風花莉亜
2026-01-15 07:28:08
4416文字
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目を瞑る意味。

第10回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点。藤堂くんが可愛い物好きという設定(可愛い物好きな表現は薄めですが)ですので、そこからもうお気を付けください。恋人扱いされない千早くんが、愛玩動物か何かだと思われているんじゃないだろうかと不満に思う話。いつも通り誤字脱字ありの何でも大丈夫な方向けです

藤堂くんは、可愛い物が好きだ。
見た目ヤンキーで高身長な男が可愛い物が好きだなんて、ギャップがあって可愛いと思う。
姉妹に挟まれた環境が藤堂くんを可愛い物好きにさせたのか、はたまた他に理由があるのかは知らないけれど……いや、ちょっと、あの、

「藤堂くん!頬ずりしてくるのやめてくれませんか!?」
「あ?減るもんじゃねーし、いいだろが」

シレッと返されるが良くない、良くない、全く良くない!
逞しい両腕にガッチリとホールドされた俺は、藤堂くんの膝の上に乗せられながら頬ずりをされていた。
なんだこの状況、意味わからん。

先に述べた通り、藤堂くんは可愛い物が好きである。
そんな藤堂くんの可愛いセンサーに見事引っかかってしまったらしい俺は、藤堂くんに好きにされる日々を送っている。
好きにされる日々と言うと、なんだか如何わしく感じてしまうのだけれど、俺達の関係は驚く程に健全だ。
付き合ってもうすぐで三ヶ月が経つのに、未だにキス止まりの清い交際しかしていない。
そのキスってのも触れるだけのもので、男子高校生がそれで満足出来るかと問われたら俺的にはNOな訳だが、藤堂くんはそうではないらしく。
二人きりで自室のベッドの上に乗り上げた状態だというのに、押し倒されるでもなく、ただただ抱き締められて頬ずりをされるのみ。
正直言って、有り得ない。

「はぁー、癒される」

頬を寄せる藤堂くんは心底そう思っているらしく、色気の欠片もあったもんじゃ無かった。
恋人捕まえて癒されるって何だろう?いやまあ、癒される事もあるか。
あるとしても、してもだ、膝に乗せて密着した状態を癒されるとか言われる俺の身になってみろ。
こっちはしっかりとドキドキしてるというのに、この男ときたら、人の事をペットか何かだと勘違いしているのだろうか?
意識するのも緊張するのも自分だけで、何だか悔しくてムカついてくる。
藤堂くんにとって、俺って何なんですかね?大好きな『可愛い物』のひとつ?
恋人扱いしてくれとまでは言わないけれど、いや、恋人扱いして欲しいけれど、せめて人間扱いはしてほしい。
だって俺、人間なので。

「絶賛、藤堂くんにプライド傷付けられ中なんですけど」
「んー?」

間延びした返事に苛立ちが募る。
ちゃんと聞いてるのか、この男。
いや絶対聞いてないだろこれ、右から左だろ!
藤堂くんの耳を華麗に通過するだけの俺の言葉は、ひとつも記憶には残らないみたいだった。
けれど、至福だとそう書かれただらしなく緩んだ顔に、少しだけ、ほんの少しだけ絆されそうになる。
藤堂くんが幸せそうなら良いか?なんて思いかけて、慌てて首を振った。
危ない危ない、うっかり愛玩動物になる所だった。
恐るべし、藤堂葵。
今日こそは愛玩動物を卒業して、千早瞬平は恋人なのだと認識させなくては。
だってこのままじゃ、本当に愛玩動物になってしまう。
癒しを与える可愛い生き物、そんな物になりたい訳じゃない。
俺は君の愛玩動物じゃなくて、恋人なんですよ?
抱き締められながら頬ずりされるのは嫌じゃないけれど、抱き締められながらされるのはキスがいい。
あったかい瞳を向けられるんじゃなくて、ギラギラとした熱っぽい瞳を向けられたい。
「癒される」なんて、ほわほわとした言葉じゃなくて「抱かせろ」とか、欲を剥き出しにした言葉が聞きたい。
それら全部が叶いそうにないのは、単純に俺に魅力がないからなのだろうか。
それとも、藤堂くんの『好き』は俺の『好き』とは別物だったのだろうか。
わからない。

「何か、考え込んでる?」

唐突に、顔を覗き込んできた藤堂くんにそんな事を聞かれた。
俺の纏う空気で考え込んでいると、そう感じ取ったのだろうか?野生動物みたいだな、本当に。
そこに気付けるのなら俺のこの気持ちも察してくれれば良いのに、なんて虫が良すぎるだろうか。

「藤堂くんは、俺の事を愛玩動物か何かだと思ってるのかな?って考えてました」
「はぁ?千早は千早だろ?」

無自覚だろうが、清峰くんみたいな事を言ってやがる。
……証拠として動画を撮っておけば良かった。
俺の事をどう思っているのか藤堂くんの返答は気になっていた訳だし、良い方へ転がるか悪い方へ転がるか判断出来なかったとは言え、記録として残しておくに越したことはない。
結果面白い方へと転がったので、これは皆に共有したかった。
要くん辺りの食い付きが良さそうなのに、惜しい事をしたと嘆いても後の祭り、覆水盆に返らず、だ。
でもまぁ、それは置いといて。
これは割と真面目な話なので、茶化すような思考を切り替える。

「千早は千早ですけども!」
「だろ?」
「ソウデスネー」

千早は千早ですけども、そうじゃなくて。
イマイチ俺が何を言いたいのか伝わってなくて、もどかしい。
言葉にして伝えるのは難しくて、俺の思考全部そのまま藤堂くんに流れ込んでくれたら、わかってもらえるかもしれないのに。

ねぇ、藤堂くん。
俺、不安なんです。

「藤堂くんって、俺の事……本当に好きですか?」

告白してくれたのは藤堂くんからだったけれど、手を繋ぐのも抱き締めるのもキスをするのも、どれも最初に仕掛けたのは俺。
いや、抱き締める事に関しては藤堂くんの方が先だったろうか。
ただどう考えても、恋人同士の触れ合いと言うより、妹さんを抱き締めるのと変わらない抱き締められ方をした気がする。
可愛いとか何とか言ってたし、色恋がそこにあったのかどうか、怪しい所だ。

「好きに決まってるだろ!」

モヤモヤしている俺の思考を切り裂くような、藤堂くんのはっきりとした声に我に返る。
少しだけ語尾が強かった。
気持ちを疑われて、怒ったのだろうか?わからない。
でも、好きだとはっきりと言ってくれるのならば、どうして……

「ならどうして、手を出してくれないんですか?」
「ゴホッ!は、なん?何、言って……っ」

照れてる。
顔を真っ赤にさせながら口元を大きな手で覆って、目線があっちこっち移動するので俺と目が合わない。
おやおや?俺が想像していたよりもずっと、意識してくれている?これはちょっと、想像してなかったかも?
真っ赤になっている藤堂くんが可愛くて、駄目なのに、駄目なのに、俺の弄りスイッチが入ってしまった。

「顔、真っ赤ですね?」
「ひぇっ」

元々乗っていた膝の上、これ幸いとばかりに擦り寄るように身体を寄せて下から覗き込む。
意識して上目遣いをしつつ、藤堂くんの胸元に手を滑らせながら、コテンと首を傾げた。
ほらほら、煽られてくださいよ!
俺は藤堂くん専用の愛玩動物じゃなくて、藤堂くんの恋人なんですからね!

「千早さん、ちょっと、あの、上から退いてくださると、助かるんですけど」
「何でですか?嫌ですけど?」

敬語を使いつつしどろもどろになりながら、藤堂くんは俺の肩に手を置いて、退いてくれと言う。
それでもやっぱり目は合わないし、顔は赤いし、眉毛はキュッと寄せられて何かを我慢しているようで。
我慢、しなくても良いのになぁ。
このまま煽り続けたら手を出してくれそうな気もするけれど、それは藤堂くんの本意ではないだろう。
存外ロマンチストな藤堂くんは、なし崩しにどうこうなるのは嫌らしい。
あーもう、仕方のない人。

「あの」
「ンだよ……
「すみません、揶揄いすぎました」

シュン、としおらしい態度を取って俯くと、藤堂くんがワタワタと手を動かし始める。
あ、とかう、だとか、急な俺の態度の変化に戸惑っているらしく、言葉になっていない。
何を言おうとしているのか大体想像が付くけれど、もう少し成り行きを見守っていたら、俺の欲しい言葉をくれるのだろうか?
出来ることなら、欲しい。
ソロリ、と少しだけ上を向いて藤堂くんを盗み見ると、相変わらず何やら葛藤しているようだった。
困らせている。
わかっているけれど、俺だって愛玩動物を卒業したいのだ。
そもそも、可愛いって言われたって嬉しくないんですからね!?
…………うそです、少し、ほんの少しだけ嬉しい。
俺の事を『可愛い』と言う時の藤堂くんは決まって柔らかい笑みを浮かべているので、それを見るのは悪くないってか、寧ろ見たい。
ご家族に向ける愛おしいって顔に似ているけれど、少し違って、俺専用って感じがする。
だからこれは、俺だけが知ってる笑い方。
俺の前でだけ見せてくれる顔。
十分特別扱いされてる自覚はあるけれど、もっともっと、と日々強欲になっていく俺の気持ちはどうにもできなくて。
勝手に不安になったり、勝手に不満になったり、面倒臭い恋心。
俺なんかに捕まって振り回される藤堂くんが可哀想に思えて、ごめんねの気持ちと大好きの気持ちを込めて藤堂くんに頬ずりしてみる。
するとびっくりして固まるものだから、少し笑えた。

「な、なん、なに?」
「あはは」
「え、いや、マジでなに?」
「藤堂くんの真似です」

そう言って、今度は鼻先を藤堂くんの鼻先へとチョンっと触れ合わせる。
なんだか猫がする挨拶みたいだ。
……だとしたら、これも通じますかね?
少しだけ距離を取って、きゅっと目を瞑る。
愛玩動物は卒業したいなんて言っておいて、やってる事は猫のそれ。
仕方ないので、もう少しだけ藤堂くんの癒し的存在でいてあげますよ。
だからいつか、もう少し先の未来でもいいから、俺の事、ちゃんと恋人扱いしてくださいね?
下げた瞼をパチリと上げようとしたその瞬間、唇に一瞬だけ何かが触れた。

「えっ」

何か、なんて一つしかない。
何度か触れ合わせた事のある、少しだけカサついた唇。
『好き』を伝えたつもりだったけれど『キスして欲しい』と受け取ったらしい。
全くの勘違いなのに、これで良いんだろ?みたいな空気を放ちつつ、キス一つで茹でダコみたいになっている藤堂くんに口角が上がる。
なんか、嬉しいなこれ。
頬に手を添えて、今度は俺から唇を寄せる。
ちゅっ、なんて可愛い音を立てて離れると、間抜けな顔で口をパクパクと開閉させていた。

「お返し、です」

目の前でこれ以上ないって程に顔を赤く染める恋人のソレが移ったのか、俺までジワジワと恥ずかしくなってきて顔に熱が集中する。
キス一つ、なんて言ってられない。
たかがキス、されどキス。
こんなんじゃ藤堂くんの事、揶揄えやしない。
火照りを冷ます為に手の甲を頬に当てようと腕を上げた所で、その手首を藤堂くんに掴まれる。
なに、と口から出ていく筈の言葉は、藤堂くんの口に飲まれて掻き消えてしまった。
薄く開いた唇の隙間を縫う様に侵入してきた舌に、今度は俺が茹でダコになる番だった。

「お返し」

離れた唇が俺の耳元で、そう囁いた。


END