては冷たい手が服の中に侵入してきたのだった。


*****
お互い初めてで、知識だけは詰め込んだけれど実践となるとそれはまた違って、それでも何とか繋がって、二人して果てた後のベッドの上。
俺は気恥しさから藤堂くんに背を向けて寝転がっていた。
そんな俺の態度を特に気にも止めていない藤堂くんは、後ろから俺を抱き締めて頭を撫でている。
ゆっくりと髪の毛を梳く手が心地良くて、今すぐにでも眠ってしまいそうだ。

「ちーはや、眠い?」
「ん……
「そっか、でもその前にちょっとだけこっち向いてくんね?」

眠いと言っているのにとんだ注文を付けてきやがる。
身体を動かす事すらもう、ままならなくなってきているというのに。
仕方なしに身体の向きを変えると、愛おしいというような顔をした藤堂くんがいた。
あー、何か、恥ずかしい。
何て顔をするんだコイツ。
藤堂くんの言うことを律儀に聞くんじゃなかったと後悔しながら、再び藤堂くんに背を向けようとしたがホールドされてしまう。
この馬鹿力め。
眠くて力が出ないとは言えビクともしない事に悪態をつきつつ、藤堂くんが満足するまでこのままだろうと諦める。
何をしたくてこちらを向かせたのかは知らないけれど、きっと悪いようにはされないはず。

「千早、好き」
……っ」
「お前って不意打ちに弱いよなー」
「それは、お互い様では?」
「ははっ、違いねェ」

酷く楽しそうに笑った藤堂くんは触れるだけのキスをして、それから俺の事を腕の中に閉じ込めた。
おやすみ、と普段より幾分か甘い声音で言われ、ドクンと心臓が跳ねたけれど、再び頭を撫でてくる手が優しくて微睡んでしまう。
藤堂くんの手って、ゴッドハンドなんですかね?
気付いたら夢の中に旅立っていて、それからその日俺は、初めて誰かの抱き枕になったのだった。

END