風花莉亜
2026-01-15 07:23:50
4338文字
Public
 

未来の約束。

第6回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くんがプロで千早くんと一緒に住んでます。千早くん視点。誤字脱字は絶対あります。いつも通り何でも大丈夫な方向け

「今日、ぜってーホームラン打つから」

玄関先でそんな事を言ってから、藤堂くんは家を出た。
その時の俺は「はぁ」と一言返して、その後は「いってらっしゃい」と続けただけ。
パタンと閉まるドアに首を傾げて暫く思案してみるが、ホームランを打つと言ったあの宣言は何だったのか、その結論は結局のところ出てはこなかった。


【未来の約束。】


結論から言って、藤堂くんは朝の宣言通りホームランを打った。
テレビ中継を自宅のソファーで観ていた俺は、最後の最後で格好良くキメる彼氏に、またひとつ惚れさせられた気分だ。
あー、くそ、かっこいい。
笑顔でホームまで帰還する藤堂くんはあっという間に揉みくちゃにされていて、思わず笑ってしまう。
それからヒーローインタビューを受けてるのを見届けて、お腹を空かせて帰ってくるであろう今日の主役の為に、ハンバーグ作りに取り掛かった。

ハンバーグは俺にとって思い出の料理のひとつだ。
高校の頃、要くん達と藤堂くんの家へと遊びに行った時に振舞ってもらったもので、あの時の味は今でも覚えている。
藤堂くんが料理上手なのは勿論だったけれど、きっとそれだけじゃなかった。
『誰かと食べる食事』それが美味しさをアップさせていたに違いない。
あの時の味を再現なんてものは俺には出来ないけれど、美味しいハンバーグを作りたいと思っている。
俺にとっても特別なハンバーグが藤堂くんにとっても特別な物になればいい。
そう願いながら。


*****
玄関が解錠される音がして、聞き慣れた足音が脱衣場へ向かう。
手洗いうがいをする音がして、その後は自室へ向かったらしい。
シャワーは向こうで浴びてきたのだろう、部屋着に着替えているようだった。
暫くしてリビングのドアが開き、藤堂くんが顔を出す。
ソファーでスマホを片手に座っていた俺と目が合うと、柔らかな笑みを浮かべた。

「ただいま」
「おかえりなさい」

ローテーブルにスマホを置いてソファーから立ち上がり、藤堂くんの前まで行く。
待ってましたと言わんばかりに両手を広げられるので、そのまま抱き着くとぎゅっと抱きしめられた。
石鹸の香りと藤堂くんの匂いが鼻腔を掠めて、いい匂いだと擦り寄る。
そんな俺に「猫みてェ」なんて笑うから「にゃあ」と一鳴きしてやると、頭を撫でられた。

「今度鈴付きの首輪でも買う?」
「結構でーす」

変な事を言い出した藤堂くんの腕からスルりと抜けると、やっぱり猫みたいだと笑う。
今日は、本当によく笑う。
普段も笑う方だけれど、今日は何て言うか……
嬉しさだけじゃない何かが隠れているような気がした。
その『何か』を暴いてやりたいと思ったけれど、藤堂くんのお腹が盛大に鳴ったので一先ず詮索するのはやめておく事にする。

「今日はハンバーグです」
「おー、楽しみ」
「焼き立てを食べて欲しかったので今から焼くんですけど、もう少し待てます?」
「いくらでも待ってやるよ」

かっこつけてそんな事を言っていたが、その直後に続く盛大なお腹の音で全部が台無しだった。
テレビの中ではあんなにも格好良かったのになぁ。
クスクス笑う俺に、顔を赤くした藤堂くんが笑うなよと睨んできたので、大人しくハンバーグを焼く事にした。
そんな顔で睨まれても怖くないんですけどね?

後は焼きの工程だけだったので、数十分適度でダイニングテーブルの上に今日のメニューが並ぶ。
メインは勿論ハンバーグ、そしてトマトとレタスのサラダにオニオンスープ。
最後にライスを大盛りにしてあげれば、完成。
一緒に食べる時はいつだって同じタイミングでいただきますをしたいらしく、俺が席に着くのを律儀に待ってくれている。
あれだけ盛大にお腹を鳴らしていたのだから、先に食べててくれても構わないのに。
そーゆー所、好きですけどね?

お互い顔を見合わせて、同じタイミングでいただきますを言って食べ始める。
と言っても、先に藤堂くんがハンバーグを口にするまで俺は微動だにしなかった。
不味くはないと思う、けれど美味しいかどうかはわからない。
なにせハンバーグを作るのは、久しぶりだったから。
一緒に住むようになって、藤堂くんから料理を教わりつつ自分一人で料理が出来るまでに成長した俺は、当番制で夕食を作るまでになった。
最初の内は専ら料理は藤堂くんの担当だったけれど、藤堂くんだってそんな毎日早く帰って来られる訳でもないし、疲れている日だってある。
そんな中食事の用意をさせるのは忍びなくて、料理をすると決意した俺は元々器用なタイプだったのもあり、あっという間にそこそこ料理の出来る人間へと成長した。
まぁ、先生が良いと言うのもあるが。
だから今日のハンバーグだって大丈夫だと言いたい。
美味しいって言ってもらえるような出来なはず。
それでもその言葉が出るまでは、少しだけ不安だった。
固唾を飲んで藤堂くんがハンバーグを口にするのを見届けていると、そんなにジッと見られてたら食べにくいと苦言を呈される。
が、俺だって譲れないのだ。
構わずにジッと見続けるのを止めない俺に、藤堂くんは諦めたように苦笑をひとつして、箸で切ったハンバーグを口へと持っていった。
モグモグと咀嚼されていくハンバーグの行方を見守って、ゴクリと嚥下されてるのを見届ける。
さて、お味は?

「うまい!」

ニッと笑う藤堂くんに、ほっと胸を撫で下ろす。
良かった、成功だ。
ソースは俺の独断でデミグラスソースにしたのだが、お気に召してくれたようだった。
藤堂くんが出してくれたものはケチャップやウスターソースを使ったものだったけれど、たまにはデミグラスソースも良いでしょ?なんて。
俺もハンバーグに手を伸ばし、口へと入れる。
うん、美味しい。
デミグラスソースがよく出来ているとこっそり心の中で自画自賛した。

暫くお互い会話もなく食べる事に集中していたが、ふと今日の藤堂くんの活躍が頭を過った。
やっぱり、賛辞は欲しいものだろうか?
気持ちでプレーするタイプだし、あるのとないのじゃ、ある方が良いに決まっている。
改まって言うのは何だか照れるけれど、幸せそうな顔をしてハンバーグを頬張る藤堂くんを見て、今なら素直になれるような気がした。

「あの」
「ん?」
「本当にホームラン打ってましたね」
「ったりめーだろ」
「しかもサヨナラ。今日のヒーローだったじゃないですか」

凄くカッコ良かったです、と口にした瞬間、急に恥ずかしくなって明後日の方向を見る。
そんな俺に釣られたかのように、藤堂くんも照れ臭そうに頬を掻いた。
何とも言えない空気になってしまって、暫く沈黙する。
時計の針の音だけが室内に響いて、それから図ったかの様にお互い自然と視線が合う。
こんな事にも運命を感じてしまって、重症だと思った。

「だって、約束したろ」

何の脈絡もなく、藤堂くんはそう言った。
約束とは、なんぞや。
何の事を指しているのかサッパリだったが、口を挟まずに藤堂くんが続きを話すのを待つ。
そんな俺に約束の意味を理解していないと気付いたらしく、あーだの、うーだの言いながら、やがて真面目な顔付きになった。
やけに真剣な表情を見せるので、何事かと構える。
どちらのものかわからないが、ゴクリと生唾を飲む音がして、それが合図だったのか、藤堂くんがゆっくりと口を開いた。

「ホームラン打ってくるって、言ったろ?」
「あれって、約束でした?藤堂くんが一方的に宣言して行ったと思うんですけど」
「俺は約束のつもりだったけど?」
「それは気付きませんでしたねぇ」

しかし何を突然、改まってそんな宣言をしたのか。
普段だってわざわざホームラン宣言なんてしないのに。

「どうしてホームラン打ってくるなんて言ったんですか?」

絶対、何かある。
意図はわからないけれど、絶対に何かあるに違いない。
それは良いものなのか、悪いものなのか。
深刻そうな表情ではないから、悪いって事はないと思いたい。
ただの願望だ。

どこか緊張を孕んだ瞳が数度瞬いて、低く掠れた声が「千早」と呼ぶ。
藤堂くんに呼ばれるそれは、特別な物に感じた。

名前を呼ばれてから永遠にも思えた沈黙の末、藤堂くんの手が伸びてきて、俺の右手を優しく包む。
優しいのに、逃げる事は許さないと言っているように思えて、鼓動が速くなった。
一体、何を。

「お前の未来を俺にくれないか?」
「はい?」

聞こえてきたセリフに素っ頓狂な声が出た。
突然何を言い出すんだ、この男は。
そもそもホームランとどのような繋がりが?
と言うか、ちょっと待ってくれ。
これって、

「俺と、一生一緒にいてほしい」

混乱する俺を置いて、どんどん先に進む藤堂くんが憎い。
待ってくれって言ったじゃないか。
いや、言ってないか。
でも本当に待ってほしい。
だってこれってもしかしなくても、プロポーズ。

「今日ホームラン打てたら言うつもりでいた。だから朝、宣言して行った。言葉にしたら本当になる気がしたから」

何も言わない俺の事などお構い無しに、藤堂くんはそんな事を言う。
そうなんですね、とでも答えたら良いのだろうか。
とっくにキャパオーバーした頭では、何ひとつ気の利いたセリフなんて出てきやしない。
だってまさか、ハンバーグ食べながらプロポーズされるなんて夢に思いもしないじゃないか。
こんな日常にサラッととんでもない爆弾仕掛けてくるなんて。
夜景の綺麗な高級レストランで聞きたかった訳ではないけれど、それくらいわかり易くしてくれないと心の準備だって出来やしない。

「千早さん?あの、返事とか、ないんすかね?」
…………バカ」
「はぁ?」
「ちょっとくらい、心の準備させてくださいよ!」
「え、あ、すまん?」
「バカ」
「語彙力どうした」

ハハハ、と笑った藤堂くんは徐に立ち上がりこちらへとやって来て、力いっぱいその腕に俺を抱き締めた。
痛いと抗議してみたが何処吹く風で、ぎゅうぎゅうに力を込められる。
力加減バカ男め。
痛いけれど嫌ではなくて、藤堂くんの背中に腕を回してしがみつく。
どうやったって俺はこの男には勝てない。

「藤堂くんらしいですね」
「おー?そんな俺は嫌かよ?」
「いいえ。好きですよ」
「で、返事は?」
「わかりきった事聞くんですね」
「ちゃんと、言葉にして聞きてェじゃん」
「っ、俺も、俺も藤堂くんとこれから先も一緒にいたいです」
「おう!」

藤堂くんは嬉しそうに笑い、俺の額に口付けを落とした。


END