風花莉亜
2026-01-15 07:29:18
6611文字
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全力疾走。

第11回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で、二人で京都へと卒業旅行に行く話。肝心な旅行部分はサラッとしてます。自分でも何が書きたかったのが謎なので、頭空っぽにして読んでいただけたらと。いつも通り誤字脱字あり、何でも大丈夫な方向けです

『そうだ、卒業旅行いこう!』
そう言った要の発案により、俺達五人は一泊二日の卒業旅行をする事になった。
皆忙しいけど、一泊二日くらいなら何とか時間捻出できるんじゃない!?てか行きたい行きたい行こうよ皆で!マブダチなんだし思い出作りしよ!?
この言葉と体に纏わりつく要を無下にする事は、俺達には出来なかった。
この三年間で出来ない身体にされてしまったと言っても過言ではない。
そんなこんなで俺達五人の卒業旅行が決定したのだったが、千早のとんでもない一言により、二人きりの卒業旅行も同時決行される事となるとは、その時の俺は思いもしなかった───…………


メッセでやり取りを重ね、旅行先は京都に決まった。
要くんの事だから沖縄とか大阪に行きたがると思ったけど、京都とは意外だったなぁと言ったヤマの言葉は、清峰以外の俺ら三人の意見である。
京都は時間の流れがゆっくりに感じるとか言うので、やっぱり要も疲れてるんだなと納得しつつ、何で京都に行きたいのかと聞いてみた。
しかし返ってきたのは、八ツ橋が食べたいと言う少しもカスリもしない理由。
え、八ツ橋とか買おうと思えば京都行かなくても買えるくね!?とツッコミたかったが、それを言ったら行き先が一向に決まらない気がしたので黙っておく事にした。
京都行きに異論はないので。
黙っておいたお陰で想像よりも行き先がスムーズに決まり、日程も決まったその日、個人メッセが千早から届いた。

《前日って、予定あります?》

シンプル極まりないその文字の羅列に首を捻りつつ、前日の予定をスマホのカレンダーでチェックすると、その日は特に予定はなく空白となっていた。
旅行の為の買い物でもしたいのだろうか、千早の事だからアレコレと新調したいのかもと、そんな簡単な気持ちで『暇だけど?』と返信する。
すると直ぐに既読が付き、目を疑う文字が送られてきた。

《一緒に前乗りしませんか?》

前乗りってなんだ?いや、意味はわかる、わかるけど、どーゆー意味だ?一緒に前乗り?旅行の?
千早の意図が掴めなくて、何と返信して良いかわからない。
指をあっちへウロウロこっちへウロウロしていると、既読を付けてから何の音沙汰もない事に痺れを切らしたのか、トーク画面から通話画面に切り替わった。
勿論相手は千早だ。
突然の事にびっくりしつつも、反射でタップした応答ボタン。
よく見るとただの通話じゃなくてビデオ通話になっていて、画面には眉毛を下げた千早の姿があった。

『すみません、急に。あの、俺と二人では嫌でした?』

上目遣いに、てか画面越しなのに上目遣いってなんだよ態とか!?態とだな!?
しゅんとした表情を浮かべながら、心做しか残念そうな声音でそんな事を言われて、そんな事はないと思いっきり首を横にブンブンと振る。
嫌な訳がない、千早と二人きりの時間を俺が嫌だと感じる訳がない。
寧ろもっと、もっと一緒の時間があれば良いのにと考えたのは、一度や二度ではない。

「嫌じゃねーよ」
『本当ですか?』
「おう」
『では、俺と二人きりで旅行、してくれますか?』
「おう」

成程、そーゆー事か。
前乗りって一日早く二人だけで旅行しようぜって事か。
そんで次の日に要達と合流するって事か、なるほどなるほど。
………………は!?二人きりで旅行って前日にって事は一泊するって事だよな!?つまり、千早と同じ部屋でお泊まりっ!?
湯上りの火照った姿、寝起きの少し乱れた浴衣に合わせから覗く鎖骨、その前に寝てる姿も見れてしまうかも!?
想像しただけでも、とんでもなかった。
最高すぎねー!?
アレコレと妄想だけは広がる俺を現実に戻したのは、画面の向こうの千早だった。

『やらしー事考えてません?』
「か、考えてません」
『ダウト』
「いや、マジで!」
『本当に?』
……ちょ、ちょっとだけ」
『ふっ……、あはははは』
「笑うなて」

自宅でも袖の長い服を着ているらしく、笑いながら口元を覆う手が可愛い。
萌え袖、良いよな。
俺の性癖は、全部千早によって構築されている気がする。
くそ、コイツこんなに俺の事ガッチリ掴んで離さないんだから、一生俺の隣にいろよな!
いつか絶対プロポーズすると心に決めて、その後は行く場所を決めながら他愛ない話をした。
千早との会話は苦にならない。
楽しいだけで、時間なんてあっという間に過ぎていくから、まだ話し足りないなんて事が良くある。
これは千早本人に聞いた事はないから、俺だけかもしれないけれど。

『では、おやすみなさい』
「おう、おやすみ」

少しだけ眠そうな声が鼓膜を揺らし、反射で返事をする。
そしてそのまま敷いていた布団へと、仰向きに倒れ込んだ。
通話の切れた画面を眺めながら、口元がニヤけるのを止められなくて、それを発散させるかのように体をうつ伏せにして枕をポカポカと殴った。
あまりやると枕が死ぬのと姉貴が煩いと怒鳴り込んできそうで、程々で止めてスマホを握ったまま枕に顔を埋める。
あーあ、おはようもおやすみも毎日顔を合わせて言えたら最高なのに。
ゴロンと横向きに体勢を変えて目を閉じると、身体は睡眠を欲しがっていたのか、微睡みかける。
今日は良い夢が見られそうな気がした。


*****
待ちに待った三月某日、俺と千早は駅にいた。
駅で待ち合わせて、そのまま新幹線に乗るという流れだ。
実質二泊三日の俺達は、多少荷物が多い。
現地調達すれば良くないかと言う千早に、そんな金はねェとバッサリ言えば仕方ないという顔をしつつ、俺に合わせて自宅から色々と持って来てくれたらしい。
コロコロと転がすキャリーが重そうだった。
一体何をそんなに持って来たのか、「おはようございます」とやって来た千早を見た時の感想は、それだった。

「お前、一週間くらい滞在すんの?」
「する訳ないじゃないですか」
「荷物多くね?」
「普通では?」

普通の基準がわからない。
俺は軽装すぎるとか姉貴が言っていた気がするが、千早は重装すぎやしないか?
あぁ、足して二で割ったら丁度いいってやつか。
流石俺達。


新幹線に乗り込み、京都に到着するまでこの後の計画を立てる。
明日、要達と合流してから行く場所に水族館は入っていなかったので、これは最初から二人きりで行く事が決まっていた。
水族館デート、ベタだな。
東京にだって水族館はあるけれど、場所によって少しづつ色が違うので見て損はない。
別段そこまで魚に思い入れもないが、少し暗めの室内の中、水槽の中が引き立つ様に設計されている空間を歩くのは、幻想的と言える。
動画で見たそれは綺麗で、ムード的にも最高だったので、きっと楽しめると思った。
メインをそこにして、後は食べ歩きかカフェに入るか。
そこはその時決めれば良いかと考えつつ、いくつか候補は挙げておく。
だってわからないじゃないか、その時何が食いたくなるかなんて。
そうやって行きの車内、千早とはしゃぐようにして時間は過ぎていった。


新幹線を降りて、先ずはこの大きな荷物はどうにかしたい、そんな訳で大助かりするのがコインロッカー。
早々に荷物を仕舞い込み、ボディバッグ一つを持って二人並んで歩き出す。
ファーストインプレッションが荷物がデカイだったばかりに、千早の服装にまで目がいっていなかったが……今日も今日とて上に羽織っているモスグリーンのカーディガンは萌え袖だった。
これ、俺が萌え袖好きなのバレてる?ジッと手元を見ているのに気付いた千早は、あぁ、といった感じで笑う。

「このカーディガン、似合いますか?」

クルンとその場で華麗なターンを決める千早に、俺の目は釘付けだった。
なんだコイツ、くそ可愛い。
ごきゅんと唾を飲み込んで、しぼり出すように「あぁ」とひとこと口にするのが精一杯だった。
そんな俺にクスクス笑う千早はやっぱり口元に手を持っていくので、癖なのだろう。
一頻り笑って、行きますかと言う千早は機嫌が良さそうだった。
もしかしなくても、俺が萌え袖好きだってわかっててやってる?
口から気になった事が飛び出そうとして、しかしそれより先に出たのは腹の虫が鳴く音だった。

『ぐぅ〜〜〜〜』

全く空気の読めない己の腹に若干イラッとしたが、イラつくのは腹が空いているからに違いない。
仕方がないないのだ、朝から何も食ってないので栄養を欲するのは当たり前の事だから。
腹をさする俺に、千早はご飯食べましょうかと言って俺の腕を引いた。
でも引いてすぐに離れていく手に寂しさを覚え、その手を捕まえたくなる。
しかしこんな往来でそれはダメだと言い聞かせ、大きく息を吸い込んで吐いて、自分を落ち着かせた。

「どこ行きます?」
「食べられれば何でも」
「まぁ、言うと思いました」

俺の事なら何でもお見通しとでも言いたげで、コイツだけには一生敵わないと思う。
でもそれを心地好く感じてしまっているので、最早末期だ。
千早先生担当の末期患者な俺は、連れられるままオシャレなカフェに行き、やっぱりオシャレなワンプレートを食べて腹を満たす。
ただやはり量は少し足りないと感じたが、途中食べ歩きしたら良いじゃないかと言われ、追加注文するのはやめた。
食べ歩きも旅行の醍醐味ってな。

カフェを出た後は、水族館へ行く前に京都と言えば和菓子だろ!って事で団子を食べたり生わらび餅を食べたり、ソフトクリームなんかも食べた。
流石に食べ過ぎたと腹が重くなったが、美味しかったのだから仕方ない。
誘惑が多すぎた。
千早はと言うと、俺が食べるもの食べるもの一口くださいと言って一口づつ食べ、最小限で色々と食べるという技を見せた。
どうせならシェアしようぜという俺の言葉は、そんなに食べられませんとバッサリ切り捨てられたのだ。
まぁ、先にカフェで飯食ったし、しゃーない。

腹も満たされに満たされ、そろそろ良い時間、本来の目的地である水族館へと向かう事にする。
どのくらい居るだとか、何をメインに見るだとか、そんな事を話すその途中、隣にいた千早に袖をクンッと引かれ後ろに体が傾く。
何だと振り返れば、千早の黒目がちな瞳が真っ直ぐ俺を射抜くように見詰めていた。

「藤堂くん」
「なに……
「水族館まで、勝負しません?」
「ん?」

くそ真面目な顔で何を言い出すだ、コイツは。
こちとら腹八分目を通り越して、腹十二分目なのだ、今走ったら確実に吐くぞ!?
だというのに相手は千早な訳で、全力で走らなければあっという間置いて行かれることは目に見えている。
一体、何を考えている?
真意を探るように瞳を覗き込んでみるが、何一つ感情が読めなかった。

「ちは……「よーい、スタート!」は!?ちょ、待て千早ァ!!」

言う無いなや、問答無用でダッシュする千早。
伸ばした手は空を切って、見る見る小さくなって行く姿に呆然とする。
えー、突然すぎるだろー。
何だか全くわからんが、今は千早は追いかけるのみだと踏み出した足が普段より重くて、更にはせり上がってくる何かにうっぷと口元に手を当てた。
しかし、こんな所で吐いてる場合ではない。
グッと力を込めて足をひたすら動かす事に専念すると、気持ち悪さはどこかへ行ってしまった気がした。
まぁ、気がしただけなので、到着した後の事はあまり考えたくないが。

走り続けて数分、まだ千早には追い付けなくて、けれど少しづつだが距離が縮まってきている。
短距離は勝てないけれど、長距離だったのなら俺にだってチャンスはあるのだ。
まだ寒さの残る京都を街を疾走する、土地勘なんてないけれど地図ならきっと千早の頭の中に入っていて、だから後を着いて行けば目的地には辿り着けるはず。
問題は、後どのくらいで着くのかって事。
ラストスパートをかけるタイミングを掴めないのは、正直痛い。
何処かに看板出てねーの?
水族館が見えてからだと、千早もそこで更に加速するだろから間に合わない。
あー、くそ!
この勝負に何の意味があるのか、負けたらどうなるのか全く知らないが、かちまけが付くものだったら負けたくない。

「千早ァ!!」

咄嗟に名前を呼ぶと、前を走る背中は条件反射のように一瞬後ろを向いた。
少しだけ緩んだスピードを見逃さなかった俺は、そこで千早との距離を詰める。

「待てコラ!」
「嫌です!」

ヤンキーが眼鏡を追い掛けてる絵面は、あんまりよろしくない。
通りがかりに聞こえた声は「え、大丈夫なのあれ……」「追い掛けられてない?」「警察呼ぶ?」などと誤解されまくっていて、勘弁してくれと思う。
俺らのこれは、事件性も何もないただの追いかけっこです!
元々は追いかけっこですらなかったけれど、実際問題、千早に追い付いたら捕まえる気でいるから追いかけっこだ。
って、あぁ?あれ、水族館じゃね!?
遂にそれらしき建物が見えてきてしまって、俺は慌てて最後の力を振り絞るように走った。
あと、少し、もう少しで千早の腕が掴めそうなのに、この少しが縮まってくれない。
てかこれ、どこがゴールなん?敷地内に入ったら?それとも受け付け?わからん!
最初に聞いておけば良かったと言いかけて、そんな余裕はどこにも無かったと思い出す。
あーあー、もう知らん!
一歩一歩を大きく踏み出し、千早の腕を捕らえにかかる。
やっと届いたそれをグイッと自分の方に引き寄せると、ドンッとこちらへ傾く身体は肩で息をしていた。
それは俺も同じ状態で、お互い呼吸を整えるのが精一杯でその場に立ち竦む。
チラチラと向けられる視線には気付いているが、威嚇する元気もなくてそのまま受け流すが、とりあえず千早だけは隠しておくかと、頭ごと抱え込んで腕に閉じ込めた。
息が整ったら汗臭いだの離せだのと暴れそうだと想像したが、そうなったとしても離す気はない。
暫くお互い無言のままいたが、やっと呼吸が整ってきたので会話を試みる事にする。
俺の考えを聞きやがれ。

「お前さ、何で逃げるかね?」
「逃げてません」
「無理あるだろそれ……

千早が何を考えて勝負と言う名の逃走劇を繰り広げたのか知らないが、俺から逃げきれると思ったのなら、それは心外だ。
こちとら地の果てでも追い掛けて捕まえる気でいるのだから、お前に逃げる場所なんかないんだよ。

「どんだけ千早が逃げても、俺は逃がす気ないんだわ。逃がさないから、おめェは大人しく俺に捕まったままでいろよ」
…………なんですかそのクサイ台詞」
「うっせ」
「はぁぁぁぁ……
「溜め息デカすぎだろ」
「これだから藤堂くんは」
「ンだよ」

俺の腕の中でもぞりと動く千早に、腕を緩める。
息苦しかった?そんなに強く抱き締めてたつもりはないけれど。
胸元に置かれていた手が俺の背中にまわり服をぎゅっと握るのを感じて、これはまた可愛い事をすると口元が緩む。
もしかして俺、千早が何をしても可愛いとか言うんじゃ?そんな事、本人には口が裂けても言えないが。
言ったら最後、白い目で見られるのは想像に容易い。

「仕方ないので」
「ん?」
「仕方ないので、捕まったままでいてあげます」
「マジで?」
「だって藤堂くん、地の果てまで追い掛けてきそうで怖いんですもん」

そう言って顔をあげた千早は、怖いなんて言いながらも笑っていた。
眉を下げて、しょうがないと言う風に。
と言うか、バレてやがる。
俺が地の果てまで追い掛けるって。
それがおかしくて、俺も一緒に笑った。


この後、注目されすぎた俺達はそそくさと水族館の中へと避難する羽目になって、千早に小言を言わた。
往来で繰り広げていたので自業自得と言えばそうなのだが、俺達の事は放っておいてほしかったと言うのが本音だ。
羞恥心でキレ散らかす千早を宥めるのには少々骨が折れたから。
やっと機嫌を直してくれた千早と王道水族館デートでイチャイチャしたり、宿で浴衣に着替えた千早とアレコレあったのだが、それはまた別の話。

END


水族館と旅館の所も書きたかったんですけど、ダラダラと凄かったのでカットしました。そこが書きたかったはずなのになぁ。おかしい