風花莉亜
2026-01-15 07:31:10
6766文字
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俺の可愛い無自覚キャット。

第12回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で、小手っ子がわちゃわちゃ会話しているのがメインです……一応ちゃんととどちですよ!
2年生になりたての新学期の話。色々と捏造してます
いつも通り何でも大丈夫な方向け

四月某日。
無事に二年に進級出来た俺は、たまたま校門で出会った千早と共に、クラスが張り出されているであろう掲示板へとやってきた。
あちこちで「また同じクラスで嬉しい」だの「クラスが離れてしまって寂しい」だの、いろんな声が聞こえる。
若干騒々しいその中へと千早と共に入っていき、二年のクラスから各々が自分の名前を探し出すのがミッション。
なのだが「時間が勿体ないので手分けして探しましょう」という千早の提案に乗って、端と端からお互いの名前も一緒に探す事にした。

千早、藤堂、一組から探す俺の目には、まだその名前は見付からない。
出来ればまた同じクラスが良いなぁ、とぼんやり考えながら辿る。
あー、要と清峰の名前あったな、あいつらまた同じクラスかよ、へー……あ?あぁ?
要達と同じクラスの所に自分の名前を見付けて、それから直ぐに一番見つけたかった名前を発見した。

……また同じ」

ぽつりと呟かれたその言葉に、隣をバッと見る。
千早の目線の先は、先程まで俺が見ていた場所で、だからつまり、俺の見間違いじゃなかったってこと。
要と清峰がまた同じクラスだったのと同じく、俺と千早もまた、同じクラスだったのだ。
最早運命じゃん?
まぁ、もれなくバッテリーも一緒な訳だが……あれ?ヤマ、ヤマは?もう一度掲示板を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
良かった、いた。
どうせ揃うならば、全員一緒がいい。

「また一年間よろしくな?」

隣に向かって言えば、ゆっくりとこちらを向くその顔が僅かにほころんでいる気がする。
いやきっと、現実だ。
眼鏡を押し上げる時の『カチャ』って音がしたから。

「宜しくお願いします……これで席も隣だったら笑えないんですけど」
「なんでだよ、隣だったらいいじゃん」

な?
素直にそう言ってやれば、真っ直ぐにこられるとちょっとどうしたら良いかわからなくなるらしく、微妙な顔をしていた。
嬉しいなら嬉しいって言えばいいものを全くもって、素直じゃない奴め。
どうせ顔に出ちゃってるのだから、諦めろ。

「ははっ」
「何、笑ってるんですか?」
「いーや、別にぃ?」

時折見せる子供っぽい表情が案外お気に入りで、ついつい殺せなかった笑い声が漏れてしまう。
そんな俺にムスッとした顔を向けてくるものだから、余計に笑ってしまった。
一年の時同じクラスだった奴らだって、千早がこんな風に表情を崩すんだって知らないだろう。
これは、千早の内側に入れてもらった奴の特権だから。
その中でも上位に君臨するのは自分だと自負しているので、こぼれる笑みが止まらない。
ニヤニヤ、ニヤニヤ。
千早って何気に俺の事結構好きなんじゃなかろうか、なんて調子乗った事を考えていると、脇腹をどつかれた。

「いっ……!」

突然の痛みに脇腹を抑えつつ、他人に不用意に触る事を嫌がる千早自ら俺に触れてくるまでに成長して!なんて感動すら覚えていると、聞き馴染みのある声が後ろの方から段々と近付いて来た。
その瞬間、俺たちの思考はリンクしたかのように互いの顔を見て、答えは一択だと言わんばかりに逃げる選択をする。
同時にコクリと頷いて足を踏み出そうとしたが、しかしそれも一歩早く、バカデカイ声が響き渡ってしまって万事休す。

「あっおいちゃーん!瞬ちゃーん!」
「「げっ」」

その後は、お察しの展開。
同じクラスだと喜んだ要が飛び付いてきて、千早と二人げんなりする羽目になったのだった。



学校に来て早々に疲れた俺達は、要達の後ろをとぼとぼと歩いて新しい教室へ行き、黒板に張り出された席順を見て、顔を見合わせた。
またしても、隣。
要からは「また二遊間、隣なの!?運命なの!?」なんて言われたが「お前らバッテリーだってまた前後じゃねーか。運命じゃね?」と言い返せば、うぐっ、と言葉に詰まって大人しくなった。
阿呆め。

新しいクラスも真ん中の列の一番後ろの席。
隣には、千早。
ほらやっぱり、笑えないなんて事はないじゃないか。
俺の隣は、いつだって千早が良い。
頬杖をつきながら千早を見れば、同じタイミングでこちらを向くので視線が混じり合った。
ニッと笑いかければぷぃっと反対を向かれてしまったが、耳が赤いのが見えてただの照れ隠しだと悟る。
しかし小さく「そんな愛おしいものを見る顔で見るなぁ……!」と千早が呟いていたのを俺は知らない。


*****
また一年間千早の隣を独占できる、そう喜んでいたその一週間後、悲劇は起きた。
新しく担任になった教師が、席替えをするとか言いやがったのだ。
は!?聞いてねぇ!?つーか、一年の時席替えしなかったじゃねーか!あれか?前担任が面倒臭くてやらなかっただけで、本来は席替えするんだったか!?だとしたら前の担任カムバック!!
折角同じクラスだと言うのに、席が離れてしまうと休み時間しか千早と接触できない。
いやまぁ、授業中そうそう会話なんか出来やしないけれど、こっそり千早を盗み見る事だって出来なくなってしまう。
そんなのは、俺が耐えられん!
眠気と戦う俺が、カクンカクンと頭を揺らすのを隣で小さく笑っている千早とか可愛い以外の言葉が出ないし!
その後、重力に抗えず額を机にぶつけてしまって、一部始終見ていた千早が「ほんと、バカですね」なんて言いながらも、その表情はしょうがないなぁといった風に甘く溶けていたり!
更にその後、ついうっかり俺の額へと手を伸ばす所を、額をぶつけた音に気付いて俺に視線を向けていたクラス全員が目撃し、え?ってなったりしてたのも良い思い出なんだが。
こんな風な日常が非日常になるとか、無理!無理無理無理!
席替えは公平にくじ引きらしいが俺は何としてでも千早の隣の席になりたくて、隣の席の番号を引いた奴と交換してもらう気満々だった。
…………の、だが。
引いたくじと千早を交互に見て、神が来たと叫びそうになった。
俺の強運が見事に千早の隣の席を勝ち取り、要には「また二遊間隣なの!?」と言われた。
デジャブ?そんなん知らん。

そんな席替えをした日の昼休み。
野球部のメンツで飯を食べる時は決まって会話の中心は要なのだが、それは例に漏れず、やっぱり今日も要が中心だった。
話題はそれこそ要が気になった事が多く、今日の話題は席替え。
母親お手製だという唐揚げをパクリと口に入れ、咀嚼した後に飲み込んでから口を開いた。

「葵ちゃんはさぁ、授業中だろうがお構い無しに瞬ちゃんの事良く見てるけどさ?瞬ちゃんも大概だよね?」

要の言葉に、俺の前に座っていたヤマが口へと運んでいた玉子焼きを弁当箱に落とすのが目に入った。
そんなヤマはまた面倒な事を言い始めたと言わんばかりの表情を浮かべていたが、要は俺の隣にいる千早を見ていたので気付いていない。
話題にされた当の本人は、手にしていた紅茶のパックにストローを差し、心底不思議そうな顔で小首を傾げた。

「何の話です?」
「だーから、瞬ちゃんだって負けず劣らず葵ちゃんの事良く見てるなぁって」
「何言ってるんです?俺は藤堂くんと違ってちゃんと授業受けてますって」
「ヤマちゃん、何か一言」
「えぇ!?僕!?えっと……うん、まぁ、そうなんだけど。基本的には授業受けてると思うんだけど、ふとした時に藤堂くんの事見てるかなって」

まるで授業をちゃんと受けていないと言われたと思ったらしい千早は、眉を少しだけ吊り上げて否定するが、勿論、要は納得しない。
そこで、今度はハンバーグに手を伸ばそうとしていたヤマへ突然バトンを叩き付けたのだった。
当然、いきなり話を振られたヤマは困惑しつつ、授業中を振り返ってやんわりと千早の行動を述べたのだが、千早はそんな訳がないと笑う。
珍しく冗談を言ってきますねぇ、なんて手をプラプラと振った。

「山田くん、冗談はやめてください」
「えーっと、冗談じゃないんだけどな」
「ほらー、目は口ほどに物を言う、だっけ?それだよ〜!ね、葉流ちゃん」
「うん」

お次のターゲットはここまで黙々とおにぎりを頬張っていた清峰で、すんなりと要の言葉に頷く。
因みに今食べているおにぎりの中身は昆布。
サイズがデカイのは清峰仕様だろうか、まぁ、デカイって良いよな。
そんな清峰は果たして本当に今の話を聞いていたのか定かではなく、千早も完全に疑っていた。
そもそも野球と要以外にとんと興味がない奴が、授業中の千早の行動を知る良しもないだろう、と。

「清峰くん、絶対知らないですよね?」
「ムッ」
「そんな顔しても事実でしょう?」

千早の否定的な言葉に、清峰の顔がムー○ンになった。
なんだか、一悶着起きそうな予感。
完全に傍観者と化している俺は、彩りとして添えてあったミニトマトを口へと放り込む。
口の中でプチリと弾けて甘酸っぱい味が口の中に広がった。
美味いな、このトマト。
そんな感想を一人心の中で言っていると清峰の猛攻がスタートし、千早が追い詰められていく様は新鮮だった。

「この間、藤堂が寝言ってた時も千早は藤堂の事見てた」
「そ、それは、隣から何か聞こえたので!」
「言う前から見てた」
「た、たまたまです、たまたま!」
「藤堂が打撃練してた時だって……もがっ」
「清峰くん、それは気の所為です」
「ちょっと瞬ちゃん!?葉流ちゃんの口にパン突っ込むなんて卑怯じゃない!?」
「なんの事でしょう」
「葉流ちゃん食べ物を前にすると益々無口になっちゃうんだからね!!」
「知ってますぅ」

確信犯め。
清峰の暴露攻撃に耐えかねた千早は、煩い口は塞ぐに限ると、その口へとミニメロンパンを突っ込むという荒行に出た。
口に入った食べ物はきちんと食べる、そんな清峰の習性を上手く使ってやがるのがよくわかる。
そんな千早に対して横から保護者がワァワァ言うが、何のことだとすっとぼけると自分もメロンパンを口にする。
一口齧って、甘いなんて感想を口にするだけで、この話にはもう触れるなと顔が言っていた。
しかし要はまだこの話を終わりにする気はないらしく「瞬ちゃん!?ねぇ、無視しないで!」と喚いている。
シャットダウンした千早を前に要の一人相撲状態は続き、流石に可哀想だと思ったヤマが間に入る事にしたらしい。
要の肩をポンポン叩きながら、落ち着けと促す。

「まぁまぁ、要くん落ち着いて」
「これが落ち着いていられるとでも!?」
「あはは。んー、多分だけど千早くんは藤堂くんの事、無意識に見ちゃってるだけだろうし。それを指摘するのはまりにも……あっ」
「ヤマちゃんが言ってんじゃん」
「ご、ごめん!!」
「えー、じゃあ、つまり?瞬ちゃんってば無自覚に葵ちゃんの事目で追っちゃうくらい、ラブ!ってことぉ……もがっ」
「要くん……その口、針と糸で縫って差し上げましょうか?」
「へろんはんこうへき、ひゃへぇ〜!(メロンパン攻撃、やめぇ〜!)」

うっかり暴露するヤマに、それを聞いて益々ニヤニヤが止まらない要。
いらん事を口にするものだから、千早は清峰同様に要の口にもメロンパンを突っ込んだ。
アイツ、メロンパンを入れられる少し前、明太子のおにぎり食ってなかったか?
さぞ口の中は何とも言えないハーモニーになっている事だろう、ご愁傷様。
それでも途中で口から出す事はなく涙目になりながらも咀嚼し、ゴクリの飲み込んでからペットボトルの水を呷る。
ゴクゴクと音を立てながら三分の一ほど飲んで、口内に残る味を洗い流す事に成功したようだが、その表情は眉間に皺が寄っていた。

「明太子とメロンパンは合わない」
「そりゃそーだろ」

おっと、こっちに飛び火するのが面倒臭くて黙っていたのに、ついうっかり口に出てしまった。
再び傍観する為に、唐揚げを口に頬張る。
食べてるので何も話せませんというスタイルを貫こうとしたが、まぁ、要が大人しく見逃してくれる筈がなかった。

「葵ちゃんからも一言ほしいな」
「なにをだよ」
「瞬ちゃんの無自覚について」
「俺が言う事はなんもねェ」
「え〜!?そんな事言わずにさぁ」
「うるせー」
「聞きたい聞きたい聞きた……もがっ」

これ、便利だな。
何かを口に突っ込めば静かになるシステム。
その代わり多少の代価が必要となるが。
仕方なしに多めに入れてきた唐揚げを要の口へと突っ込めば、おいひぃ、なんて言いながら口を動かしていた。
そりゃ、美味いだろう。
藤堂家特製の唐揚げは、冷めても美味しいのだ。
揚げたてはもっと美味いけどな。

「葵ちゃん」
「ンだよ」
「唐揚げ美味しかった」
「そりゃ良かった」
「また食べたい」
「また今度なー」
「藤堂!」
「うぉっ!いきなりどうした」
「俺も食べたい」
「今度沢山作ってきてやるよ……

要に便乗した清峰が目を輝かせるのを真正面から受けて、なんだか眩しいと目を細める。
直視するには辛くてヤマへと助けを求めると、どこかウキウキしながらもソワソワしていた。
どうした、ヤマ。
もしかして、ヤマも唐揚げ欲しいのか?
ワンパクな一面を見て、ヤマも男子高校生なんだなぁ、なんて。
男子高校生相手に何言ってんだって話だが。

その後は、要の唐揚げ談義が始まって千早の無自覚話は有耶無耶になった。
当の本人も話が逸れた事にほっと胸を撫で下ろし「俺にも唐揚げ作ってくださいね?」なんてお強請りする余裕まで出たようだ。
まぁ、千早は俺の家に連行するので、揚げたてのやつ食べさせてやるけどな?


*****
昼休みを終えて眠いだけ授業を受けて、部活に勤しんでから二人きりで歩く見慣れた道。
実は昼休み以降、ずっと考えていた。
俺は要の言う通り、しょっちゅう千早の事を見ているが、まさか千早も俺の事を見ていたなんて。
だって千早が俺の事見ていたとしたらかなりの頻度で目が合うはずなのに、それがなかったから気付きようもなかった。
要に言われなければ、今後も気付く事はなかったろうと思うと、今回ばかりは要に感謝する他ない。
唐揚げの他に何かリクエストでも聞いてやるか。
不意に隣を歩く千早の顔が見たくなって、少し下へと視線を向ければ、黒目がちの瞳がこちらを向いていた。
カチリと合わさる視線に千早はハッとしたように慌てて右を向き、眼鏡のブリッジを押し上げる。
カチャカチャ鳴るフレームに、ムクムクとイジりゲージが溜まっていく。
自分でも意地の悪い顔をしている自覚はあるが、こればっかりはどうにも止められそうにない。
悪いな、千早。
一応の謝罪を心の中で告げて、口を開いた。

「千早くんは俺の事をよく見てくれてるんだ?」
「なっ……

俺の一言に千早は逸らしていた視線を顔ごとこちらに向けてくる。
ハクハクと口を動かして、その後、苦虫を噛み潰したような顔になった。
真っ赤になって照れる方を想像していたのだが、なんでそっち!?蒸し返して悪かったな!?そんなに嫌かよ!

「何故そうも嫌そうな顔するかね、軽くショックなんだが」
「屈辱です」
「そこまで!?」
「藤堂くんにバレるのも嫌ですけど、俺自身に自覚がなかった事が悔しいです!」
「いいじゃんか、俺の事それだけ好きって事なん……っっ!?」
「それ以上喋るな」
「もがっ」

メロンパンは昼休みに食べてしまってもうないからなのか、俺の口を塞ぎに千早の手が迫ってきて、何の躊躇いもなく押し付けられる。
両手でぐっ、と押す千早は下を向いているが、赤く染まる耳は隠しようもなくて、あぁ、照れている、今度は見れたと嬉しくなった。
口に直接手を当てるなんて行為を俺相手には出来てしまうのも、俺を嬉しくさせるんだと知ってるのかね?
清峰と要にはパンを突っ込むに留めていたのに、俺相手だと手で直接塞ぎにかかってきちゃうんだ?
なるほど?これは特別扱いされてるって事で良いんだよな?
絶対に無意識、無自覚の犯行なので、俺の頬がだらしなく緩む。
かわいーな。
もがもがしつつ、舌を出してペロリと手のひらを舐めると、舐められた本人は猫のように後ろへと飛び退いた。
俊敏だ。

「ば、ばばばばば」
「ば?」
「バカなんじゃないですか!?」

それだけ言い捨てて、赤い顔も潤む瞳もワナワナと震える唇もそのままに、千早は脱兎のごとく駆け出した。
脱兎ってあいつ、猫なんだけどなー。
一人残された俺は「ほんと、かわいー」と呟いたが、勿論それに応える者はいなかった。


END


ちーくんって、メロンパン食べるかな……?食べてたら可愛いなって理由だけで持たせてます